重度・重複障害のある子どもの理解と支援
基礎・原理・方法・実際

重度・重複障害のある子どもの理解と支援基礎・原理・方法・実際

好評13刷

自立と社会参加に向けた教育について、具体的な支援的方法を提示

障害の重度・重複化、多様化、複雑化が叫ばれる中、重度・重複障害のある子どもの教育に関する類書は少数である。本書は、特に学校教育で活用できる4つの本能・原興味と4つの感覚に着目した、日本の教育実践史上画期的な教育的支援方法について論を展開している。


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ISBN:
978-4-18-035412-2
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
13刷
対象:
幼・小・中・高
仕様:
A5判 144頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年5月16日

目次

もくじの詳細表示

まえがき
第1部 重度・重複障害のある子どもの教育の基礎
第1章 特別支援教育元年
1 新たな決意
2 コペルニクス的転回
3 個々の「ニーズ」と周囲の「支援」
第2章 特別支援教育の本質
1 特別とは「さりげない自然な配慮」
2 「領域的・構造的」概念としての支援
3 「方法的・機能的」概念としての支援
4 「方法的支援」・「領域的支援」の統一体としての支援
5 「働きかけられる子ども」の変容過程としての教育
6 教育の原点としての重度・重複障害のある子どもの教育
7 特別支援教育の定義
第3章 特別支援教育の要点
1 特別支援教育の理念と意義
2 特別支援教育の現状と課題
3 特別支援教育の取り組み
(1) 特別支援教育推進のための三本柱
(2) 特別支援教育推進のための学校の在り方
(3) 特別支援教育体制を支える専門性の強化
(4) 保護者との連携・協力
第4章 教員に期待するもの
第2部 重度・重複障害のある子どもの教育の原理
第1章 今,なぜ重度・重複障害のある子どもの教育なのか
1 重度・重複障害のある子どもの存在
2 命と向き合う重度・重複障害のある子ども
3 重度・重複障害のある子どもと人権思想
第2章 重度・重複障害のある子どもの教育の歩み
1 重複障害児教育の始まり
2 障害の重度・重複化と重度・重複障害児教育
第3章 重度・重複障害のある子どもの概念と主な原因
1 重複障害の概念
2 重度・重複障害児の概念
3 重度・重複障害の主な原因
(1) 原因から見た3つのタイプ
(2) 脳性マヒ
(3) 酸素欠乏症
第4章 重度・重複障害のある子どもの教育の形態,目的,内容
1 重度・重複障害のある子どもの教育の形態
2 重度・重複障害のある子どもの教育の目的
3 重度・重複障害のある子どもの教育の主な内容
(1) 学習指導要領による特例
(2) 自立活動
(3) 興味的自立
(4) 感覚運動あそび
(5) 個別の指導計画
第5章 重度・重複障害のある子どもの教育の意義
第3部 重度・重複障害のある子どもの教育の方法
第1章 重度・重複障害のある子どもの臨床像
1 発達的側面
2 行動的側面
3 中田基昭氏の臨床像
第2章 重度・重複障害のある子どもの実態把握
1 実態把握の基本的姿勢
2 実態把握におけるピグマリオン精神
3 実態把握の具体的方法
(1) 情報収集
(2) 生育歴等の整理
(3) 行動の把握の方法
(4) 実態把握の5つの基本的観点
第3章 重点目標と指導内容
1 心身の健康の保持・増進
2 コミュニケーションの誘発
3 コミュニケーションの促進
4 探索,構成
5 表現活動
6 日常生活の自立
第4章 学校内外の支援体制の構築
1 学校内における支援体制
2 学校外の関係諸機関との連携・協力
第4部 重度・重複障害のある子どもの教育的支援の実際
第1章 Aちゃんの情緒の安定と健康の保持
―重度・重複障害のある子どもの個別の指導計画―
第1学期 目標『信頼関係の醸成と実態把握』
1 本児の実態(第1学期 6月現在)/ 2 保護者の願い/ 3 医療関係者等の要望/ 4 教育的支援の重点目標/ 5 教育的支援の仮説/ 6 教育的支援の結果/ 7 反省と評価
第2学期 目標『健康の保持,体幹・座位の安定』
1 本児の実態(変更点)/ 2 教育的支援の重点目標/ 3 教育的支援の仮説/ 4 教育的支援の結果/ 5 反省と評価
第3学期 目標『発語の促進と手のひらの触感覚の向上』
1 本児の実態(変更点)/ 2 教育的支援の重点目標/ 3 教育的支援の仮説/ 4 教育的支援の結果/ 5 反省と評価/ 6 1年間のまとめと今後の課題
第2章 Bちゃんの身体意識の形成と歩行の安定化
―実践報告 重度・重複障害のある子どもといかにかかわるか―
1 実践研究の動機/ 2 Bちゃんの実態/ 3 問題の整理/ 4 教育的支援の実際/ 5 教育的支援の結果と考察/ 6 まとめと今後の課題
資料

