学校の共同研究総合的な学習と教科学習の未来を拓く

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カリキュラムは生活から文化の創造へ/子どもの生活からはじまる単元の構想と展開/教科等と「はぐくみ総合」の関連を図る中で生きて働く力は育つ/ポートフォリオ評価法


復刊時予価: 2,475円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-062315-3
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 148頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
教育課程研究の意義と課題 /高浦 勝義
世紀を越えての実践的な研究書 /山本 貞美
第1章 カリキュラムは<生活>から<文化の創造>へ
事例1:幼稚園と手を携える「生活学習」
「いっしょにあそぼうよ」(1年)
事例2:社会科・理科への分化を意識した「生活学習」
「町に春がやってきた」(3年)
事例3:家庭科への分化を意識した「生活学習」
「徳島の藍―そのみりょくをさぐろう―」(4年)
事例4:視点(環境)へと分化した「総合学習」
「助任川って汚いの?」(6年)
子どもへの信頼と教師としての気迫 /小西 正雄
第2章 子どもの生活からはじまる単元の構想と展開
事例1:「生活学習」でコンピュータに親しむ
「春のはくぶつかん オープンに向けて」(3年)
事例2:子どもの切実な想いからはじまる「総合学習」
「われら 桜の木救助隊」(5年)
事例3:国際理解教育の一環としての英語学習
「世界にひろげよう友達の輪・和・AWA!」(5年)
事例4:健康に生きるための実践力を育てる「総合学習」
「エイズキャンペーンをしよう」(6年)
子どもの生活からはじまる多様で豊かな単元の構想と展開 /世羅 博昭
第3章  教科等と「はぐくみ総合」の関連を図る中で生きて働く力は育つ
事例1:国語科と「はぐくみ総合」を響き合わせながら【発展・応用型】
「わたしたちのことばの生活」(3年)
事例2:算数科と「はぐくみ総合」を結んで【関連型】
「ひょうたん島調査隊がいく」(4年)
事例3:道徳の時間と「はぐくみ総合」を結んで【関連・融合型】
「身近な自然を見つめて」(4年)
教科等と「はぐくみ総合」の連携 /齋藤 昇
第4章 ポートフォリオ評価法の可能性を求めて
事例1:教科学習におけるポートフォリオの活用
理科「もののとけかた」(5年)
事例2:総合学習におけるポートフォリオの活用
「バリアフリーへの道T〜ちがうことばんざいって本当に言えるの?〜」(5年)
ポートフォリオ評価の実践から見えてきたこと /岩城 孝次
あとがき
研究同人

まえがき

 このたび私たち附属小学校が近年積み重ねてきた研究・実践の成果をまとめ,本書『総合的な学習と教科学習の未来を拓く』を刊行することになりました。

 本附属小学校は,平成10年度から文部省より教育課程開発の指定を受けました。私たちは,「子どもの未来を拓く教育課程の創造」という研究主題を設定して,生活を基盤にした「段階的分化型カリキュラム」の開発に努力してまいりました。本書はこの3年間にわたる研究成果を中心にまとめたものです。

 本書では附属小学校での取り組みの理論的な背景と共に,これまでに立ち上げたたくさんの単元の中から類別し,典型的なものの事例をとりまとめてみました。生活を基盤にした「段階的分化型カリキュラム」に着目して構想を立てていった軌跡が,本書の随所にお読み留めいただけるものと思います。今日の社会が抱える諸問題への対処には,現行の教育課程に代わる斬新な教育課程の創造が必要なのではないでしょうか。そういう強い要求を感じて教師集団の私たちは,教育課程の創造に取り組んでみたわけです。新しい教育課程,すなわち生活を基盤にした「段階的分化型カリキュラム」の特徴は,第1学年で幼稚園との連携を重視し,教科を意識しない「未分化」な状態から次第に教科を意識して「分化」する過程をたどりながら学年を進め,第6学年で中学校との連携を重視した教育課程の編成への到達にあります。つまり子どもの発達特性をふまえて,教科等を意識しない混沌とした「未分化」な状態から次第に教科等を意識した「分化」の方向をとる,これは「生活」から「文化」の創造への流れにも沿ったものとも考えられます。一般に教育の場では,めざす目標にふさわしい教材を開発し,それをどのようにして指導して評価するかが問われます。とりわけ総合的な学習の評価をどのようにすべきかが,課題になっております。本書では第4章において,ポートフォリオを用いた私たちの取り組みについて紹介しています。この実践的な取り組みが皆様のお目に留まることを願っております。

