- はじめに
- ポイント1 家庭と学校との信頼関係
- 1 ともに支えていく
- 死にたい/学校に行くのは待つ/急激に気持ちを出させない
- 2 信頼関係の定着
- 本人のぺースで/ふっとわいてきた/見通しをもって準備/どうしてここにいるの?
- 3 課題解決を一緒に
- 成長を図る/大丈夫,大丈夫/今までのことを整頓
- ポイント2 一般的な相談に大きな相談
- 1 一般的な相談
- 友だちがいや/担任の先生と合わない/今はリラックスタイム/ほうっておいてほしい!
- 2 大きな相談の出現
- 切ろうとしても切れない/殺されるかもしれない/母の絶望,父の変化/今日一日の充実
- 3 余裕をもってあたる
- 電話に出る/時間をおくことの重要性/両親に感謝/居場所
- ポイント3 十分な対応
- 1 子どもの方が悪い
- 消しゴムをかしてほしい/なかなかなじまない/気になるのは視線/学校をやめたい
- 2 十分な対応は受容から
- 信頼関係が高まる方向/友人関係が育つ/お母さんの笑顔/やれそうなところから
- 3 成長に向けて
- 一つの峠を越えた/大きく動いた/母は心の中にあり/この形でいけそう
- ポイント4 サインをキャッチする共感性
- 1 子どものサインをキャッチする
- 無理矢理連れて行く/仲間外れ/死んでやる/もう二度と行かない
- 2 小さなサインに反応する
- お母さんと一緒なら/一つの山を越えた/先生遅いね/今まで「いい子」できた
- 3 あるがままを受け入れる
- 誰もいない校庭で/いつまでいるのか/私ここに座っていようかな/みんなの前であいさつ
- ポイント5 模範的な子の孤立
- 1 教師から見て模範的な子が
- 登校しぶり/死にたい,どこかに行きたい/友人関係がネック/転校したい
- 2 逃げ道を作る
- 学校内の連携/自分でふんぎりをつける/母親がそばにいないと/安定化に向け
- 3 自立に向けて
- 言いたいことを/生活のリズム/母親の宿題/やさしいね
- ポイント6 打ち明けられる子
- 1 不安が高い
- いじめに困って死にたい/不安げな様子/僕に話したい/医師のとりくみ
- 2 友だち
- 困った時どうしているか/体調不良/親しい人も増える
- 3 全体を見て
- 今を認めるところからスタート/受容性と指導性/クラスがえに向けて
- ポイント7 教師の連携
- 1 複数の見方
- お母さん,僕が死んでもいいの!/朝になるとすごくいやに/交友関係すべてに疲れ/こわい,お父さんこわい
- 2 教師の連携
- 進展のきっかけをつくって/認めてくれる人/お母さんおくれちゃうよ/急激に顔色が悪くなる
- 3 よりよいアドバイス
- 楽しかった!/休まず行っています/課題を残したままのスタート/半年間がうそのよう
- ポイント8 教師は相談に慣れていない
- 1 様々な専門機関へ
- 1カ月間の微熱/どうしてうちの子がいじめられたのか/先生が納得できる形/自分で自分が下げられない
- 2 心身の安定から適応へ
- 社会性を伸ばす/対人恐怖症/よい形を本人と話し合う/迎えに来てもらって帰る
- 3 教師は教育の専門家
- 先生の働きかけ/すべて教室で/ゆっくり慎重に/成長支援関係
- ポイント9 よく聴いてくれた
- 1 真剣に受け止める
- 担任がこわい/学校がこわい/大人の尺度とは違う/学校内での居場所
- 2 正しく判断する
- 担任をかえてほしい/まず保健室でスタート/クラスからの友人/準備性を高める
- 3 また相談したい
- 目的があって起きられる/ケータイで目があく/具体的に考える/自分のポジション
- ポイント10 教師が一歩引く
- 1 すれ違いからのスタート
- 死ぬぐらいなら休めば/先生とは会いたくない/登校刺激を避ける/大きなこころの傷
- 2 対等な話し合い
