- まえがき
- 第T部 本校における総合的な学習
- 第1章 本校の総合的な学習の考え方
- 1 「生きる力」と「目指す生徒像」
- 2 基本的な学習活動過程
- 3 学習を進めるうえで重視する基本的な視点
- 4 「生き方総合」
- 第2章 「生き方総合」ガイドブック<生徒用>
- 1 作成上の基本的な考え方と概要
- 2 「学び方」や「課題設定」にかかわるガイドブックの実際
- 第3章 実践例
- 生き方総合T「環境・健康」
- 1 学習活動過程
- 2 学習活動の実際 実践例-1/実践例-2/実践例-3
- 3 成果と課題
- 生き方総合U「環境・健康」「福祉」「国際理解」
- 1 学習活動過程
- 2 学習活動の実際 実践例-1/実践例-2/実践例-3
- 3 成果と課題
- 生き方総合V―卒業研究―「環境・健康」「福祉」「国際理解」
- 1 学習活動過程
- 2 学習活動の実際 実践例-1/実践例-2/実践例-3
- 3 成果と課題
- 第U部 総合的な学習を支える教科の基礎・基本
- 第1章 総合的な学習と教科等との関係
- 1 今なぜ総合的な学習と教科等との関係を考えるのか
- 2 総合的な学習と教科等との位置付け
- 3 総合的な学習を支える教科等の役割
- 4 新しい教育課程の全体構想
- 5 「生きる力」を育てるための題材構成
- 6 「生きる力」を育むための学習過程
- 第2章 各教科の基礎・基本
- 国語科の基礎・基本
- 1 国語科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える国語科の言語技術とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 社会科の基礎・基本
- 1 社会科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える社会科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 数学科の基礎・基本
- 1 数学科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える数学科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 理科の基礎・基本
- 1 理科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える理科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 音楽科の基礎・基本
- 1 音楽科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える音楽科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 美術科の基礎・基本
- 1 美術科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える美術科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 保健体育科の基礎・基本
- 1 保健体育科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える保健体育科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 技術・家庭科の基礎・基本
- 1 技術・家庭科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える技術・家庭科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 英語科の基礎・基本
- 1 英語科と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える英語科の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う指導の工夫
- 選択学習の基礎・基本
- 1 選択学習と総合的な学習とのかかわり
- 2 総合的な学習を支える選択学習の基礎・基本とは
- 3 基礎・基本を養う選択学習の構想
- 第3章 総合的な学習を支える教科外の支援
- 学校経営
- 1 総合的な学習を取り入れた「教育課程」をつくる
- 2 「指導体制・指導組織」をつくる
- 3 「時間の確保と運用」の基本的な考え方をつくる
- 4 「学習環境」を整備する
- 5 「安全確保」を徹底する
- 道徳
- 1 総合的な学習を支える道徳の内容
- 2 総合的な学習を支える道徳の支援
- 特別活動
- 1 総合的な学習を支える学級活動の内容
- 2 総合的な学習を支える学級活動の支援
- 生徒会活動
- 1 総合的な学習を支える生徒会活動の内容
- 2 総合的な学習を支える生徒会活動の実際
- 学校行事
- 1 総合的な学習を支える学校行事の内容
- 2 総合的な学習を支える学校行事の支援
- 学校保健
- 1 総合的な学習を支える学校保健の内容
- 2 総合的な学習を支える学校保健の支援
- 情報教育
- 1 総合的な学習を支える情報教育の内容
- 2 総合的な学習を支える情報教育の支援
- 学部・PTA・地域社会
- 1 総合的な学習と学部・PTA・地域社会の連携
- 2 学部による協力体制づくり
- 3 保護者・地域社会による協力体制づくり
- 4 協力体制づくりの手順
