人権保育のカリキュラム研究

人権保育のカリキュラム研究

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「偏見意識論」「幼児の仲間関係論」「幼児の自己理論」の3論を軸とした三層構造の保育カリキュラムを提案し、幼児教育機関のあり方を問い直す。


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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-018120-7
ジャンル:
人権教育
刊行:
対象:
幼児・保育
仕様:
A5判 480頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
序論 はじめに
1 人権保育の必要性
2 人権保育が発展しない要因
3 本著の四つの課題
第1部 日本における人権保育の現在と理論的諸問題
第1章 問題の所在 日本における反差別の保育と幼児期
§1 人権教育の必要性と国際的な人権の流れ
§2 幼稚園・保育所・家庭教育政策における人権の問題
§3 世界の差別問題における部落問題の特異性
幼児の側から見た
1 顕在化している差別と顕在化していない差別
2 幼児にとっての部落問題の特異性
§4 幼児期からの同和保育の必要性
第2章 同和保育の歩みと人権保育概念の導入
§1 はじめに
§2 同和保育前史(1968年まで)
1 戦前の同和保育
2 戦後から1960年代までの同和保育
§3 部落の乳幼児教育の公的保障と同和保育の基礎理論の確立期
(1968年から1978年まで)
1 同和対策審議会答申と保育
2 大阪各地での保育所建設の運動
3 同和保育の概念最初の提起
4 大阪同和保育連絡協議会の結成
5 統一要求書とその成果
6 病児保育の実現
7 長時間保育の問題
8 「解放の資質論」同和保育概念の再定義
9 生活の組織化論の提唱
10 四つの指標の定式化
11 保育者集団の確立
12 六つの原則の提唱
13 保育内容の前進 領域別のカリキュラムの実践的提起
§4 同和保育の全国化と同和保育の個別内容の取り組み
(1978年から1988年まで)
1 同和保育の全国化と全国同和保育研究集会の開催
2 研修・研究体制の確立
3 領域別の保育内容の理論の明確化と実践の成果 四つの指標の具体化として
4 障害児保育への同和保育の適用と民族保育の展開
5 解放保育のカリキュラムの作成
6 同和保育の成果と課題の整理
§5 同和保育の再整理と人権保育との結合
(1989年頃から現在まで)
§6 同和保育の理論的課題
第3章 人権保育の実践的・理論的課題は何か
§1 人権保育の概念
1 人権保育の概念は必要か
2 人権保育の四つの立場
3 本著での人権保育の概念
§2 同和保育を基底においた人権保育の課題
§3 日本における人権保育の課題と本著の課題
第2部 偏見に立ち向かう認識を育てる課題
序章 問題の所在
第1章 同和保育における幼児の認識の変革の取り組み
§1 全国解放保育集会で報告された実践の枠組み
§2 福岡の解放保育カリキュラムの提唱
第2章 アメリカにおける幼児の人種的偏見の研究動向
§1 幼児の持つ偏見 アメリカの多文化主義から見えてくるもの
§2 幼児の人種的な目覚めと偏見
§3 性に関わる偏見
§4 幼児のアイデンティティへの人種的偏見の影響
§5 黒人の人種選択の新しい解釈
§6 黒人は自己を否定的に見ているか
§7 幼児の偏見の段階と偏見形成のメカニズム
§8 偏見形成の理由
第3章 アメリカにおける人種的態度の変換と多文化教育のアプローチ
§1 人種的態度の変換の効果測定研究
§2 人種的態度の変換
§3 多文化主義のアプ口ーチ
§4 バンクスのパラダイム
第4章 アンタイ・バイアス・カリキュラムの提唱とその適用可能性の検討
§1 アンタイ・バイアス・カリキュラムの背景と基本的立脚点
§2 アンタイ・バイアス・カリキュラムの保育の目標と課題領域
§3 年齢ごとの保育目標
§4 アンタイ・バイアス・カリキュラムの特徴と課題
§5 多文化教育を同和保育はどう受けとめるか
