- はじめに
- T章 今次教育課程改訂の特色は何か
- ―教育課程改訂の変遷から見る― /安彦 忠彦
- 1 第1回(昭和26年)の教育課程改訂:経験主義教育をめざすもの
- 2 第2回(昭和33年)の教育課程改訂:系統主義・本質主義への転換
- 3 第3回(昭和43年)の教育課程改訂:教育内容の現代化に即応
- 4 第4回(昭和52年)の教育課程改訂:初めて教育水準をダウン
- 5 第5回(平成元年)の教育課程改訂:隔週五日制と生活科の導入
- 6 第6回(平成10年)の教育課程改訂:完全五日制の実施と総合的学習の導入
- 7 今回の改訂の特色
- (1) まず,今回の改訂は,歴史上「第三の教育改革」と呼ばれる,公教育制度全体に関わる改革の一環として行われた,ということである
- (2) 次の「活用型」の学習により,「実社会・実生活に生きる力」の育成を期して,基本的知識・技能の習得型の学習を,教科を超える総合的学習における探究型の学習に,効果的につなげることをめざしていることである
- (3) 第三に,学習意欲や学習習慣を重視して,学習時間や授業時間の確保や増加を図ることをめざしていることである
- (4) 最後に,カリキュラム・マネジメントの重視と現場主義の採用が挙げられる
- U章 教育課程改訂の論理を解説する
- ―改訂の哲学・背景から見る― /安彦 忠彦
- §1 今次改訂の社会的背景
- 1 「第三の教育改革」を唱える政治的動向
- 2 経済界を中心に,経済のグローバル化に対応した個性的人材養成
- 3 社会問題としてのいじめ,不登校,学級崩壊,問題行動等への対応
- 4 「学力低下」問題への対応
- 5 今日的・現代的諸課題としての環境・エネルギー・食料問題等への対応
- §2 今次改訂の教育哲学的特徴
- 1 教育の中立性をめぐる政治的圧力との関係:「教育の中立性」原則
- 2 個性教育と共通教育のバランス:「個と集団との関係」の理解
- 3 基礎的・基本的な知識・技能とその活用能力の育成「活用型」学習の導入
- 4 系統主義と経験主義とのバランス
- 5 「現場主義」としての教育課程編成:現場主義の思想
- §3 今次の改訂で残された課題
- V章 教育課程改訂の内容と方向の解説
- §1 総則改訂の内容と方向を解説する /大杉 昭英
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- 3 重点項目の具体的な内容
- (1) 「生きる力」という理念の共有
- (2) 基礎的・基本的な知識・技能の習得
- (3) 思考力・判断力・表現力等の育成
- (4) 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保
- (5) 学習意欲の向上や学習習慣の確立
- (6) 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実
- 4 今後求められる指導の在り方
- §2 国語科改訂の内容と方向を解説する /堀江 祐爾
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 発達の段階に応じた指導が必要…Aの@AB
- (2) 漢字についての指導…AのCD
- (3) 読解力を向上させる指導…Bの@AB
- (4) 書く力(書写を含む)を向上させる指導…BのCD
- (5) 「書く力」「話す力」を育てる指導…BのE
- (6) 言語文化の継承・発展のために…BのFとCの@
- 3 今後求められる指導の在り方
- §3 社会科改訂の内容と方向を解説する /北 俊夫
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 国家・社会の形成者を育成すること
- (2) 習得させる知識を明確にすること
- (3) 伝統文化についての教育を重視すること
- (4) 現代社会の新しい課題に対応すること
- (5) 小学校と中学校の関連を図ること
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 取り上げる知識を構造的に整理する
- (2) 教えるべきことは教え覚えさせる
- (3) 問題解決的な学習をさらに徹底する
- (4) 新しい教材の開発と活用を促進する
- §4 算数科改訂の内容と方向を解説する /小西 豊文
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 理数教育の充実
- (2) 算数教育の現状と課題
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 具体物を用いたり体を動かしたりする体験的な活動の充実
- (2) 筋道をたてて考え,数学的な表現を使って説明する力を高めること
- (3) 効果的・効率的な学習の展開を心掛けること
- §5 理科改訂の内容と方向を解説する /角屋 重樹
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 課題
- (2) 改善
