生活指導 2009年7月号
子どもの<全能感と無力感>を超える

L668

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生活指導 2009年7月号子どもの<全能感と無力感>を超える

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2009年6月8日
対象:
小・中
仕様:
A5判 123頁
状態:
絶版
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目次

もくじの詳細表示

特集 子どもの〈全能感と無力感〉を超える
《巻頭提言》子どもの〈全能感と無力感〉を超える
今回の特集について
高橋 英児
実践記録
隆信の自立に向けて
高木 安夫
私はこの実践をこう読んだ―実践記録に対するコメント
「100か0かの生き方」を乗り越えさせる
谷尻 治
教師は子どもとどうかかわるか
小室 友紀子
子どもの発達をとらえた段階的な指導
加納 昌美
分析
被虐待児が「100か0か!」の二分法的評価を乗り越えるとき
楠 凡之
学級のドラマを生み出す学級劇をつくる
宮崎 充治
第2特集 貧困と不登校
報告
小学校/聖が学校に来た
河野 茂
小学校/恵子の生きづらさに寄り添って
中尾 正彦
中学校/麻衣と学年・教師の一年
深澤 倫弥
論文
貧しさのなかの不登校―もとめられる〈福祉としての教育〉の視角
照本 祥敬
全生研第51回全国大会案内
今月のメッセージ
受け止める
竹田 裕一
私の授業づくり (第4回)
小学校〈道徳〉/本音を出させて、子どもの言葉で
佐藤 順子
中学校〈道徳〉/何でも教材にし、みんなで考えを出し合おう
橋本 尚典
実践の広場
子ども文化の世界
子どもの文化を知ることは子どもを知る最高の近道
梁瀬 美紀
貧困・格差と子どもたち
経済的貧困は人間のつながりも貧しくさせる
星野 さつき
学級のイベント
子ども郵便〜心をつないだお手紙〜
山ア 歩
学年・学校行事
幼稚園との交流会
竹内 朋子
部活動・クラブの指導の工夫
“顧問不信”の生徒たちの心を開かせた“違いのアピール”
正木 宏明
職員室の対話
“見方”に気づき合う教師の交流を
千々和 ほたか
手をつなぐ―親と教師
生徒と日々楽しい生活をすることが親との信頼関係を築く一番の近道
大山 あけみ
私が教師を続けるわけ
出会いが教師を続けるパワーに
内山 由紀
若い教師のメッセージ
子ども同士のつながりと教職員の理解を課題として
梅崎 静
案内板 集会・学習会のお知らせ
教育情報
非行・問題行動に対する政策動向
住野 好久
風の声―この人に聞く
生活寮で暮らす障害者
白桃 敏司
読書案内
私はいま、どのような本を読んでいるか
竹内 常一
読者の声
5月号を読んで
シリーズ/各地の実践
三重
竹森 智広
〜陸上するって、楽しいんだ!!〜
編集後記
井本 傳枝

今月のメッセージ

受け止める

指名全国委員 竹田 裕一


「先生、玄関に来て、田中があばれてる……。」

と男子二人が息を切らしながら放課後の教室に走り込んできた。田中君(小六)の姿はない。この数年間、何回もこの女子とはトラブルを起こしている。この事件に最初に駆けつけた女子の担任の先生に聞くと、

「顔を殴って、頭も玄関のガラスにたたきつけたらしい。でも、けがはないし、一応話を聞くと、彼女の側にも問題があるようだったので帰した。」

と言う。きっと軽く自分の悪口でも言われたのだろう。しかし、彼にとっては深い傷つきをもたらす。

「話を聞きたいので、捜してきます。」

と言って、わたしは田中君を捜しに学校を車で飛び出た。進級してから自分で学校に来るようになり、自分なりに新しい気持ちで学校生活を送ろうとしているのがわかるようになった矢先のことだった。きっと、思わずやってしまったという感覚だろうと思った。親に話をして相手の保護者に謝罪してもらうようにしなくてはならない。これまでは母親は謝罪に行っているが、父親は行ったことはない。それでなくても自分から暴力を振るうことなどを繰り返し、ショッピングセンターからは出入り禁止となったりして、地域中に知られている昔からの有名人だ。行き場所は公園やゲームセンターになってしまった。中学生との結びつきも出来ていた。この事件で彼に芽生えつつあるものをつぶしたくない。田中君の父と母との関係から田中君の事を真剣に取り組んでもらえないでいること、父親がもっと動いてくれることで一人で抱え込んでいる母親の気持ちにも少しは手がかりが出来るかもしれないこと……いろいろ考えながら彼がいつもいる所を捜した。どこを捜しても彼はいなかった。予想通りだった。彼はこういう事を起こしたときはいつも走って帰り、歩き回る。父親とまた話すしかないと考え、夜7時を過ぎて家庭訪問に行った。父親が暴力をふるう様子が頭をよぎり、どう話すか何度も何度も言葉を考えた。

「また、何かしたんですか。」

という父親と田中君とわたしで、車の中で今日の出来事を話した。

「そんなことをしたんですか。わたしは朝早いんで知らないことが多くて。先生に迎えに来てもらっているけど、ちゃんと行くように言っているんだけど。」

と伏し目がちにぽつりと言う父親の方を見ながら、田中君は黙っていた。お父さんができるだけ冷静に言葉を選んでいる。

「お父さん、頑張ろうとしている彼の気持ちは僕にはわかるんです。毎日、少しずつ自分で起きて学校に来るようになっています。遅れそうな時には電話をしてきたり、ものを借りたらお礼を言ったり。お父さんが一生懸命働いている姿を見ながら、きっと自分を応援してくれているはずだと思っていると思います。お父さん、お願いがあります。お父さんが殴ったり、怒鳴ったりしても彼の今の気持ちを応援をすることにはならないと思うんです。ですから、理由を聞いて、これからどうするか一緒に考えましょう。お願いします。」

父親は黙ってうなずいた。そして相手に謝罪の電話を初めてしてくれた。それ以後、田中君は、遅れることはあっても登校し、今まで一度も参加しなかった当番活動に参加し、授業で挙手する姿が見られるようになった。

算数の問題を解いてみんなから拍手をもらい、また、友達とのことについて自分から笑顔で話すようになった。

両親にわたしが関わり続けたこと、そして、わたしもクラスの子どもたちも自然に彼を受け止めるようにしてきたことが、彼の何かを変えたのかもしれない。今もそのように受け止めながら、彼を見続けている。

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