- はじめに
- 第1章 何のための「個別最適な学び」と「協働的な学び」か
- 1 政策として定められた「個別最適な学び」と「協働的な学び」
- 2 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的
- 3 教科教育の重要性
- 4 見方・考え方を働かせる学習の個性化を目指す
- 5 学習観について再考する
- 第2章 「個別最適な学び」とは何か
- 1 「指導の個別化」と「学習の個性化」
- 2 単元を考える際は,一斉授業と個別学習を分ける
- 3 一斉授業と個別学習を取り入れた単元構成の実際
- 4 個別学習のつくり方
- 第3章 「協働的な学び」とは何か
- 1 「協働的な学び」について考える必要性
- 2 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の関連
- 3 「協働的な学び」の意味
- 4 「協働的な学び」の意義
- 第4章 「協働的な学び」の効果
- 1 「協働的な学び」の効果
- 2 「協働的な学び」の問題点
- 3 「協働的な学び」を効果的にするために子どもが意識すべきこと
- 第5章 「協働的な学び」を実現させるための教師の役割
- 1 教師が「協働的な学び」ができる学習環境を築くべき理由
- 2 「協働的な学び」と学級経営との親和性
- 3 「だれとでも関わる力」を養い,「学習の理解を深めるための人との関わり方」を育てる教師の声かけ
- 4 「協働的な学び」が実現されていく様子
- 5 算数が苦手な子どもには教師が積極的に関わる
- 6 人との関わりについても振り返る
- 7 学習を通して学級経営をする
- 8 「協働的な学び」そのものが目的にならないように
- 第6章 「個別最適な学び」と「協働的な学び」における評価
- 1 各教科が育てるべき力とは何か
- 2 評価の前提
- 3 「個別最適な学び」における評価
- 4 「協働的な学び」における評価
- 5 日常的な評価の方法
- 6 自己評価について
- 第7章 「個別最適な学び」と「協働的な学び」で大切な教科の特質に応じた「学び方」
- 1 教科の特質に応じた「学び方」の大切さ
- 2 算数の特質に応じた「学び方」
- 3 教科書では扱いづらい発展的に考える活動
- 4 統合的・発展的に考える子どもの姿
- 5 算数の「学び方」を身につけさせるための教師の意識
- 第8章 「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するために積み重ねていくこと
- 1 子どもの学習観を変える
- 2 算数における「学び方」とは
- 3 一斉授業で算数における学習観と「学び方」を学ぶ
- 4 2単元目から個別学習を取り入れる
- 5 数学的な見方・考え方を意識させていく
- 6 はじめて出会う学習内容は一斉授業で
- 7 1学期の終わりごろの姿
- 8 2学期の終わりごろの姿
- おわりに
はじめに
自ら学び続けられる人を育てるための教科教育の重要性
本書は,2022年に出版した『「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方』では書ききれなかった実践や「個別最適な学び」における評価,「協働的な学び」に関することについて書きました。そして何より,「教科教育における『個別最適な学び』と『協働的な学び』」ということを意識して書きました。「個別最適な学び」と「協働的な学び」について考えるとき,教科教育がとても重要になると考えているからです。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」は,何のために行うものでしょうか。私は,「自ら学び続ける人」を育てるためだと考えています。「自ら学び続ける子ども」ではなく,「自ら学び続ける人」を育てるためです。将来,自分で考えて,行動できるような人になってほしいのです。そして,様々な困難を,過去の経験やまわりの人の意見を取り入れながら乗り越え,自己実現をできるような人になってほしいのです。
そもそも,「個別最適な学び」と「協働的な学び」が「主体的・対話的で深い学び」を実現させる授業改善のための手段であるため,「主体的・対話的で深い学び」の目的である「資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすること」を目指すことは当然です(「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的の詳細は,第1章をお読みください)。
「自ら学び続けられる人」になるためには,「学び方」を学ぶことが必要です。ひたすら知識を覚えても,自ら学びを進めることはできません。「学び方」を知らなければ,いつまで経っても「だれかに問題を出してもらう」「だれかに知識を教えてもらう」ことしかできないため,受動的な学習者になってしまいます。
だからこそ,「どうやって考えれば,自分で新しい知識を創り出せるのか」という「学び方」を学ぶことが必要なのです。
「学び方」を学ぶために,教科教育はとても適しています。教科教育は内容の系統性があるからこそ,共通点を見つけて大切な考え方を見つけやすくなっています。そして,見つけた大切な考え方を,他の場面でも使ってみるということが,子どもにもやりやすいのです。
要するに,子どもが自分で学習を進め,子ども自身で新しい知識を創り出す経験がしやすいのです。
「算数を学習しても,生活に役立たない」と思う方もいるかもしれません。確かに,役立たない学習内容もあるかもしれません。大人になって,台形の面積の求め方を使ったことがある人は,小学5年生の担任になったことがある人ぐらいかもしれません。ただし,「既習である面積の求め方を使って,台形の面積の求め方を創り出す」という経験は,大人になっても役に立ちます。
こうした「前の学習を使えば,新しい知識を自分で創り出せた」という経験が積み重なれば,大人になっても,過去の経験や,まわりの人の意見を生かして,目の前の問題を解決しようとするでしょう。そして,「それなら,こんなこともできるかもしれない!」と,今までにないことにチャレンジするようになるかもしれません。
教科教育というのは,系統的に学ぶことによって,「前に考えたときに○○と考えられたから,同じように考えれば,目の前の問題も解けるかもしれない」「この考え方を使えば,こんなこともできるかもしれない」と,新しい知識を子どもが創り出せるようになっています。ですから,自分で新しい知識を創り出す疑似体験がしやすいのです。
新しい知識を創り出す疑似体験は,「どうやって学んでいけば,自分で新しい知識を創り出せるのか」という思考方法を養うことにつながり,まさに「学び方」を学ぶことにつながります。
各教科において,「学び方」を学ぶためには,各教科の特質に応じた見方・考え方を働かせることが重要です。ただ「できた」「できない」ではなく,「どこに着目するとできたのか?」「他の人の考え方を取り入れて,よりよい方法はできないか?」「この見方を使えば,どんなことができるのか?」と考えるということです。
見方・考え方を働かせることによって,教科の学習を自ら進め,新しい知識を創り出すことがしやすくなります。その結果,教科の特質に応じた資質・能力が身につき,教科を越えた汎用性のある力が身についていくのです。
これは,現行の学習指導要領が目指している方向性と同じです。「個別最適な学び」と「協働的な学び」という新しい言葉に振り回されるのではなく,現行の学習指導要領で目指すべき「教科の特質に応じた見方・考え方を働かせ,資質・能力を育て,生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続ける人を育てる」という方向を見失わないことが大事なのです。「教科の特質に応じた資質・能力を育て,生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続ける人を育てる」ことを続けた先に,将来の教育の在り方が見えてくるのだと思います。
「自ら学び続ける人」になるためには,「学び方」を学ぶことが必要です。そのためには,教科教育が重要です。本書が,教科教育を通して「自ら学び続ける人」に育てることを考えるきっかけとなれば幸いです。
2023年3月 /加固 希支男
やはり、具体的な様子の写真や児童の記述などがあり、目指す方向性に説得力があると思いました。
私たち教員は、とかく自分色にハードルを下げて解釈しがちなので。
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