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言語活動の充実を図る「視点と方法」のある授業
山口大学教育学部附属光小学校 著
巻頭言
はじめに
T 理論編(冒頭)
U 実践編 [国語科](冒頭)
[算数科](冒頭)
[生活科](冒頭)
[図画工作科](冒頭)
[体育科](冒頭)
「しおさい」(総合的な学習の時間)(冒頭)
おわりに
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巻頭言
山口大学 学長 /丸本 卓哉
近年のIT技術の発達によるテレビ,携帯電話,コンピューターなどのすさまじい進歩と普及によって,わたしたちの日常生活そのものが大きな影響を受けるようになりました。子どもたちもその影響を大きく受けており,映像から入る情報に対しては敏感に反応することができるものの,言葉や文章を読解する力や判断力,また言葉や文章で,適切,正確に表現したり記述したりする能力が低下してきているという調査結果が示されています。 人類が言語を獲得したことによってコミュニケーションが発達し,新しい文化や芸術の創造,また,科学技術の発明がなされ,人類の発達に貢献してきたはずですが,一方で先に述べたようなIT技術の発達に反比例する形で,言語表現や理解能力が低下するという現象をもたらしたものと思われます。さらに,我が国においては,近年における家庭環境の変化による家庭内でのコミュニケーション不足も原因の一つになっているのではないかと考えています。 この度,山口大学教育学部附属光小学校では,本書『言語活動の充実を図る「視点と方法」のある授業?「とらえかたツール」で授業を変える?』を出版することとなりました。これは,先述しました,子どもたちの言語についての問題を踏まえた上で,これからの教育における言語活動の充実を目指して企画されたものです。 また,本校は,併設する光中学校と平成17年度より,「『真理を追究し続ける個』を育てる教育の創造」をテーマに,3年間にわたって小中連携による研究を継続しており,本書は,その成果の一端を表したものでもあります。 本書が小学校の教員の方のみならず,中学校の教員の方,保護者の皆様にも参考になるものと期待しております。また,本書に対するご意見,ご感想などありましたら,遠慮なくご指摘いただくことをお願いいたしまして,ごあいさつといたします。
平成20年5月
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はじめに
平成18年(2006年)に,戦後,初めての教育基本法の改正が行われました。また,学力低下問題が議論を呼んでいる渦中,新しい学習指導要領の姿が明らかになってきており,教育界は,まさに変革の時期を迎えていると言えましょう。 今回の学習指導要領の改訂の大きな柱の一つは,「言語活動の充実」です。言語を直接,学習の対象とする国語科だけが取り組んでいく課題ではなく,各教科等の全ての授業を対象に「言語活動の充実」が求められているのです。 出版にあたり当初の企画会議では,「どの教科等の授業でも言語活動の充実を図るためには,具体的には,どのような手だてを打てばよいのか…,子どもが発表や説明をする機会を増やせばよいのか,話し合いを中心に授業を進めたらよいのか,振り返りをしっかりと書かせればよいのか」,「そのような活動は,これまでもある程度は行ってきているが,それでは,各教科等の特性に応じた言語活動の仕組み方がはっきりとわからないのではないか」といった意見が出されました。 度重なる話し合いの中から,この課題を解決するキーワードとして,授業における「視点と方法」という言葉が浮かび上がってきました。そこで,「言語活動の充実」を図るための各教科等独自の「視点」と「方法」を具体的に洗い出して整理してみました。その結果,教師が,それらの組み合わせ方を授業のねらいに応じて工夫していくことで,あらゆる教科等の多様な活動における「言語活動の充実」を図ることができる可能性があることがわかりました。 これまで4年を1サイクルで本校単独の研究を12期続けてきており,その度に出版という形で研究の成果を世に問うてきました。今回提案する授業の仕組み方の発想は,これまでの研究の歴史を踏まえつつ,これからの時代を見据えた授業改善のための一つの切り札になると確信しております。 この小著を上梓するにあたり,懇切なご指導に加え,ご執筆までいただいた山口大学教育学部の先生方,そして,貴重なご意見をいただきました本校先輩同人の方々や山口大学教育学部附属光中学校の先生方,研究協力員をはじめとする山口県下の諸先生方に厚く御礼申し上げます。
