- はじめに
- /佐藤 学・和井田 節子
- 第1章 高校改革の課題
- /佐藤 学
- 第2章 学校づくりの実践
- 1 生徒の学びが教師を変える
- 〜東京大学教育学部附属中等教育学校・宝仙学園中学・高等学校女子部〜 /草川 剛人
- 2 ボトムアップの学校改革
- 〜滋賀県立彦根西高等学校〜 /夏原 常明・櫟 敏
- 3 ビジョンの共有からダイナミックな学校改革へ
- 〜広島県立安西高等学校〜 /才木 裕久
- 4 「学びの共同体」でよみがえる心地よい学校空間
- 〜静岡県立沼津城北高等学校・静岡県立川根高等学校〜 /浅川 典善
- 第3章 協同の授業の実際
- 「協同的な学び」を協同的につくるために /和井田 節子
- 1 授業づくり実践 国語
- 〜「学びの共同体」は授業実践をどう変えるか〜 /柴雲 智道
- 2 授業づくり実践 日本史
- 〜「幕藩体制の成立」〜 /三堂 和生
- 3 授業づくり実践 地理
- 〜「アフリカの難民」〜 /越智 義寛
- 4 授業づくり実践 数学T
- 〜難しい問題にチャレンジする〜 /浜崎 美保
- 5 授業づくり実践 数学U
- 〜数学における課題設定の工夫〜 /福本 茂男
- 6 授業づくり実践 生物
- 〜生徒の「わかった」を願って課題をつくる〜 /前田 香織
- 7 授業づくり実践 物理
- 〜「ジャンプ問題」について考える〜 /長野 修
- 8 授業づくり実践 英語ライティング
- 〜「英文構造分析法」を武器に学び合う〜 /礒山 馨
- 9 授業づくり実践 英語リーディング
- 〜詩の授業における協同の課題〜 /沖浜 真治
- 10 授業づくり実践 家庭科
- 〜身近なものを見直し、気づきを生活に生かす〜 /楢府 暢子
- 11 授業づくり実践 音楽
- 〜卒業後の生徒の姿を思い描いて〜 /白井 博美
- コラム
- 社会科研究室の会話―公民科の授業デザインをめぐって― /金子 奨
- アトリエの中の学び合い―美術で思考を深め、広げる― /小澤 功
- おわりに
- /草川 剛人・浜崎 美保
はじめに
高校教育は、今、転換期にある。高校の目的と意義が問われ、授業と学びのスタイルが問われている。しかし、どのような高校教育が生徒たちの希望ある未来を切り開き、日本社会の繁栄と文化の発展を確かなものにするのかは、必ずしも定かではない。むしろ、どの学校も生徒の厳しい現実への対応に追われ、旧態依然とした授業のスタイルに呪縛され、教師の多忙に追われ、過剰な改革論議に疲弊しているのが現実ではないだろうか。
本書は、何よりも今日の高校における教室の現実から出発し、一人残らず生徒の学びを保障し、生徒たちが夢中になって質の高い学びに挑戦する授業改革の風景を描き出し、そこに息づく教師たちの学びの姿と授業改革によって変わる学校の姿を提示している。考えてみると、高校改革の中核は授業と学びの改革であるにもかかわらず、これまで高校の授業実践をテーマとして執筆され出版された書物は皆無に等しいのではないだろうか。この現実にこそ、高校教育の最も深刻な危機があると言ってもよいだろう。
本書は、今から10年ほど前から活発化した「学びの共同体」を標榜する学校改革と授業づくりの実践事例をもとに著されている。「学びの共同体」としての学校は、一人残らず生徒を学びの主権者として育て、一人残らず教師たちが専門家共同体(同僚性)を築くための改革のヴィジョンであり、哲学であり、活動システムである。この改革のネットワークが小学校、中学校を基盤に開始されたのは今から15年ほど前だが、12年前から高校においても導入され、それぞれの学校で「奇跡的」とも呼べる成果をあげてきた。かつて退学者が4割を超えた高校が1割以下に激減した高校、かつて大学進学率が3%程度であった高校が60%を超えた高校、かつてトップレベルの大学に一人も進学者を出さなかった高校が、卒業者の4分の1がトップレベルの大学に進学するようになった高校など、その「奇跡」の事例は多様である。