- 第V部 これからの総合的な学習の可能性
- 1 総合的な学習の現状
- 2 総合的な学習により学力は低下するのか
- 3 総合的な学習の課題
- 4 これからの総合的な学習への提言
- あとがき
- 索引
- 研究同人
まえがき
1 「総合的な学習」の学習と学力
「総合的な学習」では,子どもたちに,どんな活動をさせ,どんな力を身につけさせるべきか。私たちは,今,そのことを真剣に考えている。
課題解決学習にしろ,体験的学習にしろ,ただ活動させればよいとしたのでは,昭和20年代の,あの「はいまわる経験主義」の時代の教育に戻ってしまう。後世,活動あって指導なしとか,遊ぶばかりで力がつかないとか評された教育にあって,子どもたちの学習活動振りは,一見,まことに派手やかなものであった。
その当時,小学生であった私は,筆箱とノートと下敷きとを抱えて,毎日,街中を走り回っていたことを覚えている。今日は八百屋のおじさんの話を聞き,また今日は駅員さんに質問するというように,インタビューに,調査に,アンケート集めにと,駆けずり回っていたのである。そして,学校に帰っては,壁新聞にまとめるのであった。
それらの活動は,小学生の私にとって,確かに楽しいものであったが,どんな力がついたかといわれると,どうも心許ない。九九の掛け算は遅いし,漢字は知らないし,基本的な児童書は読んでないし,歴史の年号は高校に入ってから覚えるのにえらく苦労した。
これからの「総合的な学習」が,昭和20年代の歴史の過ちを繰り返すものであってはいけない。
子どもたちに,「総合的な学習」の活動をとおして,「力をつける」ことを考えてやるべきである。どんな力か。それこそ,まさに,彼らの生涯に「生きてはたらく力」を,である。「総合的な学習」の時間は,生きてはたらく力を育てるのに適している。生きてはたらく力を育てるための時間であるといってもよい。
2 「教科の学習」でつける学力と「総合的な学習」でつける学力
私は,大学では,国語科教育学を担当している。そこで,国語科の授業と「総合的な学習」の授業とを対比させて,両者の関係について考えてみたい。
例えば,インタビューの学習活動は,国語科の授業でも「総合的な学習」の授業でも,どちらでも行われる。しかし,学習活動の性格や,学習指導の在り方は基本的に異なる。即ち,国語科の授業では,インタビューの基礎・基本的な能力が養われ,「総合的な学習」の授業では,その応用的な能力が養われるのである。
それぞれ,もう少し具体的に考えてみる。
国語科の授業では,インタビューの仕方という言語技能の習得が自己目的化する。国語科では,時に,インタビューで得られた内容的成果より,インタビュー技術の習得の方が大きな問題になったり,それだけが問題になったりする。「インタビューで」学ぶというより,「インタビューを」学ぶのである。インタビューの仕方そのものを学ぶのである。
国語科の授業では,したがって,学習が練習的なものになる。例えば,タレントにアナウンサーがインタビューするという虚構の場面をしつらえて,子どもたちにロール・プレイング式の練習学習をさせることもある。そしてその際には,インタビューの途中で中断させても,ある部分の会話の運び方をほめたり,修正したり,繰り返させたりすることがある。方法を学ばせることが目的であるからだ。
しかし,「総合的な学習」の場では,インタビューの学習が自己目的化することは決してない。そこでは,インタビューをとおして内容的な何かを得ることが常に求められる。教師がインタビューを中断して指導することも,よほどのことがない限り,あり得ない。「総合的な学習」では,インタビューは実の場の活動となるのだ。
だからこそ,国語科において,インタビューの仕方の基礎・基本が,しっかり指導され,きちんと身につけられていなければならない。このことは,国語科以外の教科と「総合的な学習」との関係においても同じである。各教科の知識や技能の基礎・基本が指導され,「総合的な学習」で応用・展開される。基礎・基本と応用・展開との関係において,両者は密接にリンクされるべきなのだ。
今,基礎・基本と応用・展開との関係を引き合いに出したが,この関係にあるのは,各教科と「総合的な学習」との知識や技能だけのことではない。大きく「学び方」そのものが,基礎・基本と応用・展開とにリンクされるのである。
私たちは,これまで,教科等の学習をとおして基本的な学習の仕方を身につけさせようと努力し,工夫もしてきた。そして,その基本的な学習の仕方が「総合的な学習」の場で試され,応用され,生きた力となって身につけられることを検証してきた。各教科等で身につけられる学習の仕方の原則もまた,「総合的な学習」の基礎・基本となって,「総合的な学習」を支えているのである。
「総合的な学習」は,各教科と対立的にあるものではない。「総合的な学習」の意義を認めるからこそ,各教科等で学ぶべき基礎的・基本的な事項の習得を確実にしたいと思うのだ。
私たちは,「総合的な学習」を設定することで,これまで以上に,子どもたちが生涯をとおして学びを続けようとする意欲と能力を育てていってくれることを願っている。幸い,昨年9月21日・22日,それまで2年間続けてきた「総合的な学習」を中心とする本校公開研究会に,全国から800名を超える参加者を得,心強い賛同と支持を得た。そして,研究内容が明治図書の江部満氏の目に留まるところとなり,このように出版の機会を与えていただいた。私たちはいっそう心を引き締め,研究を進めていく所存である。
平成12年3月
群馬大学教育学部附属中学校教育研究会 /高橋 俊三
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- 明治図書