シリーズ解放教育の争点4解放の学力とエンパワーメント

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「解放の学力」論の争点を解明して21世紀に生きる子どもたちの学力形成の問題点を衝き、学力観の転換とこれからの教育内容の創造を提起する。


復刊時予価: 3,069円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-015710-1
ジャンル:
人権教育
刊行:
対象:
その他
仕様:
A5判 232頁
状態:
絶版
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復刊次第

目次

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刊行の趣旨
T 学力論の争点と展開
/池田 寛
1 「解放の学力」論再考
2 エンパワーメントの教育学
3 変革のための学習論に向けて
4 解放教育の今後の課題
U 子どもの現実と学力形成の課題
一 学校を変える /斎藤 史恵
1 何が問題なのか
2 学校を変えよう
3 「効果のある学校」から「意味のある学校」へ
二 学校が「学び」の場であるための深究 /脇田 学
1 <近代>がめざした学びのスタイル
2 <ポストモダン>の学校づくり
3 ディコンストラクション(脱構築)
三 高校教育の復権のために /畠山 眞倍
1 試験制度と高校
2 現在の高校の実態と大阪における高校改革の課題意識
3 これからの高校像をめざして
四 今、保育所は何に取り組むべきか /神原 文子
1 はじめに
2 子育てにおける保育所の役割・再考
3 解放教育・解放保育のねらい・再考
4 解放教育・解放保育が期待する人間像は?
5 むすびにかえて
V 学力観の転換を求めて
一 生活・学習理解度調査から /米川 英樹
1 進路希望を規定する学習理解度
2 同和地区児童・生徒と地区外児童・生徒の学習理解度の差異
3 地区児童・生徒と地区外児童・生徒の生活実態・意識の差異
4 自己概念と学力
5 学習理解度の規定要因
6 進路希望の規定要因
二 教育内容の創造 /島 善信
1 同和教育と学力保障
2 「促進学習」が提起したもの
3 教育改革の必要性、子どもと学校の現在
4 新しい学力観をめざして
5 新しい質の授業を求める授業改革の課題
三 情報化と授業 /山内 祐平
1 はじめに
2 授業でのコンピュータ利用
3 校務での利用
4 導入・運用
5 問題の解決に向けて
6 ネットワーク時代の到来
7 ネットワーク技術による社会の再編成
8 学校の相対化・脱学校の可能性
9 学びの共同体へ向けて
四 教室学習における個と集団 /森田 英嗣
1 水平的話し合い活動と学習のメカニズム
2 足場としての水平的話し合い活動
五 演劇における解放教育 /西園寺 章雄
1 はじめに
2 出会い
3 誰のための発表会?
4 自己解放と開放
5 ダメ出し
6 心の通い合い
7 さいごに
六 在日韓国・朝鮮人教育における「アイデンティテイ」と「学力」 /金 泰泳
1 序−在日韓国・朝鮮人生徒の学力状況を示す資料から
2 集住地域におけるカースト・バリア
3 在日韓国・朝鮮人におけるパッシング
4 在日韓国・朝鮮人数育における学力の位置づけ
5 在日韓国・朝鮮人生徒と「学力」
6 むすび
七 「学力」雑感
〜識字教室のなかで考えたこと〜 /岩槻 知也
1 はじめに
2 識字教室につどう人々
3 学習者が身につけるもの
4 「学力」を考えるヒント
W 変わる「解放の学力」観
/平沢 安政
1 いま求められる力とは何か
2 変化の方向性
3 変化する部落の実態
4 選択する力を育てる
5 アイデンティティの多重性
6 「新学力観」をバネに
7 新しい人権の学力観
8 居場所となる世界を広げる
9 差別の現実とは何か
10 これからの課題

刊行の趣旨

 解放教育運動はいま、二一世紀を目前にして自己の存在を問われている。グローバルな規模で展開する教育改革に直面して、解放教育自らのアイデンティティは何かを問われ続けているといってよい。

 もとより教育は、社会の動向を敏感に受け入れる。冷戦が崩壊し、巨大な社会主義の一角・ソビエト連邦も姿を消した。パックス・アメリカーナの瓦解を受けて、経済大国日本が頭角を現わし、国際社会での「自己主張」を強めている。日本経済の最大の足場はすでにアジアヘと移され、いまや、アジアからの貿易は他の地域からのそれを上回るに至っている。その一方で国内に目を移せば、バブル経済は終焉し、政治的には五五年体制の崩壊に遭遇している。この激動がまた短期間で進行する。

