混迷の時代!“社会科”はどこへ向かえばよいのか
―激動の歴史から未来を模索する―

混迷の時代!“社会科”はどこへ向かえばよいのか―激動の歴史から未来を模索する―

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災害が問いかける“社会科ポリシー”再編成の第一級文献

福澤諭吉の地理教科書、伊藤博文の修身が公民へと、社会科は戦前にもあった?!敗戦で花形教科となりながら、常に教科アイデンティティを問われている歩みをレポート。その中で、どういう教師がどういう授業ドラマを展開していったか。本格的に研究する人の必読文献。


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ISBN:
978-4-18-039627-6
ジャンル:
社会
刊行:
対象:
大学
仕様:
A5判 192頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

刊行のことば―いまこそ歴史の扉を開く―
/片上 宗二・木村 博一・永田 忠道
1章 近代への船出! その時,日本に社会科はあったのか?
1 日本で最初の地理教科書が描いた世界
―想像し続け創造に至った福沢諭吉の『世界国尽』 /永田 忠道
(1) 学校と社会に関わる教育の始まり
(2) 福沢諭吉の世界体験
(3) 福沢諭吉の描く世界
(4) 福沢が問いかけるこれからの社会科のあり方
2 戦前の公民科に見る初期社会科の原型
―伊藤博文の修身教育観が内包していたもの /釜本 健司
(1) 伊藤博文と元田永孚の論争
(2) 伊藤の修身教育観から見た修身教育の展開
(3) 伊藤の修身教育観を実現した戦前「公民科」の成立
3 その場にいる気にさせる歴史教科書の仕掛け
―わかりやすく・教えやすい『初等科国史』 /角田 将士
(1) 歴史教育にとって幸福な時代
(2) 『初等科国史』および『初等科国史 教師用書』の内容
(3) 歴史教育の歴史から何が学べるか
4 郷土研究が拓いた社会科前史
―小田内通敏の「綜合」郷土研究論とその実践的展開 /外池 智
(1) 昭和初期における郷土教育の隆盛と郷土教育関係施策
(2) 小田内通敏の郷土研究論
(3) 郷土教育の実践的展開
5 「トマト日記」:調べた綴方からの出発
―社会科につながった社会研究科への変遷 /谷口 和也
(1) 日本における社会科前史
(2) 社会認識教育としての生活綴方
(3) 生活綴方から調べた綴方へ
(4) 「科学的綴方」の提唱と理論の先鋭化
(5) 生活綴方の限界とカリキュラムの作成
(6) 鈴木道太の「論文学習」
(7) 「生活教育論争」と社会研究科構想
(8) 戦前の「社会研究科」構想
(9) 豊かな日本の社会認識教育の基盤
コラム@ 教養知,定型知,科学知のバランスのとれた育成 /岩田 一彦
コラムA 戦前の「社会科」構想 /河南 一
コラムB 郷土教育運動 /伊藤 純郎
2章 ここにあり! 戦後,社会科誕生のヒミツ
1 GHQによる修身・国史・地理の授業停止命令
―『くにのあゆみ』が果たした役割 /梅野 正信
(1) 国民科と社会科
(2) 「墨塗り教科書」から「三教科目停止指令」へ
(3) アメリカ国務省の計画
(4) 公民教育の開始,地理の授業再開
(5) 『くにのあゆみ』の刊行,授業の再開
(6) 社会科新設と歴史教科書の行方
2 草の根からの社会科の立ち上げ
―民の動きに刺激された? 文部省の模索 /片上 宗二
(1) 我が国の社会科はアメリカの押しつけか
(2) 教育現場における社会科へ至る道筋の多様性
(3) GHQによる三教科目停止指令の主体的受け止めと「社会学習」
(4) 文部省の「教科課程改正委員会」に影響を与えた社会科プラン
(5) 新しいカリキュラム構成の研究から社会科へ
(6) 石橋勝治と今井誉次郎の取り組み
(7) 中等および高等教育段階における社会科設置の試み
3 社会科初期,どんなプランがあったのか
―代表的なカリキュラムを検証する /木村 博一
(1) 社会科とコア・カリキュラム運動
(2) 社会科プランの類型化と特色
