- 序章 心に響く珠玉の言葉を贈ろう
- 1 聞き手の想定をいい意味で裏切るエピソード
- 2 映像化できるほどの具体性
- 3 わかりやすい言葉
- 4 実感を込めた語り
- 第1章 生徒と保護者の心に響く式辞
- 入学式
- (中学校)カーネルサンダースのように,いつでも心に希望を
- (高等学校)「できると信じること」が,自分の可能性を引き出す
- 1学期始業式
- 穴を開けることしかできないけれど
- あきらめないことの大切さ
- PTA総会
- 「機縁」がなければ,どんなにいい言葉も理解されない
- 体育大会
- 全員が「優勝」にふさわしい
- 1学期終業式
- 「当たり前は当たり前ではない」と気づくこと
- 2学期始業式
- 脳をご機嫌にすれば,やる気が出る
- 「1分だけ」と思えば,気軽に始められる
- 合唱コンクール
- 修練と勇気,あとはゴミ
- 学習発表会・文化祭
- 本番前にいろいろな思いが渦巻いたときは
- 2学期終業式
- 失敗を潔く認めることで,人は成長する
- 3学期始業式
- 残念賞をつかみにいく
- 経験を組み合わせ,新しいものをつくる
- 立志式(中学校)
- どんなに無駄に思えることも,必ずいつか役に立つ
- 卒業式
- (中学校)卒業生に贈る2つの言葉
- (高等学校)全力を尽くし,天命を待つ
- 修了式
- 脳は検索エンジン
- 信念することが目標達成の力になる
- 職員送別会
- 「さようなら」は,過去・現在・未来をつなげる言葉
- 職員歓迎会
- 一隅を照らすことができれば,国を照らすこともできる
- 第2章 生徒にやさしく寄り添う講話
- 100m走で「ヨーイ」が必要なように【自主・自律,自由と責任】
- 自分で自分にルールを守らせる【自主・自律,自由と責任】
- 徹底して繰り返すことの効果【節度・節制】
- ご褒美をもらうのはいつがいいか【節度・節制】
- ご褒美は自分で探し出すもの【向上心,個性の伸長】
- 腕を磨いて,時を待つ【向上心,個性の伸長】
- 自分に厳しくすることの効果【希望と勇気,克己と強い意志】
- 周囲の雑音に負けず,正しいと信じることをやり通す【希望と勇気,克己と強い意志】
- 額縁よりも絵を見よ【真理の探究,創造】
- 時には筋道立てずに考えると,発想が豊かになる【真理の探究,創造】
- 相手も大切,自分も大切【思いやり,感謝】
- 思いやりには,いろいろな形がある【思いやり,感謝】
- 思い立ったときが,「ありがとう」を伝えるとき【思いやり,感謝】
- 飾らない思いやりの気持ちが,相手の心を変える【思いやり,感謝】
- 苦言を呈する人に感謝を【礼儀】
- 見えない相手にこそ礼儀を尽くす【礼儀】
- どんな状況でも,相手を先に考える崇高な友情【友情,信頼】
- まわりの人に喜ばれる人になる【友情,信頼】
- 同じものでも,人により捉え方は異なる【相互理解,寛容】
- 悪いことは身から出た錆,いいことはおかげさま【相互理解,寛容】
- 天の蔵に徳を積む【遵法精神,徳心】
- よい習慣は,ずっと続ける努力を【遵法精神,徳心】
- 他者に親切にするために,自分にも親切にする【公正・公平,社会正義】
- 独りなら正しくても【公正・公平,社会正義】
- 失敗しても,やらなかった後悔は残らない【社会参画,公共の精神】
- まずは「イエス」と言う【社会参画,公共の精神】
- もって生まれた役割を果たすのが,働くということ【勤労】
- 職業に貴賤を生むもの【勤労】
- 親の恩は海よりも深く,山よりも高い【家族愛,家庭生活の充実】
- 写真に込められた親子の絆【家族愛,家庭生活の充実】
- 自分にとっては1%でも,相手にとっては100%【よりよい学校生活,集団生活の充実】