 経済大国日本を維持するべく、臨教審や第一四期中教審が国際化・情報化・個性化などを打ち出してきた。労働時間の短縮と週休二日制への要請が、学校五日制政策となって「外圧的」状況を見せながら教育全般をゆさぶる。国内外で進展するグローバル化によって、単一民族論に固執し、且つそれを誇っていた政府が突き崩されようとしている。ことに、アジアの子どもたちが日本の教育に迫る状況は日毎に強まっている。すでに文部省では、直面している課題に対処するべく第一五期中教審を組織し、論議を重ねている。

 国連からは「人権教育のための国連一〇年・一九九五〜二〇〇四年」が提起された。国連が提唱する人権教育とはいったい何なのか。ひとことで言って、世界人権宣言や国際人権規約をはじめ、これまでに創られた国際的人権基準がすべての人の暮らしに生きるように「人権の文化」を世界中に築こうとするものである。子どもの権利条約ひとつだけをとってみても、学校教育は根本から見直さなければならないだろう。

 「一〇年」の土台には、国連の文化・教育の専門機関であるユネスコが築いてきた教育の体系がある。それは、世界各地の人権教育の潮流を吸収し、目的論と方法論を確立している。この国連の人権教育と日本の解放教育とはどう関係するのか。どう結びあわせるのか。また「一〇年」を実現させた世界の草の根人権教育運動と解放教育運動はいかに結びあうのか。「国民国家」幻想に縛られて教育を捉える時代はすでに終わったのである。

 解放教育運動が、こうした国内外の動きに無関心だったのでは決してない。歴史の節目節目に、地域ごと、あるいは学校ごとに教育改革を位置づけ、その具体化に努力してきた。被差別状況におかれた子ども・青年たちの自立など、多くの成果をあげてきた。しかしいまは、成果を列挙するよりも、負の部分を見つめないわけにはいかない。学力の状況はどうなのか。「解放の学力」という視点に立って、満足すべき状況にあるとはとうてい言えないのではないか。地域と学校は形式的な連携状況と言っては言いすぎなのか。子ども・青年たちの動きはどうなのか。彼らにはグローバルな視点に立って自らの社会的立場を自覚することが求められているのだが、そんな視点をどれほどもてているのか。生涯教育という視点に立てば、おとなたちの学習運動や文化活動のありかたも当然問われる。人間解放をめざす生涯教育運動がどれほど展開されているのだろう。

 結論的に言って、新しい次元に立って、解放教育運動を今こそ発展させる必要がある。国内的な動向にせよ、国際社会の変貌にせよ、それを見定める力量を改めて培うことが急務である。

 この時点でいったい何が必要なのか。それは、自己の総括運動である。自己の築いてきたもの、自己に投げかけられているもの、それら全てにわたる総括である。このシリーズでは、その総括を大胆に行おうとする。ただし、総括運動ではあっても、統一見解ではまったくない。これまでの成果だけでなく、課題や争点を明確化し、明日への指針運動を提案することである。そのためにも、解放教育運動の外からの問題提起を大切にしようと考えている。必要とされているのは、対話を通して問題の所在を探ることであり、自己を通して未来を模索することである。このシリーズを『解放教育の争点』と名づけたのもそのためである。

 「国連人権教育の一〇年」の幕は、すでに切って落とされた。国際社会からの呼びかけは、すでにわれわれのもとに届いている。われわれからも国際社会に向け、おおいに発信していこうではないか。国際社会に向けて発信するために、われわれの築いてきたすべての財産を再確認すること。このシリーズのいまひとつの目的は、ここにある。

 国際的な人権教育運動と解放教育運動とはきわめて近い関係にある。幸いにして解放教育運動は、国際社会の動向を踏み外さずに自己を設定してきている。国際社会とのネットワークを通じて新たな次元に立つこと。そのための総括運動にぜひご参加いただきたいと願っている。


  一九九六年九月

   編集 (財)解放教育研究所

   各巻編集責任 /長尾 彰夫 /池田 寛 /森  実

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