- 序
- 序 説明的文章の授業改革の視点
- 1 戦後、説明的文章指導の現状
- 2 「教材の枠に拘束された読み」から「教材を突き抜ける読み」へ
- T 題名読み
- 1 題名読みとは
- 2 題名読みの意義
- 3 題名読みの実際
- 4 ユニークな題名読みの実践
- U 論理展開の整合性を考える
- 一 冒頭部と結論部に着目した読み
- [1] 冒頭部の表現とその後の内容との整合性
- 1 教材研究の実際
- 2 実態の調査及び考察――冒頭部から内容を予想する――
- [2] 本論部の内容と結論部の表現との整合性
- 1 教材研究の実際
- 2 実態の調査及び考察――表現内容を吟味し、適当な文章に書き換える――
- [3] 冒頭部と結論部に着目した読みの意義
- 二 問題提示を有しない教材に問題提示を作る
- 1 教科書教材の実態
- 2 問題提示を有する教材の一般的な指導の実態
- 3 問題提示を有しない教材の扱い方
- 4 問題提示を有しない教材に問題提示を作ることの意義
- 三 全体構造の中で、ある文章(段落)の必要性の有無を考える
- 1 「全体構造の中で、ある文章(段落)の必要性の有無を考える」ことの意義
- 2 「全体構造の中で、ある文章(段落)の必要性の有無を考える」ことの具体的実践
- 3 「書き手の論理」から「読み手の論理」へ
- 四 内容を補足して読む
- 1 「内容を補足して読む」とは
- 2 「内容を補足して読む」ことの具体的実践
- V イメージ化しながら読む
- 1 説明的文章指導で「イメージ化」を導入することの可能性
- 2 小学校教科書(平成八年度版)の説明的文章教材の実態
- 3 「イメージ化しながら読む」ことの実践的検討
- W 筆者を読む
- 1 「筆者を読む」とは
- 2 「筆者を読む」の実践的検討
- 3 「筆者を読む」の学習効果とその意義
- X 描きながら読む
- 1 「描きながら読む」ことの意義
- 2 「描きながら読む」ことの具体的実践
- 3 「描きながら読む」ことの有効性
- Y 理解から表現へ
- 一 「題名読み」から「題日記」へ
- 1 「題日記」を試みるまでの経緯とその意義
- 2 “題”のつけ方指導――「レトリカルな題」をつけよう――
- 3 夏休みの「題日記」の実態
- 4 作文の実際
- 5 「題日記」の有効性
- 二 視点を変えた読み
- 1 「視点を変えた読み」とは
- 2 「視点を変えた読み」の具体的実践
- 3 「視点を変えた読み」の意義
- 三 「筆者を読む」から意見文指導へ
- 1 生涯学習の基礎としての表現力を
- 2 説明的文章指導の見直しと活性化を
- 3 論理的表現力を育成する具体的実践
- 4 学習者の作文例
- あとがき
序
説明的文章の学習がおもしろい。説明的文章の指導がたのしい。そのような国語科教育であること、それが長崎伸仁君の変わらぬ願いである。変わらぬといったのは、前著『説明的文章の読みの系統』(素人社、一九九二)のときもそうであったが、本書においてもその精神は生きているからである。加えて、本書では、学習者たちの将来の言語生活を考え、文章の理解と表現の基礎をつくるものとして、説明的文章の学習指導のかけがえのなさが強調されている。
本書『新しく拓く説明的文章の授業』は、長崎伸仁君が前著につづいて刊行を予定していたものである。その仮の書名は「説明的文章の教材の特性を生かした読みの指導」であった。その「教材の特性を生かす」という趣意は本書の全体を貫いている。
長崎伸仁君は、本書の序章において、「戦後五〇年を経た現在においても、説明的文章指導はさほど進展していないと私はみる。その主な原因は、学習者にとって無味乾燥で魅力がない教材の問題(教材論)と、無味乾燥な読みを生み出す指導の硬直化の問題(指導論、授業研究論等)にある」と述べている。そのうち、教材の改善は進んできていると見て、メスをいれるべきは、「何を・どう指導すればいいか」という指導法であるとする。