まえがき

 世界は今,インクルーシブ教育が注目され,資本主義と社会福祉による共生社会を目指そうとしています。平成20年5月には,「障害者の権利に関する条約」が発効しました。人間の「生命の尊さ」が改めて問われています。

 特殊教育から特別支援教育制度へ転換して3年目を迎える日本。世界は,WHO(世界保健機関)のICF(国際生活機能分類)によるメディカルモデルからソーシャルモデルへの転換に伴い,障害種別に応じた分離の場から子どものニーズに応じた統合的な教育的支援への転換が図られています。

 義務制実施による重度・重複障害のある子どもの教育への着目は,日本国憲法の第26条及び教育基本法第4条の2における「教育の機会均等」という理念を,現実のものとして実現しようとしていることを意味しています。

 周知のように,昭和54(1979)年の養護学校教育義務制実施によって,重度・重複障害のある子どもたちが多く在籍するようになりました。発達段階が1歳前後に停滞している子どもたちが目の前に現れたのです。機能集団と効率性を前提とした日本の近代学校教育が始まって以来の出来事でした。

 子どもたちは,障害の多様化に伴い,重度・重複化の傾向を見せています。例えば,平成18年現在の特別支援学校における13000の重複障害学級の在籍者数は34531人です。特別支援学校の在籍者数の33%に相当します。

 平成21(2009)年3月の特別支援学校の改訂学習指導要領において,重度・重複障害者の指導に当たっては,教師間の協力体制や外部の専門家,すなわち,医師や看護師,作業療法士等の活用を規定しています。

 文部科学省では,平成19・20年度の特別支援学校等の指導充実事業において,「障害の重度・重複化,多様化などの喫緊の課題に対応し,自立と社会参加に向けた指導の改善を図るための施策を総合的に行う」としています。

 思い返すと,人類の歴史において重度・重複障害のある子どもは間引き,遺棄,嘲笑など,いわゆる差別の対象とされてきました。このように,かれらは現実的には公教育の対象外として扱われてきた悲惨な歴史があります。

 現在も重度・重複障害のある子どもたちに対して,「学校ではなく病院ではないか」「いくら教育しても納税者になれないではないか」「お金がかかり過ぎる」と非難している人がいると聞いています。

 教育現場で,かれらとかかわった人たちはみんな知っています。いくら障害が重くても,友達と一緒にいると,とてもうれしそうな顔をします。かれらは「生命」と向き合い,一生懸命に健気に生きているのです。

 このように,インクルージョンや人権思想といった世界の動向,日本の第3の教育改革期という流れの中で,特別支援教育における重度・重複障害のある子どもの教育の在り方が,従来の公教育の発想の転換とともに厳しく問われています。

 本書の大本願は,こうした歴史的・社会的背景を踏まえた上で,あらゆる教育の原点といわれる重度・重複障害のある子どもたちの教育の可能性と幸福の実現を目指すところにあります。

 したがって,重度・重複障害のある子どもの教育の基礎・原理・方法・実際を通して,重度・重複障害のある子どもたちの自立と社会参加に向けた教育について,可能な限り理解を促し,支援的方法を具体的に提示することが本書の最大の目的です。

 以下,4つの大きな柱を立てて,目的に向かってアプローチします。

 第1部の重度・重複障害のある子どもの教育の基礎では,特別支援教育元年の意味するもの,従来の障害観の転換,特別支援教育の本質,わが国の特別支援教育の取り組み,障害のある子どもたちに期待される教師像について整理しました。特に特別支援教育の「支援」及び「定義」に新たな視点を提起しています。

 第2部の特別支援教育の原理では,重度・重複障害のある子どもの教育の歴史的背景,概念,形態,目的,内容,そして重度・重複障害のある子どもの教育の意義について論を展開しました。特に,その意義についてオリジナリティーをもたせるよう努力しました。

 第3部の重度・重複障害のある子どもの教育の方法では,重度・重複障害のある子どもの臨床像からスタートし,教育的支援の手がかりを得るための実態把握の方法,重点目標の設定の仕方,学校内外における支援体制の在り方について論及しました。特に,実態把握の方法と個人的専門性・組織的専門性という観点からの支援体制の構築にエネルギーを注ぎました。

 第4部の重度・重複障害のある子どもの教育の実際では,第1に《Aちゃんの情緒の安定と健康の保持》を目指した「個別の指導計画」,第2に《Bちゃんの身体意識の形成と歩行の安定化》をテーマとした実践報告を紹介しました。

 「個別の指導計画」も「実践報告」も,初心者の方にもすぐ活用できるよう,わかりやすく構成しています。「実践報告」では,生命に対する畏敬を根本哲学とした重度・重複障害のある子どもの教育的支援の特質について述べています。

