- まえがき
- T章 新社会科歴史的分野の実践課題
- §1 なぜ,知識・技能の活用を重視するのか
- 1 PISA型学力をどう受け止めるのか
- 2 我が国で示された新しい学力の考え方と授業改善
- 3 活用は歴史授業をどのように変えるのか
- §2 歴史的分野で知識・技能を活用するとは
- 1 年表や史料の読み取り
- 2 各時代の特色や時代の転換点に関わる知識を活用して我が国の歴史の流れを考え,判断,表現する
- §3 歴史的分野の重点課題は何か
- 1 地域の歴史を調べる学習
- 2 文化学習
- 3 各時代のまとめ学習
- U章 実践課題への対応方法―4つのポイント―
- §1 歴史特有の知識・技能観
- §2 地域の歴史を調べる学習をどうするか
- §3 文化学習をどうするか
- §4 各時代のまとめ学習をどうするか
- V章 課題解決の授業提案―すぐに役立つ発問と資料で作った授業例―
- ◆§1 授業提案を読み解くポイント
- 1 身近な地域の歴史を調べる学習の場合
- 2 文化学習の場合
- 3 各時代のまとめ学習の場合
- ◆§2 授業づくりの提案―具体的な歴史授業の姿から考える―
- 1 身近な地域の歴史を調べる学習をどう展開するか―指導計画と教材開発―
- 事例1 関東地方を舞台にした地域学習
- ―小名木川の水運―
- 事例2 東海地方を舞台にした地域学習
- 事例3 近畿地方を舞台にした地域学習 野外調査活動を通して,身近な地域の歴史を調べる
- ―平野郷環濠集落を調べる―
- 事例4 九州地方を舞台にした地域学習
- 2 文化学習をどう展開するか―指導計画と教材開発―
- 事例1 「古代までの日本」で行う文化学習
- 事例2 「中世の日本」で行う文化学習
- ―『洛中洛外図屏風』を活用して,中世の山口の町を想像する―
- 事例3 「近世の日本」で行う文化学習
- 事例4 「近代の日本と世界」で行う文化学習
- 事例5 「現代の日本と世界」で行う文化学習
- 3 各時代のまとめ学習をどう展開するか―指導計画と教材開発―
- 事例1 「古代までの日本」のまとめ学習
- 事例2 「中世の日本」のまとめ学習
- 事例3 「近世の日本」のまとめ学習
- 事例4 「近代の日本と世界」のまとめ学習
- ―近代は,日本と世界をどのように変えたか―
- 事例5 「現代の日本と世界」のまとめ学習
- 事例6 歴史の大きな流れを大観する学習 都道府県を歴史的観点から調べる学習の試み
- ―地図から歴史を読み解き,「郷土史レポート」をつくる―
まえがき
いよいよ来年度から中学校で新学習指導要領が本格実施となる。社会科についても年間指導計画の作成や,新しい教科書を使った授業を具体的にどのように展開するか,その際,各教科で充実が求められている言語活動をどのように工夫するかなど,様々な検討が行われているのではないだろうか。
こうした検討の際に留意しなければならないことがある。それは,学習指導要領が社会のグローバル化に伴って,学力のグローバル化が進んできた中で改訂されたことである。OECDでは知識基盤型社会に生きる子どもたちに必要なものとしてキー・コンピテンシーという新しい能力概念をうちだした。これは「異質な集団で交流する」「自律的に活動する」「相互作用的に道具を用いる」の3つのカテゴリーで構成されたものだ。ちなみに,「異質な集団で交流する」は異なる考え方の人たちと共同して仕事をする能力,「自律的に活動する」は歴史的な展望の中で目的を達成するための計画を立てそれを遂行する能力,「相互作用的に道具を用いる」は言語あるいは知識や技術という道具を用いて問題に対応する能力を示している。そして,これを国際標準の学力として各国の教育政策や教育実践の国際比較が行われている。例えば,日本の子どもたちの順位が下がって問題視されたPISAの読解力(リーディング・リテラシー)テストは先のカテゴリーの一つ「相互作用的に道具を用いる」能力の調査である。我が国では,平成10年版学習指導要領の理念となった「生きる力」を,このキー・コンピテンシーの考え方で再解釈し,平成20年版学習指導要領の基盤を構築しているのである。
こうした教育の動向を見るにつけ,もう数十年前になるが,私が高校生だったころ将棋好きの級友から教わった「着眼大局着手小局」という言葉を思い出す。孔子の弟子の荀子の言葉だそうだが,大きな視点あるいは戦略から物事を見た上で,小さな一歩(一手)を踏み出すことだと言って将棋の手ほどきを受けた。あまり上達はしなかったのだが……。
さて,この言葉に従って社会科授業について考えてみるとどうなるだろうか。それは,次のようになるだろう。着眼大局は「キー・コンピテンシーで再解釈された生きる力」と「知識・技能を活用する思考力・判断力・表現力の育成」となる。そして,着眼小局は「言語活動」である。我々はとかく目先の問題を解決することに一所懸命になってしまい,それはもっと大きな目的のためにやっているということを忘れがちになる。社会科で想定される言語活動は「資料の読み取り」「解釈」「説明」「論述」だが,そうした学習活動を行うことの意味,つまり,それは手段であって,目的である「キー・コンピテンシーで再構成された生きる力」と「知識・技能を活用する思考力・判断力・表現力の育成」を実現できるものになっているかを常に意識しておかなければならないということである。換言すると,教科書の見開き2ページを教える中で,「資料の読み取り」「解釈」「説明」「論述」などの活動を形式的に取り入れるだけの授業づくりであってはならないのである。
以上のような課題意識のもと,中学校新社会科の実践課題に応える授業をどのように構成するか,そのデザインを設計するために役立つことを目指して本書を作成している。前半部(第T章及び第U章)では国際標準学力から説き起こし,社会科で育てる学力を明確にした上で,分野ごとに実践課題を考察している。その上で課題に対する対応方法を検討している。これが理論編に当たる。そして,後半部(第V章)では指導計画と教材を提示することで具体的な授業の姿をイメージしてもらえるようにしている。これが実践編に当たる。その際,後半部の冒頭において,その後に提示される指導計画を読み解くポイントを解説しているところが本書の新機軸となっている。多くの先生方に役立つことができれば幸いである。
平成23年9月 編者 /大杉 昭英
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- 明治図書
- 実践の参考となります。大杉先生の本は分かりやすいと思います。2020/6/2830代・中学校教員