- はじめに
- 【理論編】
- 第1章 自立活動における音楽・遊具活用の意義
- 1 環境における音楽・遊具の必要性
- 魅力ある環境づくりのために/ 発達の土台となるさまざまな能力を育てるために
- 2 新しいムーブメント遊具の流れ
- 障害をもつ子どもへの遊具の活用/ ムーブメント教育における遊具の活用
- 3 音楽ムーブメントの展開に向けて
- 動くことと音楽の関係/ 障害をもつ子どもの指導における音楽の役割/ ムーブメント教育の達成課題と音楽ムーブメント/ 子どもの発達と音楽ムーブメント
- 第2章 自立活動における遊具の役割
- 1 感覚運動に関わる遊具
- 感覚運動と発達過程/ 生体における諸感覚の働き/ 一般感覚受容器への刺激/ 感覚運動に関わる遊具の考え方
- 2 知覚運動に関わる遊具
- 発達における知覚運動/ 知覚機能を構成する要素/ 知覚運動に関わる遊具の考え方
- 3 精神運動に関わる遊具
- 知的活動としての精神運動のとらえ方/ 発達における創造的運動の必要性/ 精神運動に関わる遊具の考え方
- 4 社会性運動に関わる遊具
- ムーブメント教育における社会性のとらえ方/ 人と人を結びつける環境としての遊具
- 【展開編】
- 第3章 ムーブメント遊具を活用した自立活動
- 展開例1 ユランコ
- 引っ張りユランコ/ ゆらゆらユランコ/ 空飛ぶじゅうたん/ ソリ遊び/ 飛んでけユランコ/ ゆらゆらラッコちゃん/ 水中大回転
- 展開例2 スクーターボード
- 引っ張って,ぐるぐる/ 大波ザブーン! 行ったり来たり/ つかまって乗ろう/ 坂を滑ろう/ 自分でこいでみよう/ ロープをたぐって進もう/ みんなで乗ろう
- 展開例3 トランポリン
- 上下の揺れに触る,揺れを見る,音を聞く/ いろいろな姿勢で動いて揺れを楽しむ/ ジャンプを楽しむ/ いろいろなジャンプを工夫する
- 展開例4 ロープ・伸縮ロープ
- 体をねじろう,曲げよう,伸ばそう/ 腕を旋回させよう/ 足を伸ばしたり,曲げたり/ いろいろな形をつくろう/ お舟はギッチラコ/ 首,肩,腰を使って引っ張りっこ/ みんなで輪になろう
- 展開例5 小型パラシュート
- ゴロゴロ転がろう/ 風圧を楽しもう/ 滑って遊ぼう/ 引っ張りっこをしよう/ 風船や鈴で遊ぼう/ ボディイメージを高めよう
- 展開例6 大型パラシュート
- 触る・入る・乗る/ 持つ・振る・飛ばす/ 物を乗せる/ ゲームをする
- 展開例7 ビーンズバッグ
- 触る・つかむ・放す/ 身体に乗せる,運ぶ/ 的に投げて,的から取る/ 数の学習(数に興味をもっている子どものために)
- 展開例8 手足型
- マットに貼る,マットからはがす/ 足型の上を歩こう/ 仲間集めをしよう/ 道をつくって歩く/ ポーズをつくってバランスをとろう
- 展開例9 ムーブメントスカーフ
- 投げたり,受けたりしてみよう/ スカーフを使って表現する/ スカーフを使ってビーンズバッグを操作する/ スカーフをつなげて
- 展開例10 ムーブメントリボン
- さまざまな方向に大きく操作して/ リボンを使って表現する
- 展開例11 形板
- 指示された色や形を拾う/ 形板の島をわたろう/ 形板を組み合せてつくろう
- 展開例12 風船
- いろいろな身体部位で風船をつく/ 風船とネットを組み合せて/ 風船運び
- 展開例13 知覚学習パイプ
- 拾って,集めて/ 転がるパイプを跳び越える/ 狭い空間を通り抜ける/ 他の遊具と組み合せて/ フロアー上に絵を描く
- 第4章 音楽ムーブメントの展開
- 展開例1 遊具を活用した音楽ムーブメント
- ビーンズバッグを用いた音楽ムーブメント/ パラシュートを用いた音楽ムーブメント/ 知覚学習パイプを用いた音楽ムーブメント
- 展開例2 音楽を活用して身体意識を育てる
- はじめに/ 活動例
- 展開例3 「音楽遊び」の教育・療育への活用
- 療育の「音楽遊び」にむけて/ 遊びを面白くさせるもの/ 「音楽遊び」の実践例/ 配慮事項
- 【実践編】
- 第5章 音楽ムーブメントの実践と展開例
- 1 障害幼児への実践―動きに音楽を,音楽に動きを―
- 2 情緒障害特殊学級における実践―心理的な安定と楽しみにつながる音楽との関わり―
