- 序文
- はじめに
- 第1章 自殺の予防教育
- 1 自殺の定義と子どもの自殺 (新聞事例1・2)
- 2 なぜ自殺を防止するのか (新聞事例3・4)
- 3 自殺予防教育はなぜ必要か (新聞事例5・6・7)
- 第2章 短期の自殺予防教育
- 1 自殺の流行 (群発自殺)に対して新聞事例8)
- 2 場所と手段 (新聞事例9)
- 3 自殺の予告を受けて (事例・A君)
- 4 自殺未遂があったら (新聞事例10)
- 5 自殺者が出た場合 (新聞事例11・12・13)
- 6 自殺の直接的動機 (新聞事例14)
- 7 危機介入と電話相談 (電話事例1)
- 8 自殺問題の「個と集団」
- 第3章 長期の自殺予防教育
- 1 不登校への対応
- (1) 4月 (事例1・Aさん)
- (2) 5月 (事例2・B君)
- (3) 6月 (事例3・Cさん)
- (4) 7月 (事例4・D君)
- (5) 8月 (事例5・E君)
- (6) 9月 (事例6・Fさん)
- (7) 10月 (事例7・G君)
- (8) 11月 (事例8・H君)
- (9) 12月 (事例9・lさん)
- (10) 1月 (事例10・J君)
- (11) 2月 (事例11・K君)
- (12) 3月 (事例12・Lさん)
- 2 不適応への対応
- (1) 分離不安の強い子 (事例13・M君)
- (2) 集団になじみにくい子 (事例14・N君)
- (3) 場面かん黙の子 (事例15・Oさん)
- (4) 反抗しやすい子 (事例16・Pさん)
- (5) 情緒不安定・奇異な行動をとる子 (事例17・Qさん)
- (6) やせ症・拒食症の子 (事例18・Rさん)
- (7) チックの子 (事例19・S君)
- (8) 粗暴 (家庭内暴力)の子 (事例20・T君)
- (9) 放浪 (家出)をする子 (事例21・Uさん)
- (10) 無気力や意志薄弱の子 (事例22・V君)
- (11) 学業不振の子 (事例23・W君)
- 第4章 いじめと自殺の予防教育
- 1 いじめへの対応
- (1) いじめの定義 (新聞事例15,事例24・Y君)
- (2) 初期段階の「いじめ」への対応 (事例25・Z君)
- (3) 集団としての成立の援助 (事例26・a君)
- (4) 相手の痛みが自分の痛みとして分かる (事例27・bさん)
- (5) いかに「個」にかかわっていけるか (事例28・Cさん)
- (6) 中間反抗期を上手に (事例29・dさん)
- (7) 耐性の伸長 (事例30・e君)
- 2 いじめと自殺への対応
- (1) いじめ・自殺の報道 (新聞事例16)
- (2) 教師間の連携 (新聞事例17)
- (3) 家庭との協力と専門機関との連携 (事例31・fさん)
- (4) いろいろな相談機関の利用 (電話事例2・3)
- (5) 生きがいをもつ
序文
1997年にはわが国で24,391人が自らの手で生命を絶ちました。この数は交通事故による犠牲者の数の2倍をはるかに超えているのです。交通事故の予防については,幼稚園の頃から積極的に教育されています。ところが,これほど深刻な問題である自殺の予防について,教育現場ではほとんど何の対策も立てられてこなかったのが残念ながら現状なのです。
既遂自殺の背後には自殺未遂がその10倍は存在するだろうと予測されています。また,自殺行動(既遂・未遂自殺)が1件起きると,その人物をよく知っていた少なくとも5人の人が精神的な打撃を受けるとも言われています。
このように,自殺が引き起こす心理的な問題は死にゆく2万数千人だけの問題ではなく,その周囲の人々まで巻き込む深刻な問題なのです。
しかし,自殺について語ることには今でも強いタブーがあります。実際に自殺が起きた時の日本人の一般的な反応は,「自殺について触れないでおこう。時が経てば心の傷も癒されるはずだ」といったものでしよう。まして,自殺について子どもと語るのは,まるで「寝ている子を起こす」ようなもので,自殺の危険のない子どもまで自殺に追い込んでしまいかねないと心配する人も少なくありません。
自殺に至るまでにはさまざまな問題が積み重なっているのが一般的です。たとえば,学校や家庭での問題といった環境要因,精神疾患,自殺に傾きやすいような性格傾向などが複雑にからみあっているのが普通です。しかし,生徒の自殺が起きると,最近ではかならずといってよいほどマスメディアの「いじめ自殺」の大合唱が始まります。マスメディアや生徒の保護者達は一方的に学校側を攻撃し,学校側は謝罪に徹するという図式が出来上がってしまっています。そして,もっとも痛手を受けているはずの生徒達は,心のケアを受けられないまま放置されてしまっているのが現状なのです。
私は精神科医として自殺の予防に携わっていますが,このような実状を憂えている者の一人です。精神科医療の現場にいると,実際には学校の先生の誠実な姿勢のおかげで,大切な生命を救われた子どもの実例をいくつも経験していました。精神科臨床ではしばしば,「自殺の危険の高い子どもの後には自殺の危険の高い親がいる」,また,「自殺の危険の高い親の後には自殺の危険の高い子どもがいる」と言われています。子どもが自殺の問題を抱えている時に,困り果てているのはその子どもだけでなく,家族もすっかり消耗しきっていて,問題が存在することすら気づいていない場合が圧倒的に多いのです。そのような状況で,学校の先生が子どもの抱えた問題を正確に捉え.的確な解決法を負いだすために必死の努力をしてくださっているという事実を私はしばしば目撃してきました。
生徒の自殺というと,最近では学校側は自分達の落ち度とみなされないようにするあまり,防衛的になってしまい,先生達も萎縮してしまっているように思えてなりません。しかし,子どもの自殺の危険を第一に発見し,適切な介入を始めるという学校の先生達が担っている重要な役割を忘れてはなりません。
本書は橋本治先生が長年の経験から,教育現場での自殺の問題をどう取り扱うベきかを詳細に解説したものです。すでに述べたように,自殺はある日突然に何の前触れもなく起きるのではなく,そこに至るまでには数多くの問題が積み重なっています。橋本先生はその問題ひとつひとつに対する取り組みが自殺予防につながることを強調しています。この本を読んでみると,橋本先生の語りかけに勇気づけられる思いがするはずです。
自殺の危険をはらんだ状況とは「生か死か」といった非常に深刻な事態であると同時に,生徒から発せられた「救いを求める叫び」を的確に受けとめることができれば,子どもが一層の成長を遂げる絶好の機会でもあるのです。この意味でも本書から学ぶ内容は大きいはずです。
東京都精神医学総合研究所 /高橋 祥友
-
- 明治図書