第5章 「きめつけ」概念の提唱・調査と偏見の構造
§1 きめつけ概念の提唱とその実践の拡大
§2 きめつけ調査の対象と方法
§3 調査の結果
§4 「きめつけ」と偏見の構造
第6章 偏見から見た人権カリキュラムの構想
第2部結論
§1 偏見に取り組むカリキュラムの方向
§2 人権保育における偏見の取り組みの四つのレベル
1 人間の尊厳(きめつけをなくす)のレベル 第一のレベル
2 可視的差別のレベル 第二のレベル
3 部落問題の意識 第三のレベル
4 幼児の社会的実践 第四のレベル
§3 偏見をなくすカリキュラムとその方法
§4 反偏見の認識を育てる保育の可能性と限界
第3部 人権保育の視点に立つ仲間づくり
第1章 集団づくり論の先行研究の検討
§1 人権保育で仲間関係を検討する理由と視点
1 社会的な関係とは何か
2 「偏見の認識」と「社会的な関係」の関係
3 保育における関係の理解
4 集団主義の定義
5 集団づくり論の総括の必要性
6 集団主義の基本理解
7 第3部の課題
§2 子どもの自治集団論における仲間関係
1 自治集団づくりの集団の基本認識
2 自治集団づくりの保育への適用
3 修正自治集団論
4 自治集団論の肯定面と問題点
§3 つたえあい保育の提唱
1 つたえあい保育の特徴
2 海卓子の集団指導論とその発展の見通し
3 つたえあい保育の肯定面と問題点
§4 個を重視した仲間関係論
1 大場牧夫の集団論の基本
2 個を重視する集団の指導と段階
3 個を重視する集団論の肯定面と問題点
§5 日本の仲間づくり論の成果と問題点
1 集団づくり論の評価の視点
2 これまでの集団づくり論の肯定面
3 日本の集団づくり論の問題点
4 これまでの集団が提起する方法論の課題
第2章 人権の視点に立つ仲間関係論の構想
§1 はじめに
§2 仲間関係を考える削提としての共同体概念
1 「子ども世界」把握の必要性
2 デューイの共同体論
3 共同体論の積極性
§3 多様な集団の発展基準を持つのか共同体
1 多様な基準を持つ必要性
2 一面化したこれまでの集団の基準
§4 人権論を集団論の中心に
§5 「集団発展の基準」試論
1 集団の発展の五つの基準
2 新しい基準 関係認識と関係行動
§6 関係認識と仲間関係
1 関係認識とは
2 関係認識の九つの基準
3 九つの基準の意味
4 九つの基準とこれまでの集団の基準
§7 関係行動と仲間関係
1 関係行動の十の基準
2 十の基準の前提
3 十の基準の内容理解
4 十の基準の実証的検討の必要性
§8 関係行動の二つの形態
1 生活における関係の形態
2 遊びにおける関係の形態
3 二つの関係の形態の変革と集団づくりの方法
第3章 人権の視点に立つ仲間関係のカリキュラムの提案と実際
§1 人権保育の集団の段階
§2 人権の視点からの集団づくりの段階の構想
1 到達段階の二つの目標
2 集団の発展段階の区切りをどう考えるか
§3 段階の指導のポイント
1 第一の段階
2 第二の段階
3 第三の段階
4 第四の段階
§4 集団づくり論の成果と限界
第4部 人権の視点に立つ自己の育ちの方向とそのカリキュラム
第1章 なぜ,幼児の自己概念モデルを検討するか
§1 問題の所在
§2 幼児期の自己の研究の現状と課題
1 幼児の自己の研究の現状
2 幼児の自己の研究課題
§3 幼児の自己研究のアブ口ーチについての梶田叡−の示唆
§4 第4部の課題と方法
第2章 幼児の自己概念のモデルと構造
§1 本章の目的と方法
§2 乳幼児からのボトムアップの研究
ワ口ン及び鏡像の研究を中心に
1 ワロンなどの乳幼児の関係の研究 自己の発生のメカニズム
2 乳児期の自己の研究 鏡像研究を中心に
3 乳児の自己研究の意義
§3 自己概念の理論の乳幼児期への適応の研究
1 リーフィーらの自己概念の発達研究
2 自分って何 ブロー卜ンの研究
3 人は内面かあるか セルマンの研究
4 主体の感覚の研究 グウアードとボーハンの研究
§4 幼児の自己概念の研究
1 八ーターとパイクの研究
2 ジョセフの研究
3 柏木恵子の研究
§5 幼児の自己概念の枠組みをどのように整理するか
1 幼児の自己評価の対象の整理
2 幼児の自己評価の中味の整理
3 幼児の自己の発達の整理
