総合的学習の開拓27総合的学習で育てる知識・能力・態度教育心理学による解明

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総合的学習を育てる心理学理論を駆使し、知識・能力・態度の問題を分析。小・中・高・中高一貫教育の事例とその分析、検討を通して学力低下のない総合的学習の方法を解明した。


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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-014722-X
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 228頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
第1章「総合的な学習」で伸ばす知識,能力,態度と羅生門的接近
1 はじめに
2 「総合的な学習」と羅生門的接近
1 学習指導要領における「総合的な学習の時間」の取り扱い
2 羅生門的接近と潜在的カリキュラム
第2章 「総合的な学習」を育てる心理学理論
1 レヴィン
1 Tグループ
2 構成的グループ・エンカウンター
2 デューイ
1 問題解決のプロセス
2 プロジェクト法
3 学習のタイプと階層性
3 ピアジェ
1 知識とは
2 ピアジェ理論の特徴
3 ピアジェの教育観
4 コールバーグ
1 道徳性の発達を促す教育法とその理論的背景
2 道徳性の発達と役割取得能力
3 モラルジレンマに基づく環境教育の試み
4 「国際理解と親善」とモラルジレンマ授業
5 様々なテーマでのモラルジレンマ授業の活用例
6 役割取得能力と愛と思いやりの教育
5 ヒューマニティック・エデュケーション
1 ロジャース理論
2 マズロー理論
3 伊東博の「人間中心の教育」
第3章 ピアジェ,コールバーグにおける均衡化理論
1 ピアジェと学校教育
2 コールバーグ理論に基づくモラルジレンマ授業
1 モラルジレンマ授業の条件
2 授業の簡単な紹介
3 内発的動機づけと認知的不均衡
1 内発的動機づけとは
2 内発的動機づけの方法
第4章 体験学習と感性教育
1 ヒューマニスティックな教育的関わり
2 体験学習における感性と情操
3 ウエルネス・トレーニングにおける体験学習
1 感性と情操を磨き,高める
2 体験学習における学習者と教育者
3 ウエルネス・トレーニングの効果
4 ウエルネス・トレーニングで用いられる課題
1 自己発見・トレーニング
2 人間関係・トレーニング
3 ネイティブ・トレーニング
4 生活習慣,ストレス・マネジメント・トレーニング
第5章 コミュニケーション能力,ソーシャルスキルを高める
―アサーショントレーニング,ストレスマネジメントを手がかりに―
1 アサーショントレーニング
2 ストレスマネジメント
1 心の授業としてのストレスマネジメント教育
2 学校生活充実検査
第6章 中高一貫教育に基づく「フォレストピア学習」
―五ケ瀬中等教育学校での実践とその教育心理学的分析―
T 五ケ瀬中等教育学校における「フォレストピア学習」
1 はじめに
2 教育内容の特色
3 寮教育の特色
4 フォレストピア学習
1 フォレストピア学習の目標
2 前期課程の実施概要
3 後期課程の実施概要
U 研究1 フォレストピア学習に対する教師と生徒による評価
1 フォレストピア学習における評価とその時期
2 フォレストピア学習に対する担当教師の評価を手がかりとした教育効果と課題
1 前期課程について
2 後期課程(4年)について
3 後期課程(5年)について
3 体験学習の事例に基づく評価:地域基礎U「林業」の場合
4 生徒から見た課題研究の評価(課題の探究から発表会に至る生徒の内省報告を分析)
5 教育効果と課題
V 研究2 「フォレストピア学習」を受けた生徒の意識
1 方  法
2 結果と考察
1 量的な側面の分析
2 質的(内容的)な側面の分析
3 総合的考察
W 研究3 「総合的な学習」の先行経験がプラン構想に及ぼす効果
1 問題と目的
2 方  法
3 結果と考察
1 プラン構想の量的比較―構成要素の数
2 プラン構想の質的比較
4 考  察
X 研究4 縦断的分析を通した6年間の総合的な学習経験の教育効果
1 方  法
1 5年次面接
2 6年次面接
2 結果と考察
1 5年時面接
2 6年時面接
3 総合的な考察

まえがき

 2002年から一斉に始まる「総合的な学習」は,すでに先導的な形で各地の学校で実施されている。小学校から高校にかけてのほぼ全ての教科内容が3割程度削られる中で,新たに設けられる総合的な学習の時間は,子どもの学力をも含めた今後の日本の教育を考える上で,極めて重要である。もし,この時間において,中教審が提唱する「生きる力」の育成に失敗した場合には,課題意識や自己学習能力が十分でなく,さらに各教科の基礎的学力の低い生徒が大挙して大学に入学してくることになる。

 「総合的な学習」は体験や経験をその基礎に置いている。「体験学習」,「経験学習」という呼称を耳にすると,戦後の教育改革の中で脚光を浴びたデューイの経験主義教育が,学力低下を招き,這い回る経験主義として批判された過去がよみがえってくる。そうならないためにも,「総合的な学習」を子どもにとって価値のある,意味のある経験にしていかなければならない。