(3)初期のプランから見た今日の社会科教師
コラムC 社会科誕生期の哲学と志 /小原 友行
コラムD 地域教育実践の新たな知見 /臼井 嘉一
コラムE 韓国における社会科の成立 /朴 南洙
3章 新教育のスター! 社会科の最も熱い時代
1 代表的な民間教育団体4つの志とその授業
―いま,先達が問いかけるもの /福田 喜彦
(1) 社会科の求める人間像と民間教育団体の設立
(2) 問題解決学習と社会科の初志をつらぬく会
(3) 歴史の系統的学習と歴史教育者協議会
(4) 日本社会の基本問題と日本生活教育連盟
(5) 自然地理先習論と教育科学研究会社会科部会
(6) 民間教育団体の歴史に残る授業から社会科に新たな学びを
2 「どんな社会を目指すか」燃え上がる実践家の情熱
―実験校プランから「山びこ学校」へ /木村 勝彦
(1) 学校ぐるみの新しい社会科の取り組み―桜田小学校における「実験的」社会科の試み
(2) 文部省の社会科に対して批判的改造を試みた実践―「西多摩プラン」と今井誉次郎
(3) 東北の山村から出現した社会科の試み―「山びこ学校」と無着成恭
(4) 社会科論争の歴史は現在の教育を考える鏡
3 社会科教育学研究は学問たりうるか
―社会科教育学会の意義と役割 /児玉 康弘
(1) 社会科教育学会の設立
(2) 社会科教育学の樹立
コラムF ヨーロッパにおける市民性教育の歴史 /池野 範男
コラムG 日米における法関連教育の歴史 /橋本 康弘
コラムH 米国の社会科教育史の研究動向―NCSSを中心に /渡部 竜也
コラムI 韓国における社会科教育学会の歴史 /権 五鉉
4章 せめぎ合い! 大きな社会科と小さな社会科
1 危機を迎えた社会科のアイデンティティ
―高度経済成長と政治に翻弄される社会科 /桑原 敏典
(1) 公民的資質の登場―社会科の目標の「明確化」
(2) 態度目標の強化―教育内容編成の「体系化」
(3) ゆとり教育への転換と社会科解体への布石
(4) 社会科にしかできないこと(自主的自立的な思想形成)への回帰
2 諸外国の社会科が目指した方向
―市民的資質を育成する「意思決定力」とは /小田 泰司
(1) 1950年代前半のエングルの課題―社会科を何を学ぶ教科なのか
(2) 1950年代後半のエングルの課題―社会科は何を目指す教科なのか
(3) 1960年代前半のエングルの課題―社会科はどのような過程を通して学ぶ教科なのか
(4) 新しい時代に生きる市民のための社会科に向けて
3 なぜ生活科が誕生したのか
―社会科が忘れてきたものを再検討する /永田 忠道
(1) 低学年教育における社会科と生活科
(2) 社会科にできなかったこと・生活科だからできていること
(3) 社会科と生活科の共生のために
4 社会科解体はどう準備され進行したのか
―強引な政治ショーの背景は何か /茨木 智志
(1) 社会科教師として知っておいてほしいこと
(2) 現在まで続く1989(平成元)年版学習指導要領の枠組み
(3) 1989(平成元)年版学習指導要領の告示と教育課程審議会
(4) 教育課程審議会の発足と高校社会科存続の方向
(5) 高校社会科存続の方向の継続
(6) 「カミの声」とまるで「クーデター」の解体決定
(7) 学習指導要領作成の始まり
(8) 学習指導要領の案の公表から告示まで
(9) 教師自身が何を考えるかを考える必要
5 社会科にとって「総合」は何だったのか
―混迷の先にあるのは“存亡” /米田 豊
(1) 総合的な学習の時間と社会科との関係
(2) 「習得・活用・探究」と「総合的な学習の時間」,社会科
(3) 「総合的な学習の時間」と社会科は仲間か敵か
コラムJ 伝統と文化に関する教育の前史と現在 /中村 哲
コラムK アメリカ社会科教科書の中の「日本」 /鴛原 進
コラムL 米国における地理教育の歴史 /草原 和博
コラムM 小学校社会科実践の現代史 /岡ア 誠司
コラムN 米国における世界史教育の成立 /原田 智仁
コラムO クーデターもどきの高校社会科解体劇 /棚橋 健治
コラムP 小学校社会科「内容」再編の動き /北 俊夫
コラムQ 資格更新(教育免許更新制)と社会科の研修 /小山 茂喜
刊行によせて
/中野 重人

