- はじめに
- まえがき
- T 二一世紀は私たちにまかせて! 壮大な夢とロマンを描ききる『ドリームビジョン』の造形
- ――生徒が、自ら心を癒し育む美術科実践―― /太田 恵美子
- 1.「感性」はよさを実現するエネルギー
- 2.育てなければ、育つはずがない
- 3.『グローバルドリームビジョン』の実践
- 【学習録】グローバルドリームビジョン
- 『二一世紀への私の挑戦! 地球環境問題の解決を目指して』
- 【学習録】グローバルドリームビジョン
- 『絵で訴える このままでは地球があぶない』
- 深刻化する地球環境の実情を絵に表す
- 4.「夢を創る」学習で、子どもと教師はどう変容したか
- 5.年中無休の笑顔で
- U 「音」や「言葉」で心のうたを表現しよう!
- /早田 保美
- 1.心のうたを響かせよう〜感性を育てる表現活動〜
- 2.どの子どもだって輝ける!〜音づくりによる感性教育〜
- 3.五・七・五・七・七でひらく個性の花〜短歌創作による感性教育〜
- V 「論理」の授業から「感性」の授業へ
- ――具体的な問題場面「給食の列の番取り」を例に考える―― /岡村 秀一 /新発田 靖
- 1.授業に「感性」を!
- 2.子どもの「実感」や「納得」を内面から支える力
- 3.「感性を生かして問い続ける子ども」を育てる授業づくり
- 4.子どもが感性を生かして問い続ける道徳授業の実際〜「給食の列の番取り」から〜
- 5.「感性を生かして問い続ける子ども」を育む授業改善のポイント
- W 心を癒す感性教育
- ――「スライム」「描画」を使った授業改革―― /佐藤 敏彦
- 1.学校は、意識改革の灯台
- 2.子どもの発する信号を受けとめ、共振せよ
- 3.感性を重視する授業を展開する
- 4.キーパーソンとしての使命を心に刻んで
- X 心の基礎をつくる幼児期の教育
- ――生命の不思議さを感じる体験を通して―― /金井 静枝
- 1.「自分の存在の意味」を感じる
- 2.生命の不思議さを感じる心を育む
- 3.共に感じ合い育ち合う関係になるために〜教師が変われば子どもも変わる〜
- Y 感性レベルのものをとり込んだ教材・教具・学習過程
- /富岡 一丸 /藤本 百男 /前野 俊浩
- 1.はじめに
- 2.国語科(二年)『父上さま母上さま』(神社新報社刊)〜特攻隊員の遺書に学ぶ〜
- 3.社会科(歴史的分野)『源平の争乱―三草山合戦の真相と伝承』の授業
- 4.数学科(三年)視角一定の謎〜円周角の定理を体感しよう〜
- Z 「本音の言えるクラス」をめざす感性教育
- ――「探偵ごっこ」「ブレーン・ストーミング」を活用して―― /松島 純生
- 1.「感性教育」との出会い
- 2.ホリスティック教育に対する戸惑い
- 3.「感性」に対する苦手意識
- 4.イメージを伝える算数教育
- 5.感性教育の実践〜まず、本音の言えるクラスに〜
- 6.エンカウンターの実施〜学級開き後の「探偵ごっこ」〜
- 7.ブレーン・ストーミング
- 8.ブレーン・ストーミングの道徳への活用
- 9.児童への対応〜子どもとの心のキャッチボール〜
- 10.子どもの変化、私の変化
- 11.これから感性教育に取り組む人々へのメッセージ
- [ 「交流」は感性を育てるキーワード
- ――地域の自然・文化・人々に見守られて―― /井上 博人
- 1.「感性教育」の出発点〜ありのままの子どもを受け入れ、見つめよう〜
- 2.感性の捉え方と研究の仮説
- 3.教師中心の授業から子ども中心の授業へ
- 4.「交流」は感性を育てるキーワード〜授業の実践例から〜
- 5.生活科での交流活動〜『あきのかい』『西小っ子まつり』〜
- 6.「地域の先生」から学ぼう
- 7.成果と課題
- 8.メッセージ〜教師も子どもも、楽しむのが一番!〜
- \ 生きる力を育む学習活動の創造
- ――子どもの感性を生かした授業を通して―― /福岡教育大学教育学部附属久留米中学校
- 【理論編】
- 1.「生きる力」と感性とのかかわり
- 2.感性を生かした問題解決的な学習
