社会科学力をつくる“知識の構造図”
―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント―

社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント―

好評8刷

子供が大満足の授業=それは“知的追究”教材から生まれる

社会は変わっていく―と誰でも思っている。でも、時と場が変わっても変わらないものもある。四方位とか時代の名称や順序など普遍性のある知識。一方、どの部屋にも入れるマスターキーとなる概念的知識を持たせれば、転移可能な知識獲得になる。教材づくりの真髄を開示。


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PDF
ISBN:
978-4-18-022926-0
ジャンル:
社会
刊行:
8刷
対象:
小・大
仕様:
A5判 128頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年5月13日

目次

もくじの詳細表示

まえがき
T なぜ「知識の構造図」を作成するのか
1 社会科授業の現状から考える
(1) 「社会科は難しい!」を解決したい
(2) 問題解決的な学習の落とし穴
(3) 「こんなことも知らないのか」と言われないように
2 「知識」を今日的な視点から問いなおす
(1) 「知識基盤社会」とどう関連するか
(2) 学習指導要領に示された新しい課題
(3) 小中連携の「はじめの一歩」
U 先達の研究と実践から何を学ぶか
1 山口康助氏の「構造化論」
(1) 教師の仕事としての「指導内容の構造化」
(2) 「指導内容の構造化」とは何か
2 西村文男氏の「教材構造」の考え方
(1) 授業で「教材」をどう考えるか
(2) 「教材構造」とはどのようなものか
(3) 「教材構造」をどう改善するか
V 授業で「知識」をどう考え指導するか
1 「基礎的・基本的な知識」と子どもの学び
(1) 「基礎的・基本的な知識」とは何か
(2) 子どもの学びは知識獲得の過程
2 社会科における「知識」をどうとらえるか
(1) 「知識」のもつ二つの内容
(2) 知識は多様であること
(3) 知識は階層的に関連している
(4) 流動性のある知識と普遍性のある知識
(5) 学習活動に即して「知識」を考える
W 「知識の構造図」をどう作成するか―その具体的な手順
1 「知識の構造図」を作成する前に行うこと
(1) 小単元名と小単元の目標設定
(2) 評価規準の設定
2 「知識の構造図」のつくり方と実際
(1) 概念的知識と指導計画作成のポイント
(2) 中心概念を支える知識(具体的知識)を整理する
(3) 用語・語句レベルの知識を位置づける
(4) 「知識の構造図」の作成例
(5) 「知識の構造図」と関連づけた指導計画の作成
3 「知識の構造図」の評価
(1) 教師による評価の視点
(2) 子どもによる「知識の再構成」
4 先進事例の紹介と検討
(1) 川崎市立橘小学校の事例
(2) 鳥取市立用瀬小学校の事例
(3) 台東区立金曽木小学校の事例
5 研究授業で使える「知識の構造図」とその指導計画
(1) 3年「スーパーマーケットではたらく人」
(2) 4年「伝統文化を保護・活用している○○市」
(3) 5年「医療ネットワークと私たちのくらし」
(4) 5年「自然災害からくらしを守る」
(5) 6年「聖武天皇と奈良の大仏」
あとがき

まえがき

 社会科の授業を参観する機会があった。3年の「スーパーマーケットではたらく人」の学習であった。子どもたちは観察したり見学したりして見つけたことを元気に発表していた。ところが子どもたちの発言にどこかもの足りなさを感じた。子どもたちの関心がスーパーマーケットのなかの様子に固執していたからである。働いている人や買い物客の様子,商品の並べ方に見る工夫に集中し,子どもたちの目が国内の各地域や外国など,他地域とのかかわりに向いていないのである。

 急いで学習指導案を見なおしてみると,他地域とのかかわりに関する事項がいっさい示されていないことがわかった。教師自身に課題意識がない内容は,所詮子どもたちが学べるはずはない。ここでの学習で取り扱わなければならない重要な知識に抜け落ちが見られたのである。

 6年の歴史学習を参観したときである。12月に入っていたが,まだ明治維新を扱っていた。通常はすでに終わっている時期である。その先生は「歴史は教えることが多くて,つい…」と恐縮していた。ところが授業を参観して,小学校としてはかなり深入りして扱っていることがわかった。中学校レベルの内容だったからである。小学校で取り上げる知識の範囲や程度が明確にされていなかったのである。

 小学校社会科の授業研究は,一般的に見て,指導方法の改善に傾斜がかかっている。多くの小学校教師は,子どもの発言の引き出し方,教材や資料の提示方法,教師の発問や指示の仕方,子どもの学習活動の促し方,板書の構成,子どものほめ方や励まし方など,どれをとっても優れた指導技術を身につけている。若い教師もそうした指導技術を習得しようと懸命に努力している。これは教師として身につけるべき重要な資質能力の向上策である。

 ところがである。授業の目標は「いかに」上手に指導するかという方法論だけでは成立しない。そこには「なにを」という内容が伴わなければ,教師が設定した目標の実現は保障されないのである。目標(なんのために)は内容(なにを)と方法(いかに)を一体化させることによって実現する。これは授業にかぎらず,なにごとにおいても共通した原則である。

 かつて社会科がまだまだ元気だった昭和40年代は,教材研究に重点がかかりすぎていた。教材に対する教師の解釈や思いや願いが先行して,子どもの主体的な学習が軽視される傾向も見られた。教師の価値観が反映されることもあった。その結果,社会科は指導が難しい教科だと言われるようになった。多くの教師が社会科を敬遠するようになった。