- どんなクラスか見たい/おなかが痛くなる/「いい子」の反抗期
- 3 将来を考えて
- 毎日まんがを/5年で大きく変わる/卒業がうれしい,高校が楽しみ
- 主な引用参考文献
はじめに
2006年12月26日,滋賀県大津市の生涯学習センターにおいて,本書と同名の「いじめ問題を見過ごさない10のポイント!!」というテーマで講演をさせていただいた。NHK,新聞社,ケーブルテレビまでみえていて驚いたのだが,それだけこの「いじめ問題」が大きな社会問題となっていたことをあらわしていると実感した。
2006年は,「いじめ」や「自殺」の事件が数多くあらわれ,それを増幅させるのではないかと心配するほどの報道が連日続いた年であった。
2006年8月17日愛媛県今治市の中学1年生男子,10月1日に発覚した北海道滝川市の小学校6年生女子,10月11日には福岡県筑前町の中学2年生男子,10月23日岐阜県瑞浪市の中学2年生女子,さらに11月12日大阪府富田林市の中学1年生女子など,自殺したという報道がほかにも多数伝えられた。
このような時,多くの報道は,「いじめ自殺」と一つの単語のように扱っていたが,私はあえて「自殺はいじめだけで起きることではなく,複雑な要因が絡み合って起きることであること,また,いじめ以外のことで自殺する子どもたちも多いこと」を訴えてきた。
とは言うものの,「自殺」そのものを予防し,「いじめ」そのものをなくしていく取り組みは,当然なされなければならない。そこで,本書の「いじめ問題を見過ごさない」というのは,大きないじめ問題(自殺を含む)も見過ごさないという意味をこめてつけた。
この「10ポイント」の出どころは,『AERA'98 43』(朝日新聞社)である。1998年8月に埼玉県入間市の中学2年生女子が,割腹自殺した折,AERA編集部の蝶名林薫氏が,わざわざ東京から愛知県に取材に来てくださった。「元学級委員はなぜ自殺したか」という題名の記事の中で「自殺を防ぐことはできなかったのだろうか」という主旨で取材を受けた。改めて読みかえしてみると,それはちょうど10ポイントに分かれていた。
私は小・中学校で30年教師をしてきているので,自殺を未然に防ぐと言われた時,「危機介入」的な予防についてだけでなく,長期的な予防教育,あるいは教育全体を考えてしまうことが多い。
だから,この10ポイントも自殺そのものだけでなく,広く「いじめ問題」に答える形となっていたのは,言うまでもない。
本書は,この10ポイント一つ一つに事例をつけて説明していった。「いじめ問題」だけでも,私個人で数百という事例を経験してきており,それらを全体的に眺めて,ポイントに合う事例を選び出した。その作業の際,たくさんの事例を混合する形をとり,どの事例を見ても本人と特定できないよう変えさせていただいたことを,前もってお断りしたい。
私は,子どもたちの発達を抜きには「いじめ問題」は語れないと考えているため,小学校1年生から中学校3年生までのすべての学年に事例をあてはめていった(男女5事例ずつ,小学校3年生のみ2事例)。
ポイントをそれぞれの事例を通して説明していくため,全部で114の指導上重要なことば(指導上の注目WORD)を小見出しとした。これらはすべて相談をしている時に大切にしていることばで,あらゆる相談活動にも使っていただけるのではないかと考えている。
最後に,この本を書く機会を与えてくださった明治図書編集部の三橋由美子氏にまず感謝申し上げる。
また,日本自殺予防学会設立時から長く理事長をつとめられ,たくさんのことを直接教えてくださった加藤正明先生(東京医科歯科大学名誉教授,2003年ご逝去)と,いつも私を支えてくれる家族にこの本を捧げる。
2007年6月 /橋本 治
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- 明治図書