- 【実践例一】第三学年理科 活動主題名『水溶液の液性の秘密を探ろう』
- 1.はじめに
- 2.活動の流れと実際
- 3.おわりに
- 【実践例二】第三学年(国語、音楽、美術の合科学習) 活動主題名『「はじまり」を味わい、感じたことを表現しよう』
- 1.はじめに
- 2.活動の流れと実際
- 3.おわりに
まえがき
感性や感性教育の大切さはわかるが、具体的に授業で何をどのように教えればよいのか、という声がよく聞かれる。その疑問に答えたのが本巻である。教育界には感性に対する誤解や偏見が根強く存在しており、感性は美術や音楽などの一部の授業でしか育てることはできないと思い込んでいる教師も少なくない。しかし、岡潔をはじめとする一流の数学者たちが感性の大切さを強調し、Mathematical art展を開いたりして、数学と感性が深い関係にあることを明らかにしている。
物理学者の石川光男氏(国際基督教大学教授)は「理観」という新たなコンセプトのもとで、理性的な認識から深い意味や〈いのち〉の〈つながり〉に気づかせることの大切さを説いているが、知的、分析的に自然を理解しても、そこから意味や価値を学びとるのは直観である。例えば、人間の数十兆の細胞のうち、脳の支配下にあるのはごく一部であるにもかかわらず、全体が協調的に行動することのすごさに気づけば子どもたちは深く感動するだろう。また、胃の中は金属も溶けるぐらいの強酸であるにもかかわらず、胃の細胞が溶けないのは、胃壁が強酸から細胞を守るごく薄い膜で覆われているからである。アルコールを飲んだりして、その膜が破れて細胞が死ぬと、その死んだ細胞の群れが次の細胞が生まれるまで酸から胃壁を守ってくれる。死骸が堆積することによって次の細胞が生まれるまでの幕間つなぎをしてくれるわけである。「死と再生」が一体になっている〈いのち〉の〈つながり〉の厳粛な事実に深く感動せずにはおれない。(詳しくは、石川・高橋編『現代のエスプリ』三五五号「ホリスティック医学と教育」至文堂、平成九年、参照)
ところが、これまで自然科学は理性で自然の秘密を解きあかしてきたが、その結果を知識として理解し記憶するに止まり、そこから意味や価値に気づかせる教育が欠けていた。分析知を通して感性を磨き意味や価値に気づかせる教育こそが求められている。兵庫教育大学附属中学校の前野俊浩先生の「円周角の定理を体感しよう」という数学の授業や福岡教育大学附属久留米中学校の「水溶液の液性の秘密を探ろう」という理科の授業は、このような「理観」授業の先駆的実践といえよう。両中学校は授業を通して感性を磨く感性教育の具体的実践に数年間学校を挙げて取り組んでおり、中学校における感性教育のパイオニア的存在である。〈いのち〉の不思議さを実感させる金井静枝先生の幼児教育実践にも注目したい。石川氏のいう「理観」というのは、体験による自覚には自然科学との接点がないので、体験による自覚とは別な気づきの方法論として提唱されたものであるが、感性教育には「流汗悟道(自らが汗を流した体験を通して道を悟る)」という体験による自覚と分析知を通して感性を磨く「理観」の両方が必要である。
豊かな自然環境に身を置けば感性は豊かになるとは限らない。大自然の中で生きている子どもたちが野鳥や草花にまったく関心を持たないでテレビゲームに夢中になっているケースも少なくない。感覚は本能であるから育てることはできないが、感性は育てることができる。太田恵美子先生の美術、早田保美先生の音楽、岡村秀一・新発田靖先生の道徳の授業などを見ればそのことは明らかであろう。体験だけでは必ずしも深い気づきには到達できない。より深く意味や価値に気づかせるためには、気づかせるポイントを教師が明確に意識して授業展開をする必要がある。また、教材や教具、学習活動にも大いに工夫をこらすことが求められる。富岡一丸・藤本百男先生の国語科と社会科の授業、松島純生先生の「探偵ごっこ」「ブレーン・ストーミング」の活用、井上博人先生の生活科での交流活動、福岡教育大学附属久留米中学校の国語、音楽、美術の合科学習、「感性を生かした問題解決的な学習」を是非参考にしてほしい。
/高橋 史朗
-
- 明治図書