教育の新課題2
特別支援教育であなたの学校を変えよう
インクルーシブ教育の推進方略

教育の新課題2特別支援教育であなたの学校を変えようインクルーシブ教育の推進方略

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特別支援教育を学校経営改革に生かす方法を紹介

あなたの学校も、特別支援教育をベースにした学校経営に取り組まれてはどうだろう。そうすれば特別支援教育はもう1段階先へ進めることができる。インクルーシブ教育を目標にした学級経営や授業改善のノウハウを学校経営改革のためのストラテジーとして提起する。


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ISBN:
978-4-18-055218-4
ジャンル:
学校経営
刊行:
2刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 152頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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まえがき
第1章 インクルーシブ(共生)教育のスタートとゴール
1 教員一人ひとりが太陽になる
2 私の原点的体験
3 障害名で対応したくない
4 自律・自立に向けて
5 条件が整わない中で
6 ゴールの姿
第2章 教育実践でのストラテジー
1 影の薄いストラテジー
2 スキルの練磨を心がける
3 フィロソフィに触れる
4 ストラテジーに向かい合う
5 フィロソフィとストラテジーの関係
6 わが国の特別支援教育における理念と方略
第3章 校長のリーダーシップ
1 校長の責務と言われても
2 リーダーシップの発揮
3 重点目標の策定
4 ミドルリーダーに活躍の場を
第4章 支援体制の構築と連携
1 体制よりも態勢を
2 共同作業の勧め
3 学年経営を軸に
4 キーパーソンは
5 校内委員会の性格
6 連携の具体的方法を協議し実行する
7 日常活動の中での微調整を
第5章 特別支援教育の対象
1 基準を示すこと
2 チェックリストの活用
3 境界線例の扱い
4 実態把握は,支援方法と共に
5 障害だけをクローズアップさせない
第6章 研修の積み上げを図る
1 参加型の研修を
2 段階を追っての研修
(1) ストラテジーシートの作成演習
(2) 個別指導計画の作成と教科別支援シート
3 事例研究
4 研究授業を実施することで
第7章 学級経営の見直し
1 学級担任のスタンス
2 共に育つために,一つの事例から
3 学級経営の実践,五つのキーワード
第8章 個別の指導計画の作成
1 自分の力量不足に気づくこと
2 喜んで取り組む個別の指導計画を
3 発達的展望をもつ
4 重点領域の設定
5 指導の一貫性を確保する
6 入り口と出口における課題
7 共に学ぶことを基本に
第9章 授業の改善
1 授業設計のマニュアル:授業の型をつくる
2 チェックリストの活用
3 アンケート調査を実施することで
4 研究授業を積み上げていく中で
(1) インクルーシブ教育の基礎
(2) 学び合い学習の導入
第10章 就学前の特別支援教育
1 ふれ合うことから
2 成長を喜び合う
3 まわりの子どもたちからの影響
4 障害児を受け入れた統合保育
(1) 障害児保育の深まりの中で
(2) 統合保育から学ぶ
(3) 学び方に注目する
第11章 ネットワークの構築
1 校長の立ち位置
2 攻め六分の姿勢
3 巡回相談員の役割
4 地域リソースとしての結節点をつくる
第12章 保護者との協働をめざす
1 子どもに寄り添う,保護者に寄り添う
2 インフォームド・コンセント
3 個別の指導計画に基づく協働をめざす
4 学校のあり方が問われている
5 モンスターペアレントへの対応
6 地域リソースの活用
7 障害がない子の保護者の理解と支援
あとがき

まえがき

◆学校経営を変えよう

 特別支援教育の行き着いた先は,学校経営がインクルーシブ(共生)教育にきちんとシフトされることだと考えている。ようやくにして,特別支援教育のゴールが見えてきた。

 「学習障害等巡回相談事業」を滋賀県が受けた平成10年度から,私は巡回相談員を委嘱され,特別支援教育に関わらせてもらっているが,学校がなかなか変わろうとしないもどかしさをずっと感じていた。

 文部科学省が推し進める特別支援教育事業は,その後順を追って,専門家チームや校内委員会の設置,コーディネーターの任命と整備されてきた。それにつれて,巡回相談の重要さが学校現場でも認識されるようになってきた。しかし,特別支援教育の巡回相談を活用して,学校改革に結びつけようとするところは少なかった。障害のある子も障害のない子もが,共に育つインクルーシブ教育を構想する人は稀だった。

 やっと近年,さまざまな教育課題が山積する現状をどのように打破するかを考える中で,特別支援教育を学校改革のストラテジー(方略)として位置づけるところが出てきた。

 こういった学校では,乱暴行為を繰り返す生徒に対して,従来の生徒指導の対応だけではなく発達障害の視点からも理解を深め,態度改善につなげていっている。また,「話が聞けない子どもが最近多くなった」との一教員の感想を受け止め,なぜ話が聞けないのか,どうすれば聞けるようになっていくのかと,授業の中で見極める実践を積み上げている学校もある。

 これらの学校では,特別支援教育について,「特別な場での特定の子への教育だけではない。この視点を持ち込むことで,多くの子どもに有効な手立てが見つかる」と理解し,学校教育課題の改善に役立つストラテジーとして位置づけているのである。


