- 第1章 完全5日制と中学校学校運営の課題
- §1 完全実施と中学校教育改革の全体像
- 1 子どもからの教育改革
- 2 「ゆとり」の中で生きる力をはぐくむ
- §2 完全実施と中学校学校運営の今後の課題
- 1 学校の創意工夫と学校の自主性・自律性
- 2 特色ある学校づくりをめざした学校運営
- 第2章 完全5日制と中学校教育課程運営の方向
- §1 完全実施と教育課程編成の考え方
- 1 「ゆとり」のある学校生活
- 2 「ゆとり」のある生活時程
- 3 学校生活5日間と休日2日間
- §2 完全実施下の教育課程編成の課題と工夫
- 1 教育内容の厳選とゆとりの創造
- 2 授業時間の弾力的運用
- 3 家庭・地域社会との連携
- 4 「総合的な学習の時間」の運営
- 5 選択履修幅の拡大――「自分の良さ」を発見し,伸ばすために――
- 6 授業の質的転換
- (1) 個性を生かす授業づくり
- (2) 体験を生かす授業づくり
- 第3章 心の教育の新しい展開
- §1 道徳・特別活動における心の教育
- 1 心の教育の基本的な視点
- 2 心を育てる3つの涵養,3つの定着
- 3 特別活動における心の教育の重点
- 4 道徳における心の教育
- §2 教科の学習における心の教育
- 1 各教科の授業と心の教育
- 2 各教科における心の教育
- §3 「総合的な学習の時間」における心の教育
- 1 「総合的な学習の時間」とは
- 2 「総合的な学習の時間」における心の教育
- 3 学習の成果を発表して,得たものを共有する
- 第4章 完全5日制教育課程運営のプラン集
- §1 異教科TT方式の無学年制選択教科
- ―「合科型自由学習」の実践―
- 1 合科型自由学習で,生きる力を育てる
- 2 自由学習を成功させるしかけ@―どの自由学習を履修するかは生徒の「意志」で選択させる―
- 3 自由学習を成功させるしかけA―開設する学習テーマは教師の主体性によって決定する―
- 4 本実践プランの計画は前年度に始まる
- 5 自由学習の年間計画(時間割)
- 6 本実践プランの具体的な展開例―理科と家庭科の合科による「生活に役立つアイデア製品を作ろう」―
- §2 未来志向型の総合的学習を位置付けた教育課程の編成
- 1 「未来総合科」とは―未来志向型の総合的学習
- 2 従来のカリキュラムの見直し
- 3 未来総合科の教育課程の位置付け
- 4 3年間を見通したカリキュラム
- 5 未来総合科の年間計画
- 6 カリキュラム改善のための評価
- §3 単位時間の柔軟運用と総合的な学習を軸に生徒の自立をめざす教育課程の運営
- 1 教育課程の大転換をどう生かすか
- 2 教育課程改善プランのポイント
- 3 教育課程改善の具体的なプラン
- 第5章 完全実施で予想される教育課程運営の問題と対策
- Q1 1学年の選択教科の開設に当たってはどのような手順が必要か
- Q2 2学年の選択教科の授業時数は50〜85時間となっているが具体的にはどのようにしたらよいか
- Q3 35週で除せない授業時数の教科の時間割への位置付けはどのようにしたらよいか
- Q4 部活動はどうあるべきか
- Q5 教育活動をある時期集中して行う場合の時間割の工夫は?
