- まえがき
- T 命の尊さを実感する総合学習
- 「人間」の実践を通して /植松 伸之
- 1.私の癌体験から
- 2.「生命」の学習で大切にしたいこと
- 3.「限りある命を精一杯」で学んだ人たち
- 4.「限りある命を精一杯」のねらい
- 5.学習の流れ(一二時間)
- 6.患者さんを一人一人の「人」として大切にしている二ノ坂先生
- 7.小山さんと命の大切さを話し合おう
- 8.「ホスピスのお手伝いをしたい」
- 9.「人が生きる喜びとは何か」
- U 子どもの心に豊かな感性の海を
- ――教師自身の自己改革をめざして―― /長野県下伊那教育会
- 【実践例一】感動を俳句で表現することを通して感性を育む /鋤柄 郁夫
- 1.全校六四名の子どもたち
- 2.感動の芽≠ェ膨らんでいくことを願って
- 3.具体的な動きから
- 4.俳句づくりの過程で感じた自然との対話
- 【実践例二】ボランティア活動を通して感性を育む /山岸 智吉
- 1.奉仕活動としての児童会活動への取り組み
- 2.察する心
- 3.自己を発見すること
- 4.本当の思いやりとは何か、ボランティアとは何か
- 【実践例三】自然とのかかわりを大事にした道徳の時間を通して感性を育む /山浦 貞一
- 1.いが≠使った道徳授業
- 2.道徳性を養うための可能性
- 3.快い授業に結びつく心の窓口
- 4.人間と自然にかかわる道徳授業を実践して
- 5.里芋の露を使った道徳授業(夏の朝)
- V 子どもの「成長エネルギー」の発現をたすける教師に
- ――ロールプレイングの導入で子どもの共感性を高める―― /池島 徳大
- 1.「人と交わって得る智」「体験を通して得る智」
- 2.学校教師に、今一番必要な感性とは何か
- 3.親の過剰な期待と自尊感情を欠落した現在の子どもたち
- 4.教師が対人関係スキルを向上させることの重要性
- 5.対人恐怖、対人不安をもつ教師
- 6.私が感性教育に取り組むに至った経緯
- 7.関係することから見えてくるもの
- 8.ロールプレイングを授業に導入したある教員の変容
- 9.成長エネルギーを高めることが、援助の究極
- W 教師の感性の輝きを求めて
- ――相模原市における取り組み―― /奥山 憲雄
- 1.今、なぜ教師の感性か
- 2.感性とは、「ときめき」である〜感性に対する五つのとらえ〜
- 3.こんな教師からは子どもの感性は育たない
- 4.教師が変われば子どもも変わる
- 5.こんな教師になりたい!〜豊かな感性を持った教師とは〜
- 6.教師の感性を磨く研修〜普段とは違った環境の中から学ぶもの〜
- 7.こんな職場(職員室)をつくりたい
- 8.教師として人として
- X 生きる上で必要な感動を育む研修のヒント
- /井上 正明
- 1.「大きな十円玉」の話
- 2.若者現象と「学生百人一首」
- 3.感性とは五感を通して「気づく」感覚
- 4.感性とイメージの形成
- 5.体験が感性を育てる
- 6.教師の感性を育てるための福岡県教育センターの研修講座の内容
- 7.感性と生きるということ
- Y 子どもが自ら「いじめ問題」を考え解決を図った「大宮市子供会議」の取り組み
- /村瀬 修一
- 1.相手の心の痛みを感じられない子どもたち
- 2.大宮市子供会議による「いじめ問題」解消に向けた取り組み
- 3.大切なのは、教師側の指導の工夫と熱情
- Z 教師が変わり、子どもが変わる「カウンセリング基礎研修」
- /桑原 昇
- 1.子どもは大人の言うようにはならない、するようになる
- 2.大宮市における「カウンセリング基礎研修」の概要
- 3.教職員が身につけるカウンセリング実技演習
- 4.カウンセリング研修がもたらしたもの
- [ 福岡感性教育実践講座
- ――大人が生き生きと子どもにかかわっていくための研修プログラム―― /木村 貴志
- 1.生き生きと子どもにかかわっていくために
- 2.感性教育実践講座の実施〜感性の「八つの働き」〜
- 3.「非難し合う不毛のサイクル」から「信頼し高め合うサイクル」へ
- 4.受講者からの感想
- 5.今後、感性教育をどう展開していくか〜心が生き生きする体験的学習〜
まえがき
アメリカのベストセラー作家、レイチェル・カーソンは最後の作品『センス・オブ・ワンダー』(上遠恵子訳・新潮社)において、次のように述べている。「残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性』を授けてほしいとたのむでしょう。この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。妖精の力にたよらないで、生まれつきそなわっている子どもの『センス・オブ・ワンダー』をいつも新鮮にたもちつづけるためには、わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、すくなくともひとり、そばにいる必要があります。」
数年前、サル学者の河合雅雄氏と日比谷のプレスセンタービルで食事をした折、突然目の前の日比谷公園の街路樹についての質問を受け答えられずに困惑した。河合氏はすかさずこう言った。「日本人は自然愛好民族だというが、果たしてどうか。本当に自然を愛し親しんでいるか、大いに疑問だ。教師の感性こそが問題なのではないか。小学校低学年の社会科と理科がなくなって『生活科』に改められ、自然などとのかかわり体験が重視されているのに、葉脈や雄蘂雌蘂はどういう構造になっているか、などと分析ばかりしていて、自然のいのちへの感動や一体感を味わう感性を失っているのではないか。」レイチェル・カーソンが言うごとく「澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力」を教師も失いつつあるのではないか。「感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる」教師こそが求められている。
ルバング島から帰還された小野田寛郎氏と出雲で開催された「感性・心の教育フォーラム」で御一緒した際、小野田自然塾に子どもたちを引率してくる教師自身の自然体験が欠落しているため、教師自身がナイフでけがをしたり、キャンプのテントを設営できなかったり、飯盒で御飯を炊けないなどの苦情が子どもたちから寄せられることが多くなったという話を聞いた。
教科のタコツボ「授業ボックス」から脱却して総合的な人間力ともいうべき「生きる力」を育てることが求められている今日、教師に最も必要なのは「柔らかな感性」である。目に見えない価値に気づく感性を育てるためには、教師の感性が研ぎ澄まされていなければならない。作家の小林秀雄氏は「頭を働かすより、眼を働かすことが大事だ」「画家が花を見るのは好奇心からではない。花への愛情です」「絵や音楽が解ると言うのは、絵や音楽を感ずる事です。愛する事です」と指摘しているが、頭を働かすunderstandの能力の優れた教師は多いが、眼を働かせてrealize(実感)し、切実に感ずる能力を高め、教師自身の気づきを深める研修、教師と子どもの感性が共に育つ場をできるだけ多く増やしていく必要があるのではないか。
全国各地で教師の感性を磨く研修が始まっているが、その中でもとりわけ数年間連続して感性教育講座を開催している福岡県の教育センター及び福岡教育連盟の取り組み、さらに地域を挙げて感性教育を実践している長野県の下伊那教育会や相模原市の取り組み、命の尊さを実感する総合学習等々、本巻に収めた論稿を是非参考にしてほしい。
/高橋 史朗
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- 明治図書