- 第T章 総合的な学習の評価と学力観
- 第1節 学力低下論を支える学力観
- 1.学力低下論の矛先
- 2.“基礎学力”と生きる力の関係
- 第2節 未来社会に生きる力を育てる
- 1.生涯学習時代に生きる力を育てる
- 2.リカレント時代を生きる力を育てる
- 3.子どもの現実を見据えて
- 4.学習方法と評価法への示唆
- コーヒータイム 評価と評価?
- 第U章 子どもの成長を促す評価
- 第1節 評価はなぜ必要か
- 1.子どもがする評価・教師がする評価
- 2.「指導と評価の一体化」再考
- 第2節 自己評価能力への注目
- 1.自己評価能力を育てる
- 2.自己評価を補完する他者からの評価
- 3.どんな技法が有効か
- 第3節 子どもの成長を促す評価のストラテジー
- 1.評価観点をどう設定するか
- 2.今できること,その先に見えること
- 第V章 「学習」の評価と「時間」の評価
- 第1節 「総合的な学習の評価」の二つの側面
- 第2節 「総合的な学習」の評価
- 1.「総合的な学習」の評価とは?
- 2.子ども自身による「学習」の評価
- 3.教師による「学習」の評価
- 第3節 「総合的な学習の時間」の評価
- 1.「総合的な学習の時間」の評価とは?
- 2.「時間」の評価の実際と留意事項
- 第4節 「学習」の評価と「総合的な学習の時間」の評価の関係
- 第W章 学習活動と評価の実際
- 1.プロジェクトX(バツ)・失敗から学ぶ
- 2.留学生との交流を通して培った成長の軌跡
- 3.生徒自ら学習改善を行うための評価
- 4.それゆけベンチャー企業 会社づくりシミュレーション
- 5.自分自身を見つめる「目」を育てる
- 6.様々なかかわりの中で創る「学び」と「心」のアルバム
- コーヒータイム 評価規準と評価基準
- 第X章 単元・カリキュラム評価の実際
- 1.カリキュラムは進化する
- 2.カリキュラム評価で教師の不安を取りのぞく
- 3.カリキュラムの点検・評価・再開発
- 4.ポートフォリオ評価の可能性
- コーヒータイム みとる
- 付章 ワークショップ:評価観点設定の所見例
- 千葉総合的学習研究会の紹介(あとがきに代えて)
はじめに
いよいよ新教育課程がスタートした。その目玉ともいうべき総合的な学習の時間も,移行措置期間を経て本格実施を迎えた。
目下のところ,総合的な学習の時間をめぐる現場の関心は,その基本理念の理解や単元構成の方法などを通り過ぎて,もっぱら評価のあり方に重心が移動しつつある。その背後には,学力低下を懸念する声に応えて,この時間が子どもたちにどのような実りをもたらしたかを説明しようとする責任感があるものと思われる。しかし,その一方で,総合的な学習の時間のゴール,すなわちどこにたどりつけばよいかという点に向けられた現実的な関心ともいえなくはない。
総合的な学習の時間は,創設がささやかれた当初から,常に分かりにくさがつきまとっていた。実はゴールフリーを最大の特徴とするのだが,そのような教育や指導はこれまで体験したことがない。そうした不安から,学習のゴールを暗示する評価のあり方に,本格実施に入る前から関心が集中するのも無理からぬことである。
今期の改訂で,学習指導要領に「内容」が示されなかったことから生じた総合的な学習の特徴の一つは,「活動」から「内容」を産み出すという点である。これは,「内容」によって「活動」や「教材」が決まる教科指導とは対照的な関係にある。ここでいう「内容」とは,いわば学習のゴールである。したがって,総合的な学習における評価は,学習指導要領が掲げる「内容」を細分化した観点に沿って,子どもたちを評価(評定)してきたこれまでの評価観とは,大きく異なることは明らかである。
