- T “国際関係と平和”をめぐる主な論点・争点
- 1 ポスト冷戦の世界と“国際関係と平和” /西脇 保幸
- (1) 民族の共生
- (2) グローバル化(グローバリゼーション)とアメリカ化
- (3) イスラム原理主義と反欧米
- 2 地域と“国際関係と平和” /西脇 保幸
- (1) 地域主義(リージョナリズム)
- (2) 地政学
- 3 日本の進むべき方向と“国際関係と平和” /西脇 保幸
- (1) 領土問題と外交
- (2) 安全保障
- (3) 開発援助とNGO
- (4) 国連での日本の役割
- U “国際関係と平和”をめぐる授業づくりの観点
- 1 学習指導要領と“国際関係と平和”をめぐる授業づくり /西脇 保幸
- 2 学習指導過程と“国際関係と平和”をめぐる授業づくり /西脇 保幸
- V “国際関係と平和”をめぐる教材と授業づくり
- 1 日米安全保障条約 /佐々木 善子
- (1) 日米安全保障条約の歴史的背景
- (2) 日米安全保障条約をめぐる論点・争点
- (3) 日米安全保障条約を扱う単元例
- (4) 日米安全保障条約を公民的分野で扱う単元の構成案
- (5) 日米安全保障条約を扱う指導案
- 2 「北方領土問題」の解決方法を考える学習指導の工夫
- ―問題解決的な学習を通して― /池下 誠
- (1) 「北方領土問題」の学習指導
- (2) 問題解決的な能力を育成する学習指導を行うに当たって
- (3) 「北方領土問題」をどのように扱うか
- (4) 「北方領土問題」の事実認識にかかわる内容
- (5) 「北方領土問題」を考える学習指導計画
- 3 朝鮮半島と日本 /大谷 誠一
- (1) 第二次世界大戦後の朝鮮半島
- (2) 朝鮮半島と日本との関係をめぐる論点・争点
- (3) 朝鮮半島と日本との関係をめぐる論争点の指導例
- 4 南北問題と国際協力 /荒井 正剛
- (1) 南北問題と国際協力の歩み
- (2) 日本の国際協力をめぐる論点・争点
- (3) 「南北問題と国際協力」を扱える単元例
- (4) 日本の国際協力を公民的分野で扱う単元の構成案
- (5) 日本の国際協力を扱う指導案
- 5 インターネットと国際関係 /福田 英樹
- (1) インターネットが現出させた世界
- (2) インターネットと地域紛争
- (3) 「インターネットと国際関係」を扱う単元例
- (4) 展開例
- (5) 「インターネットと国際関係」を扱う指導案
- 6 国家の統合 /小口 久智
- (1) 国家統合の動き
- (2) EUにみる国家統合をめぐる論点・争点
- (3) 「国家の統合」を扱う単元例
- (4) EUを選択「社会」で扱う単元例
- (5) 社会科第3学年 年間指導計画
- (6) EUを扱う指導案〜中単元「EU統合の意義」A 19/35〜
- 7 国際連合 /青柳 慎一
- (1) 国際連合の役割と現実
- (2) 国際連合と日本の外交をめぐる論点・争点
- (3) 「国際連合」を扱える単元例
- (4) 「日本の国連外交」を公民的分野で扱う単元の構成案
- (5) 「日本の国連外交」を扱う指導案
- 執筆者一覧
まえがき
第二次世界大戦後,日本は戦災からの復興や高度経済成長を遂げ,経済大国となりました。そうしたことが可能であったのは,幸いなことに戦後の日本が戦争に巻き込まれなかったからであります。そのため,大多数の日本人が戦争を知らない世代であり,平和のありがたさが実感できない状況にあると言えます。しかし,日本がこのままの状況を持続できる保障はどこにもありませんし,相互依存が人類史上かつてなく進んでいる以上,平和な状況が急変しうることも考えられます。本書では,そうした日本の平和を国際関係という視点から考えてみることに,主眼が置かれています。
国際関係と平和の論点・争点を扱う場合,さまざまな切り口があるでしょうが,子どもの理解を考慮すると,大きく二つに分けられるでしょう。まず一つが,世界的視点からの論点・争点が考えられます。これは直接日本の平和を脅かすものではないので,子どもには実感がわきにくいかもしれません。しかし,南北問題をはじめ,文化の衝突,世界各地で多発する民族問題といった課題は,日本の短期的な外交政策と直結することはなくとも,経済的結び付きなどを通じて日本の平和に連動する事柄です。また,地域主義の動向も,日本の平和のあり方を国際関係から考えると,見落とせないでしょう。他の一つは,日本が直接かかわる当面の外交課題で,それらは子どもにも興味・関心を惹き付けやすいものです。と言うよりも,むしろ子ども自身が市民としてどう考えていったらよいのか,すぐにでも問われる論点・争点です。
では実際に社会科の授業で,国際関係からどのように平和を取り上げたらよいのでしょうか。それを考えた時,前述した題材観だけでなく,学習指導要領との関係や学習指導過程など,さまざまな要素を考慮しなければならないことに気が付きます。そこで本書では,国際関係と平和をめぐってどのようなことが問題になるのか,どのような教材を取り上げるべきなのか,いわば教材づくりの視点をまず紹介します。次に,実際の授業づくりを考えて,学習指導要領との対応や,子どもに論点・争点が明確になるような学習指導のあり方を論じてあります。そうした一般論を第T章と第U章で取り上げたあと,国際関係と平和をめぐる具体的な実践例を第V章で扱っています。
第V章では前半で,日本外交のあり方に直接つながる論点・争点として,アメリカとのかかわり方を考える日米安全保障条約,ロシアとの領土をめぐる外交課題である北方領土問題,朝鮮半島との関係を扱った授業を紹介してあります。後半は,南北問題と国際協力や国際連合など間接的に日本の平和へ影響を及ぼす世界的な課題と,EUの国家統合など日本の国際関係のあり方を示唆する事例を扱った授業を取り上げてあります。これらの実践例は基本的に,ほぼ次のように説明されています。すなわち,まず,当該項目をめぐる歴史的背景や現状を確認して,論点・争点が何であるのかを明らかにしています。そして,それをもとにどのような授業づくりが可能なのか,単元の構成や指導案などが例示されています。
最後になりましたが,本書で展開された内容が読者の皆さんの教材開発や授業づくりに役立つことを,切に願ってやみません。
/西脇 保幸
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- 明治図書