また,巻頭言の執筆を快くお引き受けいただきました丸本卓哉山口大学学長には深く感謝の意を表します。 最後に,今回の出版にあたり,格別のご指導と心温まるご配慮を賜わりました明治図書の江部満様と佐保文章様に,心より御礼を申し上げます。
平成20年5月 山口大学教育学部附属光小学校 校長 /森田 俊介
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T 理論編(冒頭)
 「とらえかたツール」で言語活動の充実を図る
1 今,求められる言語活動の充実 2003年と2006年のPISA調査,及び2007年の全国学力学習状況調査の結果から,今の子どもは,思考・判断・表現等を問う読解力に関わる問題や,記述式問題,知識・技能を活用する問題に課題があることがわかりました。また,現在は,新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す「知識基盤社会」の時代とされ,そのような時代に対応するための能力として「生きる力」の育成が改めて強調されています(1)。 そのような状況のなかで,これからの教育のキーワードとして,「言語」が注目を集めています。人は言語によって思考し,人との関係をつくり,感性や情緒を豊かにしていきます。まさに,言語は,「生きる力」の支えとなるものです。また,先述した各調査の結果にある,今の子どもの課題を克服するためにも,授業での言語の位置づけを明確にする必要があります。今や,国語科及び各教科等における「言語活動の充実」による授業改善は,急務と言えるのです。 それでは,言語活動を充実させるために,わたしたちにできることは,どんなことでしょうか。
2 言語活動の充実を図るために まず,言語活動の充実を図るために考えられることは,記録,要約,説明,論述等,多様な言語活動を授業に取り入れていくという方法です。例えば,理科では,観察や実験をした結果を友達と比べて討論しレポートで表したり,道徳では,資料について互いに考えを述べ道徳的価値に気づいた上で資料の続きを考えて書いたりして,授業のなかのあらゆる場面をとらえて言語活動を設定していくのです。そうすることで,子どもは,各教科等それぞれがもつ表現方法に慣れ,それらを活用したり,コミュニケーションの力を高めたりすることができるようになるのです。 では,そのような言語活動を増やしていきさえすれば,子どもたちの言語の能力が高まり,「生きる力」が身に付いていくのでしょうか。量質転化という言葉があるように,量をたくさん積み重ねると質が変化することもあります。しかし,限られた授業時数を有効に使うことが求められるなか,言語活動の量的な充実だけでなく,質的な充実を図ることも大切になってくると言えるでしょう。そのために,言語活動のあり方を改めて吟味する必要があるのです。
3 言語活動の質的な充実とは ここでは,言語活動の質的な充実による授業改善を図っていくために,授業のなかでどのように言語が位置づいていけばよいのかについて考えていきます。 言語活動は,子どもの既有体験や授業における操作,表現,行為,思考等の諸活動(以下,学習活動)と,言語とを教師が意図的に関連づけて計画するものです。言語活動が充実するというのは,その関連づけが十分に機能した状況だと言えるでしょう。では,それは,具体的には,どのようなものなのでしょうか。わたしたちは,言語活動の充実を図る授業の様相について,以下の二つを見出しました。
[一般化に向かう言語活動]の様相 子どもの既有体験や学習活動を通して得たものが意味づけられ,他の学びに転用できる言語や,他者と認識を共有できる言語で表現される様相 [個別化に向かう言語活動]の様相 子どもの既有体験や学習活動を通して得たものが,自分なりの実感や納得を伴った言語で表現される様相
