子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(21)
学級文集で記録にも記憶にも残る「卒業生への本気メッセージ」
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2021/2/10 掲載

事例思い出を残し成長を自覚する卒業文集

 卒業のシーズンが近づいてきました。
 私は、卒業(年度末)前に、学級でミニ論文集を作ります。
 これは、ある有名実践家の先生から教わり、自分なりに改良したものです。
 目的は学級の思い出を文章に残し、一人一人の成長を自覚させるためです。
 また、一人の大人として本気のメッセージを送り、人生の節目にふさわしい思いを伝えるためでもあります。

 内容と構成は以下の通りです。
 一人あたりA4用紙1枚です。鉛筆で濃く、丁寧に書かせます。綴じ代を3cmほど取っておくときれいに完成できます。
 テーマは3つです。

  1. 自分紹介
  2. クラス紹介
  3. 先生紹介

 最後のページには、担任としての最後のメッセージを入れます。そのクラスへの最後の配布物となりますので、気合を入れて書きます。この文集は、卒業式の前日に配布し、みんなに読み聞かせます。

挿絵1

 今回は解説のかわりに、ある年の卒業生に向けて書いた担任としての最後のメッセージをそのままご紹介することにしました。

担任からの最後のメッセージ(全文)

全力で達成感を! 達成感から夢へ!!

 私が君達に教えたかったことは、ただ一つ。
 全力を出すということ。
 当たり前のことに全力を出して取り組むこと。
 私はその重要性を伝えてきたつもりだ。
 しつこく、かつ全力で。
 全力を発揮することで初めて「私にもできた!」、「ああ、楽しかった!」という達成感や充実感を感じることができる。それを味わってほしかったのである。
 もっというと自尊感情を育ませたかったのである。
 それはなぜか。なぜ、私はこれほどまでにこだわったのか。

 全力に基づいた自尊感情こそが、夢への原動力になるから。人生を楽しくする薬となるからだ。
 薬だから、これは苦い。飲みたくなくなるときもある。
 しかし、この薬はとても効く。
 しかもこの薬は、決して君をだましたりはしない。裏切らない。
 
 なぜ、そう言い切れるのかというと、これが今の私自身を支えているからだ。
 私は中学、高校時代に大きな挫折を味わった。しかし、それを乗り越え、教師として生きがいを感じ、幸せな気分で今君達の前に立っている。
 
 この原動力になったのが、自尊感情だ。たった数年だったかもしれないし、休み休みだったかもしれないが、私は過去において全力を出して物事に取り組むという経験をしてきた。全力を出したことによって「やった! 俺にもできるんだ!!」という自尊感情が心の内に培われたのだ。だから、挫折にくじけずここまで来ることができたのだ。

 もしも、私が過去に全力を出さずに、「俺もやればできる!」という自尊感情を持つことができなかったとしたら、すなわち私の中で「どうせ、俺はだめだ」とか、「やっぱり難しい。これが俺の限界だな」という思いに負けてしまっていたら、教師になどなることなく、君達と出会うことは絶対になかっただろう。あるいは、教師になっていたとしても、人に全力の大切さを伝え、教えられる人間にはなっていなかったはずだ。

 自尊感情を育て、どうか楽しく幸せな人生を送ってほしい。
 たかが12歳で自分の限界・才能を決めつけてしまってはだめだ。
 才能を「逃げの言葉」として使ってはいけない。

 君達の可能性は無限大だ!!
 
 「どうせ、私には〜〜の才能ないし」「俺には無理だ」「これが限界だろう」というのは、がまん玉、気付き玉が磨かれていない証拠だ。限界などありはしない。あるのはそれを口にする自分の“弱さ”、“楽をしたいという意識”だけだ。
 このことは何度も教えてきた。

 だから、全力を出してブレークスルーをしてくれ! そして夢をつかんでくれ!!

 全力を出せば、いつか突き抜ける瞬間がおとずれる。それが「やった! できた!!」という達成感・充実感であり、自尊感情なのだ。

 成長曲線はいつか、努力直線をうわまわる。

 99回でだめかもしれない。100回目でもだめかもしれない。しかし、あきらめてしまえば、すべての成長はそこでストップする。
101回目の成功を目指して、全力を出すのだ。

 では、何から全力で取り組めば良いのか? 
 自分の胸に手を当てて考えてごらん。すぐに答えは見つかるはずだ。
 サッカー? ピアノ? ダンス? 料理? 勉強? 何でも良いだろう。すべては、今の自分が答えてくれる。

 しかし、君達の「今」と「夢」がつながっていることを忘れてはいけない。漢字を書く手とボールを投げる手は同じだ。人の話を聴く耳と曲想を感じ取る耳は同じだ。シュートする足と起立する時の足は同じなのだ。

 「夢」への捷径は、今目の前にある当たり前のことに全力を注ぐことだ。

 あいさつ、返事、目を見ること、礼、歌、掃除、相手の気持ちを考えること…。
 これは徹底的に教えてきた。
 目の前にある小さなゴミ一つ拾えない人間に、頭の中にある大きな夢など実現できるわけがない。

 さぁ、君達は人生を楽しくする薬を飲み始めたばかりだ! 
 とび立て、未来の夢へ! 全力で!!

 って、ここまで「全力、全力」と書き続けてきたが、常に全力を出し続けるのは実際には難しいことだよね。私だって苦しむことがある。しかも大人になったら、これまで以上の試練にぶち当たるだろう。
 例えば、全力で好きだった人に失恋したり、全力で信頼していた友人に裏切られたり、全力で受けた大学に落ちたり、全力を認めてもらえなかったり…、さまざまな紆余曲折を経験するはずだ。
 「あぁ、疲れたな」「全力。しんどいな」「もう…」と感じたら、いつでも私に会いに来ればいい。私は喜んで話を聴くし、ときにアドバイスもするだろう。どんな相談でも受ける。

 そして、数年後、あるいは数十年後、自尊感情をたっぷりとたくわえ、社会人として一人前になったとき、ふと「小学校時代に、『全力、全力』って、うるさいやつがいたな」と思い出してくれたら、私はそれで嬉しい。十分である。教師として本望だ。

 あっ、でもその折には、私を居酒屋に連れて行きなさい。
今日までの、2年間の「俺たち」・「私たち」を語ろうや。

 みんな、すばらしい思い出をありがとう。
一生忘れない。

 西野学級の皆へ 感謝。

2013年  桜咲くころ
  
万感の思いを込めて 西野 宏明

ここがポイント!

  • 卒業の前日に読み聞かせて、一人の大人として最後のメッセージを送る!今月の「言葉のワザ」
  • 1、2年間の思い出や努力の結集を1冊にまとめることで、いつでも読み返せ、読むたびに元気になれるようにする!
  • みんなの愛着が生まれるよう表紙のデザインに凝る!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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