著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
ソーシャルスキルを教えることで中高生が変わる!
法政大学文学部心理学科教授渡辺 弥生
2015/12/4 掲載

渡辺 弥生わたなべ やよい

法政大学文学部心理学科教授。法政大学大学院ライフスキル教育研究所所長。教育学博士。
専攻:発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学

―本書では、中高生にソーシャルスキルを付けるためのプランが数多く紹介されています。そもそも、なぜ今、中高生にソーシャルスキルを教え、獲得させる必要があるのでしょうか。

 3つの「間」と呼ばれている、時間・空間・仲間といった視点から考えると、今の子どもたちは、いろいろな人とかかわる時間もなく、自由に遊べる空間も限られており、実際に交流する(オンライン上ではなく)仲間の数も限られています。家庭でのコミュニケーションも家庭によっては乏しい状況です。そのため、人の話を聴く、自分の気持ちを伝える、相手を傷つけないように断る、といった一見できて当たり前と思われることが、当たり前になるまでに獲得されていない実態があります。そのため、あらためて、学校の場でソーシャルスキルを教える必要性が高まりつつあります。

―本書は、指導案、ワークシートなどがすべてセットになっており、授業ですぐに活用できそうです。では、実際に、本書を活用してソーシャルスキル・トレーニングを行うときのポイントや留意点を教えてください。

 まず、子どもたちの問題を性格や障害のせいにせず、どのようなスキルがまだ獲得できていないか、あるいは、どのようなスキルを学んでほしいかを考えてください。そして、このトレーニングのポイントになる、インストラクション、モデリング、リハーサル、フィードバックの効果を理解して、こうした構造から授業案が組み立てられていることを理解していただけるといいと思います。ここが理解いただければ、まずは授業案通りに、同じワークシートをそのまま使っていただければいいと思いますが、先生方でクラスの状況にあうようにアレンジしていただいても結構です。

―本書の中には、「SNSによるコミュニケーションスキル」といった時代を反映するスキルも取り上げられています。最近では、スマホに関連したトラブル対応に追われる先生も多いようですが、どのようなトレーニングが効果的でしょうか。

 ツールが変わっても、基本的には、人と人とが円滑につながっていくためのスキルは変わらないと思います。ただし、子どもたちは、しばしばツールのメリットが逆に、人を傷つけるリスクがあることをイメージする力が弱いのも事実です。短い時間で多くの人を傷つけてしまう、表情やしぐさ、声が伴わないためのミスリーディングの危険性などに気づかせることが大切です。そのために、ただ「スマホのトラブルに気をつけて!」といった注意のしかたでなく、かみくだいてわかるようなインストラクション、悪いモデルをみせるといったモデリング、実際に体験を行うリハーサル、適切なフィードバックを交えたアクティブ・ラーニングが必要になってきます。

―今回の書籍は、中高生向けということですが、年齢によって、トレーニングの仕方や授業の進め方で気つけた方がよい点はありますか。

 年齢というよりはむしろ、発達や個人差について理解すると、子どもたちの心に届く、説明のしかたや、モデルにできる状況などを思いつくことができると思います。たとえば、小学生向けの上手に断るスキルであれば、「今日は、家族で出かけるから(理由)、遊べないんだ(表明)、ごめんね(謝罪)」といった表現を良いモデルとして見せるところを、中高生であれば「今日は、家族で出かけるから(理由)、遊べないんだ(表明)、ごめんね(謝罪)、来週はどう(代案)」といった例を良いモデルとしてみせることができるでしょう。つまり、子どもたちの普段の様子をよくみて、発達に応じたスキルが必要なところを理解してあげることが大切です。

―生徒たちのソーシャルスキルを高めたい!と本書を手に取られた読者の方にメッセージをお願いします。

 これは、スキルといってもうわべだけの要領のよさを教えるのではありません。子どもたちが心から人を大事に思うならば、人間関係で必要なスキルを学ぶことが大切なことに気づかせることが大切です。今風の言い方をすれば、「デフォルト」を理解したうえで、そこに魂を入れていくようなイメージです。一度見よう見まねでやってみてください。子どもたちの意外な側面や、学んでいくプロセス自体がよくわかり、他の授業や行事のなかにも取り入れて行ける可能性を強く実感できます。

(構成:茅野)
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