[一般化に向かう言語活動]の様相を,社会科の単元「岸信介と佐藤栄作が描く未来の日本〜平和な世界と日本〜」(p30〜p31参照)の実践で説明します。この実践では,子どもが岸信介の行った安保改正,佐藤栄作が行った沖縄返還を劇化する活動を行った後,教師が「二人はどのような日本をつくろうとしていたのか」と発問します。そうすることで,劇化したことの内容が言語によって整理され,二人が共通して「日米関係の強化による平和な日本」を目指していたことがわかり,二人の偉業が歴史的に意味づけられます。このように,活動に没入した後,教師による発問や指示によって,子どもがそれらの意味を見出したり,各教科等特有の一般化された言語と結びつけてとらえたりすることが重要です。 [個別化に向かう言語活動]の様相については,生活科の単元「生き物なかよし大使になろう」(p54〜p55参照)の実践で説明します。ここでは,友達がつくった「生き物ランド」を見て歩いたり,生き物に触れたりした体験をもとに,人気ある「生き物ランド」のよさについて話し合います。そうすることで,ヤゴの飼い方を振り返って,「共食いしないように隠れる場所をつくる」,「成長を願って餌をきちんと与える」等,一人一人の子ども独自の気づきが生まれます。このように,体験や活動で得たものがその子どもなりに解釈され,納得した発言や記述となり,整理されることが大切です。
(左右欄省略) (右欄・写真省略)
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U 実践編 [国語科](冒頭)
対話をもとにした書く活動を通して,言語活動の充実を図る
1 国語科における言語活動の充実 言語は,「知的活動(論理や思考)やコミュニケーション,感性・情緒の基盤であり,国語科において,これらの言語の果たす役割に応じた能力,感性・情緒をはぐくむことを重視する」とされています(1)。そのような重要な役割を担う国語科の言語活動の充実とは,どのようなことでしょうか。 各教科等において,国語科で培ったものを生かせるようにするためには,言語を,自分や他者が納得できる,わかりやすい言葉として使えるようにすることが大切です。そのためには,言葉の「確かさ」と「ふさわしさ」に目を向ける必要があります。 言葉の「確かさ」については,伝えたい情報において,原因−結果,主張−根拠,前提−結論等,言葉同士が矛盾なく関連づけられ,内容にも正確さがあることが大切です。そして,言葉の「ふさわしさ」については,相手が了解できるように,相手の背景や状況を踏まえた表現の仕方になっているかを吟味していくことが重要です。 以上のことから,国語科においては,言葉の「確かさ」や「ふさわしさ」を重視し,わかりやすい言葉を目指すことを言語活動の充実とします。 では,わかりやすい言葉を子どもに身に付けさせていくためにはどのような手だてが必要でしょうか。その活路は,「対話をもとにした書く活動」のなかにあります。 対話は,目的があり,創造的な営みです。子どもが問いをもち,その問いに関する友達との意見の共通点や相違点について比較し,吟味します。そこでは,互いの考えを認め合い,合意形成を行うための言葉の「確かさ」や「ふさわしさ」が求められます。そして,他者の価値観にふれて認識が深まり,自分の言葉が再構成されます。 そのような対話による成果を書き表して整理することが「対話をもとにした書く活動」です。具体的には,友達とのやりとりのなかで自分の考えに影響を与えた言葉を取り入れて,新たに生まれた言葉を書き表す活動になります(2)。対話によって得たことが,書くことによって明確になり,わかりやすい言葉につながっていくのです。 (右欄省略)
2 国語科における「とらえかたツール」 国語科における「とらえかたツールボックス」は,各領域別に分かれています。それぞれの領域の言語活動に「確かさ」や「ふさわしさ」をもたせるための「視点」と,言葉を吟味したり,再構成したりするための「方法」で整理しています。 例えば,物語文「ニャーゴ」(東京書籍2年上)で,主題に迫らせるために「読むこと(文学的文章)」領域の「とらえかたツールボックス」の中の「視点」と「方法」を組み合わせ,「 登場人物の心情 に着目して,言葉を置き換える 」という「とらえかたツール」を使うとします。これは授業で,「最初と最後に出てくる『ニャーゴ』を人間の言葉に直すとどうなるか」という発問になります。すると,前者には,「食べちゃうぞ」,「恐いだろう」等,後者には「ありがとう」,「またね」等の答えが出てきます。同じ「ニャーゴ」という鳴き声でも,子ねずみたちに対する心情が変化していることに,子どもは気づきます。その変化のわけを探ることから主題へと迫っていく道筋ができていくのです。