しかし、私たちは、これらの「奇跡」は改革の結果であって、「学びの共同体」の学校改革が中心的に追求すべき目標とは思っていない。私たちの学校改革と授業改革の中心目的は、生徒と教師が共に学びの主権者として創造的、自律的に学びの共同体を建設することであり、一人ひとりの尊厳が尊重される民主主義の社会を準備することであり、それらの学びを通して、未来を生きる高校生として、その未来を準備する教師として、希望を生み出す学校生活の幸福を獲得することである。本書のそれぞれの実践事例は、その具体的な風景を活写している。
本書が提示している授業改革は、協同的学びの導入と活用を基軸として展開している。現在、協同的な学びを授業に取り入れたいと考えている高校教師が増えている。言語活動を主軸においた新学習指導要領が実施されるからということはあるだろう。「思考力・判断力・表現力を育む言語活動」は、知識伝達型一斉授業では達成できないからである。しかしそれ以上に、協同的な学びの良さが全国に広く知られるようになったことが理由として大きいと感じている。協同的な学びが日常的に行われるようになると、生徒が主体的に学び始め、教室も落ち着くのである。
高校の場合、学校全体で協同的な学びを取り入れているところは少ない。協同的な学びを取り入れたいと思う教師が個人的に自分の授業の中で行っているケースがほとんどである。しかし、実は高校全体で一斉に協同的な学びを行う方が生徒の変化が早い。授業を変えることで、生徒が変わり、学校そのものも変わっていく。さらに、教師同士が工夫し学び合いながら、協同的な授業を追求していくことそのものが、その高校全体を「学びの共同体」に変えてゆくのである。そこで、本書は、「学校づくり実践」として、協同的な学びを学校として取り入れている高校の導入の経緯、学校の変化、教職員や生徒の反応などを中心に、管理職やキーパーソンの先生方に執筆してもらった。授業改善を軸とした学校づくりの参考になるのではないかと感じている。
とはいえ、コの字型の座席配置や4人グループによる話合いなどの形だけを取り入れても、最初は良くてもなかなか深まらないことも多い。実は、協同的な学びを行うには、理論も技法も必要になるのである。うまくいかないと感じると、工夫や探究を行う前に協同的な学びへの挑戦そのものをあきらめてしまう傾向があるだけに、これはとても残念なことである。
そこで、本書では、「授業づくり編」として、授業の具体的な姿を実践者に記述してもらった。ここでは、高校の協同にふさわしい課題の設定や、高校らしい授業デザインのヒントになる具体的で多様な実践を紹介している。高校は学校によっても、教科・科目によっても、授業の在り方が変わってくる。だから、教科ごとに、ある一時間を切り取って、授業デザインや生徒の様子、実践の智恵を伝えてもらった。
理念や理論、技法については,第1章「高校改革の課題」と、第3章1「『協同的な学び』を協同的につくる」に、全国の高校で協同的な学びについて助言を行ってきた編著者による説明を加えた。
なお、ここで紹介された授業実践の多くは、授業研究会で公開し、ビデオで記録もした授業である。そのまま再現したのでは読者にわかりにくいため、イメージしやすいように多少の改変を加えている。協同的な学びの実践例として参考にしていただければ幸いである。なお、生徒の具体的な様子や発言なども載せているが、生徒の名前は仮名になっていることもお断りしておきたい。
これまで、高校を対象にした理論と実践が詰まった本はなかった。本書が、「学びの共同体」をめざして協同的な授業づくりに挑戦する高校の先生方の実践の参考になれば幸甚である。
/佐藤 学(学習院大学)・和井田 節子(共栄大学)
-
- 明治図書