第3章 セルフ・エスティームのスケールから見た幼児の自己概念の構造
§1 幼児のセルフ・エスティームの検討の必要性
§2 代表的なセルフ・エスティームの構成と尺度
§3 セルフ・エスティームと幼児の自己概念の関係
第4章 自己心理学と幼児の自己概念の枠組み
§1 ジェームスの自己理論
1 「I」と「ME」の関係
2 自己評価論
3 ジェームスの提起の意味
§2 八ート・ディモンによる統合モデル
1 統合モデル
2 客我の四つの段階
3 八ー卜らの提起の意昧
§3 オルポートの発達モデル
1 二歳までの自己の発達
2 二歳以降の自己の発達
3 固有我
4 自尊心と固有我
§4 その他の自己理論の検討
1 バンデューラの自己理論
2 ミードの自己理論
§5 自己心理学の自己概念の整理と自己概念の契機
第5章 精神分析学の幼児の自己概念
エリクソンを中心に
§1 はじめに 偏見の問題とエリクソン
§2 エリクソンのアイデンティティの段階
§3 マーラーの提起
§4 精神分析学派のアイデンティティ論と自己の構造
第6章 幼児の自己の枠組みの新しいモデル
§1 はじめに
§2 幼児の自己の「契機」
1 自己の「契機」の整理
2 自己の「契機」の内容の提案
§3 幼児の自己の「構造」
1 梶田の提案
2 自己の構造の二つの流れ
3 狭義の自己の構造
4 広義の自己の構造
5 本著での結論的な提案
6 幼児の自己の構造の発達
7 幼児の自己の構造で残された問題
8 最終的な構造の提案と個別の内容との関係
§4 新しいモデルの提案 契機と構造を踏まえて
第7章 自己概念と人権保育カリキュラムの構想
第4部結論
§1 はじめに
§2 自己の視点からの保育内容の構想
§3 幼児の自己規定の視点から偏見・仲間づくりの課題への示唆
§4 幼児の自己規定研究の課題と人権保育
第5部 人権保育のカリキュラムの構想と課題 結論
第1章 三層構造の整理
人権保育カリキュラムの具体化を削提として
§1 人権保育カリキュラムの具体化のための課題
1 これまでの考察のポイント 三層構造を持った人権保育カリキュラムの提唱
2 三層構造を持った人権保育カリキュラム研究の未整理の問題
3 第5部の課題
§2 三つの層の同質性・統一性
§3 三つの層の相互補完性 卜ライアングルとしての三つの層
1 トライアングルとしての三つの層
2 三層論がカリキュラム論として構築されなかった理由
§4 三つの層の内容的整理の課題
§5 自他の評価の契機(対象)に関わる整理
1 整理のための三つの層の比較
2 人権保育の契機として
§6 自他の評価構造に関わる整理
1 四つの自己の構造と偏見論は調和しうるか
2 自己の構造と偏見論を統一する二つの立場
3 自己の構造と偏見の関係の例示
4 「健康な自己」と「不健康な自己」
§7 関係論の目標と他の層との整理
第2章 人権保育のカリキュラムの構想と課題
§1 本章の課題
§2 人権保育カリキュラムにおける年齢的保育課題
1 乳児期の保育課題
2 幼児期前期の保育課題
3 幼児期後期の課題
4 子どもの現実との対話を通しての課題の明確化
§3 三つのアプローチを統合する人権保育カリキュラムの原理と構成
1 本論文でのカリキュラムの定義
2 人権保育カリキュラムの原理 「関係的カリキュラム」の提唱
3 人権保育カリキュラムの編成の方法
4 年間指導計画
5 期別指導計画
6 短期指導計画
§4 新しい人権保育カリキュラムの特徴と意義
1 社会的偏見論からきめっけを土台とした偏見論への移行
2 関係の変革を土台とした認識の変革の視点
3 幼児期の自己の確立が人権保育の中核
4 三層構造の統一的把握
5 「一層の人権保育カリキュラム」から「三層の人権保育カリキュラム」へ
6 三層の人権保育かすべての幼児の育ちの根幹
7 乳児の人権保育の内容の提起 三層構造論から
§5 同和保育と人権保育の関係の理解
1 子どもの世界・子どもの人権論と三層構造の保育カリキュラム
2 解放の資質論と三層構造のカリキュラムの関係
3 解放の資質論の二つの理解の区別と統一
4 同和保育の理論的問題への示唆
5 三層構造の人権保育カリキュラムと日本の保育カリキュラム
§6 今後の課題
あとがきと謝辞

