- 序 文 /市毛 勝雄
- まえがき
- T 論理的思考力育成は小学校教育の基本である
- 一 なぜ論理的思考力育成なのか
- 1 論理性の不足
- 2 論理的思考の働き
- 3 論理的思考力の必要性
- 二 論理的文章の構成指導が中心である
- 1 論理的思考力を育む教材とは
- 2 教材としての論理的文章とは
- 3 説明文の学習指導における構成部分の名称
- 4 よい説明文教材とリライト教材
- 三 説明文の文章構成に着目させる授業
- 1 論理的思考力を育てるとは
- 2 説明文の文書構成に着目させる
- 3 説明文の構成を作文に生かす
- 四 論理を「読む」指導技術
- 1 論理的思考の見本
- 2 すらすら音読とその効果
- 3 キーワードの取り出しとその効果
- 4 文章構成を調べる
- 五 論理的に「書く」指導技術
- 1 「読む」指導との関連について
- 2 作文の「テーマ」について
- 3 キーワード作文について
- 4 四〇〇字作文について
- 5 推敲・評価について
- U 論理的思考力育成の授業
- 一 低学年の学習の特色
- 1 低学年のものの見方やとらえ方
- 2 国語科における実態
- 3 実態に即した指導方法の工夫
- 4 一年生の口頭作文による指導
- 5 二年生の指導
- 二 中・高学年の説明文学習
- 1 中学年の特色
- 2 高学年の特色
- 3 説明文教材(リライト教材)の準備
- 4 指導案の準備
- 5 説明文教材を読ませる前に
- 6 学習計画表
- 7 教材文との出会わせ方
- 8 音読ステップカードを使った音読練習
- 9 キーワ―ドの探させ方
- 10 段落の名前と役割
- 11 構成をつかむ
- 12 キーワード作文の書かせ方
- 13 四〇〇字作文と作文チェック項目
- 14 推敲のさせ方
- 15 評価のさせ方
- V 論理的思考力育成の実践
- 一 論理的思考力を育てる「低学年」の実践
- 1 一年の実践事例――「たんけんしたよ みつけたよ」(光村図書)「たんけんしたよ みつけたよ」リライト教材
- 2 二年の実践事例――「見たこと、かんじたこと」(自作教材)
- 二 論理的思考力を育てる「中学年」の実践
- 1 三年の実践事例――「めだかの身の守り方」(教育出版「めだか」リライト教材)
- 2 四年の実践事例――「体を守る仕組み」(光村図書「体を守る仕組み」リライト教材)
- 三 論理的思考力を育てる「高学年」の実践
- 1 五年の実践事例――「森林と健康」(教育出版「森林と健康」リライト教材)
- 2 六年の実践事例――「砂漠を生かす」(光村図書「砂漠に挑む」リライト教材)
- W 論理的思考力を育てる学習の全体構想
- 一 学年の発達段階に応じた指導
- 1 「すらすら音読」の練習について
- 2 「キーワードを見つける」指導について
- 3 「構成をつかむ」指導について
- 4 「作文を書く」指導について
- 二 論理的思考力を育てる学習の年間配列
- 1 一年生の口頭作文、二年生の二〇〇字作文の学習
- 2 三年生以上の説明文の学習
- あとがき
序文
本書は浜松市立広沢小学校が、生徒の論理的思考力・表現力を育てる目的で、全校を挙げて三年間取り組んだ研究成果である。本書には、これまでの国語科の学習指導研究には見られない革新的な特色が五つある。
第一は、「論理的思考力・表現力の学習指導」という、これまで日本のどの小学校も扱ったことのないテーマを正面に据えた点である。説明文の学習指導というテーマならば、日本中の小学校が取り組んでいる。だが、私の知る限り、その多くは説明文教材の言葉を一つひとつ説明するだけの授業で、「論理的思考力・表現力」の学習指導とは呼べない内容である。これは、説明文教材の本質と役割が、まだ十分理解されていないからである。
第二は、小学校一年生から六年生までの全学年・全教員が「論理的思考力・表現力」の学習指導について、公開授業を行った点である。学校研究というと、その県や地域に多く行われている文学教材の指導が多い。論理的な文章の授業研究は一九八〇年代に始まったばかりで、地域の授業研究の指導者がまだまだ少ないからである。その中で、全校の教員が「論理的思考力・表現力」の授業研究を行うためには、多くの困難点がある。それを一気に克服した広沢小学校の先生方の努力は、今後の学校研究の発展に大いに参考になるだろう。
第三は、音読指導・段落指導・文章構成指導・作文指導という一貫した指導体系によって、全クラス担任が授業を行い、授業検討会に出席し、その学習指導体系の検討に参加したことである。広沢小学校の先生方は「リライト教材」を自分たちで作った経験によって、説明文の構造を実感し、その体験を説明文授業に生かすことができたのであった。
第四は、説明文の文章構成、とくに段落概念を児童にわかりやすく説明するために、「リライト教材」を多くのクラスで採用したことである(「リライト教材」については本文参照)。
第五は、説明文の授業を「読みの授業」に終わらせず、「発信型の作文(論理的な文章)」を書く指導に結びつけたことである。説明文学習は、「読み」の学習から始まって「書く」学習で完結する、というのが授業の一貫性であるが、広沢小学校の先生方はその一貫性をよく理解し、三年間の授業研究でそれを実現したのであった。
*
右のような成果を挙げた本研究のスタートは、児童に言葉の力をつける国語の授業が必要だという高木校長の独自の考えから出発した。高木校長は数多くの国語教育研究書を読破した結果、私の『国語の授業改革論』に着目した。そして、研究主任の鈴木明男教諭に「この方針で研究している学校に行って学校指導を研究するように」と指示した。
鈴木教諭の話を聞いた私は、高木校長の研究心と指導力とに驚いた。これはすばらしい学校だ、と考えた私は「直接に私があなたの学校研究に参加する」と申し出た。広沢小学校の全職員は、みな喜んでくれた。まことに「論理的思考力・表現力」の学習指導研究にふさわしい出発であった。
その後、私は自分から研究授業を行い、講演会を行い、先生方も各学年ごとに研究授業を行い、そのたびごとに授業検討会を全教員で行った。その間、鈴木明男・和久田英子両教諭と私は、横浜と浜松の間を延べ一五回往復した。その講演会・研究会のたびに、広沢小学校の職員の方々、PTA会長を初めとするPTAの方々が全員で、たくさんの仕事を支えたのであった。その熱心な支援態勢のみごとさに、私はこころから敬服した。
ご当地浜松には、革新的な試みを進んで行う「やらまいか」という気風があるという。本研究はそういう気概に満ちている。最後に、本研究の価値を認め、出版してくださった明治図書の江部満編集長に心から感謝する。
二〇〇三年一月 /市毛 勝雄
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- 明治図書