◆特別支援教育の推進段階

 これから,追々と私の構想するインクルーシブ教育について述べていくが,ここでは,読者の理解を得るために,まずはイメージ図を掲げることにしよう。図1は,特別支援教育の推進段階から見たインクルーシブ教育の位置である。

 現在進められている特別支援教育は,発達に障害がある子どもの教育として,狭義に解釈されている。文部科学省は「特殊教育から特別支援教育へ」と方向づけをし,本格実施の時期を平成19年4月とした。本当は,特別支援教育はインクルーシブ教育への展望を持っているのだが,そのようには受け止められていない。現在は,特別支援の対象として発達障害児の絞り込みがなされ,個別の指導計画の作成が急がれている。これらは,第1段階の取り組みであると考えられる。

(図1省略)

 私は,本格実施に向けての準備が始まった平成15年頃から,通常の学級に在籍する発達障害児の指導を軌道に乗せるには,授業と学級経営の改善を図らなければいけないと,現場の取り組みを促してきた。こういった学校では,第2段階の実践を行っている。発達に課題がある子にスポットを当てた授業や学級経営を行うことが,すべての子どもたちに対しても有効であるとのユニバーサルデザインの考え方に立っている。頼もしいことである。

 しかし,私は,特別支援教育をもう1段階進めなければならないと考えている。それは,すべての子どもたちが共に生き,共に学ぶインクルーシブ教育に行き着くことである。


◆インクルーシブ教育がめざすもの

 わが国では,これまでも「共生教育」が標榜されていた。たとえば,人権教育では,差別を排除し,対等に学び合うことが実践されてきた。また,肢体不自由児教育では,養護学校や肢体不自由児学級の撤廃を求める運動を「共生教育」と位置づけていた。

 私が特別支援教育のゴールとして考える共生教育は,これらと同じではない。これらと区別するため,インクルーシブ教育と呼ぶことにしている。

 当然のことながら,インクルーシブ教育では,発達に障害のある子どもたちへの教育が行き届いていなければならない。図2では,インクルーシブ教育がめざすものを掲げた。ここでは,「個の陶冶と集団の質の向上」をキーワードにして,共に生き,共に育つ教育をめざそうとしている。

(図2省略)

 そのためには,「個別指導の充実」「学級経営の改善」「授業の改善」が不可欠である。ユニバーサルデザイン化を土台に,一層の進展を図らねばならないと考えている。


◆実践を方法原理としてまとめる

 ADHD(注意欠陥/多動性障害)がある子のいる小学校2年生の算数の授業を参観した。その子は落ち着いた状態で授業に参加していた。どうしてこれだけの落ち着きが得られたのかが,あとの協議会で検討された。

 @ 焦点化が図れている。授業では,説明段階での図式化やキーワードのカードによる提示など,いろいろな工夫がなされていた。これらを「焦点化」ということばで原理化できるのではないか。

 A 作業化が取り入れられている。ワークシートによるプリント学習が,集中持続の途切れそうな時間帯に実施されている。

 B 見通しがある。どこまでやったら終わりなのかが明瞭に示されている。

 C 落ち着いて学んでいるまわりの子どもたちがよいお手本になっている。

 このようなよい授業に出会うと,一気に指導方法の原理化が進む。これは,水の流れと水車との関係に例えることができる。よい実践という水の流れがあればこそ,水車が回って理論化ができたのである。

 この段階に到達するには,かなりの道のりが必要であった。巡回相談員としての初めの頃の役目は,教育の現場に新しい水を注入することであった。昔,田んぼへ水を送り込む水車があったが,それとよく似た仕事だなあと思っていた。灌漑用の足踏み式の水車は,私の子どもの頃よく見かけたし,ときにはお手伝いで踏ませてもらったこともあった。川の水位より少し高い田んぼに水を汲み上げていくのだから,少しも休むことができない。体重のすべてを足にかけて踏み込んでいかないと逆流してしまうのである。

 特別支援教育が軌道に乗るまでは,こんな感じがしていた。平成10年頃のことである。

 最近は,水車は水車でも,川の流れを利用して自然に回る水車になっている。学校現場が動き出したから,私はもう,自分の足で水車を回す必要がなくなった。研究会への出席はもちろんのこと,個別指導計画の作成や授業研究の事前協議などにも参加を求められるようになり,毎回が楽しみになってきている。川が流れ,水車が回れば,どんどん田んぼの水かさが増えてくる。発達に障害がある子と,まわりの子どもたちとの育ち合いに対応していくための,さまざまなノウハウが蓄積され出したのである。

 本書では,このようにして方法原理化した育ち合いのノウハウを,学校経営改革のためのストラテジーとして紹介したいと思う。大方のご批正をお願いするところである。


  平成21年10月   /北脇 三知也

著者紹介

北脇 三知也(きたわき みちや)著書を検索»

特別支援教育士スーパーバイザー(sens−sv 05−028) SENS名誉会員(第15号)現在,SENSの会滋賀支部代表・滋賀LD教育研究会顧問

1955年,滋賀大学学芸学部を終え,滋賀県公立小・中学校に勤務。滋賀大学教育学部附属養護学校副校長,滋賀県教育委員会学校教育課専門員(障害児教育担当)を経て,栗東市立治田小学校長に就任。1993年,栗東市立葉山中学校長を最後に退職。その後,非常勤講師として,仏教大学・滋賀大学・京都外国語大学等で障害児教育や障害児福祉の講座を担当した。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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