― 右欄 ― (2) 対話をもとにした書く活動には,以下の三つの段階があると考えています。
第1段階 心に残った友達の意見を書く(他者性の意識化) 第2段階 その意見を取り入れた理由を書く(根拠の明確化) 第3段階 友達の意見を取り入れて新たに生まれた自分の考えを書く(再構成)
以上のことを子どもに段階的に投げかけ,一つずつ付加していけるようにし,書けたことを価値付けていくと,対話による成果を実感できるようになるのです。
(図省略)
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[算数科](冒頭)
算数の解決方法を吟味する活動を通して,言語活動の充実を図る
1 算数科における言語活動の充実 算数科において,教師は,数の増え方や図形の構成要素などといった,数学的な視点をもとに,操作活動を設定することが大切です。子どもは,問題解決の場面において,その視点を手がかりに,ブロックなどの具体物の操作や,図などの半具体物の操作で,いくつかの解決方法を見出したり,そのなかでよりよい解決方法を探ったりすることができるからです。 このなかで,子どもは,問題の解決方法が幾重にも存在することを発見し,試行錯誤しながらその一つ一つの価値を吟味していきます。ここで出会った解決方法は,やがて子どもにとっての解決の道筋となり,自分自身の問題解決の選択肢として加わっていきます。そして,子どもが,数学的な思考力を育んでいく上で,力強い支えとなるでしょう。 この活動をより効果的なものにするために,これからの算数科の授業では,子ども同士が,自分の考えを表出させた図や式をもとにかかわり合うことが大切です。なぜなら,子どもの算数的な事象に対するとらえや立場は,友達とのかかわり合いにより,強固になったり,修正が加えられたりしながら,より確かなものへと発展していくからです。 このように,子どもが,図や式などをもとに,よりよい解決方法で表現し合う場を設定することで,算数科における言語活動の充実を図りたいと考えます。ここでは,子どもが,授業における大切な視点を手がかりに,よりよい解決方法を説明したり記述したりする姿を期待しています。 算数科における言語活動をより充実させていく授業の進め方を以下のようにまとめました。 @ 何に目を向けて取り組むのかを確認すること A どういう解決方法なのか,自分なりのとらえや立場を示すこと B どれだけの解決方法が存在するのかを友達と探り合うこと C どの解決方法がよりよいのかを見出していくこと D よりよい解決方法を,自分で使うことができるようになること (右欄省略)
2 算数科における「とらえかたツール」 算数科の「とらえかたツールボックス」では,子どもにとらえさせたい数学的な「視点」と,算数科で大切にしたい操作の「方法」を挙げています。そして,この「視点」と「方法」を,単元や題材の内容に合わせて「とらえかたツール」として設定します。 例えば,2年生の「かけ算」では,「整数の増え方」という「視点」が考えられます。次に,目指す授業がかけ算のきまりを見出させたいものであれば,それに合う「方法」と組み合わせて,「 整数の増え方 に着目して,きまりを見つける 」という「とらえかたツール」で授業をつくっていきます。 この授業のなかでは,算数的な活動のなかで大切にしたい子どもの操作に裏づけられた,よりよい解決方法が表現されることが期待されます。さらに,「視点」のある授業を繰り返すことで,子どもたちが,授業の流れを自らよみ,流れを予測しながら授業に参加できるようになることを目指しています。 (図省略) (右欄省略)
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[生活科](冒頭)
気付きの質を高めていく活動を通して,言語活動の充実を図る
