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新・数学的活動を促す授業を求めて
京極 邦明 著
はじめに
第1章 これからの数学教育が目指すもの―関数眼・直観と「数学語」による表現―(冒頭)
第2章 数学的活動を促す教材研究―導入課題の開発を中心に―(冒頭)
第3章 数学的活動を促す指導の実際(冒頭)
第4章 評価の勘所(冒頭)
おわりに
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はじめに
1 本書の基本的立場 これまでに実践したことを振り返り,中学校における数学的な活動が推進できるような授業づくりを志向して,本書を刊行することとした。本書は4章構成で,22の節が設けられている。各節では,筆者が日頃実践し,主として明治図書の月刊誌『数学教育』に発表した事例に加筆修正したものが収録されている。本書ではそれら22の節を,「目標」「教材研究」「指導法」「評価」の4つの柱で編成した。筆者が,これらの実践をしたとき,数学的活動はその背景としてはあったが,本書はそれ自身に光をあて「数学的活動を促す授業」という視点から編成し直したものである。 22の物語は元来が独立した内容であり,それを1冊にまとめることは困難であった。「目標」から「評価」の4つは,一体となっていて本来切り離せないものである。しかし,本書では,授業や指導事例を数学的活動という視点から見るとき,4つのうちのどれに重点をおいて見ていくかということに鑑み,どれか1つの章に特化して収録することとした。 本書で扱われている事例は中学校数学の多くの単元に関わっているが,すべてを網羅しているわけではない。これは,単元を網羅することを目的にしたのではないからである。
2 数学教育の柱と数学的活動 本書を展開するにあたって,数学的活動に関する筆者の基本的立場を述べておきたい。中学校の数学科では,数学的活動を通して「知識・技能を習得する」等の目標を達成するというのが趣旨である。数学的活動は,客観的に観察が可能な外的活動と観察ができない内的活動の双方を含み,問題解決の全過程に関わるものである。筆者はその過程のうち,特に「事象や課題を,『関数の眼』と『直観』でとらえ,とらえたものを数学の言葉(筆者はこれを生徒には『数学語』といっている)で表現すること」の3つに焦点をあてた。これらは学習指導要領に掲げられている目標にexplicitに表現されていることではない。むしろ「目標」の背景とか底流になっている教育の価値を表現したものであり,数学教育の目指す方向を端的に示したものである。いわば,筆者の教育実践の支えになっているものが「関数眼」「直観」「数学語」である。 数学的活動自体は旧学習指導要領の目標にも掲げられていて,目新しいものではない。その数学的活動に,「関数眼」「直観」「数学語」という3つの視点から光をあてたのが本書である。だから,本書では,「数学的活動とはこういうものである」というような定義は行わなかった。本書の主題の「新・数学的活動を促す授業を求めて」の「新」には上述のような意味を込めている。これらのことを簡単に図示しておきたい。 (図省略)
第1章は「なぜ数学を学ぶのか」にふれているが,そこでは,上記の3つの関係や役割について述べてあるので,詳しくは第1章を見ていただきたい。課題意識についてもそこでふれている。
著 者
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第1章 これからの数学教育が目指すもの―関数眼・直観と「数学語」による表現―(冒頭)
 本章では,これからの数学教育が目指すものを明らかにすることを本旨とする。2008年3月に新しい学習指導要領が告示され,「言語活動の充実」,「学び直しの機会の設定」,「内容としての数学的活動を位置付ける」など,これまでと若干変わったことが要請されている。こうした状況下,「今後の数学教育は何を目指すか」ということを考えておくことは,意義のあることと考える。 「不易と流行」という言葉がある。数学教育においても,時代・社会の変化に対応して重点の置き方を変えなければならない部分もあるが,学習指導要領が変わったからといって,手のひらを返したように数学教育の根幹にかかわることを簡単に変えてしまっていいのだろうかという疑問を払拭することはできない。筆者は数学教育の「不易」の部分は,学習指導要領が変わったからといって,簡単に変えられないものであるという立場をとっている。筆者はそれを,「関数眼」と「直観」と位置付け,中学校の3年間を通じて培い,養い,伸ばすべき柱であるとした。それぞれ1と4でふれる。 また,筆者はかねがね,数学科を「式等に代表される数学語という独特の言語の読み書きができるようにする」教科と位置付けてきたが,「言語活動の充実」という時代の要請にも鑑み,「関数眼や直観」でとらえた内容を, 数学語を使って表現するということも数学教育の柱であると考えた。これらを2と4でふれる。また,3では数学語に関する基礎的な読み書き能力を伸ばす意義と生徒の実態にふれ,今後の数学教育の方向を探ってみた。 (図省略)