- Q6 「総合的な学習の時間」で異年齢による活動を具体的にどう展開するか
- Q7 子どもの2日間の休日を豊かにするためには,学校の教育活動をどのように工夫したらよいか
- Q8 1単位時間の弾力的な運用を時間割にどのように位置付けたらよいか
- Q9 学校外の教育機能を活用する場合にはどのような配慮が必要か
- Q10 学校生活に「ゆとり」を生み出すにはどんな手だてがあるか
まえがき
2002年度から完全学校5日制が始まり,同時に新しい教育課程が全面実施となる。新しい世紀が教育においても動き始める。しかし,この動きが力強く,確かなものとなるためには,克服しなければならないハードルが,いくつも待ち構えている。これらのハードルを克服し,うまく離陸することが望まれている。
そもそも,完全学校5日制と「生きる力」とは,相対立する側面を有している。完全学校5日制は,当然のことながら,学校における授業時間を短縮させる。少なくとも休業日となった土曜日分は,減少することとなる。
ところが「生きる力」を育てる学習活動は,これまで以上に多くの授業時間を必要とする。子ども主体の子どもの個性を重視した教育の中で,はじめて「生きる力」は育てることができる。「いいかい,こうするんだよ」では,自ら考える力も,自ら学ぶ力も育てることができない。子ども自ら学び,自ら考える力を育てるためには,自ら学ぶ時間,自ら考える時間が必要だし,その時間を子どもに保障し,委ねなければならない。
「ゆとり」がそれである。ゆとりとは,子ども自ら,自分の時間や活動として動かし,支配することを意味する。つまり,子ども主体の学習がそこに生まれる。何もしないで,空をながめていることが,ゆとりの意味するものではない。ますます少なくなっていく授業時間の中で,やろうとしている教育は,ますます多くの時間,ゆとりを求めているわけである。そこに,完全学校5日制下の教育課程運営の最大の課題がある。
教育内容の厳選,総合的な学習や選択学習等の創意工夫,授業時間や指導組織等をはじめとする教育課程運用の弾力化,体験的学習,個性を生かす学習,問題解決的学習を方法的原理とする授業の改善等が,こうした視点から進められねばならない。
心の教育をめぐっても,同様な課題を有している。「人と人との在り方」「共に生きる力」を中軸に,豊かな人間性の育成がこれまで以上に強く求められている。人と人との関係のみならず,人間と自然との関係,日本人と外国人との関係等,「共に生きる」という車輪が,「自己の確立」というもう一つの車輪と並んで,子どもの社会的自立を図っていく(自分さがしの旅)上で,重要な視点となっている。
ここにもまた,学校を子どもの居場所,生活の場として再編し,「学校のゆとり」を確保し,子どもどうしの友人関係,教師と子どもとの信頼関係を基盤に,「共生・共存」の関係をつくり出す必要が求められている。ますます少なくなる授業時間の中で,「学校のゆとり」をどのように確保していくかである。特に,心の教育に深く関連してくる道徳教育,特別活動,総合的な学習の時間を相互に結びつけ,心の教育として再編し,この課題に応えていくことが不可欠になっている。
完全5日制は,もう一つの大きなインパクトを学校にもたらしている。学校における時間の縮小は,逆に家庭や地域社会における生活時間を増大させることでもある。単純にいえば,完全学校5日制下では,子どもが学校に登校するのは1年の半分強となり,1日の3分の1(8時間)ほどである。つまり全生活時間の6分の1にすぎない。睡眠時間が3分の1(8時間)である。残りの6分の3(2分の1)が,家庭や地域社会での生活時間となる。
この全生活時間の半分を占める家庭や地域での生活時間をどう過ごすかである。このことは,学校・家庭・地域社会の新たな関係の再編を求めることともなる。社会教育の役割も視野に入れつつ,子どもに豊かな生活の場、生活環境をどう用意し,学校・家庭・地域社会が手を結んでいくかである。つまり,こうした新しい視点に立ち,子どもの育ち方,生活の在り方を見直し(体験の問題等),「開かれた学校」の内実を創り出していくことが,教育課程運営上のもう一つの大きな課題となってきたわけである。
本書はこうした視点に立ち,課題意識に基づいて,これからの教育課程運営上の考え方,実践的な方策について述べたものである。本書を手がかりに,子どもが生き生きとし,学校が活性化されることを願っている。また,ご批判をいただけたらと願っている。
1999年初夏 編者
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- 明治図書