1 生活科における言語活動の充実 生活科では,子どもが思いや願いを生かして,身近な人や社会,自然に働きかけていくことを重視しています。そこで,授業においては,子どもが自分なりの思いや願い,見方や感じ方を表現することを通して,自分らしさを際立たせていくようにすることが大切です。そして,具体的な活動や体験を通して,自分なりの思いや願い,見方や感じ方をより実感の伴った言葉で表現し合っていくことで,生活科における言語活動の充実を図っていくのです。 そのために,わたしたちは,「気付きの質を高めていく活動」を次のように定義し,重視することにしました。
具体的な活動や体験をするなかで,自他が抱いた気付きを語り合ったり,その価値を吟味し合ったりして,より明確な価値のある気付きに更新していく活動
ここでは,自分の活動の意図や考えの根拠を語り合わせたり,自他の気付きの共通点や相違点を見出させたりしていきます。新たな気付きを得た子どもは,これまでの自分の活動を見直す必要感をもつようになります。そして,新たな活動が展開できるようにしていくのです。その際に大切なことは,教師が,次のような気付きについて,価値づけや関連づけを行うことです。
○知的な認識の芽となる気付き ○新たな活動に発展していく質をもった気付き
ここでは,秋の自然物で作ったおもちゃで遊ぶ場面を例に説明します。そのときの,「どんぐりごまは,ずんぐり型で,軸が短い方がよく回るみたいだぞ」という子どもの気付きは,知的な認識につながる気付きと言えるでしょう。また,「誰が一番上手に回せるか,時間を計って勝負しよう」という子どものアイディアは,ルールづくりを工夫して,いっそう魅力的な活動に発展させていける質をもっていることがわかります。このような気付きを生かして,子どもは学びを展開していき,気付きの質を高めていくのです。 (右欄省略)
2 生活科における「とらえかたツール」 わたしたちは,生活科の学習内容の系統性を踏まえ,以下のような「とらえかたツールボックス」を構成しました。ここでは,特に「社会とのかかわり」領域と「飼育・栽培」領域の「とらえかたツールボックス」について説明します。 生活科では,子どもが,思いや願いを生かし,探求心を育みながら対象に働きかけて,対象への気付きを深めていくとともに,その行為をもとに自分への気付きも深めていくことを目指しています。したがって,「とらえかたツールボックス」の「視点」を「対象」と「自己」に分けています。 例えば,野菜の栽培を行う学習を例に考えてみましょう。「対象」を「視点」とした場合は,「 野菜の性質 に着目して,気付きを??関係づけて語り合う 」という「とらえかたツール」が考えられます。子どもは,自分で調べた野菜の育て方や,世話をしてきた体験をもとに,野菜に合った世話の仕方を語り合い,かかわり方を深めていくでしょう。また,「自己」を「視点」とした場合は,「 満足感 に着目し,気付いたことを劇化する 」という「とらえかたツール」が考えられます。子どもは,他者と創意工夫しながら,がんばって野菜を育ててきた自分の成長やよさを見つめ直し,自分に対する気付きをいっそう深めていくでしょう。 (図省略) (右欄省略)
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[図画工作科](冒頭)
自分の思いを明らかにする活動を通して,言語活動の充実を図る
1 図画工作科における言語活動の充実 図画工作科では,つくり,つくりかえ,つくりつづけていくような,よさや美しさを追い求めていく子どもを育んでいくことを目指しています。しかし,実際には,表現することに自信がもてなかったり,何をどう表現してよいかということに戸惑いを見せたりする子どもの姿があります。また,表現した後に,自分の思いとかけ離れていることに気づいても,表現し直そうとしない子どもの姿も見受けられます。その原因はさまざまですが,多様なよさや美しさを交流したり,実感したりする機会が少なかったことや,つくりかえる場や時間の確保がないことなどが考えられます。さらに,身に付けさせたい基礎基本や技能があいまいになって,指導することが軽視されてきたことも一因です。 したがって,子どもが,よさや美しさを追い求めていくようにするためには,多様なよさや美しさに触れさせながら,感動や満足感がある美的体験をさせたり,基礎基本や技能を定着させたりすることが大切です。 