- まえがき
- 1章 今,なぜ新しい資質・能力なのか
- §1 新しい資質・能力とはなにか
- 1 現代社会の特色と展望
- 2 変化への対応と生きる力
- §2 なぜ新しい資質・能力の育成を重視したか
- 1 新しい資質・能力の中核としての「生きる力」の育成
- 2 子どもたちの生活の現状
- 3 新しい資質・能力と生涯学習の基礎づくり
- 2章 新しい資質・能力育成指導のポイントは何か
- §1 教師の指導観の見直し
- 1 授業を見ると指導観がわかる
- 2 教師の指導観をどう見直すか
- §2 年間計画の弾力的編成
- 1 年間計画の弾力的編成の必要性
- 2 弾力的編成の条件
- 3 21世紀の学校教育と年間計画の弾力的編成
- §3 指導方法の改革
- 1 こんな子いるかな
- 2 「めちゃくちゃですね」
- 3 「でもね,算数ではそうしません」
- 4 「教科書の方が変なんじゃないか」
- 5 自分自身より納得のいくあり方を求めて
- §4 指導体制の改革
- 1 なぜ,指導体制が問題となるのか
- 2 指導体制改革の必要性
- 3 指導体制のどこを改革するか
- §5 評価方法の革新
- 1 たくましく「生きる力」を育て,支えるための評価活動
- 2 教課審答申は評価パラダイムの転換を強く求めている
- 3 評価方法の革新
- §6 横断的・総合的学習の推進
- 1 「総合的な学習の時間」のねらい
- 2 教育課程全体を通して資質・能力を育てる
- 3 「コミュニケーション力」の育成
- 4 「主体的な学習スキル」の育成」
- §7 課題選択学習の充実
- 1 個性重視の教育と課題選択学習
- 2 選択能力の育成と課題選択学習
- 3 課題選択学習の効果的な取り組み
- §8 家庭・地域との連携
- 1 学校を大いにPRする
- 2 地域にどんどん飛び出す
- 3 人材を上手に活用する
- 4 ともに歩み出す
- 3章 新しい資質・能力を育てるために授業をどう変えるか
- §1 国語科での授業改善の工夫
- 1 国語科にとっての資質・能力の内容
- 2 国語科の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
- §2 社会科での授業改善の工夫
- 1 社会科にとっての新しい資質・能力の内容と重点
- 2 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
- §3 算数科での授業改善の工夫
- 1 算数科で育成する資質・能力
- 2 子どもが主体的に資質・能力を身に付ける指導の工夫
- 3 評価を生かす授業改善の工夫
- §4 理科での授業改善の工夫
- 1 今,教育で求められている資質・能力
- 2 理科という教科を考慮した資質・能力
- 3 理科で育成すべき資質・能力を満足させる授業改善の視点の抽出
- 4 抽出した授業改善の視点を充足する一つの授業の姿
- §5 生活科での授業改善の工夫
- 1 生活科にとっての資質・能力
- 2 生活科の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
- §6 音楽科での授業改善の工夫
- 1 音楽科にとっての資質・能力
- 2 音楽科の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 音楽科がめざす新しい資質・能力の育成に対応した授業の創造
- §7 図画工作科での授業改善の工夫
- 1 図画工作科にとっての資質・能力
- 2 図画工作科の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 図画工作科の授業改善
- §8 家庭科での授業改善の工夫
- 1 家庭科にとっての資質・能力の内容
- 2 家庭科の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
- §9 体育科での授業改善の工夫
- ☆運動領域での授業改善の工夫
- 1 運動領域にとっての資質・能力
- 2 運動領域の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
- ☆保健領域での授業改善の工夫
- 1 保健領域の授業の改善の視点
- 2 新しい保健領域の授業づくり
- §10 道徳での授業改善の工夫
- 1 道徳教育にとっての新しい資質・能力の内容