刊行のことば―いまこそ歴史の扉を開く―

 社会科の歴史を知らない先生が増えている,と聞きます。社会科の歴史をしっかりと学んで教壇に立つことが少なくなっている,ということでしょうか。残念な気がします。そこで私たちは,いまこそ,社会科の歴史の扉を開こう。そして,扉の向こうに見えてくる社会科激動の姿をしっかりと見据えて,これからの社会科の発展に心を砕こう。そのような熱い思いを発信したくて,本書を企画いたしました。

 周知のように,我が国の社会科は,第二次世界大戦後の教育改革によって,新しく誕生した教科です。その意味では,占領下という特殊状況下での出来事と言わなければなりません。しかし,だからといって,社会科は押しつけられて成立した教科と捉えてはならないでしょう。その芽は,戦前期の様々な試みの中に胚胎していましたし,敗戦直後の教育現場の多様な取り組みの中にも芽生えていたのです。本書を手に取って確認していただければ,と思います。

 ところで,第二次世界大戦後,呱々の声を上げた社会科は,子どもと教師に夢と希望を与える教科として出発します。子どもたちに社会についての自由な追究と新しい社会の建設への主体的な参加を促すとともに,そのためのカリキュラム創造の自由が,我が国の近代教育史上初めて教師に与えられたからなのです。全国で,様々な社会科のプランが作成されていきました。子どもたちの生き生きとした社会の学習が展開されることになります。新教育の目玉教科,新教育のスター,それが社会科だったのです。

 ですが,その社会科も,社会や政治の荒波にもまれることになります。社会科を解体して,地理や歴史を独立させようといった動きが登場してきます。さらには,学力低下といった批判も現れてくるのです。

 そのような流れの中で1958(昭和33)年には,学習指導要領の第2次全面改訂(社会科だけは第3次の改訂になります)が行われます。それまで,「試案」として位置づけられていた学習指導要領に,法的拘束力が加えられることになります。自由なカリキュラムの作成や授業づくりに制約が加えられることになったのです。スケールの大きな社会科か,知識をしっかりと習得させる方向での小さな社会科か,せめぎ合いの始まりともなりました。本書で,この点についても,理解を深めていただければと思います。

 その後の社会科の動きについては,ご存知のように,平成に入って小学校の低学年に生活科が導入され,高校の社会科も地理歴史科と公民科に再編されてしまいました。社会科は,小学校の3年から中学校の3年までの合計7年間の教科に成り下がってしまったのです。

 しかし,21世紀という先行き不透明で変化の激しい時代を生き抜いていかなければならない子どもたちにとって,社会科の持つ役割は,今後ますます大きくなると言わざるを得ないでしょう。自分の力でしっかりと社会の事柄を捉え,そのことを踏まえて,社会に参画していくことが求められてくるからです。

 本書では,新たな社会科像を歴史から照射するという視点に立って,社会科の歴史を4期に分け,それぞれの時期から問いかけてみると新しい社会科像についてどのようなことが言えるか,15名の執筆者が各10頁程度の本文を寄せています。なお,コラム欄も設け,現在活躍中の国内外の社会科教育研究者の方々に,それぞれの時期の社会科と関係づけながら思いを語っていただきました。考えるヒントや新しい視点などに気づかされること,請け合いです。本書が多くの方の目にとまり,明日の社会科への活力源の1つになれば幸いです。

 最後になりましたが,本書の出版にあたり,誠に貴重なご助言を賜りました明治図書の編集部長樋口雅子氏に心よりお礼を申し上げたいと思います。


  2011年4月   編者 /片上 宗二・木村 博一・永田 忠道

著者紹介

片上 宗二(かたかみ そうじ)著書を検索»

安田女子大学文学部教授 広島大学名誉教授 教育学博士 1943年愛媛県生まれ

木村 博一(きむら ひろかず)著書を検索»

広島大学大学院教授 博士(教育学) 1958年和歌山県生まれ

永田 忠道(ながた ただみち)著書を検索»

大分大学教育福祉科学部准教授 博士(教育学) 1970年鹿児島県生まれ

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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