生活指導 2010年1月号
子どもの発達に刻み込まれた貧困と向き合う

L674

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生活指導 2010年1月号子どもの発達に刻み込まれた貧困と向き合う

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2009年12月8日
対象:
小・中
仕様:
A5判 123頁
状態:
絶版
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目次

もくじの詳細表示

特集 子どもの発達に刻み込まれた貧困と向き合う
特集のことば
子どもの発達に刻み込まれた貧困と向き合う
井本 傳枝
実践
小学校/わたしはわたし
三間 シュン
中学校/悠人を仲間の中へ
浅川 いつか
中学校/分かり合い、つながり合い、支え合う仲間に
波田 南海
分析論文
「貧困」のなかを生きる子どもたち―子ども集団づくりはなにを課題とするのか
照本 祥敬
論文
「家族」を介した子どもの貧困
山田 綾
第2特集 子どもの権利が生きる学校づくり〜植田実践から学ぶ〜
実践記録
自治を生み出す子ども参加―制度的自治の中での可能性の追求
植田 一夫
特集に寄せて―植田実践から学ぶもの
《子ども参加》で元気な学校を創る
高尾 和伸
島小のような学校
笠原 昭男
権利としての子ども参加が学校を変える
田代 高章
今月のメッセージ
行動形成に先立つ人格形成の大事さを胸に
小室 友紀子
私の授業づくり (第10回)
小学校(道徳)/「ウソ」について考えよう
佐藤 暢子
中学校(道徳)/「気になるアイツ」にとりくんで
松井 久治
実践の広場
子ども文化の世界
お笑いでつながる
松谷 知子
貧困・格差と子どもたち
高校進学できるかどうかは、親の経済力次第
大木 一彦
学級のイベント
初めての一年生担任体験記
中川 克則
学年・学校行事
学期終わりの「まとめ集会」
一條 まり
部活動・クラブの指導の工夫
わが子のスポーツ少年団と共に
奈良 光一
職員室の対話
対話が苦手な自分だから
横倉 英汰
手をつなぐ―親と教師
「ほめ電」のすすめ
都 真人
私が教師を続けるわけ
サークルがあるから続けられる
市山 美吾
案内板 集会・学習会のお知らせ
教育情報
子どもの貧困と格差問題を考える
藤岡 恭子
〜社会的合意を創り出す必要性〜
読書案内
『子ども学序説―変わる子ども・変わらぬ子ども』
鈴木 和夫
地域生活指導へのアプローチ (第4回)
地域生活指導運動と子ども集団づくり
地多 展英
〜15年間の歩み〜
読者の声
11月号を読んで
指標改定への意見
「指標」改正問題と実践・研究・運動
釋 鋼二
〜「指標」改正に対する私の関心〜
編集後記
井本 傳枝

今月のメッセージ

行動形成に先立つ人格形成の大事さを胸に

常任委員 小室友紀子


◆重度の障害を有する子の担任に

初めて重度の運動機能障害と知的障害を併せもつ子どもたちのクラスの担任となることが決まった時、かなり自信がなく、動揺した。これまで担任してきた子どもたちは、言語障害はあったとしても、視線や指さし、行動など、なんらかの手段で明確に意思を伝えることができる子どもたちだった。とても不安で、始業式間近に、先輩の先生に相談すると、「不安なのはわかるけど、担任してこの子たちと関係がつくれたらすごいことだよね。言葉のない子とも関係がつくれるってことだよ。」と励まされた。私は言葉のない子とも関係がつくれるのか……自信のないまま出会いの日を迎えた。

さきさんは、ゆるやかに退行していくという特徴をもつ障害を有していた。小さい時はつかまって立つこともできたが、今では自分から寝返りをすることも難しい。また、この障害の特徴として、表情がだんだん乏しくなっていくということも聞いたことがあった。クラスには医療的ケアが必要で、体調面で配慮を要する子もおり、日々、とても緊張していた。食事やトイレ、着替えなど生活全般の介助に慣れることで精一杯。授業も思うようにうまくいかず、子どもたちからの応答にも手応えを感じられず、自分の力の無さに泣けてしまう日もあった。

1学期は右往左往して過ぎた。夏休み、藁をもすがる思いで、本を読んだり、先輩の先生に相談したり、学習会等に参加した。「教科を学習している子に対してはじっくり待てるのに、どうして障害が重度の今の子どもたちは待ってあげられないの?」「子どもがわからないまま進む授業って、授業として成立しているのかな?」と問いかけられ、ハッとした。そして「私は子どもの立場に立てているのか」と何度も自問した。意識していなくても「わからないだろう」と決めつけて、授業を、生活をこなす日々を送っていなかっただろうか……と……

◆つながりが引き出す力

2学期からは「その子がどう思っているのか」を大事にして過ごすことを決意した。からだを起こす時、靴を履かせる時、車いすに乗せる時、言葉もかけずに介助していた自分を反省し、「起きるよ」「靴を履くよ」など、子どもを主語にした言葉かけを心がけた。また、子どもたちが感じているであろう気持ちを言葉にして、返していくことにした。トイレでおむつをかえた時、「すっきりして、気持ちいいね。」食べる時、「ご飯がおいしいね。」気持ちを共感すること。それは私がこれまで出会った子どもたちと共にしてきたこととまったく同じだ、ということに気が付いた。

無我夢中で過ごしてきた3学期のある日、言語の個別指導の教室にさきさんを迎えに行った。「さきさん、がんばったかい?」と声をかけて顔をのぞき込んだ。私を認めたさきさんは、それまでの笑顔と違う笑顔、「あ〜、小室が迎えにきたんだ!」というような、明らかに私を認めて、みせてくれた笑顔に、さきさんとのつながりを感じた。その時、何とも言えない感動を覚えた。さきさんは私を他の人とは分けて、分かって笑ってくれるんだ!私が分かって気持ちを結び、それを豊かな表情として表わしてくれたんだ!同時期に、よく声が出るようになった。嫌な気持ちの時には出ていた声だったが、嬉しい、楽しい気持ちの時にもそれを伝えるように声が出てきた。「そう、さきさん、嬉しいの!」といつしか会話するように、さきさんと対している自分がいた。

障害を有する子ども一人ひとりが私に教えてくれる人間というものの素晴らしさ、発達の可能性、教育の希望。「行動形成に先立つものとして人格形成がある」と教え、助けてくれる同僚の先生方や保護者に支えられながら、次への力につながる一日一日を、子どもとともに丁寧にあゆんでいきたい。

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