[1] 数学の底流にある関数と数学的活動
1 数学教育の1つの柱「関数眼」 「数学教育は何を目指すか?」この問いには簡単に答えられない。しかし,数学教育の柱を何にするかという議論はしなければならない。そのために,筆者は「関数の眼で問題をとらえること」つまり「生徒自ら必要な数量や点の位置を決めたり,それらに依存して決まる数量や点を見つけること」の育成を数学教育の柱の1つとすることを提唱したい。本書ではこれを「関数眼」と称し,これを育てることの重要性は数学教育の不易にあたると筆者は考えた。関数眼は数学の問題解決のすべての場面に働く。このことを中学校数学の典型的な指導内容である「方程式の利用」と「作図」の場面を事例として,考察していきたい。なお,他の二本柱である「直観」と「数学語による表現」については,本章の嘩以下で述べる。
2 関数眼が働く事例についての考察 (1) 「方程式の利用」 @ 場面設定と導入課題 方程式の利用が苦手という生徒は多い。その理由としては,たとえば速さ・道のり・時間という数量の関係把握ができないとか,既に文章化された問題から出発することを余儀なくされ,場面が把握できないからである。関係把握を図る方法として,たとえば,生徒を図1のような道路上をバスに乗って移動しているような気にさせるところから導入するとよい。「君たちがバスに乗っているとします」というようなきっかけから「図のA停留所で下車してCまで歩くのと,B停留所まで行って下車してCまで歩くのとでは,どちらが早くC地点に着くか」というような導入課題を設定し,「同時にCに着くときのAC間の道のりよりもAC間が短ければ,Aで下車した方が早い」という解決につながる数量関係を把握させ,それを方程式で表現するというような数学的活動を促す動機付けをしていきたい。 (図省略)
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第2章 数学的活動を促す教材研究―導入課題の開発を中心に―(冒頭)
 「よい授業ができるかどうかは教材研究の関数である」といっても過言ではないほど,授業の成果は教材研究の広さ・深さに依存している。本書における教材研究は,授業の目標に迫るために,生徒にどのような数学的活動をさせるかということを主眼にしている。導入課題に対して,数学的活動を繰り広げる過程で目標に迫るというのが,筆者の考える数学の望ましい授業のあり方である。したがって,教材研究では実態調査を踏まえて,適切な導入課題を設定することが大きな比重を占めることになる。なお,本書でいう導入課題というのは,それによって授業の流れを支配するような授業の中心になる課題のことを指している。 本章では,教材研究の柱となる導入課題をどのように開発するかを,各節ごとに具体化している。たとえば,5では連立方程式の導入課題を,古典的な遊戯にその素材を求め,それを現代風にアレンジした。また,6では教科書の特設頁にある題材を参考に,与えられた図形に対する移動の仕方を変更したり,提示する図形の種類を豊かにするという方向で変更した。教材研究には,生徒の実態把握も含まれる。7と8はどちらも,対象とした生徒の実態を調査した結果を教材研究の柱としている。なお,7の調査は東京学芸大学附属学校小金井地区算数/数学部員が共同で行ったものであることを,ことわっておきたい。 さらに,7を除き,いずれも筆者が勤務校の公開授業等で実践したものであり,各節での教材研究として主張していることは単なる机上の空論ではないので,それぞれの工夫の跡を読み取っていただければ幸いである。
[5] 臨場感あるリアルな場面設定 古典的遊戯「左々立」を連立方程式の導入に
1 3年間の方程式の指導の教材関連図 (図省略)
