- はじめに
- 第1章 行動を解釈し,個に応じた指導を編み出すために
- 1 発達障害児が示す困難さとは
- 2 行動には意味がある
- 3 行動の意味を解釈するということ
- 4 発達障害児へのピンポイント指導
- (1) ピンポイント指導とその必要性
- (2) 発達論的視点からのピンポイント指導〜できるところから始めることの意味〜
- (3) 行動論的視点からのピンポイント指導〜できたらほめることの意味〜
- (4) 認知論的視点からのピンポイント指導〜強い情報処理様式を活用することの意味〜
- 第2章 困った行動の解釈とピンポイント指導
- T 行動上の問題
- 1 「いくら声をかけてもテレビゲームから離れられないんです」
- 2 「なぞなぞが苦手なんです」
- 3 「教師の話をちゃんと聞いていないんです」
- 4 「大事なことに答えないで,関係のないことばかり答えてしまうんです」
- 5 「朝からボーっとしていることが多いんです」
- 6 「トイレに行ったきり,なかなか戻ってこないんです」
- 7 「集会などで大きな声を出してしまうんです」
- 8 「人が話している途中に口をはさんだり,話が突然飛んだりするんです」
- 9 「鉛筆を削りに行くと必ず友達とトラブルを起こすんです」
- 10 「言いたいことが言葉にできずイライラしたり,すぐ手が出てしまうんです」
- 11 「友達と一緒にいることが苦手で,すぐ保育室から飛び出します」
- 12 「授業中,椅子をバタバタさせたり,すぐに立ち歩いてしまうんです」
- U 社会性の問題
- 1 「『もう少し』『ちょっと』などが理解できないんです」
- 2 「人の嫌がることを平気で言ってしまうんです」
- 3 「言葉を字義通りにしか受け取らないんです」
- 4 「自分の話したいことばかり話して,相手の話は聞かないんです」
- 5 「僕の成績をみんなに言いふらしていると言ってきかないんです」
- 6 「今,怒られたばかりなのに,全然反省していないんです」
- 7 「一度に多くのことを言われると混乱してしまうんです」
- 8 「偶然とわざとの違いがわからず,友達とすぐ喧嘩をするんです」
- 9 「ドッジボールで僕ばかりぶつけると言って,すぐにやめてしまうんです」
- V こだわりの問題
- 1 「バスの運転手に定期の見せ方を注意されてから,バスに乗るのを嫌がるんです」
- 2 「いつも同じ手順でやりたがるんです」
- 3 「遊びが『遊ばなければ』になってしまい,途中でやめられません」
- 4 「気になりだしたら,一方的にしつこく質問するんです」
- 5 「自分だけのルールをつくってしまうんです」
- 6 「急な予定変更に対応できないんです」
- 7 「遊びのルールが受け入れられず,パニックになるんです」
- 8 「エレベーターが気になって,必ず見に行くんです」
- W 学習上の問題
- 1 「教科書は読めるんですが,意味がわからないんです」
- 2 「漢字を書くのが苦手なんです」
- 3 「漢字をバランスよく書けないんです」
- 4 「板書を写すのに時間がかかるんです」
- 5 「紋切り型の文章ばかりで作文を書くのが苦手なんです」
- 6 「かずは唱えられるのですが,いくつあるのかわからないんです」
- 7 「計算ができないんです」
- 8 「やり方を変えたら,できたものができなくなってしまったんです」
- 9 「アナログ時計が読めないんです」
- X 運動上の問題
- 1 「上・下,たて・よこなどの位置関係がよくわからないんです」
- 2 「折り紙を折るのが苦手なんです」
- 3 「絵を描くことが苦手なんです」
- 4 「かけっこが苦手なんです」
- 5 「ラジオ体操ができないんです」
- 6 「縄跳びが上手に跳べないんです」
- 7 「ボール遊びが苦手なんです」
- 【コラム】
- 予告することの意味
- 認知処理様式と指導方略
- 継次処理と同時処理の話
- 日本酒には同時処
- 「困った子」と「困っている子」
- 自分を客観視できたA君
- 「こころの理論」ってなに?
- 共同注意行動
- 「なぜ?」という質問
- 「応用行動分析」ってなに?
- 暗黙の了解1
- 暗黙の了解2
- プランニングってなに?
- 流動性知能と結晶性知能
- 関心の偏りを部分へのこだわりと解釈すると見えてくること
- 心理検査を実施することの意味
- 指差し確認の効用
- ワーキングメモリってなに?
- PASSモデル
- 「短所改善型指導」と「長所活用型指導」
- 計数を習得するための五つの原理
- とっても仲良し「かずの3兄弟」
はじめに
平成19年4月,学校教育法等の一部改正に伴って,「障害に応じた」いわゆる障害のある子どものための「特殊教育」から,「ニーズに応じた」いわゆる特別な教育的支援を必要とする子どものための「特別支援教育」へと質的転換が図られ,LD等の発達障害の子どもたちへの支援の取組みが進められています。
この特別支援教育の推移は,「発達障害とはいかなる障害か」とか「発達障害のことをもっと知って」といった理解・啓発運動から始まり,「特別支援教育はこう在るべき」「サポート体制はこう在るべき」といった理念や在るべき論へ移行し,ようやく「改善に向けた取組みの実際」とか「事例に基づいた支援のノウハウ」等の具体的な取組みが報告されるようになってきました。
しかし,各学校における特別支援教育の取組みはまだ緒についたばかりで,人や財政面はもとより,効率的な校内支援体制の確立,活用できる資源の調整,具体的な支援方法の検討やノウハウの蓄積等,課題はなお山積しています。さらには,日本の伝統的な授業形態である「一斉指導や集団指導」における「高めあい」「響きあい」といった価値観を踏襲しながらも,「個に応じた」「一人ひとりの学び方に応じた」指導を展開することの難しさについては,改めて,教壇に立つ教員の誰もが気づき始めているところでもあります。
いまや,発達障害への知識や理解は格段に広がりました。彼らがどんなところでつまずき,どういったところに困り感を抱いているのかを予想することも難しくなくなりました。これからは,授業場面で,集団活動の中で,この子たちを「いかに上手に指導していくか」という点について本質的な議論が求められています。
医者は子どもの症状から様々な診断を下し,投薬等を施しながら適切な治療を行います。しかし,教育者はその子の診断名から指導を展開するわけではありません。教育者の使命は,診断名を参考にしつつも,子どもの思いや行動を解釈し,心理検査等から得られた情報(子どもの認知特性,得意な学習方法,一度に学べる学習量等)を参考にしながら指導方法を検討し,個に応じた適切な指導を展開していくことです。
本書は,発達障害の子どもたちが家庭や学校等で示す「いわゆる困った行動」に焦点をあて,彼らの思いや行動を心理・教育的な視点から解釈し,改善に向けた教育的アプローチ(ピンポイント指導)について,教育者の視点から実践的・具体的に提言しました。
なお,本書の刊行にあたっては,本企画にいち早く関心を示してくださり,格段のお世話をいただいた明治図書の長沼啓太氏を初め,実に豊かな子どもたちの姿や学校の風景を描いてくださった幌西小学校の菅原清貴校長先生に心から感謝するしだいです。
平成21年3月10日 編著者 /青山 眞二 /五十嵐 靖夫 /小野寺 基史
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- 明治図書