- まえがき
- 1章 なぜ今,キャリア教育が求められるか
- §1 キャリア教育とは何か
- §2 キャリア教育の展開と背景
- §3 小学校におけるキャリア教育
- 2章 小学校でキャリア教育を進めるための基礎的理解
- §1 小学校でキャリア教育を始めるにあたっての疑問
- §2 キャリア教育の基盤は小学校
- §3 キャリア教育を始めるにあたって基準となるもの
- §4 職業観,勤労観をどうとらえるか
- §5 キャリア教育活動の展開と4つの能力領域
- 3章 キャリア教育のカリキュラム編成の方法
- §1 教育課程とキャリア教育
- §2 キャリア教育導入にあたり,自校の教育課程を見直す
- §3 見直す視点としての「学習プログラム」
- §4 全校から学年の活動へ移行させていく
- §5 各学年のカリキュラムを6年間一貫したものに
- 4章 編成されたカリキュラムの実践
- §1 キャリア教育を準備する組織
- §2 キャリア教育実践のための組織
- §3 キャリア教育実践力の向上
- 5章 国語のキャリア教育カリキュラムと展開案
- §1 国語を軸にしたキャリア教育のカリキュラム
- §2 第2学年の展開例
- §3 第3学年の展開例
- §4 第5学年の展開例
- 6章 理科のキャリア教育カリキュラムと展開案
- §1 理科を軸にしたキャリア教育のカリキュラム
- §2 理科を軸にしたキャリア教育の展開案
- 7章 道徳のキャリア教育カリキュラムと展開案
- §1 道徳を軸にしたキャリア教育のカリキュラム
- §2 道徳を軸にしたキャリア教育の展開案
- 8章 特別活動を軸にした展開案
- §1 低学年のカリキュラムと展開案
- §2 中学年のカリキュラムと展開案
- §3 高学年のカリキュラムと展開案
- 9章 生活科・総合的な学習の時間でのキャリア教育カリキュラムと展開案
- §1 生活科・総合的な学習の時間を軸にしたキャリア教育のカリキュラム例
- §2 低学年の展開案
- §3 中学年の展開案
- §4 高学年の展開案
まえがき
キャリア教育がわが国で本格的に開始されて2年が経過しようとしている。数多くのキャリア教育推進地域や実践校の実践者との交流のなかで,確信しつつあるわが国キャリア教育の特徴が三つある。
ひとつは,「キャリア教育は,人である。」ということである。キャリア教育を実践するのは,先ず,人なのである。この人は,教師に限定されない。学校教育でいえば,教科の教師,養護教諭,図書館司書をはじめ,栄養士,事務職,現業職の方すべてが該当する。もちろん,保護者や地域の人々をはじめ,児童生徒が職場体験やボランティア活動などでお世話になる地域の人たちも含めてである。これまでも児童生徒への教育のなかでこうした人たちが実現しようとしていた活動を,より共鳴させ,響かせたのがキャリア教育なのである。その成果は,キャリア教育が実践されている現場では明らかに示されている。児童生徒が生き生きと学んでいる姿がそこにはあり,さらに,それに携わる人たちが生き生きと教育活動に携わっている姿がある。ある小学校の研修会で,私に,「この3月で定年ですが,最後の数年をキャリア教育実践に捧げることができて,教員として,本当によかった。」と,しみじみ語った女性の先生がいる。キャリア教育は人で成り立ち,人を変えるのである。本書に展開例を示していただいた先生方は,わが国のキャリア教育推進の中心人に当たる方たちである。
二つ目は,「キャリア教育はこれまでの教育活動の中に要素として存在していた。」ということである。例えば,「学習プログラムの枠組み(例)」の4能力領域に示された能力や態度は,これまでの教育活動に盛り込まれてきたものである。児童生徒がわが国を支える国民の一人として自立するために育成する能力や態度を,整理したことにより,これまでの教育活動に多大の可能性を与えた。ひとつは,横の可能性である。小中学校には,各教科,道徳,特別活動そして,総合的な学習の時間があるが,これらを通じ,こうした能力や態度をバランスよく育成する視点を与えたのである。もうひとつは,たての可能性である。小学校,中学校,そして,高等学校と発達段階に応じた能力や態度の育成が従来から求められてきたが,十分連携してきたかと言われれば,返答に困るのではないだろうか。学校段階でのこうした能力や態度の育成を各学校段階で,たての連携が分断されていたのである。例えれば,小学校で中国語,中学校で英語,高校でフランス語で教育していたようなものである。そこに,共通言語としてキャリア教育が登場したと考えればよいのである。本書に示したカリキュラムと展開案は,こうした横のつながりや,中学校へのたてのつながりの可能性を示しているのである。
三つ目は,「キャリア教育を支える多くの特徴をわが国の学校教育は既にもっている。」ということである。わが国には,清掃活動や給食の配膳といった,社会のリアリティを学校生活の日常に持ち込んでいる。職業的価値観の基盤となる,自分の役割が他者にどのように影響しているかを体験する機会を潤沢に備えているのである。また,担任教師が,教科指導と生徒指導の双方に関わるということも同様である。
一方,アメリカ合衆国では,校内の清掃は,清掃業者が行い,昼食は,用意された食事をカフェテリアでとるのである。さらに,アメリカ合衆国では,500人以上の児童生徒に一人の割合でカウンセラーが配置されている。わが国では,担任教師ばかりでなく,他の教師や養護教論もりっぱなカウンセラーなのである。こうした学校教育の特徴を活かし,教師一人一人がキャリア・カウンセリングを身に付け協働して指導にあたれば,それこそ,児童生徒の生き方にきめ細かく寄り添う学校教育が実現するのである。キャリア・カウンセリングの必要条件として,キャリア教育の理解と実践が前提として存在することを考えれば,本書もキャリア・カウンセリングを身につける機会を多く提供していることになる。既に,本書に示された展開例の中には,キャリア・カウンセリングの視点を盛り込んだものもあり,こうした取り組みの拡大は,キャリア教育の浸透と並行して増えていくであろう。
このような新しいキャリア教育の特徴を踏まえて本書はまとめられた。どの展開例も創造性にあふれ,わが国の小学校におけるキャリア教育実践へのさらなる可能性をひらいてくれる。
最後に,本書の編集にあたって,お世話になった明治図書の安藤征宏様,土井辰雄様に感謝の気持を示し,はじめの言葉としたい。
平成18年1月 編者 /児島 邦宏 /三村 隆男
-
- 明治図書
- キャリア教育の入門書として,大変よい内容の本。2015/5/3まんた