- まえがき
- T 人権総合学習の構想
- 1 砂場の知恵に学ぶ
- 2 人権教育としての総合学習
- 1 「総合的な学習の時間」と総合学習
- 2 「新しい学習指導要領」を人権教育の視点から読む
- 3 人権教育が積み上げてきたこと
- 3 大衆教育社会と総合学習
- 1 揺れる近代の教育シフト
- 2 つながりを求める子どもたち
- 3 問われる評価の軸
- 4 「聴くことの力」
- 4 人権総合学習を創る
- 1 基礎・基本の学力のゆくえ
- 2 総合学習と教科をつなぐ
- 3 子どもと現実をつなぐ
- 4 「聴く」ことと「問う」こと
- 5 中学校での総合学習で大切にしたいこと
- 6 発信!
- U 六つの実践プラン
- プロジェクト1 〈学校づくり・子どもの権利条約・環境教育・情報教育・国際理解〉
- 学校ワンダーランド計画 〜たのしくなければ学校じゃない! 子どものための新しい学校づくりを考える〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- プロジェクト2 〈平和・環境を考える〉
- PIECE de PEACE! 〜平和をプロデュースする〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- プロジェクト3 〈地域学習・福祉教育(障害者、高齢社会)・環境教育・国際理解教育・部落問題〉
- ハンドメイドタウンの冒険! 〜エンピツ持ってまちに出よう〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- プロジェクト4 〈国際理解・地域学習・情報教育〉
- アジアン・ネットワークをつくろう! 〜アジアの楽しみ方〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- プロジェクト5 〈食文化を通じて部落問題を考える〉
- お肉の秘密を探ろう! 〜おいしいお肉はどこからやってくるのだろうか〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- プロジェクト6 〈聴くことと見つめることを問い直す「環境」と「情報」の学習のためのトレーニング〉
- 耳を澄ませば…。 〜風の中の声を聴く〜
- ねらい/ チャート/ 解説/ 参考資料
- あとがき
- 主な参考文献
まえがき
「総合的な学習の時間」がやってきた。これまでの学校教育のカリキュラムが大きく変わろうとしている。私たちはいま、日本の教育システムの中におけるカリキュラムの大激変期に直面しているのである。従来の教科、特別活動、道徳、の三つに分けられた学習領域のシフトが再編され、学校が「総合的な学習の時間」の導入によって変わろうとしている。教科にまたがり、教科をこえて新しいテーマのもとに学習が展開されるこの新たな領域を前に、これを第四の領域として考えるか、あるいは、それまでの三つの領域を統括的・横断的にこれまた総合的につないで考えていくべきものと考えるかは議論が分かれるところではある。しかし、いずれにしても学校教育の今後のあり方そのものを問おうとするきわめて重要な改革であることだけはまちがいない。この「総合的な学習の時間」をどう活用していくのか、そして、子どもたちにとって意味のある具体的事実(教育実践)をこの「時間」によってどのように紡ぎだしていくか、このことがいま私たちに問われているのである。
ある意味では「革命的」ともいえるこのカリキュラムの改革は、これからの学校づくりにとって少なくはないリスクと同時に大きなチャンスを準備している。多様な価値観を認め合うことや自分らしく生きることが求められるこの時代にあって、いま教育においても人間の生き方やその学びに対する新しい哲学が求められているからである。教育実践に向き合う私たち教師の自律性と創造性を発揮すべきときがきたということである。
本書は、二一世紀に学校や地域を徘徊し、覆いつくそうとする「妖怪」とでも呼ぶべきつかみどころのないこの「総合的な学習の時間」を、かつての経験主義・活動主義(はい回る経験主義)に陥ることなく、子どもたちの夢を育て、生きることを学ぶ学習活動として展開させていくために「人権」をキーワードにした総合学習を提案する。多様な価値観が混在しあう現代において、誰もが生き生きと学び、暮らしていくためには、人々が共通に合意し、尊重しあえるような「軸」となるアイデア(思想)が求められる。それは今や「人権」という軸をおいて他には何も考えられないだろう。そういう時代に生きているからこそ、総合学習には「人権」としての質と視点をもった教育内容とその実践が必要となる。こうした観点に立ってすすめていこうとする総合学習を私たちは「人権総合学習」と呼ぶことにしたい。
私たちがめざす人権総合学習は、人権という軸によって展開される総合学習ということになるが、そこには同じ中心で描かれる大小二つのフィールドがある。ひとつは個々の具体的な人権問題(子どもの権利、ジェンダー、被差別部落、在日外国人、障害者、命/暴力、高齢者、等々)に関わる内容をテーマとするような半径を持つ小さな円で、もうひとつは教育さえもその中に包むような半径をもつ人権文化(新しい学校づくり、まちづくり、人間関係づくり、かけがえのない自分らしさの発見、地域ネットワーク、環境、福祉、命、国際理解、情報、平和、等々)という大きな円である。これら二つの大小の円は中心を共有し、中央が重なりあっている。小さな円に示された具体的な人権問題での提起や取り組みが、人権文化を建設していくための発信となる場合もあるし、人権文化に関心を持ち学習をすすめていくことで個々の具体的な人権問題が「見つめるべき問題」として提起され、解決に近づいて動きだしていくこともある。こうした小さな円と大きな円は相互補完的な働きをしている。(図省略)
人権総合学習は、不平等・差別といった具体的な人権に関わる問題を私たちの日常の生活において問い直していく学習であると同時に、現実社会のさまざまな問題を「人権」という視点で見つめ、「生きる」ということの意味を学び直す学習でもある。したがって、単に差別問題に関わるテーマ学習に限らず、私たち自身が持っている学ぶという権利そのものも、夢を語って生きていくための大切な教育権のひとつとして、人権のパースペクティブ(視野)に入れてみることができる。人権総合学習は、総合学習という学習形式をつうじて人間が「よりよく生きる」という視点で、生きること、学ぶことを仲間と共有しあう学習である。だから、子どもたちにとって意味のある学びをめざす総合学習は人権教育としての内実をもってすすめていかなければならない。人権総合学習は人権を基盤にしてすすめられる総合学習であり、子どもたちが仲間と共に学び合い、夢を語ることを人権として保障することをめざす教育である(総合学習/人権教育)。
非民主的な環境の中で民主主義を学ぶことはできない。それと同じように人権総合学習は、人権という視点から「学ぶことの意味を見いだす学習」をめざし、また「意味のある学びを育てる学習」をめざす。豊かな学びはそれ自体が人権教育のめざす目的のひとつとなっているからである。
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- 明治図書