生活指導 2004年8月号
言葉を取り戻す子ども

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生活指導 2004年8月号言葉を取り戻す子ども

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2004年7月8日
対象:
小・中
仕様:
A5判 124頁
状態:
絶版
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目次

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特集 言葉を取り戻す子ども
言葉を取り戻す子ども
大和久 勝
実践
佐助と小鉄と子どもたち
竹内 和子
クラスから孤立しそうなマー君とみんなをつなげるには
相馬 幸夫
「ふざけてんじゃねーぞ、ぶっとばすぞ」からの出発
安子島 宏
分析
言葉を取り戻すために
坂田 和子
言葉・対話を読む仕事―対話認識と感情労働
子安 潤
基調提案 子どもとつながる、子どもがつながる
基調の課題
子ども集団づくりへ
安島 文男
第46回全国大会基調提案
子どもとつながる、子どもがつながる
教師の指導性〜「子ども集団づくり」へ〜
基調提案委員会
第46回全国大会基調提案に寄せて
〈つながり〉論を軸に生活指導運動の発展を
折出 健二
今月のメッセージ
今、子どもたちの声を聴き取れる親・教師になるために
齋藤 修
今月の集団づくり・小学校 (第5回)
4年1組物語
今関 和子
〜新しい課題が見えてくるとき〜
今月の集団づくり・中学校 (第5回)
瀧田中学校物語
本田 広行
〜学校行事で子どもたちをつなぐ〜
実践の広場
私の教室
班主催のお楽しみ会したい!
船越 裕和
すぐ使える遊び
鬼遊びからボールゲームへ
中島 滋章
授業のアイデア
とにかくいろいろやってみて
本 秀一
楽しいイベント
六年生「十一人」とつくった最高の思い出
伊藤 博文
私の学校づくり
子ども、保護者、教職員集団とつながって
宇内 隆一
通信・ノートの工夫
「教科通信」と「学級委員会通信」
村上 米子
手をつなぐ
私を生んでくれてありがとう!「共感」でつながり合う
徳井 久康
今子どもたちは
いつも張りつめた気持で
佐藤 収一
私のオフタイム
元気が出るラーメン店
栗城 順一
案内版 集会・学習会のお知らせ
北から南から
地域・サークルからの発信 おおさか生研
多田羅 正彦
〜次代を担う人たちへ〜
教育情報
「習熟度別指導」の問題点
山本 理絵
読書案内
『明日(あした)への銀河鉄道―わが心の宮沢賢治―』(三上満著)
関 誠
読者の声
6月号を読んで
投稿 実践記録
もう一つの班「ユニットノア」―ダブルの班構想
北山 昇
廉が読む
高橋 廉
〜「ダブルの班構想」から学ぶこと〜
全生研第46回全国大会案内
編集後記
大和久 勝

今月のメッセージ

今、子どもたちの声を聴き取れる親・教師になるために

常任委員 齋藤  修


「先生、わたし幸せになるね」

 M子はこの言葉を残して学校を去っていった。


 二年生の時に母親と別れ、兄姉と共に本校にやってきたM子は、転入当初から激しく荒れ続けた。話し掛けても下を向いて黙り続け、授業中も廊下に出てみんなの体操着や上履き袋を放り投げたり、トイレに閉じ籠もったりと担任を困らせ続けていた。

 四年生になるとM子は運動面で優れたちからを発揮し、ドッジボールやポートボールではクラスの中心になって活躍するなどクラスの中に居場所をつくりだしていった。

 六月の国語の時間にM子は次のような作文を書いた。

「私が大切にしているものはお母さん。今は会えないからがまんしてます。でも、会いたいです。いつか会いたいです。お父さんにはないしょで夏休みに電話します………」

 父親から母親に会うことや電話をすることを強く禁止されていたが、父親に内緒で母親に電話をし、運動会の翌日に会う約束をした。そして、その喜びを日記で伝えてきた。

「運動会が終わったらお母さんに会えます。お母さんとくらせるかもしれません。他人のいない家でくらしたい………」家には、父親と交際している女性がやってくるという。

 私はひたすら聞き役に徹した。それしかできなかった。聞き手不足の中で育ってきたM子は話しながら言葉を取り戻し、母親への思いをさらに募らせていった。

 運動会の翌日に母親と会ったM子は、一緒に暮らしたいという思いを一生懸命に母親に伝えていった。そして、その思いを受け止めた母親は将来一緒に暮らすことを約束したが、それまでは我慢してほしいと。M子はこの約束を信じたが待てなかった。教室でも落ち着きがなくなり、あれほど大好きだったポートボールにも意欲を示さなくなった。四年生の子どもにとって母親との約束を父親に黙り続けることは、つらいことであった。

 一〇月のある日、ついに自分の思いを父親に訴えた。父親は激怒し、母親と再び会うことを禁じたが、その思いを押さえることはできなかった。M子は父親とケンカをして、夜の10時頃に家を飛び出し、近くの真っ暗なガソリンスタンドの中で母親が連れに来るまで、両手には着替えをいっぱい入れた紙袋を持ちながら一時間待ち続けた。

 この日から三日間、M子は学校を休んだ。そして、M子の思いをしっかりと聴き取った母親はすぐに引き取ることを決意し、暴力的な父親と冷静に話すためにファミレスで会うなどできる限りの努力をした。当初、母親と会うことすら許さなかった父親は、母親の強い決意とM子の思いを跳ね返すことはできず、親権を母親に譲った。


 M子の一途な思いが大人たちを動かし、その思いを聴き取った大人たちがM子の最善の利益のために動いた。

 転校の手続きのために母親と一緒に学校にやってきたM子は、「お別れ会」に参加して、次のような言葉を残して学校を去っていった。

「わたしはこれからお母さんと暮らすことになりました。名字も変わります。みんなと別れるのはさびしいけど、お母さんと暮らせるのはうれしいです」

 私が「M子、幸せになれるといいね」というと、「先生、わたし幸せになるね」と、満面の笑顔で答えてくれた。


 今、子どもたちは自分たちの声を真剣に聴き取り、それに応えてくれる大人を求めている。

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