- 序 章 絶縁社会ニッポンの子育て危機
- 児童の行方不明事件/ 絶縁化する社会/ 社会的孤立のデータ/ 人に優しい街をめざして
- 第一章 育ちを奪われた子どもたち
- 小1プロブレムの現場から
- 小1プロブレムの「発見」
- 小1プロブレムの背景
- 小1プロブレムへの対応
- 諸科学の知見
- 小1プロブレム「発見」の意義
- 第二章 子どもの問題行動と育ちの連関
- 幼児虐待
- 不登校
- いじめ
- 非行
- 第三章 コミュニティ崩壊の現場
- 「限界集落」
- 「絶縁社会」
- 第四章 「子縁」とは何か
- 「子縁」とは何か
- 「子縁」の有用性
- 江戸の子育てに学ぶ
- 「子縁」づくりの方法
- 第五章 子縁としての教育コミュニティ事例
- 大阪の教育改革
- 北条中学校区ふれ愛教育協議会(大阪府大東市)
- 秋津コミュニティ(千葉県習志野市)
- 田川市校区活性化協議会(福岡県田川市)
- 学校選択制
- 教育コミュニティづくりのポイント
- 第六章 子縁セクターをどう生かすか
- PTA
- おやじの会
- スポーツ少年団
- ボーイスカウト運動
- 子どもの放課後
- ファミリー・サポート・センター
- 子育て支援NPO
- 子縁セクター成功のポイント
- 終 章 子縁による地域再生への戦略
- 「公」「共」「私」のバランスを
- 鳥瞰(マクロ)と虫瞰(ミクロ)
- あとがき
- 参考文献
あとがき
広がる助け合い
東日本大震災では、岩手・宮城・福島・茨城といった太平洋岸を津波が丸ごと飲み込んで町・村を破壊し、死者は2万人を超える見通しだ。おまけに、東京電力の福島第一原子力発電所がメルトダウン(炉心溶融)する深刻な事故を起こし、広範囲の国土が放射性物質で汚染される未曾有の事態になっている。
国や電力会社、それに関連企業は、原発はあらゆる危険を想定した多重防護の安全システムを備え、「絶対に安全だ」と強弁してきたが、自然の猛威の前に、原発の安全神話は脆くも崩れ去った。
道路交通網が寸断され、物資が窮乏するなかで、被災地では避難した人々が助け合って暮らし、国内外から災害ボランティアが駆け付けて救援活動が展開された。阪神大震災の時もそうだったが、危急存亡の事態になれば、人々は助け合うのである。
問題は、平常時である。日本では、他人には無関心で、隣りに住んでいる人とも付き合わず、あいさつもしないという社会の絶縁化が当たり前になりつつある。この平常時の事態こそが異常であり、改めなければならない大元である。
未解決の課題
筆者はこの30年余り、文明と人間をテーマに取材活動と社会活動を続けてきた。きっかけは、1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故だった。
原発をシンボルとする現代文明はいずれ破綻し、場合によっては人類の滅亡につながるかもしれないという危機感を原点に、もう1つの文明へどうやってソフトランディングしていくか、が一貫した主題となってきた。
ゴータマ・シッダールタ(お釈迦さま)が明らかにしたように、人類は生老病死をはじめとした四苦八苦を誰も避けることができないだけでなく、戦争・暴力・貧困・飢餓・差別などの惨事からもいまだに抜け出ることができていない。
これらの難題に加え、西欧発の現代文明は人類滅亡にもつながりかねない新たな危機を生み出してきた。その第1が核戦争の危機だが、今回の福島原発事故は核爆弾を投下しなくとも、原発を爆撃すれば決定的なダメージを与えられることを世界に知らしめた。第2が、地球環境破壊の危機。第3が、生殖破壊の危機である。化学物質の蔓延によって生殖機能自体が機能不全に陥るというシナリオだ。
人類第4の危機
そして、本書で取り上げた社会の絶縁化=人間関係破壊が、実は人類第4の危機ではないかと、筆者は考えている。
東京大学の神野直彦名誉教授によると、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世は1991年に出した「レールム・ノヴァルム」(司教や信徒に宛てた回勅)で、2つの環境破壊について警告している。
その1つは自然環境の破壊だが、もう1つが人的環境の破壊であった。人と人との仲間としての、類としての結びつきが破壊されていることに警鐘を鳴らしているのだが、筆者はローマ法王の卓見に敬意を表し、共鳴する1人である。
本書では、絶縁社会を克服していく1つの道筋として、子縁の創出による地域の再生というシナリオを描いてみた。誰もが納得し、実践できるような妙案を提起することはできなかったが、共助の社会を再構築していくうえでの参考にしていただければ幸いである。
3部作の3作目
そもそも、筆者が子どもの問題にかかわるようになったのは、1人息子が生後すぐにひどいアトピーになったことがきっかけだった。以来、これまで12年間にわたり、育児家事にいそしむとともに、子どもの生活や育ちの問題を取材してルポを書いたり、全国で講演したりして、子どもたちの生活と育ちの危機を訴えてきた。
本書は、『こどもたちのライフハザード』『「教育七五三」の現場から』につぐ子ども3部作の3作目にあたり、いわば卒業論文ともいうべき作品である。
「人生とは、いくつものステージを演じ切って行く芝居のようなものだ」というのが筆者の持論だが、ちょうど息子が中学校に進学したのを機に、筆者もここらで再び、文明と人間の問題に真正面から取り組みたいと考えている。
末尾になったが、本書の取材にあたっては、神戸親和女子大学の新保真紀子教授をはじめ、大阪大学の高田一宏准教授、秋津コミュニティの岸裕司顧問、山梨大学の中村和彦教授、人と人をつなぐ会の本庄有由会長、寺ネット・サンガの中下大樹代表ら、大勢の方々にお世話になった。エコパブリッシングの眞淳平代表には、執筆や構成にあたってアドバイスをいただいた。
末尾になったが、本書が世に出ることになったのは、明治図書の木山麻衣子さんと関根美有さん、それに佐保文章さんが筆者の思いや心意気を汲んでくださったからだ。
以上の方々に、この場を借りて感謝申し上げます。どうも、ありがとうございました。
2011年8月 /瀧井 宏臣
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