いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング
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いつものクラスでSST 第7回
ほめる感嘆詞 あいうえお
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2014/12/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

「あっ(すごい)」、「いいっ!」、「うーん(なるほど)」、「えー?(びっくり)」、「おお〜」。といったほめ言葉が使われるクラスになるためには、聞き手が相手の発信を上手にキャッチできることが欠かせません。今回は『聞く』について、考えてみましょう。

前回は「教え合い」についていろいろアイデアを教えていただきました。最近ペアで話し合いをさせるクラスも増えてきていますよね。

グループよりもたくさん話す場を作れるので、私もよく使います。 
私は最近、隣同士のペア(Aペア)だけでなく、自分の後ろの席同士のペア(Bペア)を取り入れるようにしています。いつも同じペアより、話の広がりがあります。

最近の研究によると、注意集中の難しい子は、グループよりもペアの方が思考を深められるそうです。順番を待ったり、複数の友達の意見を頭の中で整理したり、自分の意見とつなげたり、ということはより多くの刺激の調整が必要になりますから負担になり過ぎる場合があるんですね。ですからペアの方が効果的なんでしょうね。

でも、ついつい自分が困る時に「じゃあペアで考えてごらん」ってしがちで反省します。桂聖先生(筑波大附属小)は「子どもが話したくなる時にペア活動を入れる」とおっしゃっています。子どもから「話し合わせてください」という要求が子どもから出るような展開にしないといけないですね。

なるほど。「話し合いたい」という要求が出るようなしかけが必要なのかな。でも、そもそも話し合いの前に、友達の意見を聞く、取り入れてみるというのはなかなか難しい気がしますよね。

俺ルールのある子どもさんはとくにそうですね。でも、内容まで受け入れるのは難しくても「相手の話が聞こえたらOKしてあげて」という段階ならできるかもしれない。

「OK」っていうのは「聞いているよ」っていうサインということでしょうか?

はい。せっかく話すのに反応がないのは、話し手が悲しいし、「あの子とのペアなんて嫌だ」と思われないようにしたいです。だから「聞いているよ」という反応は大切にしたいですよね。

反応を示す、ということは当たり前のようで実は出来ていないことかも知れませんね。ところで、友達が発表しているのを聞くということ自体、難しいことだと思います。先生に「黙って聞きなさい」とか「しっかり聞きなさい」と言われてもなかなかできない子が多いでしょ。「友達の意見を聞く」ことができるために、先生はどのような工夫をされていますか? 

「し〜ん、と黙って聞く」の場合はプール学院の松久眞実先生の実践(*1)「おだまりモード」をしています。
 どんな感じかというと「今から5秒間だけおしゃべり0(ゼロ)にできるかな?」と指示して、それができたら大いにほめて、「これがおしゃべりゼロです」と、全員で共有するのです。

「おだまりモード」ですか、面白いアイデアですね。松久先生さすが。

「ゼロ」がわかれば、よくある「声のものさし」の意味もはっきりします。5秒から少しずつ「静か」の時間を増やしていって、最後は掲示物を貼るだけの支援をします。
「おだまりモード」の掲示物

「声のものさし」は、最近中学校でも活用してくれていますね。
「声のものさし」

それと「集中トレーニング」も中学年までくらいならやります。「集中」という合言葉で手を前にクロスさせます。…というのは「手に何も持たない状態」にさせるのです。そして話し手を見る、を徹底させます。それができるようになったら、騒ぎ立てるぬいぐるみのPちゃんを教師が操作して集中のじゃまをしにいきます。子どもたちはそのぬいぐるみに集中を途切らせない練習をするのです。それでもあまりにも気が散るときは「あとで話そうね」というセリフを言うように教えておきます。(*2)
(第7回イラスト)

また、「し〜ん、と黙って聞く」のと同じくらいに「反応しながら聞く」ことが大切だと思うのです。

「反応しながら聞く」というのは難しそうですね。AをしながらBをするというのは、注意を分割させないといけないので、ADHDタイプの子などには厳しい。それに自閉スペクトラム症タイプの子は「どう振る舞えばいいのか」がわかりにくいですね。

ええ。だから、「反応の仕方」を教え、最初に練習をしておきます。画用紙に反応の例を書いておいて(図3)教師が指をさした反応の言葉を言わせます。これは大阪の金先生に講座で教えて頂きましたが、例えば、
 「給食のカレーって、おいしいですよね」「あ〜」
 「明日はテストをします」「いっ!」
 「だいぶ日が短くなってきましたね」「たしかに」
 その後で、ペアで「今日食べてきたもの」という短い話し合いをさせ、「必ず反応語を3つ入れて聞こう」というようにして聞かせます。
 子どもの反応が減ってきたな、と感じたときは、その掲示物を黒板の端に貼って、指をさして気づかせます。
(図3 反応の例)

これまた「授業でソーシャルスキルトレーニング」ですね。実は私も似たようなことを考えています。「ほめる感嘆詞 あいうえお」です。
「あっ(すごい)」、「いいっ!」、「うーん(なるほど)」、「えー?(びっくり)」、「おお〜」。このような一言をかえすことが、話し合いをよりスムーズに、円満に進めてくれますよね。

聞くことは学びの始まりです。聞くことは自分を賢くすることだから聞くことで自分を大事にしているといえます。
 また、聞くことは他人理解のはじまりで、聞くことは友達を大切にしていることだと常々子どもに語っています。
 「なんでそれをするのか」説明をした上で「型」を教える、そして子どもが教えたことをしていたらほめる、それを繰り返す中で子どもの聞く力も育っていくのではないでしょうか。
 一年の中で揺らいだら、また教えたらいい。そしてまたほめて定着させていけばいいのだと思います。


(*1)高山恵子編著、松久真実・米田和子著『発達障害の子どもとあったかクラスづくり−通常の学級で無理なくできるユニバーサルデザイン』、明治図書、2009年
(*2)松村京子編著、『学校における情動・社会性の学習』、日本学校保健会、2012年


阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)

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