- 2 各教科等の道徳教育における新しい資質・能力の育成
- 3 新しい資質・能力をはぐくむ道徳の時間の基本
- 4 新しい資質・能力をはぐくむ道徳の時間の授業改善
- §11 特別活動での授業改善の工夫
- 1 特別活動にとっての新しい資質・能力の内容
- 2 特別活動の特質を考慮した資質・能力の重点
- 3 新しい資質・能力育成に対応した授業改善
まえがき
われわれが今回本書の刊行を意図した目的等については,1章及び2章において述べているとおりであるが,それを多少補足的に述べてみるならば,まず,この教育において育てるべき資質・能力は何かという問題は,教育の在り方にかかわる,すぐれて基本的な課題であるということである。教育課程の基準の改訂というととかく教科等の内容や授業時数の改善に多くの関心が向きがちであるが,何よりも重要なことは,それらの改訂を方向づけている教育の目標すなわち,これからの教育において育成すべき資質・能力は何かということを明確に認識することであろう。もっともこのような認識の必要性は今回の改訂に限ったことではないが,今回の改訂の背景等を考える時,その必要性が一層高まっていると考えるからである。
ところで,教育の目標としての育成すべき資質・能力は,本来的には,児童生徒の人間としての望ましい発達という視点と現在及び将来の社会の構成員としての必要性という視点から検討され,それが学校段階ごとの教育目標及びそれぞれの学習指導要領における各教科等の目標,内容,方法等に具体化される。
従来の教育課程の基準の改訂でも,一応その手順に従って検討されてきていると思われるが,とりわけ昭和二十二年に作成された学習指導要領では,戦後の大改革でもあり,教育の目標の設定から教育課程への具体化のプロセスが詳細に述べられ,児童生徒に身につけさせるべき資質・能力が明確に示されている。
その後の教育課程の基準の改訂は,教育課程審議会の答申に基づいて行われる方式がとられたので,改訂によって育成が期待される資質・能力等に関する検討の過程は教育課程審議会の答申文の中で述べられるようになった。しかしながらこれまでの改訂時における教育界の反応を見ると,少なくとも昭和五十年代の改訂までは,教育課程の問題は,専ら日教組との対立の構図の中で論じられることが多く,このような教育で育成すべき資質・能力の内容などについての論議は,一部の教育学者の間で展開された学力論争の中で多少触れられ,問題にされた程度で,一般的にはあまり関心がもたれなかった。
昭和五十年代に入り,入試競争の激化とともに校内暴力など学校における児童生徒の問題行動が表面化する一方で,生涯学習の高まりや社会における情報化が急速に進み,それらに対応する学校教育の在り方が問われるようになった。その結果,昭和五十九年に臨時教育審議会が設置され,そこでは,教育改革に関する広範な論議と提案が行われたが,その中でこれからの教育で重視されなければならない資質・能力として,例えば「社会の変化や発展の中で自ら主体的に学ぶ意志,態度,能力等の自己教育力の育成を図る必要がある。この際,児童生徒の学習意欲を育みながら,創造力,思考力,判断力,表現力の育成を図るため,自発的に問題を解決し,研究するなどの学習の方法を重視しなければならない。」(第二次答申)としている。
それを受けて平成元年に行われた前回の教育課程の基準の改訂でも,これから重視されるべき資質・能力として,例えば「自己教育力の育成」とか,「問題解決能力の育成」をあげているが,それが教育の場でどのように具体化され,実践されているかについては,必ずしも明らかではない。しかしながら前述したように,教育課程の改善のポイントを単にその運用面だけではなく,その改善を方向づけている教育目標的な面,すなわちこれから育てるべき資質・能力に十分目を向けて教育に当たる必要がある。
これから迎える二十一世紀の社会は,まさに変動の烈しい不透明な社会である。今回の教育課程の基準の改訂では,そのような変化に対応するための資質・能力の基本として「生きる力」の育成をあげている。これからの教育では,この「生きる力」を分析し,具体化し,その育成に努める必要がある。本書の3章では,各教科等における実践の手がかりを提示している。本書を今後の実践の参考として役立てていただければ幸いである。
平成11年5月 編者
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- 明治図書