総合的学習の開拓16総合的学習の理論とカリキュラムづくり

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総合的学習を「生きることと学ぶことの結合」としてとらえ、総合的学習のカリキュラム開発をどう進めるか、教師の力量を問い、カリキュラム・デザインの枠組みを具体化した。


復刊時予価: 2,497円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-033812-2
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
2刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 152頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
1 総合的学習
――「生きることと学ぶことの結合」
一 子どもの学びの今
1 学びの閉塞感と自己喪失状況
2 学びの意味とリアリティの回復
3 地域と親との協力・協同による子どもの教育を
二 かかわりの過程で「自己を育てる学び」と総合的学習
1 体験活動を通した「ほんものの学び」へ
2 社会的構成員として,共に生きる子ども達
3 その子の自尊感情を育てる
4 自分の経験を切り開き,自らの学びをつくり出す力を
三 総合的学習とは
1 総合的学習とは
2 総合的学習の定義
3 総合的学習で育てようとする学力
四 総合的学習とカリキュラム
1 総合的学習と教科学習
2 「領域」としての総合的学習
3 総合的学習の諸類型とタイプ
4 総合的学習のカリキュラム
2 総合的学習のカリキュラム開発をどう進めるか
五 カリキュラムづくりと教師の力量
1 各学校が主体的に自律性をもってつくるカリキュラム(SBCD)
2 各学校がつくるカリキュラム――複合的なカリキュラム
3 教師の意識改革と力量
六 総合的学習のカリキュラムの特徴
1 テーマやトピックに基づく学習である
2 体験や活動を重視した問題解決(課題追究学習)である
3 地域を見つめ直し,地域の人々と共につくるカリキュラム
4 教科書に代わって,リソース(学習資源)が決め手
5 総合的学習単元(unit)としての「まとまり」(coherence)
七 総合的学習のカリキュラム・デザイン
1 カリキュラムの柔軟性とフィードフォワード
2 構想カリキュラム(計画)と学びのカリキュラム(実践)
八 カリキュラム・デザインの枠組み
1 構想カリキュラム(計画)
2 カリキュラムづくりの基礎
3 学びのカリキュラム
九 カリキュラム・デザインの具体的方法
構想カリキュラム(事前)
1 テーマの設定とそのとらえ直し
2 テーマの組織化――トピック,問題,体験活動
3 トピック・ウェブの作成とブレーンストーミング
4 リソース・ユニット(resource unit)――学習資源や学習材を明らかにする
学びのカリキュラム(事中)
1 かかわりや出会いの「場」をつくる
2 「個別化・個人追究」と「共有化・協同化」の両軸で
十 総合的学習とポートフォリオ評価
1 子どもの学習ファイルづくりとポートフォリオ評価
2 自己評価能力を育てるための支援
3 学習ファイルからポートフォリオ評価へ
4 ポートフォリオ評価と教師の支援
5 ポートフォリオ評価の諸類型と今後の課題

はじめに

 現在,21世紀を目前にして,時代も大きな変わり目にある。社会も大きく変化しており,いやがうえにも,私達もその変化の渦の中に巻き込まれようとしている。

 次世代の子どもを育てることを任務とする学校教育についても,同様のことが言えよう。

 特に,2002年には週五日制が完全実施され,学校教育が大きく変わる。

 学校の「教育課程」の中味が大きく変わろうとしている。教科学習,道徳,特別活動のこれまでの三領域に,「総合的学習」が加えられることになる。

 子どもの育ちにおいても「閉塞状況」にある今日,総合的学習への期待は大きい。

 今日,子どもを取り巻く状況は不透明である。どこに学びの焦点を求めるかは,なかなかむつかしい。社会は「情報の洪水」の中で「評論家的な態度」や社会の「観客的態度」の状況を反映してか,子ども達も,生活や社会の中で生きていく中で「言葉主義」に陥ってしまっているところが見受けられる。言葉の大前提である「実体」や体験が伴わないのである。