そのために,自分の表現を振り返らせたり,自他の作品のよさや美しさについて語り合わせたり,造形遊びで実感した思いを交流させたりします。これが,図画工作科における言語活動となります。 つまり,人は同じものを見ても表現しても多様なとらえ方があり,よいもの,美しいものに対する価値観は違います。そういったものを交流させることで,多様なものの見方・感じ方があることに気づき,自分のよさや美しさの枠組みを広げたり,新たな発想が生まれたりするのです。 それでは,図画工作科で言語活動を充実させていくためには,どのような手だてが考えられるでしょうか。わたしたちは,「自分の思いを明らかにする活動」にその糸口があると考えています。 この活動では,最初に,自他の作品や造形活動をどうとらえているか自己評価や相互評価をさせます。次に,全体の場で作品や活動から感じ取ったよさや美しさやその根拠について語り合わせます。そのためには,よさや美しさの根拠となる造形要素を抽出させていくことが大切となります。なぜなら,ここで抽出され,共通性を見出し一般化された造形要素が,本時における身に付けさせたい基礎基本や技能となるからです。さらに,これまでに表現したものや既習体験に学んだことをどう生かすことができるか考えさせながら,表現するもののイメージをもたせたり,再表現させたりします。 そうすることで,子どもは,広げていったよさや美しさを実感しながら,自分なりの表現を見出していくようになるのです。 このような活動を繰り返し行うことで,子どもは,よさや美しさを追い求めていくようになると考えます。 (右欄・写真省略)
2 図画工作科における「とらえかたツール」 図画工作科の「ツールボックス」は,表現物をつくり出すための色や形などの造形要素等を「視点」に,言語活動につながるような,領域ごと特徴的な学び方を「方法」に示して構成しています。 例えば,ガムテープの芯を多量に用いた造形遊びでは,造形遊びの途中で,「 形 に着目して よさや美しさを見出す 」という「とらえかたツール」を使います。子どもは,造形遊びで体験したことをもとに,丸のよさや美しさについて語り合っていきます。そのなかで,他の形では当てはまりにくい,丸の美しさや他の形では見られない表現の多様性,丸にしかできない遊びに気づくことができます。 また,アンディー・ウォーホルの「マリリン」の鑑賞では,感想を書かせた後に,「 色 に着目して 題をつける 」という「とらえかたツール」を使います。子どもは,題の根拠について語り合っていくことで,色に対する多様なものの見方・感じ方があることに気づき,気持ちを色で表わすことのよさや美しさについて理解を深めていきます。 (図省略) (右欄省略)
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[体育科](冒頭)
動きをイメージ化していく活動を通して,言語活動の充実を図る
1 体育科における言語活動の充実 体育科の運動領域では,仲間と共に実際に運動やゲームを行う活動を中心に学習を展開していきます。しかし,その活動のなかで見られる自分や仲間の動きは瞬時に消え去ってしまうため,互いの動きを振り返ることが困難となります。そこで,互いの動きのよさや問題点を言語で表現していくという言語活動が求められます。仲間の動きの様子を文章,絵や図,映像などで記録し,伝えていくことで,自分や仲間の動きを客観的にとらえることができるからです。 それでは,自分や仲間の動きのよさや問題点を言語で表現していくには,どのような手だてが考えられるでしょうか。わたしたちは,「動きをイメージ化していく活動」にその糸口を見出しています。 ここでは,まず自分が目指そうとする運動のモデルと自分の運動の行い方とを比べて,動きの違いやズレに気づかせます。そうすることによって,子どもは自分の動きの課題を明確にしていきます。 次に,仲間の動きのよさを取り入れさせながら,自分が挑戦しようとする動きの可能性を探る場を設定します。ここで,子どもは,自分の動きの課題に対する解決方法を見出していきます。 このような「動きをイメージ化していく活動」を設定し,自分の動きの課題や解決方法を言語で表現していくことで,自分が目指す運動に再び挑戦するきっかけを生むのです。