1年での学習を土台に,2年では消去により,3年では平方根か因数分解によって,文字が1つの方程式に直す。背景に,等式の性質がある。「必要性と意味の理解」「解法」「活用」いずれについても1年生の一元一次方程式の学習が土台になっているということを,上の図は示している。
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第3章 数学的活動を促す指導の実際(冒頭)
 新学習指導要領の数学科の目標を示す文言の冒頭に,「数学的活動を通して」と示されているように,数学的活動が数学教育全般にわたって重要な位置を占めることになった。各学年の「内容」のところでも「次のような数学的な活動に取り組む機会を設けるものとする」として次の3つが示された。 ア 既習の数学を基にして,数や図形の性質などを見いだし,発展させる活動(1年は下線部がない) イ 日常生活で数学を利用する活動 ウ 数学的な表現を用いて,根拠を明らかにし筋道立てて(1年は下線部が自分なりに)説明し伝え合う活動 (1年生はアとウが,2・3年と異なる) 本章では,アとして11 13 14 15,イとして16,ウとして12の6つの授業実践例を掲げた。それぞれの授業とア,イ,ウが必ずしも一意に対応しているわけではないが,本章においては,3つの中で主としてどの観点での活動としての色彩が濃いと考えられるかを明らかにし,ア,イ,ウと関連付けた。 17は1つの授業でないので上の扱いから除外したが,数学的活動を行うにあたって関数眼が生きていることや,教材研究との関連を生徒の反応に基づいて取り上げた。 本章の事例は,筆者がすべて授業で実践したものばかりである。筆者は,容易く準備できる教材・教具をできるだけ生徒一人ひとりに用意し,数学的活動を通して目標に迫る授業を展開した。本章では,その模様をできるだけ忠実に再現してみたので,数学的活動が有効であったかどうか検討していただければ幸いである。
[11] 簡単にできる教具が数学的活動を促す ものを動かすことから式表現へ
1 教具の役割と望ましい教具を考える観点 われわれは,しばしば「chalk and talk」の注入型の授業に陥ることがある。生徒が課題意識をもって取り組むためには,生徒が観察したり,操作したりする対象となる「もの」が必要である。その意味から,教具に期待される役割は大きい。栗原幹夫は「これからの教具論」の中で,教具の備えるべき条件として,次の7つをあげている。
(1) 触覚・筋覚・視覚を満足する色・形・材質 (2) 興味と関心をひき,操作意欲が湧く (3) 簡単に操作でき変形が容易で,試行錯誤的反復操作が可能である (4) 学習者の思考過程が現象化し,思考の成熟・進行が見極められる (5) 初等・中等教育に一貫して利用できる計算教具 (6) 思考実験が容易で数学的経験ができる (7) 図形の変形が容易で平面・立体幾何に役立つ
ここでは,(1)〜(7)のうちできるだけ多くの条件を満たすことが望ましいとする立場をとる。本実践で用いる教具は,画用紙を切ってつくったという程度の簡単なもので,(3)の「変形ができる」という条件は満たすことができない。しかし,後で示すように,この教具は生徒一人ひとりが手元において使うことができ,簡単にできてしかも,かなり有効である。
2 新しい教具PSSの開発 上に示した7つの観点に呼応する教具としてPlaythinking Square Set(以後,PSS)を栗原は提唱し,それを用いた正の数・負の数の計算や方程式等様々な指導のあり方を提唱している。PSSは比較的簡単につくることができるという特徴がある。ここでは本校の選択数学受講者2年生24名を対象にした展開・因数分解について2時間の指導の概要を示し,PSSが展開・因数分解の指導に有効であるということを検証したい。
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第4章 評価の勘所(冒頭)
