- まえがき
- 1章 社会体験学習を核にしたテーマと展開の構想
- §1 社会体験の不足が子どもにもたらすもの
- §2 社会体験学習で子どもに育てる5つの力
- §3 テーマを着想する3つの視点
- 1 身近な社会や国際社会の問題からテーマを着想する
- 2 福祉・ボランティアの問題からテーマを着想する
- 3 地域との強いかかわりからテーマを着想する
- 2章 社会体験学習のテーマを盛り上げる展開と支援の工夫
- §1 社会体験学習をこんな学習に
- §2 展開構想の重点を押さえる
- §3 5つの展開の重点と教師の支援
- 1 「問題発見」とそれをうながし生かす支援
- 2 「探求活動」とそれに重点をおいた支援
- 3 「直接体験」とその場を工夫した支援
- 4 「相互交流」とその場を生かした支援
- 5 「表現活動」とそれを軸にして進める支援
- 3章 社会体験学習の展開と支援の実際
- §1 身近な社会や国際社会に目を向けたテーマの展開と支援の工夫
- 1 男の子の色,女の子の色―ジェンダーフリーの追究 <3年>
- 問題発見をうながし生かす支援のモデル
- 2 世界の食事の向こうに見えるもの―食文化の比較を通して <6年>
- 探求活動に重点をおいた支援のモデル
- 3 外国の遊びと日本の遊び―それぞれの国の伝承遊びに挑戦 <3年>
- 直接体験の場を工夫した支援のモデル
- 4 アンニョンハシムニカ―韓国を知ろう・交流しよう <4年>
- 相互交流の場を生かす支援のモデル
- 5 「○○放送局」で主張しよう―ニュース番組を作って意見討論会 <5年>
- 表現活動を軸にして進める支援のモデル
- §2 福祉,ボランティアの問題に目を向けたテーマの展開と支援の工夫
- 1 少子高齢時代に私たちはどう生きるか―高齢社会の生き方 <6年>
- 問題発見をうながし生かす支援のモデル
- 2 バリアフリーの町をどうつくる―障害のある人にやさしい町点検 <5年>
- 探求活動に重点をおいた支援のモデル
- 3 障害のある人の気持ちになって―車イス体験をもとに考える <4年>
- 直接体験の場を工夫した支援のモデル
- 4 手話の歌をおくろう―耳の不自由な人たちとの交流 <3年>
- 相互交流の場を生かす支援のモデル
- 5 福祉ポスターを作って発信しよう―役所の人を招いた話し合い <5年>
- 表現活動を軸にして進める支援のモデル
- §3 地域との強いかかわりから出発するテーマの展開と支援の工夫
- 1 この町をどうする―夢のある未来の町づくり会議を開こう <6年>
- 問題発見をうながし生かす支援のモデル
- 2 知る区ロード,郷土カルタ―町のたからものやドラマを探せ <4年>
- 探求活動に重点をおいた支援のモデル
- 3 地域の伝統工芸品にいどむ―手作り名人・発見ルーム <5年>
- 直接体験の場を工夫した支援のモデル
- 4 成長してきた自分を大切に―地域の保育園との交流から <6年>
- 相互交流の場を生かす支援のモデル
- 5 伝統芸能を自分たちの手で―郷土の文化,伝統の追体験 <3年>
- 表現活動を軸にして進める支援のモデル
- 4章 社会体験学習が陥りやすい10の問題とその克服
- 1 横断的,総合的な課題だけに目が奪われる
- 2 活動だけがあって学習がない時間となる
- 3 常に調べて発表するだけの学習となる
- 4 「なぜ?」と問わずに「何?」と問うだけになる
- 5 子どもにとって息抜き的な時間になる
- 6 内容が固定化されすぎて弾力性のない時間となる
- 7 学校行事と混同してそれぞれの特色が失われる
- 8 低学年生活科との連動,発展が生かされない
- 9 各教科学習の効果的な学びが生かされない
- 10 中学校段階へと総合的学習が高まっていかない
まえがき
教育全体の規制緩和と情報公開の流れの中で,各学校が個性的で創意ある教育をつくり出し,発信することが求められている。新教育課程に新たに位置付けられた総合的学習は,そのための学校教育の特色化の顔であり,個性化のバロメータであると言ってよい。
その一方でこんな声もある。総合的学習に気をとられるあまり,子どもの学力が低下するのではないか,かつての経験主義教育が残した反省点のように,ただはい回るだけで,学力の積み上げのない学習に陥らないかという不安である。
しかし,学力観そのものが大きく変わりつつある。教科で学ぶ基礎的基本的な内容は当然のこととして,先が予測できない社会の中でたくましく生き抜き,豊かに生きるためには,一体何が必要なのか。その問い直しの中から生まれたのが総合的学習である。
本書で取り上げる社会体験学習は,この総合的学習において大きな位置を占めている。なぜならば,子どもが毎日生活する地域は,これから生きることになる社会のひな型であり,体験する題材や素材の宝庫だからである。この地域社会をフィールドとした多様な体験や生活を通して,多くの学び方,生き方を身に付ける。それが社会体験学習である。この学習を通して,社会の問題をとらえ解決する力,人間関係を豊かにし生かす力は,対人関係,仲間関係,集団社会での関係,外国との関係へと,同心円的に力強く広がっていく。
現在,子どもの世界で「ジコチュー」という言葉が日常語化しつつある。ジコチューとは自己中心であり,いわば自分勝手な姿を指している。相手に共感することが苦手な子ども,人間関係のストレスを受け容れる器が小さくて,すぐに溢れ出してしまう子ども,そんな子どもが,実際に増えているという。子どもは自分を大きく伸ばしたがっているのに,大人が作ってきた学習環境や生活環境がそれを阻んでいるからである。社会体験学習は,まさに,その不安を乗り越えるための学習であり,多くの可能性をもった学習である。
本書は,この学習を具体化するために,次のように構成した。
1章では,社会体験学習が求められる背景と,その学力観,学習テーマを着想する視点などを明らかにすることを試みた。
2章では,社会体験学習を多様な角度から重点的に展開したとき,どんな支援が求められるか,そのポイントについて整理した。
3章は,試行的に進められた多くの社会体験学習の中から,説得力のある15の事例について,気鋭の実践者にそれぞれの持ち味や事例の特色を生かして書いていただいた。これからの全面実施に参考になる多くの事例を掲載することができたのは大変心強い。
4章は,始まったばかりの総合的学習,とりわけ社会体験学習が陥りがちな落とし穴ともいうべき10の問題点について,その問題の所在と,克服のための方法を示すことに努めた。
本書が,総合的学習を具体化していくための手がかりの一つとなればこの上ないことと考えている。
平成12年11月 編 者
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- 明治図書