- はじめに
- 序章 「人間」や「社会」に対する関心を高める教育実践
- 一 本授業プログラムがめざすもの
- (一) 心理学を活用した授業がめざしたもの/ (二) 柔軟な心をめざして/ (三) 人間関係の基礎トレーニング
- 二 社会性を育むための授業へ向けて
- (一) 心理学を活用した新しい授業例(姉妹書の概要)/ (二) 社会性を育むための授業例(本書の概要)
- T章 「他者(ひと)」の立場で考える
- 心理学的背景
- (一) 求められるやさしさ・思いやり/ (二) 共感性/ (三) 他者に対する意識の拡大/ (四) 他者に対する意識の深化
- 授業例@ 目の前にはいない人の存在まで意識する
- 授業例A 他者の立場に立ってみる
- コラム 他者の視点がとれない子ども
- U章 「まとまり」として見る心
- 心理学的背景
- (一) 人間は「認知的倹約家」である/ (二) 「まとまり」として見る/ (三) いろいろな「まとまり」に属する私たち
- 授業例B 「まとまり」として見てしまう
- 授業例C いろいろな「まとまり」に属する私
- 授業例D 人によって「まとめ方」は違う
- 〜あの有名人も自分と同じ「まとまり」!〜
- コラム 「まとまり」として見る要因
- V章 「グループにすること」と「グループになること」のメリット・デメリット
- 心理学的背景
- (一) 「まとまり」として見ると、どんなことが起きるのか?/ (二) 「まとまり」を使って心地よくなる?/ (三) 「みんなが考えている」と安心?/ (四) 人との関わりのなかで自分をみつめる
- 授業例E 同じ「まとまり」の人はみんな同じ?
- 〜ステレオタイプに基づいた考え方〜
- 授業例F 積極的に「まとまり」を利用する
- 授業例G 自分の意見はみんなの意見?
- コラム 「みんなと同じ」で安心するとき、しないとき
- W章 「グループ」のなかで活動するとき
- 心理学的背景
- (一) 「グループ」ならではの現象の存在/ (二) みんなの意見にあわせてしまう二つのプロセス/ (三) 他者の言動がもたらす情報/ (四) 集団としてまとまる力の影響/ (五) 内に優しく、外に厳しく
- 授業例H 「自然に」まわりの人にあわせる現象
- 授業例I 友だちには受け入れられたい
- 〜同じような意見の人だけで考えてしまうと〜
- 授業例J グループになることで、ものの見方や行動が変わる
- コラム 他者と同じ行動をとる
- X章 ゲームで学ぶ協力行動
- 心理学的背景
- (一) 親切にするのは誰のため?/ (二) 囚人のジレンマとは?/ (三) 日常場面でのジレンマ状況/ (四) どうすればよいのか?
- 授業例Kー一:二つじゃんけんゲーム〜実施編〜
- 授業例Kー二:二つじゃんけんゲーム〜解説編〜
- コラム 「社会問題」のシミュレーションゲーム
- Y章 新しい授業へ向けてのQ&A
- 一 はじめに
- 二 Q&A
- (1) 他の校種では?/ (2) 教師が二つの役割を?/ (3) 総合的な学習でOK?/ (4) 道徳教育との関係は?/ (5) 他の心理学的アプローチとの違いは?/ (6) 学力との関係は?/ (7) 保護者への説明は?/ (8) 日常生活での効果が期待できるの?/ (9) 教師の研修が必要?/ (10) 「まとまり」が大切なの?/ (11) 一年間の成長を…/ (12) 「かもしれない」って自信がなさそう?
- 終章 「心の教育」としてのソーシャルライフ
- 一 心の教育とは
- (一) 何のために生きるのか/ (二) ゆれる青少年の心/ (三) 「考える力」を育てること
- 二 三年間の授業を通して感じたこと
- 三 二十一世紀の社会
はじめに
本書は、二〇〇二年六月に明治図書から出版された21世紀型授業づくり48『教室で学ぶ「社会の中の人間行動」―心理学を活用した新しい授業例―』の姉妹編です。正確にいえば、二〇〇〇年四月から翌年の三月までの中学一年生を対象に実施した授業プログラムが前書に掲載されています。そして、二〇〇一年四月から二〇〇三年三月までの中学二年生と三年生を対象に実施した授業プログラム内容が、本書に掲載されています。本書の概要については、序章に書かれていますので、敢えて紹介いたしませんが、基本コンセプトは前書と同じく、「人間や社会について考える能力」を刺激し、「社会志向性」や「社会的コンピテンス」を高める教育の実践です。
前書が出版されてから、我々の教育実践を多くの教育関係者に知ってもらうため、都道府県で行われた教員研修会、日本教育心理学会や日本社会心理学会におけるシンポジウム、「学校心理士会」研修会、附属学校における教育研究協議会、地域の公開講座や現職教員を中心とした大学院での集中講義など、実にさまざまなところで研究全体の背景や目的、具体的な授業実践例を紹介してきました。研究者は、そうした取り組みをすること自体に敬意を表してくれますが、それと同時にどのような効果が見られるのかにも関心を示します。公開講座に出席している保護者は、概ね賛意を示してくれます。
肝心の教師集団なのですが、この反応は見事に分かれます。生徒指導やクラス運営に関心を持ち、学校の役割を広く考えている先生方ほど、肯定的な捉え方をしてくれますが、教科教育の実践こそが学校の中心的役割だと考えている先生方ほど、否定的な捉え方をします。たぶん、教育観や教師の役割観の違いによるものだと考えられます。しかし、こうした授業を実践することが、教育観や教師の役割観の変革を促し、生徒の「心の教育」にも役立つことだと、筆者らは確信しています。
本書の特徴は、各章の初めに心理学的背景が記述され、心理学について特別な知識を持っていない学校の先生方にも、その章の授業例が意図していることを理解しやすくしてあることです。さらに、コラムを設けて、心理学的な背景を実証している代表的な実験や調査も紹介されています。授業例に関しては、すぐにでも実施できるよう細かな手順や配付資料の例まで掲載されていますが、決してこの通り実施しなければならないものではありません。授業者が自由にアレンジしていただくことは可能です。授業の順序性も、多少ありますが、これも厳密なものではありません。ア・ラ・カルト方式で実施していただくことも自由です。実施学年も、内容を若干変えていただければ、小学校や高校でも可能だと思います。最近では、複数の小・中・高校から実施に際しての相談を受けたりしていますが、執筆者一同、一人でも多くの先生方に実施していただけることを熱望しています。
最後になりましたが、本書が完成するまでには、多くの方々のご支援があったことを付記いたします。まず、新しい授業の試みに対し、実施環境に配慮してくださった元附属学校長速水敏彦先生、前附属学校長今津孝次郎先生、授業案の作成や授業の実施にご協力くださった附属学校の先生方には、とりわけ深く感謝いたします。また、姉妹編の出版を快く承諾してくださった明治図書の江部満相談役にも、改めて感謝の意を表したいと思います。
平成一六年十月 編者を代表して /吉田 俊和
-
- 明治図書