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 基礎的・基本的な知識や技能の習得
- (2) 科学的な思考力・表現力などの能力の育成
- 4 これからの理科学習指導において育成すべき力
- §6 生活科改訂の内容と方向を解説する /嶋野 道弘
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 生活科の現状
- (2) 改訂の重点と生活科の課題
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 交流や合科的・関連的指導の充実を図る
- (2) 自然の不思議さや面白さを実感する活動
- (3) 通学路の安全及び自然体験や継続的な飼育栽培
- (4) 多様な学習活動や表現する活動と教師の子どもへの関わり
- §7 音楽科改訂の内容と方向を解説する /吉田 孝
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりする力
- (2) 音楽と生活とのかかわり
- (3) 音楽文化に親しむ態度
- (4) 共通事項について
- (5) 「音楽づくり」活動
- (6) 鑑賞指導の改善
- (7) 我が国の音楽文化などの指導のあり方について
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 音楽的自立
- (2) 学力の定着
- (3) 音楽づくりについて
- (4) 伝統音楽・郷土の音楽
- §8 図画工作科改訂の内容と方向を解説する /榎原 弘二郎
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 造形の表現や鑑賞の過程で働く力の育成
- (2) 生活や社会での造形の働きに関わる態度の育成
- (3) 美術文化に関わっていく態度の育成
- (4) 資質や能力と学習内容の関係を明確にする
- (5) 造形や美術の働きを実感させる指導の重視
- (6) 自分の思いや価値意識をもてる鑑賞指導の重視
- (7) 作品を味わう活動や我が国の美術・文化の指導の充実
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 主体的な造形活動を育てる
- (2) 指導内容と資質・能力との関係の明確化
- (3) 生活や社会との関わる活動は発達に応じて指導すること
- (4) よさや美しさを判断できる鑑賞の指導
- (5) 生活の中の造形や美術作品を味わえるようにする
- §9 家庭科改訂内容と方向を解説する /佐藤 文子
- 1 改訂の重点は何か
- (1) 改善の基本方針
- (2) 小学校家庭科における改善の具体的事項
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 「生きる力」の検討から
- (2) 改正教育基本法と「生きる力」と家庭科
- (3) 改正学校教育法と家庭科
- (4) 家庭科をめぐる現状の課題から
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 家庭での生活実践に導く家庭科学習
- (2) 子どもたちをとりまく生活環境の変化を踏まえ,生活の質の向上を志向した家庭科学習
- (3) 学校における家庭科学習と家庭・地域との連携
- §10 体育科改訂の内容と方向を解説する /高橋 健夫
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) みんなに保障すべきミニマムの特定
- (2) 目的の構造
- 3 ミニマムを保障する指導方法の開発
- (1) 最低限の能力保障のうえにもっと楽しい体育を目指す
- (2) ミニマムを保障する体育指導の在り方
- 4 今後の論点
- §11 道徳改訂の内容と方向を解説する /押谷 由夫
- 1 改訂の重点
- 2 重点1・改正教育基本法や「生きる力」の核となる豊かな道徳性を育てる
- (1) 改正教育基本法で強調されていること
- (2) 「生きる力」で強調されていること
- 3 重点2・全教育活動を通しての道徳教育を充実させる
- (1) かかわりを深める体験活動の充実
- (2) 各教科における道徳性をはぐくむ学習活動の充実
- 4 重点3・全教育活動と関連させ心に響く道徳の時間を
- 充実させる
- (1) 先生と子どもたちとのかかわり
- (2) 子ども同士のかかわり
- (3) 資料とのかかわり
- (4) 4つの内容とのかかわりが深められる総合単元的道徳学習を
- 5 重点4・心に響く教材を開発する
- 6 重点5・発達段階や子どもの実態,社会的課題等を考慮した重点的な指導を工夫する
- 7 重点6・評価を工夫し,子どもたちが自らの生き方を主体的に考えられるようにする
- 8 重点7・学校・家庭・地域連携を深める
- §12 特別活動改訂の内容と方向を解説する /森 徹
- 1 改訂の重点は何か
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 特別活動の目標の見直し
- (2) 特別活動の内容の見直し