まえがき

 本書は,人権保育の確立のため,偏見意識論,幼児の仲間関係論,幼児の自己理論の三論から人権保育の内容を構想することを目的としている。というのは,幼児教育の基本となることが,様々な文脈において問い直される時代に入っている。それは,家庭の少子化,地域のあり方の問題,学校の抑圧的性格の問題,さらにいえば,「進歩」をどのように社会に位置づけるかというような社会そのもののあり方の問題などと連動しているし,具体的には,いじめの問題,不登校の問題などとして現れている。そうした学校での問題と連動して,幼児期のあり方,幼児教育のあり方が問題となっているけれども,ある意味では日本の幼児教育の体制の中では個別の家庭の問題として意識されているために顕在化していないとも言える。しかし,それは顕在化していないだけで,個別の家庭の親子関係の不幸な形ででている問題が氷山の一角として現象化しているとも言えよう。

 本書は,こうした親子の関係に現れてくる幼児期の問題,幼児教育の有りようを問題にしているのではない。むしろ,幼稚園・保育所など社会的な教育機関における教育の内容・カリキュラムのあり方を問題にしたいと考えている。なぜなら,今日幼児教育においては,エンゼルプランに代表されるように保育所や幼稚園などの幼児教育機関が家庭・地域にどのように働きかけるかが問題となっている。そうした働きかけは極めて重要であるが,しかし,そうした幼児教育機関の保育が根本的に変わらない限り,そうした働きかけも表面的なものとして終わることはやむを得ないと考えられる。そうすると,こうした幼児教育機関の保育の有りようにこうした問題解決の視座が与えられるとするならば,幼児教育機関のあり方,特に,そこでの実践の質が問題となると言える。この意味において,本書は幼児教育機関の保育実践のあり方を問う必要があると考えている。

 しかし,こうした問題を解決していく保育実践を考えるときに,今日,子どもの権利条約をどのように実践していくかが問題となっているように,人権の視点から,特に子どもの人権,幼児教育のあり方を問踊にしていくのは当然のことである。だけれども,今日,行政的にも,実践的にも全国的にこうした人権の視点から幼児教育を問い直し保育内容に高めていく方向での討論が高まっているとはいえない状況がある。わずかに,厚生省が出している「保育所保育方針」の中で「人権を大切にする心を育てる」との文言が入っていることぐらいである。しかも,その文言も保育所での保育内容にどのように実現していくかの発想が弱く,現場ではほとんど実践化されていない状況がある。

 私は,20年以上にわたっていわゆる「同和保育」に関わって学んできたという経緯がある。従って,同和保育を起点としながら今日人権の視点から幼児教育,特に,人権の保育がどうあるべきかを検討したいと考え,これまでいくつかの論文や単行本を発表してきたので,こうした視点からかねて人権保育のあり方を問題として検討したものをまとめてみたいと考えるようになった。このまとめで,私自身が気にしながら問題にできなかったテーマについても,不十分さを免れないけれども追求する機会としようと考えてきた。

 このような視点から,本書においては,次の課題を検討したい。

 1)最初に同和保育の視点からどのような人権保育が構想されてきたか。

 2)アメリカを中心にどのような人権保育の内容が提起されてきたか。

 3)幼児の偏見論をどのように考えるかについて,主にオルポートなどのアメリカでの偏見論をトレースしながら,幼児期の偏見を保育カリキュラムにどのように組み込むのか。

 4)偏見は仲間関係に現れてくるとの視点から,日本における幼児教育での仲間関係論の典型を取り出し,人権の視点からどのように構想すべきか。

 5)仲間の関係や幼児の偏見の問題は,幼児の自己の育ちと深く関係しており,また,幼児の自己が人権意識の育ちと深く関係しているとの考えから,幼児期における自己の問題を整理し検討する。

 いうまでもなく,こうした理論的な検討は人権保育を考える際の全ての問題ではないとしても,このような偏見・関係・自己の3つの視点は最低必要な視点であると考えて提起したい。このカリキュラムを本書では「関係的活動力リキュラム」と読んで新たなカリキュラム論を提起して,人権保育の方向として提起している。

 21世紀は人権の時代といわれている中で,幼児期こそ人権の内容をふくよかにカリキュラムに取り込むことが必要になっており,私なりにかねてからの問題を整理・提起し,その課題に答えようとしたものである。大方のご批判をお願いしたいと思う。

 本書は,聖和大学に提出された教育学博士論文「人権保育のカリキュラム開発の研究」を基にして修正を加えたものであることをお断わりしておきたい。


  1998年3月   /玉置 哲淳

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