- 3 知的障害養護学校小学部における実践―ヴァイオリンを使ったムーブメント指導―
- 4 知的障害養護学校中学部における実践―視・聴知覚と音楽ムーブメント―
- 本書で取り上げたムーブメント遊具
はじめに
2001年の1月に「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告が示されたが,その中では障害のある子の視点に立ち,一人ひとりのニーズに応じた支援を行うという方向性が提言されている。
またWHO(世界保健機関)は,障害の概念を個人内の現象としてだけではなく,環境との関係でとらえるという視点で,能力障害を「活動の制約」に,社会的不利を「参加の制約」に変えることを含めた新たな提案を行う予定になっている。これらの社会情勢の変化は,ノーマライゼーションの理念の普及と共に,障害の認識をその人が抱える障害そのものに置くのではなく,環境や社会的要因からとらえていこうとする考え方に変化してきた証拠である。
今回の学習指導要領の改訂で,「養護・訓練」が「自立活動」の名称に変更され,自立活動の指導について「個別の指導計画」の作成が明記されたことは時代の要請に応じたものであり,今後は,子ども一人ひとりの個性を最大限に伸長し,社会参加するための基盤となる資質や能力の育成を図ることが障害のある子どもを教育する学校の役割として求められ,その教育的対応における環境設定のあり方がより重要視されるであろう。
今回の「自立活動」の考え方に直結するムーブメント教育(Movement Education)は,子どもの身体的能力や運動が心理的諸機能(認知能力・コミュニケーション能力)や情緒と密接不可分な関係にあり,前者を促進させることで,後者の発達を促すことができるという考え方に立つ教育法である。この教育は,遊びの感覚で子どもの「快い」「楽しい」という気持ちを最大限に生かしながら,身体的活動(からだ)と認知的な発達(あたま),そして精神的な成長(こころ)の発達を目指している。この教育の基本理念が,「人間尊重」の教育としての子どもの自主性・自発性を重視し,究極的には子どもの「幸福感の達成」を目指すという点で,まさに「自立活動」の展開に大いに活用できると考える。
本書「音楽・遊具を活用した自立活動」は,「〔障害児教育の新領域〕自立活動の計画と展開」シリーズ(全4巻)の第4巻であり,音楽や遊具を活用したムーブメント教育による自立活動についてまとめたものである。
第1章・第2章は「理論編」,第3章は「遊具活用の展開編」,第4章は「音楽ムーブメントの展開編」,第5章は「音楽ムーブメントの実践編」として3部で構成されている。
第1章は,自立活動における音楽・遊具活用の意義を自立活動に不可欠な音楽,遊具の環境についての必要性,子どもにとって興味ある環境,活動の意欲を育む環境をつくる遊具の特質,音楽ムーブメントの展開に向けた理論的背景について概説した。
そして第2章は,特に自立活動における遊具の役割を発達の流れの視点から述べた。
第3章では,教育現場で役に立つ主要なムーブメント遊具を活用した自立活動の展開例,第4章では,具体的な音楽ムーブメントの展開例を紹介した。
第5章は,音楽ムーブメントの取り組みについて,特殊教育諸学校における具体的な指導と実践を紹介した。
本書は,養護学校や特殊学級など学校教育の現場で,実際に子どもの指導に関わっている教師を対象として構成しているが,教育現場以外の療育機関や病院,幼稚園,保育所,地域の児童館・児童センター等での実践,さらには家庭での実践にも活用できることを意図して編集した。
本書と同様に,「〔障害児教育の新領域〕自立活動の計画と展開」シリーズ<第1巻「認知発達を育てる自立活動」,第2巻「身体の健康・動きを育てる自立活動」,第3巻「コミュニケーションを育てる自立活動」>を併せて活用してもらえると,より実践的,効果的な指導が展開できるものと確信している。
最後に,本書の出版にあたり多大なる励ましと助言をいただいた明治図書出版株式会社の三橋由美子さんを始め,編集・校正できめ細かな配慮をいただいた編集部の方々に心から御礼申し上げたい。
2001年9月 編者 /小林 芳文 /飯村 敦子
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- 明治図書