- 授業づくりで大切にしてきたこと―刊行の言葉に代えて―
- Chapter1 理論編 深い学びのある国語科授業の創造
- 1 「深い学びのある国語科授業」を実現していくための6つの観点
- 1 本書の目的と構成
- 2 授業づくりの基本的な考え方―確かで豊かな言葉の力を育成するために―
- 3 深い学びのある国語科授業づくりに向けて
- 観点1 教材構造の明確化―学びの質を保証するために―
- 観点2 学習者の実態把握―主体的・対話的な学びとするために―
- 観点3 「実の場」を意識した学習課題の策定―実生活に生きてはたらく学びとするために―
- 観点4 「学び合い」の構築―「はたらきかけ,はたらきかえされ,またはたらきかえす」―
- 観点5 多様な学習活動―生き生きとした学びの場とするために
- 観点6 学習の評価―学びの推進力とするために
- 4 [実践編]の構成とポイント
- 2 深い学びのある国語科授業づくりにおける「10のクエスチョン」
- Q1 「よい授業」って何だろう?
- Q2 新しい学習指導要領にはどう書いてある?
- Q3 「先生,セリヌンティウスって左利きですよね」と生徒が言ったら?
- Q4 子どもの話し合いが噛み合いません。どんな手立てがありますか?
- Q5 国語の授業と「実の場」はどう結びつけたらいいですか?
- Q6 この時間で学ぶことを最初からわかっているような子どもがいるんですが?
- Q7 授業がワンパターンになってしまうのですが,打開策は?
- Q8 評定以外の評価もしたほうがいいですか?
- Q9 新学習指導要領で評価はどう変わりますか?
- Q10 もう一度あなたに質問。「よい授業」って何だろう?
- Chapter2 実践編 深い学びのある国語科授業づくり
- 小学校
- 話すこと・聞くこと
- 1 グループの心を揃える旗を作ろう
- 「話し合ってきめよう」(教出・小2)
- 2 友だちを推薦するために対談しよう
- 「きいて,きいて,きいてみよう」(光村・小5)
- 書くこと
- 3 私たちもリトルジャーナリスト
- 「未来がよりよくあるために」(光村・小6)
- 4 学校紹介パンフレットを作ろう
- 「ようこそ,私たちの町へ」(光村・小6)
- 読むこと
- 5 読書紹介で,響き合う言葉の力を鍛える
- 「本はともだち」(光村・小1)
- 6 「問い」と「答え」を見つけて,「くちばしクイズ」をつくろう
- 「くちばし」(光村・小1)
- 7 リーフレットで「おもしろ実験・観察」を2年生に紹介しよう
- 「どちらが生たまごでしょう」(教出・小3)
- 8 「読書ボードコンテスト」をしよう
- 「大造じいさんとがん」(教出・小5)
- 中学校
- 話すこと・聞くこと
- 9 魅力的な提案をしよう
- 「魅力的な提案をしよう」(光村・中2)
- 書くこと
- 10 相手や目的を意識して学校紹介パンフレットを編集しよう
- 「魅力的な紙面を作ろう」(光村・中3)
- 読むこと
- 11 新聞の形に再編集し,自分の考えをコラムにまとめよう
- 「幻の魚は生きていた」(光村・中1)
- 12 詩の学習を通して,〈創造〉の概念を理解しよう
- (中2)
授業づくりで大切にしてきたこと
―刊行の言葉に代えて―
これからの子どもたちに求められる資質・能力とは何でしょうか。それは,グローバル化社会への急速な進展,AIの台頭など,どのように社会が変容し,移り変わろうとも,未来社会を「自ら」切り拓く,意志と勇気に支えられた「生きる力」であろうと思われます。
では「生きる力」の根幹となるものとは何でしょう。間違いなく,その1つは「言葉の力」でありましょう。新学習指導要領においても「何ができるようになるか」を明確に,すべての教科において「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の3つの柱で,その目指す資質・能力が再整理されています。その中核となる思考,表現,判断するために必要な力は「言語能力」です。言語能力の育成が,知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」のある,授業の実現に寄与することは異論のないところでしょう。その意味でも国語科の果たすべき役割と意義は大きいといえます。
新しい国語科では,とりわけ学習指導要領の改訂のポイントとしても,小学校,中学校の国語科においては「言語能力の確実な育成」が求められています。具体的には「発達の段階に応じた,語彙の確実な習得,意見と根拠,具体と抽象を押さえて考えるなど,情報を正確に理解し適切に表現する力の育成」との内容となっています。
さて,本書の執筆者はすべて北海道国語教育連盟に所属するメンバーで構成されています。本連盟は昭和26年に創設以来,全道各地で開催する「北海道国語教育研究大会」を中心に,小学校と中学校が一体となって研究実践を推進してきました。近年「全日本小学校国語教育研究大会」,「全日本中学校国語教育研究大会」の開催,「ことばの暦」の刊行及び道内全小中学校への無償配布,全道小中学生への語彙量調査,実践叢書の刊行,研究部主催による「全道夏の学習会」「月例学習会」等々,非常に意欲的な活動を展開しています(以上の活動の様子については,連盟HPを通して閲覧可能であり,一読をお勧めいたします)。