そこで,授業のなかでは次のような場面を取り上げ,言語活動の充実を図ることで,「動きをイメージ化していく活動」を活性化していきます。 ○動きに対するこだわりやつまずきが生じた場面での言語活動 「考えた通りにできない」,「動きの問題点がわからない」など,子どもの切実な思いが生じた場面を取り上げ,動きの問題点の原因や解決方法を探っていく言語活動を設定します。そして,互いの動きや作戦を比較し,よさや問題点に気づかせたり,目指す運動に近づくための見通しを明確にさせたりします。 ○運動の行い方についてトラブルが発生した場面での言語活動 運動やゲームが楽しめないとき,ルールやマナーの問題が発生したときなど,子どもの悩みや不満が生じた場面を取り上げ,誰もが楽しめる運動の行い方やルールをつくり出していく言語活動を設定します。ここでは,ルールに対する互いの考え方の違いや矛盾を明確にさせたり,運動やゲームの競い合い方を整理したりします。 (右欄・写真省略)
2 体育科における「とらえかたツール」 体育科の運動領域における「とらえかたツールボックス」は,子どもたちに身に付けさせたい学習内容の項目を「視点」に,その各項目における運動の学び方を「方法」に示して,構成しています。 例えば,跳び箱運動の台上前転では,台上前転の着手の技術 という「視点」に焦点をあてた学習が考えられます。その際,技術のポイントを発見させていく授業展開を考えるのであれば,自分と仲間の動きを比較する という「方法」が挙げられます。ここでは,着手の位置の違いを見つけ,そこからうまく前転するためのポイントに気づくことができるようにします。 また,台上前転で仲間と動きをシンクロナイズする場合には,跳び箱の使い方 という「視点」に着目させた学習が考えられます。その際,仲間とタイミングを合わせていく授業展開を考えるのであれば,場設定を変える という「方法」が挙げられます。ここでは,タイミングを合わせやすくするために跳び箱を対面型に配置したり,横に並列的に配置したりするなど,場設定を工夫できるようにします。 このように,「視点」と「方法」を明確にし,ねらいを絞った授業を行うことで,自分の動きの課題を明確にした言語や新たな解決方法を見出した言語を生み出しやすい状況をつくることができると言えます。 (図省略) (右欄・写真省略)
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「しおさい」(総合的な学習の時間)(冒頭)
「自分なりの応え」をもとに語り合う活動を通して,言語活動の充実を図る
1 総合的な学習の時間における言語活動の充実 価値観が多様化している現代社会。人生のスタート地点にいる子どもは,多様にある幸せ観のなかから納得できる生き方モデルを求め,それに近づくために「自分はどうしたいのか,どうすべきか」を考えることが大切です。また,誰もが幸せであると感じる社会を築くために,「自分には何ができるのか」を考えることが望まれます。 このような生きる方向性を照らし出すきっかけになるのが,見方・考え方や認識に,吟味する材料を提供したり,楔の役割を果たしたりする体験です。そのような体験の意味や価値,体験で変容した見方・考え方や認識を自覚する術を身に付ければ,子どもは,生きる方向性を照らし出すことができるでしょう。 そこで,わたしたちは,生きる方向性を照らし出す指針となる「自分なりの応え」をキーワードにして学びを構想することにしました。 「自分なりの応え」は,「自分見つめの時間」のなかで書くことによって対象に対する自分の見方・考え方や認識を整理し,「□は,ズバリ!○○である」と言い切ったものであり,次のように定義します。
より客観性のある対象についての情報や他者とのかかわり合いをもとに導き出した,自分が行動を起こす際の指針となるもの