 このような状況の中で,教育心理学は総合的な学習とどのように関わればよいのであろうか。このような問題背景を持って,編者の荒木紀幸が日本教育心理学会第99回大会の準備委員会の企画として,「総合的な学習で伸ばす知識,能力,態度は何か?―総合的な学習と心理学の接点を探る―」と題したシンポジウムを行った。このシンポジウムでは,開学当初から合科総合学習に取り組んでいる兵庫教育大学附属小学校の実践と,中高一貫教育のもとで「フォレストピア学習」を行っている五ヶ瀬中等教育学校の先導的な試みを話題提供した。これらを参考とし,また各地で試みられつつある総合的な学習を手がかりに,教育心理学がどのようにこれらに関わればよいかについて,三人の教育心理学者を交えて討論した。

 本書ではこのシンポジウムで得た知見を参考に,またパネリストのお一人,古城和子九州女子大学教授から紹介されたKolb,D.A著,"Experimential Learning-Experience as the source of learning and development"(1984)を手がかりに,「総合的な学習」に介在する心理学的なメカニズムや機制を明らかにし,どう実践すれば「生きる力」という学力保証が可能か,児童・生徒に意味のある体験学習や経験をもたらすことができるかを,教育心理学から知恵を出そうとして本書の出版を企画した。古城教授からは企画の段階で貴重なアイディアをいただき,重ねてお礼申し上げる。

 なお本書の執筆に際して,私の教育実践・研究の拠り所であるピアジェとコールバーグの認知発達段階論や,モラルジレンマ授業実践が大いに役に立った。「総合的な学習」の理論的な解説や実践のために,ピアジェとコールバーグの均衡化理論,役割取得,モラルディスカッション,自尊感情などの考えを随所に取り入れた。

 「総合的な学習」では,学校の中にとどまって探究活動をするというよりは,むしろ積極的に地域社会に出向いて体験学習をし,他者との対人交渉を通して資料を収集し,あるいはその中から課題を見つけ,地域社会の中で調査研究をすることが主流となる。そこではコミュニケーション能力や対人交渉能力,社会的スキルといったことがらが児童生徒に求められる。そこで,アサーショントレーニングやストレスマネジメントの心理学的な基礎理論を提供したいと考え,第5章を執筆した。なお自然体験は感性教育の基礎でもある。そこでこの心理学的機序について,専門家の立場から私の長年の研究仲間である神戸親和女子大学教授,倉戸ツギオ氏に第4章をご担当願った。

 またこれに先立ち,文部省の述べる問題解決学習や体験学習を心理学的に分析し,その理論をデューイやピアジェに求め,関係する諸理論,例えば,レヴィン,ロジャース等を紹介し,子どもたちに意味ある経験や活動を積極的にとらせ,また望まれる方向で教育実践が行えるように,さらには学力保証を可能とするための心理学的な基礎を提供したいと考え,第1章〜第3章にわたって私が執筆した。最終の第6章の「フォレストピア学習」の心理学的な分析は田村浩司氏と共同で執筆した。田村氏は五ヶ瀬中等教育学校の開設以来,教務部に属し,カリキュラムを編成し,授業計画を立て,教育実践すると共に,寮のハウスマスターとしても生徒と3年間寝食を一緒にした経験を持っている。氏は兵庫教育大学大学院修士課程の院生として教育方法講座の私の研究室に所属し,五ヶ瀬中等教育学校での実践をまとめられたが,これを本書のために新たに分析・検討し,「総合的な学習」モデルの一つとして共同で書き改めたものである。

 なおこの「フォレストピア学習」についての資料収集,面接や調査にあたって,隈元正行校長先生,川上浩先生をはじめ教職員の先生方に大変,お骨折りいただいた。お礼申し上げる。また昨年11月に共同研究者として現地にご同行いただき,教育方法学の側面からアドバイスをいただいた兵庫教育大学助教授金丸晃二先生にお礼申し上げる。

 これから本格的に実践される総合的な学習については,明らかにすべき多くの側面があり,今後の教育実践を待たなければならないことも多い。心理学的な理論の検討も始まったばかりで,今後修正,訂正されなければならないこともあろう。叱正やご批判をいただくことで,よりよいものに変えていきたい所存である。読者からご意見を賜れば幸いである。


 お礼が最後になりましたが,この企画を快く受け入れて,出版の道筋をつけていただいた明治図書企画開発室の江部満さんに心より感謝し,お礼申し上げます。有り難うございました。


  2000年9月24日

  高橋尚子さんが,シドニーオリンピック女子マラソンで,2時間23分14秒の記録で日本人初の金メダルをとった記念すべき日に

   兵庫教育大学教授・学校教育学部附属中学校長 教育方法講座 /荒木 紀幸

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