- まえがき
- T 政権交代下の教育改革をどうとらえるか
- 1 政権交代の実像と虚像
- (1) ドラマチックだった政権交代
- (2) 欠落していた教育改革論議
- (3) 政権交代と教育改革
- 2 戦後教育改革の歴史的特徴
- (1) 教育における五五年体制下の教育改革
- (2) 五五年体制の終焉と第三の教育改革
- (3) 二一世紀への教育改革と教育基本法改正
- 3 政権交代下の教育改革の焦点
- (1) 教育改革を担うのは誰か
- (2) 教育改革の礎としての教師
- (3) いま教師にできること、すべきこと
- U 新たな教師論と教員養成大学の可能性
- 1 新たな教師論の構築に向けて
- (1) 現代教育改革の動態分析
- (2) 教育改革のポリティックス分析
- (3) 教育改革における教師論の位相
- (4) 新たな教師論への視点
- 2 教師の資質能力をどう高めるか
- 3 新しい「教師力」向上システムを考える
- 4 学習指導要領改正と道徳教育
- 5 教育基本法改正のあとさき
- 6 「日教組」にとっての課題とは
- 7 免許更新制と教員養成大学再生の可能性
- 8 教員養成大学のこれまでとこれから
- (1) 教員養成大学の課題
- (2) 教員養成政策の今日的特徴
- (3) 専門性追求の方法論的課題
- (4) さてどうする教員養成大学
- V 免許更新制と教職の専門性
- 1 教員免許更新制の始まり
- 2 更新制導入のルーツをさぐる
- 3 「導入答申」をめぐるポリティックス分析
- 4 導入から実施への道程とプロセス
- 5 実施される更新制を「裏読み」する
- 6 講習内容の実際はどうなっているか
- 7 更新講習、誰が、いつ、どのように受けるのか
- 8 更新講習のモデルカリキュラム
- 9 教員の資質向上とどうつなぐ
- 10 教員養成大学のカリキュラムとの関係
- 11 教職の専門性をどう追求するか
- 12 最後の課題は教師が握る
- あとがき
- 初出一覧
まえがき
二〇〇九年の夏の衆議院総選挙において、ドラスティックな政権交代が実現することになった。こうした総選挙の結果による本格的な政権交代を実は私たちは経験したことがなかった。政権交代という言葉は飛び交ったが、それが実際のところどういった変化をもたらすことになるのかすら、正確には予想しえていなかったのかも知れない。
日常生活に直結する多くの分野で、矢継ぎ早の「改革」が始まりつつあるが、教育においてもそれは例外ではないだろう。始まったばかりの教員免許の更新制は、廃止されるとの観測がもっぱらだし、六年制教員養成の具体化といったことも早晩俎上に載せられてくるとのことである。大きな教育改革の波が押し寄せてくることは間違いないが、それをいかに受け止め、対処していくべきか。とりわけ、教育の現場に直接身を置いている教師にとって、これから始まるであろう教育改革といかにかかわっていくのか、その重大さはいうまでもないものとなっていよう。『政権交代下の教育改革――いま教師に何ができるか』といったいささか派手なタイトルを冠した本書を緊急に刊行したいと考えたのは、こうしたところによる。
しかし、このタイトルに直結しているのは、新たな書き下しとなった第T部であり、他はここ一、二年の間に書き溜めたものである。再録された原稿のいずれの執筆においても、教育改革の現状と動向は常に私の念頭にあったし、教師の立場、位置や役割がどうあるべきかは絶えず自問してきたところでもある。その意味では第T部が総論的であるのに対し、それ以外は各論的内容といった合わせ鏡的なものともなっていよう。第V部は教員免許更新制についての分析、検討となっているが、免許更新制を今後どうするのかが、改めて問い直されつつあるなかで、これもまた再度注目される課題となってきている。モザイク模様とはいえ、全体として私の意図するところが何かは、これらによって十分に理解していただけるものとなっているはずである。
ところで、今から四半世紀以上も昔、私は『いま教師に何ができるか』というタイトルの編著を刊行している(扇谷尚・長尾彰夫編著、第一法規、一九八二年)。これはいわゆる背表紙に私の名を載せて刊行された初めての著書であった。それ以来、「いま教師に何ができるか」という問いかけは、私の心臓部に突き刺っているような重い問いかけとなり続けてきたのである。もし私に、かすかにでも誇れるものがあるとすれば、そして、からくも私を支え続けてくれたものがあったとすれば、それは「いま教師に何ができるか」という問いかけを胸に抱き続けてきたことではないだろうか。
もっと精微な検討を、さらに熟慮を重ねた考察を、と思いつつも、本書の刊行に踏み切ったのは、「いま教師に何ができるか」という問いかけを自ら引き受け、担っていこうとする教師にとって、教育改革の大きな波が押し寄せようとしているいま、本書がいささかなりとも役に立てば、と思ったからである。意のあるところを御理解いただければ、幸いとするところである。
尚、こうした本書刊行の意図を理解し、快く刊行を引き受けていただいた明治図書江部満編集長には、記して感謝を申し上げておきたい
二〇〇九年一〇月 /長尾 彰夫
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- 明治図書