子どもは,まず,課題設定の過程で,いったん予想としての「自分なりの応え」をまとめ,それをもとに対象と繰り返しかかわりながら追求活動を進めます。追求を始めた子どもが,より客観性のある「自分なりの応え」に辿り着くためには,教師は,自他の「自分なりの応え」をもとに語り合わせ,「共通の応え」を導き出させる場を設定する必要があります。そこでは,子どもは,「自分なりの応え」と追求活動に裏づけられた具体的根拠とを往復せざるを得なくなり,その往復が,見方・考え方や認識に楔の役割を果たします。そして,語り合う活動の途中で,教師は,子どもの思考を収束させる発問をし,語り合う仲間が納得する「共通の応え」を導き出させます。このような活動が,総合的な学習の時間における言語活動です。 その後,「自分見つめの時間」を設定し,「共通の応え」をもとに「自分なりの応え」を導き出させます。さらに,それを導き出した具体的根拠を,文章や箇条書き,必要に応じて図や絵,グラフなどを用いて表現させます。そうすることで,子どもは,新たな追求活動の方向性を見出したり,追求活動や言語活動の自分にとっての意味や価値,高め合う仲間のすばらしさを実感したりします。 教師は,子どもが「自分なりの応え」をどのようにその根拠とともに変容させたのかをみとり,それをもとに,今後の授業を構成します。子ども自身にも,「自分なりの応え」の変容は自分の追求活動を振り返り,意味づけていくための術となります。 (右欄省略)
2 総合的な学習の時間における「とらえかたツール」 総合的な学習の時間の「とらえかたツールボックス」は,対象についての自分なりの見識を創るために必要な「視点」と,対象の本質に迫るために他者と語り合う際の「方法」とで構成します。 本校の成長領域における単元を,例に挙げてみましょう。この領域における対象は,自分自身です。しかし,自分自身と向き合うだけでは,成長を実感したり,持ち味に気づいたりできません。そこで,自分が大切にしてきたものやそれに対する自分の思いや願いを調べ,その変遷を見つめさせる単元を設定することで,子どもの成長や持ち味を浮かび上がらせます。つまり,「こだわりの もの に着目し,変遷しているもの,出来事を見出す 」という「とらえかたツール」で授業を構成します。身近な人々にかかわりながら追求を進めるうちに,「身近な人々の 思いや願い に着目し,自分を支えている人,もの,出来事を見出す 」という「とらえかたツール」で授業を構成する必要も出てきます。 このように,領域や単元のねらいと内容,子どもの追求活動の様子に応じ,「視点」と「方法」を選びます。 (図省略) (右欄・写真省略)
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おわりに
教育の歴史は,教師主導の「教える」ことと,子ども主体の「学ぶ」ことの二極を振り子のように揺れてきました。平成14年に,遠山文部科学大臣が出した「学びのすすめ」が,分水嶺でした。あの時,時代の歯車は,スプートニクショック(経済社会の発展に対応した教育改革)以来の教える側に立つ確かな学力観に方向転換したのです。それは,31年ぶりのことでした。しかし,「教えること」と「学ぶこと」は,二律背反するものではありません。時代の要請の中で,この二つの要素がそれぞれのバランスを微妙に変化させ,コインの裏表のように教育を成立させているのです。 本校の教育は,これまでも教師の指導性を重視しながらも,子どもの学びの道筋を解明する「授業研究」として全国に発信してきました。教育の世界にも,流行がありますが,わたしたちは時代に迎合することなく,普遍的教育を追い求めてきました。 「OECD 生徒の学習到達度調査」や平成19年度の「全国学力学習状況調査」などを受けた新学習指導要領では,「知識基盤社会」での「生きる力」(PISA型読解力等)の育成を目指しています。この流れを見てわたしたちは,これまでの研究の方向性に,確信を抱き始めているところです。皆様の率直なご意見を得て,さらに研究を深めていきたいと思います。 世界は,グローバル化とともに,あらゆる分野で大競争時代を迎えています。これまで,日本の優秀さを形容するとき,「ものづくり日本」という言葉が使われました。しかし,戦後60年の教育の成功があったからこそ,実現し得たことであろうと思うのです。これからもわたしたちは,「人づくり日本」を目指して教育実践をしていきたいと思います。 おわりに,輝かしい本校の研究風土を築いてくださった皆様方に感謝するとともに,小著が,道に迷ったとき,手を伸ばしていただける珠玉の一冊となることを願い,筆を置きます。
山口大学教育学部附属光小学校 副校長 /藤山 一夫
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