 筆者の2つの実践例を通して,教育的支援の特質が,子どもの側に重心を置いた教育内容・方法の多様性及び周囲の関係者の専門性と方法的支援にあると結論しています。それは,特別支援教育の本質でもあると同時に,あらゆる教育の普遍的原理となり得るものです。

 本書を作成するに当たり,以下の4点に配慮しながら可能な限り簡潔にまとめるよう努力しました。

 第1に,重度・重複障害のある子どもの教育の核心である「働きかけられる側の子どもの変容過程」に焦点を当て,教育活動(個人的専門性)と教育環境・条件(組織的専門性)という2つの観点を意識して本書を展開しました。

 第2に,本書はいわゆる徹底した現場主義を貫いています。特別支援教育関係の本には,現場の匂いが感じられるものが少ないように思われます。そこで,できる限り学校現場の目線で考え,論を展開するよう努力しました。

 第3に,読了後に,これまで以上に「ヤル気」が増してくれることを願い,初心者の方,特に現場の教員が読みやすいように,整合性とシンプルさと繋がりを大事にしながら文章を練り上げ展開しています。

 第4に,第3との関連で,一気に読んでもらいたいと考え,文章の内容の区切りを可能な限り3行か4行におさえて,テンポよく要点をキャッチしていただくよう努力しました。

 本書を通して,障害の重い子どもたちのことを知って欲しいと願っています。また,どんなに障害が重くとも,「受容・支援と制限・対決」という従来の指導の原理原則に変わりはありません。配慮の方法が異なるだけです。

 そして,周囲の関係者の環境的促進因子としてのチームワーク,支援体制の大切さも,本書を通して知っていただけたら幸いです。周囲の人たちの支援がなかったら筆者自身の実践はあり得ませんでした。

 多くの同僚の先生方,寄宿舎指導員の方々,看護師さん,栄養士さん,洗濯担当の方々,隣接する研究所の研究員の方々,特に,保護者から得たものは大きいものでした。周囲の人たちとの支援体制は,永遠の課題です。

 なお,本書では,訪問教育については取り上げませんでした。訪問教育は1つの形態であり,目的・内容・方法についてはほぼ同じではないかと判断したからです。

 いつものことですが,「障害」という言葉の使用には,矛盾を感じ,心のどこかに引っかかりを感じています。例えば,重度・重複障害という言葉を多用していますが,便宜上やむを得ず使用しています。ご理解ください。

 本書の対象は,主として初心者の学生さんや保育園,幼稚園,小・中学校,高等学校の学校現場の先生方,保護者の方,障害のある子どもたちの関係者の方々を想定しています。

 特に,「私は重度・重複障害のある子どもの専門家ではありませんから」「実践はいいのですが理論がちょっと」といっておられるような保育園,幼稚園,小・中学校,高等学校の先生方にお読みになってもらえたらうれしいです。

 本書を作成するに当たり,藤原正人編・久里浜の教育同人会著『重度・重複障害児の教育』,志村太喜彌著『重度・重複障害児の教育』,細村迪夫・三浦和編著『重複障害』,文部省(大内満編集)『重複障害児指導事例集』,西川公司編著『重複障害児の指導ハンドブック』,下山直人編著『障害の重い子どものための授業づくりハンドブック』から,多くのことを学ばせていただきました。

 日本における重度・重複障害のある子どもの教育という未開拓の分野を切り開いた先達のご苦労は並々ならぬものであったと推測されます。本書は,かれらの先駆的実践研究なくしてあり得なかったことは確かです。感謝の気持ちで一杯です。

 琉球大学教育学研究科の新垣香代子さん,津波佳和さん,大城典子さん,長渡聖さん,多和田葵さん,宮里秀太郎さんには,誤字脱字等の検討等,大変お世話になりました。お礼申し上げます。

 本書の企画・作成に当たり,明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子さん,橘亜希さんには,今回もいろいろとアドバイスをいただき,励ましていただきました。ありがとうございました。


  平成21年3月   著者 /大沼 直樹

著者紹介

大沼 直樹(おおぬま なおき)著書を検索»

琉球大学教育学部特別支援教育講座教授

前大阪教育大学教授・大阪教育大学附属特別支援学校校長

沖縄県立大平特別支援学校評議員

沖縄県立泡瀬特別支援学校評議員

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • 「プライドを持ってプライドを捨てる」、「還愚の思想」、「ピグマリオン」など筆者の教育哲学に心を打たれました。これからのインクルージョンの時代ににむけて、ぜひ、多くの方々に読んでほしいと思いました。
      2009/7/30アンジ
    • 私も重度・重複障害のある子どもたちの教育に強い関心を持っていますが、とても示唆に富んだ内容であり、大変、共感・感動いたしました。是非、特別支援学校や肢体不自由を中心とした特別支援学級の先生方以外の小・中・高等学校の先生方にも読んでいただきたいと思います。すべての子どもたちが生き生きと学習できるような学校教育になってほしいと願っています。
      2009/6/7mayuとmako
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