 こうして今,体験学習やかかわりを通して,自分の身体による「一人称」として学びや問題解決的な「実践知」を育てることが求められている。

 本稿の総合的学習では,体験的な学びを基礎として,自立への意志と共生の心をもった子どもの全体的な成長を目指している。生きる力を育てようとしているのである。

 さて,このような総合的学習は,カリキュラム理論から見ると,教科学習の目ざす専門「分化」に対し,「総合化」を目指している。つまり,学んだことを実践や現実の問題や課題に対応づけ,応用・関連づけて総合化していく学習を志向しているのである。

 ところで,このような「カリキュラムの総合化」の動きは,日本だけの課題ではない。欧米でも実施されている。しかも課題は,現代社会を反映してか,環境問題,多文化教育,キャリア教育,情報教育,福祉・人権教育というように,共通する「グローバルな課題」がテーマとして取り上げられている。

 やはり,それは,一つの教科の枠を越えて内容を互いに関連づけ,体験や活動を通して学んでいくテーマ学習の形態をとっている。

 また,付け加えるならば,総合的学習を強調することは,決して,「教科学習」を軽視することではない。総合的学習と教科学習とは,車の両輪のようなものである。二者択一ではない。それぞれのねらいが違うのである。教科には「教科の本質的な内容や方法を学ぶ」という役割がある。これは時代が変わっても,簡単に変わるものではないであろう。そうでないと,教科学習の軽視は「学力低下」へと結びついてしまうことは,「火を見るよりも明らか」である。

 このようなことからも今日,各教科の専門家達を中心として,自分の「教科の基礎・基本は何かを明らかにしていく」ことが求められている。

 「教科学習か,総合的学習か」という二者択一の不毛な議論を越えて,総合的学習の理論や具体的なカリキュラムづくりや評価の方法が明らかにされていかなければならない。

 今年度から,総合的学習は移行措置過程に入り,全国のどこの学校でも,まずは,試行錯誤しながら着手していくことになろう。

 しかし,全国の大多数の学校では,どのように総合的学習をつくっていけばよいか,手さぐり状態であり,定かではない。しかも「教科書」がない。

 総合的学習の構想にあたって,学校や先生達の「自主性」は尊重されるが,それは「好き勝手ではない」であろう。

 また,先日,文部省から「事例・サンプル集」が出された。そこには,多くの参考になる実践例が掲載されている。しかし,「事例・サンプル集」の「見よう見まねでやってみる」ことだけでも,不安であろう。

 そこで,「ものまね」ではなく,実践へのヒントの資料として,参考にしながらも,各学校独自で,カリキュラムづくりを実践してみることが必要である。

 各学校で,教師達自身で独自のカリキュラムづくりを行うことのできる力量形成が求められている。さらに,その際には地域と家庭の連携も不可欠である。

 なにしろ,これらは,大多数の先生にとっては,未知の領域で,チャレンジすべきことの多い課題である。

 しかし,総合的学習では,教科とは「一味違う楽しい学習」として,教科学習だけでは生かされてこなかった子ども達が,生き生きと活躍している。つまり,一人ひとりが生きる学習なのである。子どもの夢や願いを大切にする学習である。このような事例は,これまでの先進的実践で数多く報告されてきている。


 そこで,本書では,総合的学習について,その理論と具体的なカリキュラムづくりの方法について展開してみた。総合的学習の実践は多様である。

 私の展開した方法は,いくつかの方法の一つかもしれない。

 しかし,この小さなまとめが,なんらかの形で,日々学校現場で,実践を工夫する先生方にとって,幾ばくかの参考になれば,それ以上の喜びはない。


 さて,本書がこのような形で世に出るに至ったことについて,執筆の機会を与えてくださり,なかなか忙しく筆の進まない私を辛抱強く,励ましてくださった,編集部の江部満さん,樋口雅子さんに深く謝意を表します。

 また,編集の過程でいろいろお世話になった細見玲子さん,ありがとうございました。


  2000年1月吉日 新しい年のおとずれに耳をかたむけながら(刈谷の大学の研究室にて)

   /寺西 和子

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