生活指導 2007年8月号
子どもの生きづらさと暴力に向き合う

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生活指導 2007年8月号子どもの生きづらさと暴力に向き合う

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2007年7月5日
対象:
小・中
仕様:
A5判 124頁
状態:
絶版
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目次

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特集 子どもの生きづらさと暴力に向きあう―自治の教育を通して、平和的な秩序を―
子どもの生きづらさと暴力に向きあう―自治の教育を通して、平和的な秩序を―
井本 傳枝
実践・小学校
一人では、子どもの生きづらさと向き合えない
井本 傳枝
「あなた方はなんにも悪くないよ!」
勝野 一教
実践・中学校
学級崩壊後の子どもたちとともに
栗城 利光
生きづらさにあえぐ子どもたちと「応答」し合える関係づくりを
鈴木 英雄
コメント・小学校
「向き合う」「支える」とはどういうことか
坂田 和子
コメント・中学校
困難な中でも、子どもたちの立場に立って
柏木 修
論文
「生きづらさと暴力」に向き合うために
折出 健二
第2特集 第49回全国大会基調提案
基調の課題
加納 昌美
第49回全国大会基調提案
子どものための「学校・教育」改革を!―自治の教育を通して、平和的な秩序を―
基調提案委員会
関連論文
学校の変貌と自治と学びの教育の可能性
照本 祥敬
今月のメッセージ
奈美とはるかのこと
高原 史朗
私の授業づくり・道徳 (第5回)
小学校/科学的な目で差別を乗り越える
永田 ひろし
中学校/子どもたちの小さくて大きい変化に寄り添って
田中 洋子
実践の広場
学級のイベント
子どもと親と地域をつないだ学級遠足
的場 智子
学年・学校行事
瞳輝く学校行事
横倉 英汰
学びの素材
総合テーマを複数教科で学ぶ
堀江 富美子
子どもの生活を見る
子どものとらえ直しは語ることから
暘谷 賢
部活動・クラブ活動の工夫
野球部の指導
川名 仁
心に残る子どもとの対話
暴言の裏にあるもの
柳田 良雄
手をつなぐ―親と教師
お母さん同士の繋がりを求めて
広田 知子
掲示板Y・O・U
吉野 真希佐藤 浩美
ホッと一息・コーヒータイム
私のオフタイム
川澄 宗之介
マンガ道場
猪俣 修
案内板 集会・学習会のお知らせ
教育情報
特別支援教育に逆行する学校指定停止
湯浅 恭正
北から南から
サークルからの発信・大阪
藤井 淳
〜交野サークルとの出会い〜
読書案内
『べてるの家の「当事者研究」』(浦河べてるの家・著)
白桃 敏司
読者の声
6月号を読んで
シリーズ/「いじめ」問題を考える (第4回)
「空気を読む」 という子どもたちの関係性
高橋 英児
全生研第49回全国大会案内
編集後記
井本 傳枝

今月のメッセージ

奈美とはるかのこと

全生研常任委員 高原 史朗


はるかのお母さんから突然の電話があった。こんな内容である。

「いじめられ誰も友だちがいない小学校時代を過ごしていたのに、中学校に来て、新しい学校の友だちができて毎日楽しいと言っていた。それなのに、奈美が『あの子はいやなやつなんだ』と言ってまわっている。許せない。それから会うたびに『きもい』と言ってくる。何とかしてもらいたい。だいたい四年の頃に娘にケガをさせたのに一言の謝罪もない」

どうやら奈美さんとは付き合うな、と娘に言っているようであった。

一方、奈美の言い分である。

「私と遊んでいるときに自分でケガをしたのに、それを私がケガさせたみたいにまわりの友だちに言いふらして……。中学に入っても別の小学校の友だちにも言いふらしているらしくて、それに私に会うとわざとらしく避けたりして、それで『きもい』って言った」

事実確認は混乱を極めた。小学校時代のけがの経緯はどうやら分かった。はるかが自分で奈美の背中に乗っているうちに落ちた、のであった。そのことは当時の担任の立会いの下で確認済みであった。

「もういろいろあって、それぞれ言い分があって、お互い向こうが悪いと思ってるわけね。もうそれは先生も分かんないや。だから、中学校に来てからのことだけにしよ」

はるかが「わたし、けがさせられたんだ」と言ってしまったのは事実であった。話の中につい出してしまい、「けがさせられた」と言ってしまったのだ。これまでの対立の中で、何度もいやな思いをしているし、中学入学後も何回か「きもい」と言われていたので、そういう言い方になったようだ。言ってから「あっ」と思ったのだが、そのままにしてしまったのだ。

「『あっいけない』っと思ったんだ。どうして訂正しなかったの……」

「一度言っちゃったこと言い直すと変だと思われそうで……。やっとできた友達だったし……ちょっとだけだし、こんなに広がるなんて……」

奈美が「いやなやつだ。友達になるな」と言ってまわったのも事実であった。「けが」のことを言いふらされたと思っていたことも大きな理由であった。

「いじめだと言われても困るし、事実でないことを言いふらされても困るでしょ。お互いに避けあうのも感じ悪いし。仲良くならなくてもいいから、普通にすることにしない?」

そういう問いかけに奈美が突然泣き出す。

「仲良くならなくても……っていうけど……四年のころは楽しかった。はるかは、ずっと歯のこと恨んでて、だから言いふらしてるって思ってたけど、そうじゃないことが分かって、私は謝りたい。で、前みたいに仲良くなりたい……」

この言葉に、かたくなだったはるかが「……わたしも……ごめん」と答えたのだ。

気づいてみればかつては背中に乗って、じゃれあうほど仲の良かった二人だったのだ。「お母ちゃんには何ていう?」「……当分黙ってる。でも何か言われたら、『仲直りしたから』って言っとく」


トラブルを断罪し、そうするしかなかったそれぞれの「事情」と「思い」が置き去りにされる雰囲気が強まっている。そう感じるのは私だけだろうか。しかし、はるかと奈美は「今度納得のいかないことがあったら、事実とわけを直接本人に確認する」ことを決め、帰って行った。奈美の泣きながら一歩踏み出そうとした勇気とこの二人の姿に励まされたのは、他ならない私自身であった。

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