教育オピニオン
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学校教育における生成AIによる「学び」の活性化
株式会社オンギガンツ代表取締役松田 雄馬
2023/7/1 掲載

AIと人間の「学習」の違い


 昨今、AIの進歩はめざましく、その進展は教育業界にも大きな影響を与えています。特にChatGPTなどの生成AIは、教育現場にも広く浸透しつつあります。しかしながら、生成AIに対する誤解や勘違いが広まり、教育現場は混乱しています。このような状況下で、生成AIを積極的に教育現場に取り入れるべきか、それとも児童・生徒から遠ざけるべきかといった意見が二分されています。この問題に取り組むにあたって、まずはAI と人間の「学習」の違いを理解することが重要です。 
 AIの学習は、0と1で表現されたデータの論理演算によって行われ、データの特徴(共通点や差異)を詳細に記憶することによって成果物を生成します。一方、人間の学習は、身体を使って自らが描いた目標を達成するために、また変化する環境に適応して生きていくために、身体を自在に動かすことや動かし方を学ぶことによって成長します。例えば、数学の概念を学ぶ際にも、最初から抽象的な概念を学ぶのではなく、幼少期につみき遊びや謎解き遊びなどの身体を伴う経験を通じて徐々に幾何的なものの見方や論理的思考を身につけ、それが抽象的な概念の基盤となっているのです。
 生成AIは、学習したデータの特徴に基づいて、「プロンプト」と呼ばれる人間が与える命令に従って文章や画像などを生成します。適切なプロンプトを与えることで適切な成果物を生成することができますが、逆にプロンプトが不適切であれば生成物も不適切になってしまいます。

生成AIを取り扱うプロセスを学ぶ


 教育現場では、このような生成AIを取り扱うプロセスを実践的に学ぶ時間が必要です。児童・生徒が生成AIを使って作成した成果物を、図画工作の時間のように発表し合いながら意見を出し合う時間を設けることが有益です。このプロセスの中で、単に「作る」だけでなく、文化祭などでクラス一丸となって一つの目標を達成するような体験、すなわち「プロジェクトマネジメント」体験をさせることが重要です。
 具体的なプロセスとしては、まず児童・生徒に「何を作りたいのか」を考えさせます。次に、必要な要素は何かを考えさせます。その後、その要素をプロンプトとして生成AIに入力させ、想定通りの成果物が生成されるかどうかを考えさせます。もし想定通りでなければ、どのような要素が必要かを考えさせ、再度チャレンジさせます。例えば、ある本の読書感想文を書かせる場合、児童・生徒に本を読ませた上で、生成AIに対して漠然と「感想文を書いてください」というプロンプトを入力させ、各自が思い描いている感想と比較して、生成AIが生成した感想文にどのような要素が不足しているのかを考えさせるのです。その上で、不足する要素を補うためには、どのようなプロンプトを入力すべきかをグループで話し合い、想定通りの感想文を書かせることができたかどうかを考えさせます。こうして、生成AIによって想定通り(あるいは想定以上)の成果物を作る体験をすることで、児童・生徒は自分の思い描く目標をAIを使って達成する能力を身につけることができます。

生成AIの活用によって養われる力


 生成AIを教育現場から遠ざけるのではなく、積極的に取り入れることで、小中学生の学びをより深めることができます。生成AIの活用により、児童・生徒はより意欲的に学ぶことができるでしょう。具体的な効果としては以下のようなものが期待できます。
 まず第一に、生成AIを使って創作活動を行うことで、児童・生徒の創造力表現力が向上します。AIが生成する文章や画像を通じて、新たな視点やアイデアを発見し、自身の表現力を高めることができます。
 また、生成AIを活用したプロジェクト型の学習では、児童・生徒が自主的に問題を考え、解決策を見つけるプロセスを経験することができます。自らのアイデアをプロンプトとしてAIに入力し、結果を評価しながら改善を重ねることで、問題解決能力自己評価のスキルを養うことができます。
 さらに、生成AIを通じて児童・生徒が作成した成果物を発表し合うことで、コミュニケーション能力批評力も向上します。他者の作品に対して具体的なフィードバックを行い、議論を通じて意見を深めることができます。
 総じて言えることは、生成AIを教育現場に取り入れることで、「学び」の活性化が図れるということです。児童・生徒が自ら考え、問題を解決し、創造的な成果物を生み出す経験を通じて、より豊かな学びを実現することができます。

松田 雄馬まつだ ゆうま

松田 雄馬 博士(工学)
株式会社オンギガンツ代表取締役
大和大学 情報学部特任教授 AI・メタバースLab.所長
一橋大学大学院 非常勤講師

京都大学大学院卒業後、NEC中央研究所にてオープンイノベーションを推進。MITメディアラボ、ハチソンテレコム香港、東京大学、との共同研究を経て、東北大学との脳型コンピュータプロジェクトを立ち上げ、博士号を取得した後、独立。合同会社アイキュベータ(現株式会社オンギガンツ)を共同設立し、大手企業のAI/IoTを中心とした新規技術開発・事業開発を支援。AIへの誤解を解き、豊かな未来を創造するための情報発信としてテレビ・ラジオにも出演し、多数の著作を執筆。

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