 本章でいう評価は,主として教師が生徒の学習状況を評価するという立場で述べたい。「評価は指導の関数」といってもよいほど,指導との密接な関連の下に行われる。また,指導は指導計画や教材研究と切り離せないので,評価はこれらすべてを総合して論ずるのが筋であるが,それだと話が拡散し過ぎるので,本章では,指導との関連を中心に述べるに留めることとする。 関心・意欲・態度の評価は授業の中での即時的情報・資料を収集,蓄積するのが前提であることは論をまたない。数学的な見方考え方についても同様である。しかし,一人の教員が1学級あたり40名の生徒を指導するような場合,1授業時間あたり個々の生徒に関して収集できる資料は限られている。しかも,授業中だけの資料では生徒や保護者の理解も得にくい。そこで,他の資料を補助的に使わざるをえない。関心・意欲・態度についても,レポートを提出させたり,自己評価と組み合わせたりしなければならない。関心・意欲・態度以外の観点についてはテストを活用することになる。 授業中の評価については,3章においてもかなりふれているので,本章においては,授業外での評価の在り方を述べることに主眼をおいた。まず,18では,小単元を例にして評価基準の設定の仕方と評定との関係を具体化した。19では,テスト問題を作成するときの核になる考え方を妥当性と信頼性という2つの観点から述べた。20 21ではそれぞれ「数学的な見方考え方」「数学的な表現・処理」に関するテスト問題作成のポイントを明らかにし,それを具体化した。また,22では,生徒が行った自己評価を教師がどう活用するのかということをまとめ,情意面の評価の1つの在り方を示した。
[18] 評価・評定は基準の取り方で決まる 2つの角が等しいことの証明を例に
1 本小単元の評価規準 2年生の合同を用いた証明に関わる単元の評価規準を,国立教育政策研究所から出されている「参考資料」を基に,次のように設定してみた。
【数学への関心・意欲・態度】図形が合同であることを使って,図形の性質を見つけ,問題解決に活用しようとする。 【数学的な見方や考え方】数学的な推論の方法を用いて,図形の性質を論理的に考察することができる。 【数学的な表現・処理】数学的な推論の過程を,数学的な用語・記号や日本語を用いて的確に表現することができる。 【数量,図形などについての知識・理解】合同な図形の性質や三角形の合同条件を理解している。それらを用いて,合同な図形の性質を証明することの意義や方法を理解している。
この単元の規準を活かして,授業で使う課題や評価問題を絞り込んだ上で,「角の大きさや線分の長さが等しいことを,三角形の合同を使って証明すること」を主題とする小単元へ具体化してみた。
【数学への関心・意欲・態度】三角形の合同を使って,図形の性質を見つけ,それを証明しようとする。 【数学的な見方や考え方】「三角形の合同を示せば,角の大きさが等しい等のことが証明できる」という着想をもっている。 【数学的な表現・処理】角の大きさが等しいこと等の証明を記述することができる。 【数量,図形などについての知識・理解】角の大きさが等しいこと等の証明をすることの意義がわかり,根拠を指摘することができる。
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おわりに
東京学芸大学附属小金井中学校では,3年生の総合的な学習の時間に,個人研究に取り組ませている。平成20年3月の卒業生Kは,「発問から始める数学」という主題で取り組んだ。教育実習にきた学生ならまだしも,中学校3年生が学部の3年生並みの主題を掲げ,それにふさわしい内容を取り上げていたのだからまさに驚天動地である。Kは,筆者の授業を冷静に分析し,しかも,「発問」という観点を明確にした上で,授業の対象者兼解説者という二役を見事に演じきっていた。Kは「問題提示による発問のよさ」を,次の3つの点にあるとしている。
―(問題提示による発問のよさ)― @ 生徒が気付く場面をつくれる→最初の問題提示のみならず,教師が生徒を誘導するための問いも重要な発問として位置付け,教師が直接言うのではなく,自分で気付かせることの重要性を強調している。 A 生徒の意見が活かせる→数学は自分自身で考えないと面白さがわからない教科なので,考えさせる機会を与える発問は重要。また,考えさせることによって生まれた意見を授業に活かすことができる。 B 生徒により課題が見えてくる→問題提示そのものは教師が用意するが,自分で課題を見つけ解決していく活動を発問により,つくることができる。
筆者は生徒に直接,@〜Bのようなことを言っていたわけではないのに,Kは見事に「問題提示→発問→考える,気付く→自分で課題を見つける,解決」という授業で行われる営みを洞察していた。このレポートは,本書の大きな動機付けになっていたので,ここに紹介させていただいた。 最後に,本書を刊行するにあたって,ご尽力をいただいた明治図書教育書編集部の仁井田康義氏,相田芳子氏に心から御礼を申し上げたい。
2008年7月 /京極 邦明
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