それでは,具体的にどうすればよいか。結論から言えば,「内容」を自前で作成することである。しかし,実践を始めて日が浅いこの時点で,総合的な学習がどれほどの実りをもたらすかは未知数である。したがって,実践経験を蓄積し子どもたちの変化や成長をつぶさに観察する作業と,評価観点に連なる「内容」を整理する作業は,平行して進めるのが望ましい。なぜなら,子どもたちの変化や成長は,教師が用意した枠組みの範囲内でしかとらえきれないからである。
私たち,千葉総合的学習研究会(略称:千総研)では,この難問の解明に,会をあげてほぼ1年間にわたる実践と議論を費やしてきた。本会は,月例会を中心に実践と理論の両面から研究し,総合的な学習を積極的に推し進めようとする有志の会である。現在,会員数は支部を含めて百数十名を数え,平成11年11月の立ち上げ以来20数回に及ぶ月例会を重ねてきた。夕刻6時半から始まる月例会では,たいてい予定時刻を越えて熱い議論が交わされている。また,アフター9は,会員が勇気と元気を分かち合う貴重な場ともなっている。本書は,現時点におけるその成果の報告書でもある。
これまでの検討を通して私たちなりに確認したことがらは,次の4点に集約される。
その第1は,評価の問題は期待する学力とセットで語るべきであるという点である。そのために,学力低下論の基盤となっている学力観を検討しつつ,総合的な学習に期待される新たな教育的成果をつぶさにとらえるべきである。また,それを未来社会に生きるという視点からとらえる幅広い議論も必要である。
第2は,総合的な学習の時間をめぐる評価には,子どもに対する評価と教師の働きかけに対する評価の両面があるという点である。そして,この両者は常にスパイラルにかかわり合いながら,最終的には「子どもが伸びる」という一点に向けて収斂すべきである。
第3は,第2とも関連して,評価のための評価に終始するのではなく,評価すること自体が「子どもが伸びる」ことに寄与すべきであるという点である。つまり,教師が行う評価においては,以前から唱えられていた「指導と評価の一体化」という考え方がより一層強く求められる。また,子どもたちが自らの学びを振り返り,そこに変化や成長を自覚するという自己評価力の育成も,総合的な学習の評価をめぐる基本課題である。
第4は,ポートフォリオを始めとするいかなる方法や考え方を採用するとしても,実践上における実用性という条件が欠かせない。ポートフォリオや「ふりかえりカード」をどれほど多量に蓄積しても,それが有効に活用されなかったり長続きしなかったりするのであれば意味がない。実用性に最大限配慮した評価方法の開発が肝要である。
本書では,以上の4点を基本にして構成し,その考え方の道筋と実践を通して確認できた成果について報告する。
もとより,総合的な学習の時間は,移行期を含めても実践を始めてまだ日が浅い。したがって,本書に盛り込んだ知見は,総合的な学習の時間の本格実施に際しての見通しの域を出ないかもしれない。したがって,今後,いくつもの実践を通過し,現時点での確認事項は継続的に更新される必要があると考えている。
それでもなお,この時期に刊行を企画したのは,より広範なネットワークを通して,多くの実践者たちとともに評価のあり方を検討することが望ましいと考えたからである。それが,新たな知見を産み出し共有化する有効な方法だと考えている。新たな課題への挑戦は,学校という枠組みを超えて,子どもの学習を支える多くの教師の共同作業として行うのが理想的である。その意味でも,本書に掲載した論考や実践例を契機として,評価の問題をめぐる実践的検討が一層活性化することを切に願っている。
なお,本書に掲載した実践例は本質を損ねない範囲で表現上の調整をしている。したがって,基本的には実際とは若干異なる点があることをご承知おきいただきたい。
最後に,千葉総合的学習研究会に会員としても参加し,本会に執筆のための機会を与えてくださった明治図書の仁井田康義氏に,会を代表して心から感謝申しあげる。
平成14年4月10日
編著者 千葉総合的学習研究会代表 /上杉 賢士
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- 明治図書