- まえがき
- T 幻から夢へ将来への自覚で子供は変わる
- 一 あの荒れた学年が一年後には平和な毎日に変身した
- 1 逃げ腰で始める
- 2 教師の話を静かに聞く
- 3 「総合学習」とは時期尚早であった
- 4 実行委員を募る
- 二 進路学習で何を学ぶか
- 1 世の中の土台になって働く人々
- 2 危険水域に入った日本の子供
- 3 生徒、教師の緻密な活動に感心する
- 三 動き出した生徒たち
- 1 命ある限り
- 2 無駄ではないが、ある種の恐れも
- 3 生徒たちはインタビューに職場まで出かける
- U 夢は生きる力を与える
- 一 大きな場で発表する
- 1 職人精神が日本を支える
- 2 職業の意義を三つあげると
- 3 強さの教育「場に立って鍛える」
- 4 発表も出番である
- 二 先輩を呼ぼう
- 1 インタビューをまとめると
- 2 「公」と「個」って、選択できるのか─公なくして個なし、個なくして公なし─
- 3 使命感と「みんな違っていていい」個人主義
- 4 先輩の体験談を真剣に聴く
- V 「トライやる・ウイーク」にトライするかパスするか
- 一 「トライやる・ウイーク」をトライする
- 1 なぜ「トライやる・ウイーク」か
- 2 不幸続きの兵庫県からの逆転の発想
- 3 早く行く先を知りたい
- 二 夢は生きる力の源
- 1 夢を持ってすっかり変わった卒業生の話
- 2 「講話」にはどんな狙いがあるのか
- 3 「トライやる」先の紹介はこのように
- 三 職場を明るくする人
- 1 暗いといわれた職場を一番明るくした人
- 2 子供の立ち直りに必要な心の持ち方の転換
- 3 生徒は何を規準に選ぶか
- W 「トライやる・ウイーク」直前!
- 一 与えられたらチャンスと思え!
- 1 「自分の好きなこと、やりたいことは」って聞かれても
- 2 一つの懸念
- 3 さあ決まったぞ! 行き先
- 二 職場で輝く人に
- 1 職場で輝く人
- 2 この世を超えた存在への畏敬の念を持て
- 三 本気が秘密である
- 1 本 気
- 2 「どうしたら子供は本気になるか」ということ
- 3 自己紹介に見る生徒の意欲
- X 待ちに待った「トライやる・ウイーク」
- 一 生き生きと活動する生徒たち
- 1 魂げたぞ!
- 2 開基一四〇〇年前と開店一年前
- 3 作る仕事と売る仕事
- 4 人生の初めの世話と終わりの世話
- 二 職場体験から自己発見する生徒たち
- 1 精神の成長が見られた
- 2 後輩にはこの体験を伝え、ボランティアには感謝の思いを伝えよ(報告会)
- 三 「一生やってもいい」
- 1 「園児が帰った後も先生は仕事がある」
- 2 「中学とはこんなところ」と小学生に伝える
- 3 人の命を救う仕事に緊張の毎日
- 4 鶴の折り物に感動してくれたご老人
- 5 経営の秘密をたずねてみる
- 6 「一生働きたい」と思った
- 7 憧れの巫女さんの姿に
- 8 九〇頭分の乳しぼりを任された楽しいときほど、時間は早く過ぎる
- 四 中学生が園児を変えた
- 1 報告会も学びの場になった
- 2 もてなしの心は物作りの精神にも通じる
まえがき
いま教育は、戦後最大の変革期を迎えている。少年犯罪と学級崩壊だけかと思えば、学力崩壊である。国際的に見て日本の子供の異常さも目立つ。その上、二一世紀を見すえた対応も必要である。保護づけによる体制弱化の例は農業だけでなく教育界も同じ、競争原理の強化を訴えるなど議論百出は望むところである。各種教育論を見てどれにもなるほどと不勉強な小生、感心するばかりである。一つだけ断じて認めないのが、戦後の教育原則のまさに問われている「原則」を問わずに、戦後なるものの延長線上にたつ論説である。崩壊した社会体制とその原則は、日本を含めて今世界中に例をこと欠かない。受け継ぐものと決別すべきものの腑分けが出来たら、もうねじ曲げた議論はいらない。賢明なる国民は選択を過つことはないであろう。
では「トライやる・ウイーク」の試みが答えているか、といえばそれは一部だけであるが答えている。何に答えたかといえば、感得・納得・感性に触れる教育、地域・家庭・学校の三者による協同の子育て体制、子供に自己存在感を育てる場をどのように創設するかなどである。
感性に訴える教育は、一つには「場に立つ」教育で実現する。この記録を読んでいただければいくつも実証出来るであろう。肉にされる牛が出荷される現場を見た生徒は、牛が「泣いていた」と書き発表した。推進委員の一人は、感心しながらも誰かがやってくれるからおいしいステーキが食べられるのだよと諭していた。問題は「立ち」さえすればよいのか、ということである。教科認識、道徳教育、進路学習との有効な連絡をどうつけるか、現場で実践しつつ案じるところである。ささやかだが我が校の実践は、いくらかこれらとの繋がりを意図した実践である。
三者による協同の場をいかにつくるか、「トライやる・ウイーク」は一つの場を設定した。事業所は多忙である。事後の報告会に参加を呼び掛けるがなかなか難しい。我が校では校長の発案で父親の会が作られ集まりが始まっている。子育てに関心ある多彩な顔ぶれを期待したい。実業界、商人、職人さんの世界には子供に伝えたい奥のある文化がまだあるのだ。教師は思い上がってはいけない!
「自尊感情を育てる課題」というが、中学生といえども一定の役割分担を背負うことなしにはうまく行かないだろう。子供に働いてもらわないと食えない程の貧困は今の日本にはないが、子供の出来る仕事で役立つ活動はないか。今後日本でもNPOが多数組織されると思うが、このNPOで子供の出番を設けてもらいたいものである。
「トライやる・ウイーク」の試案が発表されてから、このテーマでものを書くことになると覚悟を決めていた。不遜ではなく、自分の中で呼応する何かがあると実感していただけの話である。本書の構成は次の四つの柱からなる。第一に、私が生徒の集団の前で話した内容の記録である。第二は、これに関連する問題に対する私の考え方と根拠を記した。第三に所属する学年の「取り組み」を時間を追って書いた。最後が、生徒たちの書いた感想である。
文部科学省は平成一三年度から小・中学校ともに一定期間の奉仕活動を行なう方針を決めた、という報道があった。具体的な内容は分からないが、兵庫県の「トライやる・ウイーク」の成功を受け継いだ試案であることは間違いない。もしそうなら、兵庫の「トライやる・ウイーク」で生徒たちがどんな活動をどんな期待で行ない、何を考え、何を学んだのか、兵庫県の教員は知らせる必要がある。
このささやかな記録がその役割を果たせば望外のよろこびである。
平成一三年四月 /羽渕 強一
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- 明治図書