- 特集 子どもの生きづらさと暴力に向きあう―自治の教育を通して、平和的な秩序を―
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今月のメッセージ
奈美とはるかのこと
全生研常任委員 高原 史朗
はるかのお母さんから突然の電話があった。こんな内容である。
「いじめられ誰も友だちがいない小学校時代を過ごしていたのに、中学校に来て、新しい学校の友だちができて毎日楽しいと言っていた。それなのに、奈美が『あの子はいやなやつなんだ』と言ってまわっている。許せない。それから会うたびに『きもい』と言ってくる。何とかしてもらいたい。だいたい四年の頃に娘にケガをさせたのに一言の謝罪もない」
どうやら奈美さんとは付き合うな、と娘に言っているようであった。
一方、奈美の言い分である。
「私と遊んでいるときに自分でケガをしたのに、それを私がケガさせたみたいにまわりの友だちに言いふらして……。中学に入っても別の小学校の友だちにも言いふらしているらしくて、それに私に会うとわざとらしく避けたりして、それで『きもい』って言った」
事実確認は混乱を極めた。小学校時代のけがの経緯はどうやら分かった。はるかが自分で奈美の背中に乗っているうちに落ちた、のであった。そのことは当時の担任の立会いの下で確認済みであった。
「もういろいろあって、それぞれ言い分があって、お互い向こうが悪いと思ってるわけね。もうそれは先生も分かんないや。だから、中学校に来てからのことだけにしよ」
はるかが「わたし、けがさせられたんだ」と言ってしまったのは事実であった。話の中につい出してしまい、「けがさせられた」と言ってしまったのだ。これまでの対立の中で、何度もいやな思いをしているし、中学入学後も何回か「きもい」と言われていたので、そういう言い方になったようだ。言ってから「あっ」と思ったのだが、そのままにしてしまったのだ。
「『あっいけない』っと思ったんだ。どうして訂正しなかったの……」
「一度言っちゃったこと言い直すと変だと思われそうで……。やっとできた友達だったし……ちょっとだけだし、こんなに広がるなんて……」
奈美が「いやなやつだ。友達になるな」と言ってまわったのも事実であった。「けが」のことを言いふらされたと思っていたことも大きな理由であった。
「いじめだと言われても困るし、事実でないことを言いふらされても困るでしょ。お互いに避けあうのも感じ悪いし。仲良くならなくてもいいから、普通にすることにしない?」
そういう問いかけに奈美が突然泣き出す。
「仲良くならなくても……っていうけど……四年のころは楽しかった。はるかは、ずっと歯のこと恨んでて、だから言いふらしてるって思ってたけど、そうじゃないことが分かって、私は謝りたい。で、前みたいに仲良くなりたい……」
この言葉に、かたくなだったはるかが「……わたしも……ごめん」と答えたのだ。
気づいてみればかつては背中に乗って、じゃれあうほど仲の良かった二人だったのだ。「お母ちゃんには何ていう?」「……当分黙ってる。でも何か言われたら、『仲直りしたから』って言っとく」
トラブルを断罪し、そうするしかなかったそれぞれの「事情」と「思い」が置き去りにされる雰囲気が強まっている。そう感じるのは私だけだろうか。しかし、はるかと奈美は「今度納得のいかないことがあったら、事実とわけを直接本人に確認する」ことを決め、帰って行った。奈美の泣きながら一歩踏み出そうとした勇気とこの二人の姿に励まされたのは、他ならない私自身であった。
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- 明治図書