- まえがき
- T 学校づくりのための視点と方法
- 1 なぜ、いま、特色ある「学校づくり」なのか
- 2 「学校づくり」の基本構造を解剖すれば
- 3 教育行政の責任と役割はどこに
- 4 学校管理職の資質と能力が問われる
- 5 学級崩壊が示す「学校づくり」の必然性
- 6 総合学習からの「学校づくり」(小学校)
- 7 総合学習からの「学校づくり」(中学校)
- 8 総合学習からの「学校づくり」(高等学校)
- 9 先進的実践校からの学び方の留意点
- 10 地域社会再生の鍵としての学校づくり
- 11 子どもと保護者・地域の参加をどうする
- 12 二一世紀にむけての学校づくりのイメージをさぐる
- 補1:さらば学級王国! ──学級崩壊現象を考える
- 補2:注目してます!「トライやる・ウィーク」
- U 総合学習からのカリキュラム改革
- 1 二一世紀へのカリキュラム改革とは
- 2 総合学習がやってくる
- 3 総合学習のルーツをさぐる
- 4 総合学習と新学習指導要領のポリティックス分析
- 1 ポリティックス分析の視点
- 2 新学習指導要領をめぐるポリティックス
- 3 焦点としての「総合的な学習の時間」
- 4 総合学習展開の可能性と課題
- 5 カリキュラム研究における方法論の転換
- V 人権総合学習への理論とすすめ方
- 1 戦後の学校教育における人権
- 1 学校教育における人権課題
- 2 意識化としての人権課題
- 3 条件保障としての人権課題
- 4 人権課題の再構築にむけて
- 2 人権教育と解放教育のグローバリゼーション
- 3 教育改革の今日的状況と人権教育(解放教育)の課題
- 4 総合学習で何が問われているか
- 5 人権総合学習のすすめ方
- 6 人権総合学習・私の実践例
- あとがき
まえがき
一九九九年の年末から続いていたミレニアム騒ぎも、ようやく収まりつつあるかに思われた二〇〇〇年の一月、「義務教育週3日」との物騒な見出しが新聞の第一面で踊っていた。
「十五年から二十年先の日本のあるべき姿について、小渕恵三首相が検討をゆだねてきた私的諮問機関『二十一世紀日本の構想』懇談会(座長・河合隼雄国際日本文化研究センター所長)は十八日、最終報告を首相に提出した。」
とあり、そこでは、示された政策提言のトップに教育があげられており、「初等・中等教育は教育内容を五分の三程度まで圧縮し、義務教育は週三日とする」等のことが示されたという(朝日新聞、二〇〇〇年一月一九日、朝刊)。
首相の私的諮問機関の報告書であれば、それがそのまま実行されるといったものではない。それにしても「『結果の平等』に別れを告げ、『公正な格差』の考え方を導入すべきだ」との理念の下で打ち出されてきた義務教育の縮小プランは、あながち絵空事とは思えぬリアリティを感じさせるものではあった。
一〇〇年にわたる二一世紀を一言でまとめ論じようとするのは無謀な話である。また、時がたてば自然とおとずれる二一世紀に、こと更の思い入れをなそうとするのも慎むべきことであろう。しかし、二一世紀の始まりを前に、今、日本の教育が大きく変わろうとしている事実は直視せねばなるまい。
早い話が、二〇〇二年からの小・中学校での新学習指導要領全面実施を前に、教育現場は格段のあわただしさを迎えつつある。特色ある学校づくりの要請や、「総合的な学習の時間」の新設といったことは、それこそ二〇世紀型学校のあり方の転換を迫りつつある。確たる方向を見きわめようとするそのいとまもないままに、すでに大きく変化しつつある現実に、学校と教師たちは直面しているといわざるをえない。
「学校づくりと人権総合学習」と題する本書は、このように大きく変化しつつある教育状況のなかで、改めて学校のあり方を問い直し、そこから新たな学校づくりの視点と方法を検討しようとしている。そして、そうした学校づくりのなかで、いかにしてカリキュラム改革としての総合学習が位置づけられ構想されていくべきかを追求しようとしている。
と同時に、本書では、これまで様々な形で蓄積されてきた人権にかかわる教育課題を整理しつつ、そこから新たな人権総合学習を展開していくための理論とその進め方をも検討することになっている。それは単に総合学習の一形態としての人権総合学習のあり方にとどまらず、学校と教育のあり方そのものを人権の視点から問い直そうとする試みともつながっているのである。
こうした意図を持っての本書ではあるが、それは最初から新たに書き起こされたものとはなっていない。ここ一、二年、教育関係雑誌をはじめあちこちで執筆してきたもののいくつかを前記のような意図の下で編み直したということなのである。
初出文献一覧は「あとがき」に譲るが、最少必要限の手直し以外は行なっていない。そんなこともあって、各章の長さ、文章のスタイルやタッチも多様なままとなっている。
このような本書ではあるが、ドラスティックに変化しつつある教育状況のなかで、学校づくりへの緊急な要請と人権総合学習展開への期待が、本書の刊行をせきたて、思い切らせてくれることになったのである。
尚、刊行に際しては、明治図書の江部満編集長に色々とお世話になった。記して感謝申し上げておきたい。
二〇〇〇年二月 /長尾 彰夫
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- 明治図書