- 特集 子どもの〈全能感と無力感〉を超える
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- 全生研第51回全国大会案内
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- 中学校〈道徳〉/何でも教材にし、みんなで考えを出し合おう
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- 学年・学校行事
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- 職員室の対話
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- 手をつなぐ―親と教師
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今月のメッセージ
受け止める
指名全国委員 竹田 裕一
「先生、玄関に来て、田中があばれてる……。」
と男子二人が息を切らしながら放課後の教室に走り込んできた。田中君(小六)の姿はない。この数年間、何回もこの女子とはトラブルを起こしている。この事件に最初に駆けつけた女子の担任の先生に聞くと、
「顔を殴って、頭も玄関のガラスにたたきつけたらしい。でも、けがはないし、一応話を聞くと、彼女の側にも問題があるようだったので帰した。」
と言う。きっと軽く自分の悪口でも言われたのだろう。しかし、彼にとっては深い傷つきをもたらす。
「話を聞きたいので、捜してきます。」
と言って、わたしは田中君を捜しに学校を車で飛び出た。進級してから自分で学校に来るようになり、自分なりに新しい気持ちで学校生活を送ろうとしているのがわかるようになった矢先のことだった。きっと、思わずやってしまったという感覚だろうと思った。親に話をして相手の保護者に謝罪してもらうようにしなくてはならない。これまでは母親は謝罪に行っているが、父親は行ったことはない。それでなくても自分から暴力を振るうことなどを繰り返し、ショッピングセンターからは出入り禁止となったりして、地域中に知られている昔からの有名人だ。行き場所は公園やゲームセンターになってしまった。中学生との結びつきも出来ていた。この事件で彼に芽生えつつあるものをつぶしたくない。田中君の父と母との関係から田中君の事を真剣に取り組んでもらえないでいること、父親がもっと動いてくれることで一人で抱え込んでいる母親の気持ちにも少しは手がかりが出来るかもしれないこと……いろいろ考えながら彼がいつもいる所を捜した。どこを捜しても彼はいなかった。予想通りだった。彼はこういう事を起こしたときはいつも走って帰り、歩き回る。父親とまた話すしかないと考え、夜7時を過ぎて家庭訪問に行った。父親が暴力をふるう様子が頭をよぎり、どう話すか何度も何度も言葉を考えた。
「また、何かしたんですか。」
という父親と田中君とわたしで、車の中で今日の出来事を話した。
「そんなことをしたんですか。わたしは朝早いんで知らないことが多くて。先生に迎えに来てもらっているけど、ちゃんと行くように言っているんだけど。」
と伏し目がちにぽつりと言う父親の方を見ながら、田中君は黙っていた。お父さんができるだけ冷静に言葉を選んでいる。
「お父さん、頑張ろうとしている彼の気持ちは僕にはわかるんです。毎日、少しずつ自分で起きて学校に来るようになっています。遅れそうな時には電話をしてきたり、ものを借りたらお礼を言ったり。お父さんが一生懸命働いている姿を見ながら、きっと自分を応援してくれているはずだと思っていると思います。お父さん、お願いがあります。お父さんが殴ったり、怒鳴ったりしても彼の今の気持ちを応援をすることにはならないと思うんです。ですから、理由を聞いて、これからどうするか一緒に考えましょう。お願いします。」
父親は黙ってうなずいた。そして相手に謝罪の電話を初めてしてくれた。それ以後、田中君は、遅れることはあっても登校し、今まで一度も参加しなかった当番活動に参加し、授業で挙手する姿が見られるようになった。
算数の問題を解いてみんなから拍手をもらい、また、友達とのことについて自分から笑顔で話すようになった。
両親にわたしが関わり続けたこと、そして、わたしもクラスの子どもたちも自然に彼を受け止めるようにしてきたことが、彼の何かを変えたのかもしれない。今もそのように受け止めながら、彼を見続けている。
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- 明治図書