その問題に答えて、本書に採録された実践はどれも読む者に生き生きと追ってくる。しかも、随所で、考えさせられ、うなずかされる。「何を・どう指導すればいいか」が具体的にわかり、「教材の特性」と「指導法」の融合のありようを知ることができる。
本書は、次の章節から成っている。
序 説明的文章の授業改革の視点
T 題名読み
U 論理展開の整合性を考える
一 冒頭部と結論部に着目した読み/ 二 問題提示を有しない教材に問題提示を作る/ 三 全体構造の中で、ある文章(段落)の必要性の有無を考える/ 四 内容を補足して読む
V イメージ化しながら読む
W 筆者を読む
X 描きながら読む
Y 理解から表現ヘ
一 「題名読み」から「題日記」へ/ 二 視点を変えた読み/ 三 「筆者を読む」から意見文指導へ
どの章節においても、必ずその実践・研究の意義がまとめられ、各章節の必要に応じて、先行実践・研究の考察、類型の整理、学習者の実態調査、教材の文体調査、ワークシートなどが提示されている。ここに、実践と研究の一体化という本書の重要な特色がある。
もう一つ重要なこととして、T〜XとYとの有機的な関連性を指摘することができる。
Uで論じられた「冒頭部と結論部」「問題提示」「段落の必要性」「内容の補足」は、じつはYの「表現」(とりわけ構成・構想)にとっても基本問題である。そのほかの関連性は次のようになっている。
Tの「題名読み」←→Yの一「『題名読み』から『題日記』へ」
Vの「イメージ化しながら読む」←→Yの二「視点を変えた読み」
Wの「筆者を読む」←→Yの三「『筆者を読む』から意見文指導へ」
Xの「描きながら読む」←→Yの二「視点を変えた読み」
Vには、「流氷の世界」を扱った説明的文章の中の“描写的説明体”に着目し、「『海明け』の頃に聞こえてくる音を想像する。」「筆者は『本物の春』という言葉に、漁民達のどんな思いを込めているのでしょう。」といった文学的な学習活動を展開した事例、また、Vには、「文章を絵で適切に表現する」という学習活動をおこなった事例が紹介されている。
これらは、Yの二「視点を変えた読み」における説明題材の擬人化表現―「ぼく(わたし)は、ライオンの赤ちゃんです。」(「どうぶつの赤ちゃん」)/「わたし(ぼく)は、メラニンです。」(「体を守る皮ふ」)/「わたしは、キクイムシだ。」(「自然を守る」)の学習指導と発想の基盤を同じくし、どれも説明的文章の新しい学習指導(理解・表現)を拓こうとするものである。
長崎伸仁君の主張する「教材を突き抜ける読み」はここに明らかであり、“無味乾燥な読み”に対して、これを、よい意味での“潤色の読み”と名づけてみたい。
長崎伸仁君には、取り扱えない説明的文章というのはない。授業者として確かな読みをふまえ、潤色の読みを展開することができ、授業についてのしなやかな構想力、実践力をもっているからである。すでに見たように、先行実践・研究に目配りしながらも、独創性を失うことがない。
長崎伸仁君は、平成七年九月、現場から山口大学教育学部に移った。大学生を相手の模擬授業はもちろんのこと、求めに応じて、あるいは自ら積極的に、現場での授業をつづけており、一方で、研究会活動も精力的におこなっている。授業にしろ、研究会にしろ、それを構想し、具体的に計画し、実践にうつしていくのは、楽しくてしかたがないという。その楽しさと、その楽しさが生みだした成果を、発表を通して共有していきたい、これが本書につづいて今後も変わらぬ長崎伸仁君の希いにちがいない。
一九九七(平成九)年一月二十六日 兵庫教育大学教授 /中冽 正堯
是非読みたいです。
コメント一覧へ