 今や「教科学習」主体の教育課程から「総合的な学習の時間」の導入が,全国的に始まっています。「教科学習」それ自体はその役割を十分発揮して,児童や生徒たちにそれなりの資質や能力の向上をもたらしてきました。日本の初・中・高等教育を修了した人々が,日本の社会の構成員となり,そういう方々が着実に日本の文化や産業の基盤を支えてきていることは,戦後の早期復興や素早い経済大国入りなどを見ても,明白であります。ただこういう国内での確固たる基盤を築きながらも,日本人が世界に躍進しその檜舞台に立ったとき,日本人として資質も能力もありながら,必ずしもその能力が十分に発揮されていない点がしばしば指摘を受けるようになりました。たとえば,国連本部における限られた日本人国際公務員の少数な雇用,国際会議や外国合弁企業内の企画会議での必ずしも十分でない意思疎通や議論などが,しばしば話に上ります。それほど十分な資質を身に付けていなくても,子どもも大人も物怖じせず,堂々と自己主張してたち振る舞う人々を見るにつけましても,日本人の自己表現力の乏しさを痛感させられることも少なくありません。またワールド・ニュース等にしばしば見られるように,報道陣から意見を求められても滔々と自分の意見を述べる外国人の姿に,少なからぬ隔たりを感じとるわけです。このような状況を考えると,今までとは違った面でも秀でるような人材の育成も望まれるわけです。今度の「総合的な学習の時間」の導入に踏み切った背景には,こんな事情も絡んでいるものと思われます。一部にはこの機会に,「総合的な学習を通して,これからの学校が変わるんだ!」という強い意志を表明しながら取り組んでいる学校群も見受けられます。目下,総合的な学習も色々な視点から取り組みがなされつつあります。生活や地域に根ざした地道な取り組みから,高邁な思想の裏付けを基に総合的な学習を展開しようとしているものまで様々な提案がなされつつあります。総合的な学習を率先する教師たちにとっては,管理職の深厚なる支援と共に,学校内での共通理解を得る校内研修も欠くことのできない要件であるといわれております。「総合的な学習の時間」の本格的導入の迫った今日,一方において徹底した「読み・書き・計算」などの基本的な学習の反復練習とそれぞれの「教科学習」の重要性を訴える声が大きいことも,また事実です。日本が「総合的な学習」の流れに向かおうとする折りしも,「教科学習」の方へ逆に舵取りをしようとする諸外国の例もまた聞こえてまいります。教育に限らず,色々な諸策が右に左に大きく振れるとき,私たちはその軌道を修正する術を持ち合わせております。その教育課程が,その時代の子どもたちにとってふさわしい教育課程であるように,常に調整されるべきものであることは言うまでもありません。

 本書では,本校独自の総合的な学習である「はぐくみ総合」と「教科学習」との密接な関わりについても言及しています。文部省研究開発学校の指定を受け,本附属小学校として教科の区分を取り払いながら,生活を基盤にした「段階的分化型カリキュラム」の創造を行いました。教師は常に教科を意識しながら単元を立ち上げました。めざす目標と教科学習との関わりを綿密に対応づけながらの作業は,経験の深い教師にとっても決して容易なものではありませんでした。児童の下校した放課後,たびたびの運営指導委員による指導助言,夜遅くまで種々の専門部会での議論,刊行物の発刊までの度重なる検討会とその原稿の校正,年度末の研究発表会に向けての準備等,それは教師たちの多大なエネルギーの集中でありました。本書は,新しい教育課程に対する私たち鳴門教育大学学校教育学部附属小学校の教師たちの投ずる一石であります。盛り込まれた内容は決して万全とは申せませんが,「少しでもいいものを」と繰り返し手を入れた教師たちの著作です。この想いをくみ取っていただければ幸甚でございます。本書の基になった研究開発は,鳴門教育大学と附属小学校との連携で実践できたものであり,さらに文部省,国立教育研究所,徳島県教育委員会,地域の人々,保護者など多くの方からのご支援をいただいたことも銘記しなければなりません。ことに研究開発に関わって,終始ご示唆いただいた国立教育研究所の高浦勝義先生に心から感謝申し上げます。

 最後に,本書の刊行にあたりご支援をいただいた明治図書の江部満氏に深く感謝いたします。


  平成13年2月

   鳴門教育大学学校教育学部附属小学校 校長 /村田 勝夫

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