- はじめに
- 第1章 道徳的行為に関する体験的な学習としての「役割演技」
- 1 道徳授業は変わろうとしている
- 2 道徳授業で求められる指導方法がある
- 3 言葉のイメージから「役割演技」を誤解してはいけない
- 4 「役割演技」はクラスのみんなで創る
- 5 ウォーミング・アップで「役割演技」がグッと効く
- 第2章 「役割演技」を取り入れた道徳授業のつくり方
- 1 「役割演技」を取り入れると授業はこうなる!
- 2 演者選び・演技後の話し合い活動が成功のカギとなる
- 3 「役割演技」を取り入れるのに効果的な場面がある
- 4 「役割演技」を取り入れるのに気をつけたいことがある
- 5 困ったときにはこんな手法がある
- 第3章 「役割演技」を取り入れた授業実践
- A 主として自分自身に関すること
- 小学校・低学年 お月さまとコロ
- 小学校・中学年 正直50円分
- 小学校・高学年 うばわれた自由
- 中学校 裏庭でのできごと
- B 主として人との関わりに関すること
- 小学校・低学年 およげない りすさん
- 小学校・中学年 貝がら
- 小学校・高学年 泣いた赤おに
- 中学校 吾一と京造
- C 主として集団や社会との関わりに関すること
- 小学校・低学年 黄色い ベンチ
- 小学校・中学年 お母さんはヘルパーさん
- 小学校・高学年 班長になったら
- 中学校 二通の手紙
- D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
- 小学校・低学年 ハムスターの赤ちゃん
- 小学校・中学年 シクラメンのささやき
- 小学校・高学年 青のどう門
- 中学校 カーテンの向こう
はじめに
昭和33年の道徳特設当時「劇化」として初めて紹介されて以降,その指導方法として紹介され続けてきた役割演技について,平成25年12月の道徳教育の充実に関する懇談会から出された報告においては,「道徳の時間において,『道徳的実践力』をより効果的に育成し,将来の『道徳的実践』につなげていくための手段」1)の例として,また,平成26年10月の中央教育審議会の答申では,多様で効果的な指導方法の例として2)あげられました。それを受けた学習指導要領解説 特別の教科道徳編においても,道徳的行為に関する体験的な学習の例として3)4),また,特別の教科 道徳の検定教科書に関しても,「『問題解決的な学習』や『道徳的行為に関する体験的な学習』について適切な配慮がされていることを求める規定を置くことが適当である」5)とされました。さらに,平成28年7月の道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議からされた報告では,「質の高い多様な指導方法」の1つとしての「道徳的行為に関する体験的な学習」の例としてあげられ6),次期学習指導要領の改善に向けて,「深い学び」の視点から,道徳的行為に関する体験的な学習における疑似体験的な活動の例として期待されています7)。このように,これから変わろうとする新しい道徳授業の指導方法の1つとしての役割演技に対して,かつてない期待の高さを感じます。
しかし,「質の高い多様な指導方法」として掲げられた他の指導方法と違い,役割演技は,教科学習等において,今まで日常的に活用されていた指導方法ではないことから,他の指導方法以上に,授業の主題やねらいに応じた適切な工夫改善と,その実践の蓄積と研究が必要だともいえましょう。例えば,本書を手に取った皆さんの中でも,「演劇と何が違うのだろう?」「(中学年以上の)子どもたちは,恥ずかしがって演者をやろうとしないので,演者になることを喜ぶ低学年に,限定された指導方法なのではないか?」「演じた後に,誰に何を聞いたら良いのか?」「演者には効果があっても,観客には効果がないのではないか?」「そもそも,『劇』をやって何の意味があるのか?」等,役割演技の意義や効果,方法等の疑問から,今まで取っつきづらさを感じていた方々がいらっしゃるのではないでしょうか。これらの疑問や誤解を払拭できる適切な指南書は,皆無に等しかったのではないでしょうか。かく言う筆者も,役割演技の授業の創り方を,一般化して語ることは避けてきました。なぜなら,即興的に演じられる役割演技は,授業の数だけ違いやよさ,それぞれの意味があるからです。
しかし,これだけ期待されている指導方法が,誤った解釈によってその効果が発揮できないとしたら,その創り方を語ることを避け続けることは,授業を受ける子どもに対しても,授業者としての皆さんに対しても,背信行為以外の何物でもないのではないかと考え始めました。そのため,本書では,筆者の現在持つ全てをさらけ出す覚悟で,読者の皆さんが工夫を加える基盤を造るための指南役となることを目指して作成しました。本書を,ぼろぼろになるまで活用してください。
本書の作成にあたり,その充実に尽力し,辛抱強く支えていただいた明治図書の佐藤智恵さん,足立早織さんに,この場をお借りして,深謝申し上げます。
/早川 裕隆
1)道徳教育の充実に関する懇談会 2013 今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告) 〜新しい時代を,人としてより良く生きる力を育てるために〜 p.12
2)中央教育審議会 2014 道徳に係る教育課程の改善等について(答申) p.11-12
3)4)文部科学省 2015 小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 p.92 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 p.95
5)教科用図書検定調査審議会 2015 「特別の教科 道徳」の教科書検定について(報告) p.4
6)道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議 2016 「特別の教科 道徳」の指導方法・評価等について(報告) p.6
7)中央教育審議会 2016 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について p.226
具体的な実践も掲載されているので、とても参考になる内容であった。
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