 こうしたことの反動なのか。あるいは教育内容を示した学習指導要領が徐々に学校現場に定着してきた結果なのか。いまでは,指導内容や教材を深く吟味・検討することが少なくなり,「いかに」指導するかという方法論にのみ関心を向けるようになってきた。

 社会科の授業研究の先達に,「学習内容の構造化」を唱えた山口康助氏がおられる。こうした先行研究にも学びながら,社会科の内容に目を向け,「なにを」教えるのかという,内容論の視点から社会科の役割を明らかにする必要性を強く感じている。

 学校教育の今日的な課題に「知識」の扱いをあげることができる。社会科は従来から内容教科だと言われてきたように,多くのしかもさまざまな「知識」を扱う教科である。ところが,社会科の授業研究などで,「知識」そのものについて議論されることはほとんど見られない。学習内容と言われる社会についての「知識」を「いかに」指導するかを検討するまえに,そこで取り上げられる「知識」とはそもそも何かをまず明らかにしておくことが必要ではないか。

 いま大学生に接していて,わたくしが知らない知識や情報を知っている反面,「こんなことも知らないのか」といったことに出くわすことも多い。社会の出来事に対する関心が薄く,新聞などに紹介される社会情報についてさえ知らないことがある。小学校や中学校で教わったはずの常識的な知識さえ覚えていないこともある。完全な知識の剥落現象が起こっているのである。社会科は内容教科だという看板が泣くというものである。このことは,本書で紹介している知識に関する調査結果からも明らかである。

 わたくしはかつて『新しい知識観に立つ授業の改革』(明治図書)という図書をまとめた。1999年のことである。そこでは,「知識」のもつさまざまな特質について検討した。「知識」の重層化とは何か。生きて働く「知識」とは何かを明らかにした。生涯学習時代に求められる知識や,「知識」の獲得と体験的な活動や子どもの問題意識との関連についても論述した。わたくしには,このころから「知識」に関心があったことを窺い知ることができる。

 これに先立って,1997年には『「社会科の授業」はどう変わらなければならないか』(明治図書)を出版した。サブテーマには「『一匹の魚』よりも『魚のとり方』を」とつけられている。ここでは,「一匹の魚」に当たる細切れな知識を身につけることに終始する社会科ではなく,一生ものになる「魚のとり方」を身につけることを訴えた。

 わたくしの社会科授業の問題意識に「知識」の問題があったことは否定できない。それはいまも引きずっている。

 本書『社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント』は,こうしたわたくしの現状認識とそれにもとづく問題意識,そしてこれまでの研究の経緯のなかから生み出された企画である。その意味ではわたくしの社会科研究の歴史的所産であると言うことができる。

 以下,各章の趣旨である。

 T章の「なぜ『知識の構造図』を作成するのか」では,わたくしがなぜ本書で「知識の構造図」を問題として取り上げるように至ったのかについて,学校現場に見る社会科授業の実態と今日的な観点から,その意義と必要性について論述した。これは本書のいわばプロローグの部分である。

 U章の「先達の研究と実践から何を学ぶか」では,「学習内容の構造化」を提唱した山口康助氏と,学習指導案に「教材構造」を示した西村文男氏の研究を取り上げ,検討を加えた。

 V章の「授業で『知識』をどう考え指導するか」では,知識のもつ「多様性」「階層性」「変数性」「応用性や転移性」など,さまざまな特質について整理した。そして,「知識の構造図」でいうところの「知識」をどう考えたらよいか。わたくしなりのとらえ方を提言した。

 W章の「『知識の構造図』をどう作成するか―その具体的な手順」では,まず「知識の構造図」を作成するまえに行うことを述べたあと,「知識の構造図」を作成する手順について実践的に解説した。さらに「知識の構造図」の評価についても,教師の立場と子どもの立場からそれぞれ具体的に論述した。そのあとに,すでに先進的に取り組んでいる小学校の「知識の構造図」を検討し,新学習指導要領の新教材を含めて研究授業で使える「知識の構造図」とそれにもとづく指導計画を紹介した。

 本書は,先進的に実践している小学校の研究成果にも学びながら執筆したものである。執筆に当たって特に参考にさせていただいた,川崎市立橘小学校,鳥取市立用瀬小学校,台東区立金曽木小学校の先生方には,この場を借りてお礼を申し上げたい。

 本書が社会科の授業改善にお役に立ち,学習指導案に「知識の構造図」が示され,確かな内容と豊かな方法が一体になった社会科授業が展開されることを心から願っている。そして何よりも,マンネリ化しつつある社会科の一層の発展と活性化に生かされることを切に希望するものである。社会科の授業改善の起爆剤になればこれ以上の喜びはない。

 終わりに,本書の刊行にあたっては,明治図書出版の樋口雅子編集長から貴重なアドバイスをたくさんいただいた。この場を借りて,心より感謝を申し上げたい。


  平成23年3月   /北 俊夫

著者紹介

北 俊夫(きた としお)著書を検索»

福井県に生まれる。

東京都公立小学校教員,東京都教育委員会指導主事,文部省初等中等教育局教科調査官,岐阜大学教授を経て,現在国士舘大学教授。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • 知識のとらえは学者によってもさまざま。しかし、授業者は知識の質を見極める目をもって指導しないと、評価がぼやける。知識の構造化は、単元を構想する上を大切ですね。
      2018/9/1530代・中学校教員
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