- やさしさだけでは,幸せはつかめない【よりよい学校生活,集団生活の充実】
- 文化や伝統を受け継ぐ【郷土の伝統と文化の尊重,郷土を愛する態度】
- 関心をもたないものは,見えてこない【我が国の伝統と文化の尊重,国を愛する態度】
- 外国とのつながりを知ることが,国際理解の第一歩【国際理解,国際貢献】
- 成長にとってのマイナス要因が,時には不可欠になる【生命の尊さ】
- 自分にはまだ3本の指がある【生命の尊さ】
- みてござる【感動,畏敬の念】
- 素直さは強さになる【よりよく生きる喜び】
- 困難を乗り越えようとするとき,人生は輝く【よりよく生きる喜び】
はじめに
私が中学生のころですから,もう50年ほど前の話になります。
当時は毎週月曜日に朝会があり,ほぼ毎回,校長先生が何らかのお話をされていました。それは,ときには日頃の生徒の行動についての話だったり,学校行事に合わせた校長先生の思いだったり,身近な社会問題についてだったりしました。そういういろいろなお話の中で,はっきりと覚えているものがあります。それは次のようなお話です。
ある若者が学問で身を立てようと都会へ出てきた。
しかし,なかなか学問は成就せず,もうあきらめて家に帰ろうとした。
家に帰る途中,小さな渓流を渡ったのだが,そこに1人のお婆さんがいる。こんなところで何をしているのだろうかと思って見ると,お婆さんは鉄の斧を研いでいた。
そこで若者はお婆さんに,
「ここで何をしているのですか?」と問うた。
するとお婆さんは,
「斧を研いで,針をつくっているのです」と答える。
若者はこのお婆さんの言葉に衝撃を受けた。
斧を研いで針をつくるなど,気の遠くなるような話である。しかし,辛抱強く研ぐことを続ければ,いつか針になるだろう。
学問の道もこれと同じだ。少しくらい努力してうまくいかなかったからといって,そこであきらめてはならない。忍耐強く努力を続ければ,いつかきっと成就できるに違いない。
そう考えた若者は,家に帰るのをやめて学問を続け,やがて立派な学者になった。
そうです。この話は「磨斧作針」という故事です。若者は李白だということになっています。
当時は「磨斧作針」という言葉も,その故事も知りませんでした。しかし,斧を研いで針をつくるという話は,私の心に強く残り,いつまでも消えることはありませんでした。
後に私は,二宮尊徳翁の「積小為大」という言葉を知り,イエローハット元社長・鍵山秀三郎先生の「成功のコツは2つある。『コツコツ』」という言葉を知り,イチロー選手の「小さいことを積み重ねることが,とんでもないところへ行くただ1つの道」という言葉を知ります。それらの言葉はその後の私の人生の大きな指針となりました。今改めて思い返すと,その原点は中学生時代に聞いた校長先生の「磨斧作針」の故事にあったようにも思えます。
このように,だれの心にも,いつまでも消えないエピソードがいくつかあるのではないでしょうか。そのエピソードは,何か事あるごとに記憶の底から立ち上がり,その人の決断を後押ししたり,失意から立ち直るきっかけとなったり,つながりのある人たちを励ましたりするでしょう。
だれかの人生に深くかかわっていくような話を,たとえ1つでも届けることができたら,まさに教師冥利に尽きると思います。
校長先生の講話は,そのような特別な話になる可能性に満ちています。校長先生は生徒にとって特別な存在だからです。
在学中はもちろんのこと,卒業してからもずっと生徒の心に残り,生徒を励まし勇気づけるような講話を,校長先生の熱い思いとともに,ぜひ生徒に届けていただきたいと思います。
本書にそのささやかなお手伝いができれば幸せに思います。
2021年12月 /山中 伸之
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- 明治図書