本連盟が営々と築き上げてきた,以下の基本的な考えに立っての研究実践は,全国の国語人の耳目を集めてきたと自負しています。その1つは基礎的・基本的な内容の重視を前提とした「確かで豊かな言葉の力の育成」を追究してきたことです。そして,そのためには子どもたちの反応分析を活かした教材研究が必然となり,さらには教材構造を明確にした文章構造図の作成など,教師の教材研究を一層深めることにつながるものでありました。
もう1つは一人ひとりの子どもを大切にし,その生き生きとした「学び合い」の姿を,学習課題に取り入れた授業を追究してきたことです。さらにはそれらすべての大前提として「子どもの側に立つ」という,学ぶ側に立った授業でありたいという願いを一貫してもち続けたことです。その姿勢は「学習課題」をどのように構成し,教師と子どもたちが学びの必然と意欲に裏づけられ,共有化することが可能になるのかを示唆するものでありました。
先輩諸氏に学び全道大会,全国大会で授業者,提言者として発表させていただいた,私の拙い国語教育実践を振り返ってみても,以上の2点について確かに存在していたことは実感を伴って明らかです。したがって,この2点についてはもう少し詳しく説明を加えたいと思います。もちろん,それがこれからの新しい国語科教育,国語教育実践上の要諦と軌を一にするものと考えるからです。
まずはじめに何よりも,新学習指導要領の改訂のポイントの1つには「小・中学校においては,これまでとまったく異なる指導方法を導入しなければならないと浮足立つ必要はなく,これまでの教育実践の蓄積を若手教員にもしっかり引き継ぎつつ,授業を工夫・改善する必要」と記載されています。これは,まず行うべきは本連盟が実践上の財産として積み上げてきた実践理論を,再び再評価・再確認することと捉えられるのです。
1点目に挙げた「確かで豊かな」の表現は,連盟の研究テーマとして従前から掲げられていました。平成20年版学習指導要領の「国語を適切に表現し,正確に理解する」及び「言語感覚を豊かにし」の表現からも,広くその取組が重要であると認識されました。したがって,営々と実践上の目標として,過去の全道研究大会のテーマなどとしても設定されてきました。その妥当性や必然性が,今日でも読み取れるものであります。特に新旧どちらの学習指導要領の,国語科における冒頭の目標においても記載されているキーワード,「思考力」「想像力」「言語感覚」といった資質・能力を内包するものであるのです。「確かさ」は「豊かさ」によって支え磨かれ,また「豊かさ」は「確かさ」によって支え耕されるという,相互補完性を意識しながら実践上の第一義としてきました。
2点目の「学び合い」の姿については,学習課題を取り入れた授業を踏まえて追究してきました。子どもたちが学習集団として組織され,その一人ひとりの個性を重視し,学習活動に活かし,子どもたちの違いに着目して,意図的・計画的に子ども同士を出会わせることで,その学習集団としての「学び合い」が成立することを目指してきました。「学び合い」は個性の重視と深く関わり合いをもっているとも言えるのです。個性の尊重,重視は子どもの学びが子ども一人の中で自己完結するものではなく,学習集団の中でこそ図られるということなのです。
例えば,教材文との最初の出会いの際に,初発の感想(一次感想)を書かせることは広く行われていることです。しかし,その一人ひとりの個性の違いが読みの違いを生み出すことがあることも,容易に了解することができるでしょう。その読みの違いが「対立」したり,「補完」し合ったり,「触発」し合ったりする場面を設定することが「学び合い」を生むと考えてきました。「個」が集団の中で活かされ,最後は子どもたち自身の変容を伴って「個」に還っていくという過程が,学習集団の中で個性を活かし重視することと考えているのです。
その「学び合い」に必然性をもたせ,子どもたちの興味・関心を喚起し,授業の活性化を促すのが「学習課題」です。多くの子どもたちにとって,教材は何の理由もなくただ与えられたものにすぎず,そのままでは必然も意欲も生まれません。ただ教材本文を読んだだけでは,子どもは教材に向き合いません。本文との確かな出会いも生まれません。したがって,国語科における「学習課題」とは「教材の本質に照らして,教師のねらいと子どもの問題意識を結びつけたもの」でなければなりません。よく,「学習課題」は教師がつくるのか,子どもたちが自らつくり出すのか,それとも両者の協同によってつくるものなのかという,疑問を耳にすることがあります。その問題は実は重要な問題ではありません。どのように課題設定の経緯を辿ったとしても,設定された「学習課題」が結果として,教室全員の意識の中に,意欲と必然性をもって共有化されればよいのです。そのとき,真に「学習課題」が成立したと言えるのでしょう。
本書では,以上の連盟の研究実践を「6つの観点」,「10のクエスチョン」,「12の実践提案」に再構成して編纂を行っています。新学習指導要領の実施に向け,国語科における「主体的で対話的な深い学びのある国語科授業の実践」を全国に先駆け,すべての有為な国語教育実践者に向け,いち早く授業レベルで提案したものと自負しております。
本書が全国の国語教育実践者の個性豊かで創意に満ちた日々の国語教室の一助となりますことを熱望しております。なお,本実践書発刊に際し,ご尽力くださいました明治図書の林知里様はじめ,刊行委員会の皆様にこの場をお借りして深謝の意をお伝えいたしたいと思います。
北海道国語教育連盟委員長/札幌市立啓明中学校長 /齋藤 昇一
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