- (3) 社会的自立の促進
- (4) 体験活動の促進
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 特別活動の目標を再認識しての指導
- (2) 各内容(学級活動,児童会,クラブ活動,学校行事)の目標と育てたい態度や能力を意識した指導
- (3) 発達や学年の段階や課題に即した指導
- (4) 学校行事において直接的な体験活動を一層重視する指導
- §13 総合的な学習の時間改訂の内容と方向を解説する /村上 美智子
- 1 改訂の重点は何か
- (1) 総合的な学習の時間のねらいの明確化
- (2) 総合的な学習の時間の育てたい力の明確化
- (3) どのような力が身についたかを適切に評価
- (4) 課題を解決しようとする学習活動を重視
- (5) 支援策の充実と学校全体の組織的な取組み
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 現状
- (2) 課題
- (3) 改善の基本方針
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 総合的な学習の時間のカリキュラムの作成
- (2) 総合的な学習の時間の授業づくり
- §14 英語活動改訂の内容と方向を解説する /影浦 攻
- 1 改訂の重点は何か
- (1) 小学校における英語教育の充実の必要性
- (2) 目標
- (3) 内容
- (4) 教育条件の整備
- (5) 教育課程上の位置づけ
- (6) その他
- 2 なぜ重点になったか
- (1) 我が国の社会の急速な国際化
- (2) 外国語に対する社会のニーズの増大
- (3) 英語教育への変革の展望
- (4) 外国における外国語教育の早期導入
- 3 今後求められる指導の在り方
- (1) 英語の音声にたっぷりと慣れ親しませる
- (2) 楽しい活動を中心に授業を創造する
- (3) コミュニケーションの視点を大切にする
- (4) 英語を楽しむ姿勢を大切にする
まえがき
本書は,教育課程の国家基準である学習指導要領の今回の改訂が,どのような考えに基づいてなされたか,この改訂に直接に関係した方々に解説していただいたものである。この意味で,各学校での教育課程編成の取り組みに,直接役に立つものとなるよう留意している。
今回の学習指導要領改訂は,従来になく難航した。それは,一つは「第三の教育改革」と呼ばれるような,日本の教育制度全体の改革と並行しての作業だったからである。教育関係の最高法規である教育基本法の改正を始め,関連する学校教育法,教員免許法,教育公務員特例法及び教育委員会法(いずれも略称)といった重要な教育関連の法律が改正された。まだ,その結果がどう出るのか明確ではないが,これによって,公教育を「国民個々人」から「国家・社会」へ向けること,日本の「伝統と文化」を重んじること,「実社会・実生活に生きる力」を育成すること,国民としての「共通基礎教養」を確実に育てること,などが目指されている。しかし,時代は大きく地球的規模ないしは世界的規模で進展しており,狭い民族意識で済むような時代ではない。自分の国の事情だけを強調していては,世界各国と一緒に共倒れになるような深刻な事態にある。自国の誇りを独善的に主張するのでなく,世界から尊敬を得るような内容のものにしなければならない。学校現場での補正が必要となるゆえんである。
また第二に,社会全体の教育力が落ちてしまい,単に学校だけの改善では済まなくなってきた,という事情がある。中教審では,学習指導要領の改訂作業を行いつつ,社会と学校との関係,家庭と学校との関係など,多くの点で大がかりに吟味・検討しなければならない状況であった。そもそも,内閣が「教育改革国民会議」や「教育再生会議」を諮問機関として設けたのも,そのような大きな構えでの改革をめざしてのことであった。ただし,これらの会議は,たとえ内閣の諮問機関であっても,非公式の私的なものであり,中央教育審議会(中教審)のように,「教育の中立性」を確保するために,法令によって公式に設けられたものではない。したがって,それらの会議がどんな報告書を出そうと,公式にその座長である内閣総理大臣から文部科学大臣に向かって,その報告書の内容に沿って具体化するように指示がなければ,何ら問題にしなくて良いのである。しかもそのような指示があった場合,文部科学大臣は必ず中教審にその内容を諮問しなければならないことになっている。このように,最も重要なのは中教審なのである。中教審が常に妥当な判断をしているとは思わないが,その役割は大きい。その中教審に,それらの会議からの問題を含めて,これまで以上に多くの審議すべき内容が課されたわけである。その内容は,知・徳・体の教育の全分野にわたって実に広く,また深刻なものばかりであった。そのために,審議は多方面にわたり,かつ長期にわたる検討が必要であった。
本書は,そのような背景のもとに出された,新しい学習指導要領の基本的性格を明らかにし,それによって各学校での教育課程編成に,少しでも役立つよう刊行された。一人でも多くの学校関係者に活用されるよう望んでいる。
2008年1月 編 者
-
- 明治図書