教育オピニオン
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子どもに伝えたい!日本のエネルギー事情
東京大学大学院工学系研究科准教授木村 浩
2011/5/11 掲載

 福島原子力発電所の事故をきっかけに、原子力発電、そして日本のエネルギー事情についての関心が高まっている。子どもたちは学校で、様々な教科を通してエネルギーについて学ぶことになる。例えば、小学校では3年・4年社会の「飲料水、電気、ガスの確保や廃棄物の処理」で、中学校では社会科地理的分野「資源・エネルギーと産業」「環境問題や環境保全を中心とした考察」、公民的分野「よりよい社会を目指して」、理科第1分野「様々なエネルギーとその変換」「エネルギー資源」、1・2分野「自然環境の保全と科学技術の利用」、技術科「エネルギー変換機器の仕組みと保守点検」「生活や産業の中で利用されている技術」、家庭科「身近な消費生活と環境」などを通してだ。他にも、小・中学校で行われる総合的な学習の時間で学ぶ機会もある。
 エネルギーについて、子どもたちにどのように教えるべきなのか。原子力・エネルギーと社会の関係性に関する専門家である木村浩先生に、子どもに考えさせる上でおさえておきたい日本のエネルギー事情の基礎・基本ついてご寄稿いただいた。

(企画:佐藤)

輸入に頼る日本におけるエネルギー政策の工夫

 日本のエネルギー事情を考えるときにもっとも重大なことは、国内でまかなえるエネルギー資源がわずか4%しかないことだ。食料が国内でまかなえる割合は40%程度で、それですら大きな問題となっているのに、エネルギー資源はさらにその10分の1しか国内にない。食料は人間が生きてゆくために不可欠なものであるが、エネルギーも電気やガス、ガソリンに始まり、日本の経済活動を支える工場や会社、社会福祉を向上させる医療施設、暮らしを便利にするサービス業など、さまざまな場面で欠かせないものとなっている。
 そのもとが日本の中には4%しかないのだから、輸入するしかない。
 水力や地熱、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電など、利用をしてもその資源量が減らない再生可能エネルギーがないわけではないが、総使用量の10%に満たないのが現実だ。
 1970年当初は、日本のエネルギーの70%以上が石油であった。しかし、1973年の第四次中東戦争をきっかけとして原油の値段が高騰し、第一次オイルショックが起こったため、日本のエネルギー政策は見直され、石油への一極集中を脱却し、いろいろな種類のエネルギー源を使うようにすること、輸入元の地域も世界中に分散させること、省エネルギーを推進することなどがすすめられてきた。
 エネルギー源については天然ガスや原子力へのシフトが起こった。現在、輸入元については、天然ガスはオーストラリアやインドネシア、マレーシアから、原子力の燃料であるウランもオーストラリアやカナダから輸入している。石油はあいかわらず中東地域からの輸入が一番多いが、その他にもインドネシアやロシアなどから輸入する量を増やしている。

貯めておけない電気エネルギーの電源のベストミックス

 日本では、消費している全エネルギーのうち、およそ40%を電気の形で消費している。電気はエネルギーのひとつの形だが、多くの場合は石油や石炭、天然ガス、ウランなど、エネルギー資源を消費して作り出される。石油や石炭、天然ガスを消費して電気を作る発電方式を火力発電、ウランを消費する発電方式を原子力発電と呼ぶ。そのほか、水力、地熱、太陽光、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーも電気エネルギーとして供給される。
 電気というエネルギーの最大の課題は、貯めておくことがほとんどできない、ということだ。人間は毎日の生活を送るときに、常に一定量の電気を使っているわけではない。昼間はたくさんの電気を使い、夜は昼間の半分くらいしか電気を使わない。また、季節によっても電気の消費量は変わってくる。エアコンや暖房を使う夏や冬は電気を多く使用する。このような使用量の変動に合わせて発電をする必要がある。
 発電方式にもそれぞれ特徴がある。原子力発電は作り出す電気の量を急に増やしたり減らしたり、短時間で発電を開始したり止めたりすることが不得意だ。一方、火力発電や水力発電は電気の使用量に応じて、発電をしたり、止めたりすることができる。
 このような特徴に加え、先ほど述べた「いろいろな種類のエネルギー源を使う」というコンセプトを踏まえて、日本では電源のベストミックスを考えている。1日の電気の使用量のうち、瞬間で使用する電気の最低値(ほとんどの場合は夜間)を基準として、定常的な量の電気を原子力発電で供給し、昼間の電気の増加分の多くは火力発電で、そして細かい変動は水力発電でまかなう、というものだ。
 その結果、現在では全発電量のうち、60%強が火力発電、30%程度が原子力発電、10%弱が水力発電となっている。

エネルギーの廃棄物、二酸化炭素を減らすために

 近年では地球温暖化が世界規模の問題となっている。温暖化を引き起こすといわれている二酸化酸素は、石油や石炭、天然ガスを燃やして、なんらかのエネルギーを取り出す際に発生する。2007年度における日本の二酸化炭素排出量は13億400万トンと見積もられ、その30%程度が発電によって発生する二酸化炭素だ。そのほかは、30%程度が工場など産業から、20%程度が運輸関係から発生している(残りはサービス業や一般生活から)。
 京都議定書に代表されるように、現在、人間が出している二酸化炭素の量を減らそうという努力が、日本も含めて世界各国でなされているが、そのためには、エネルギー消費量自体を少なくする…省エネルギー(省エネ)がかかせない。省エネとは、エネルギーを使わないようにすることだけをさすのではい。エネルギーを使わなくてはならない場面で、そのエネルギー効率を向上させたり(たとえばエアコンや冷蔵庫など、家電のエネルギー効率向上などは代表的な例だ)、同じ量の資源からより多くのエネルギーを取り出したりする技術開発もすべて省エネにつながる取り組みだ。
 先に述べた電気エネルギーを作る場面であれば、できる範囲で火力発電に頼る割合を少なくするということになる。火力発電では、石油、石炭、天然ガスを燃やして熱エネルギーを取り出して電気を作るので、このときにたくさんの二酸化炭素が発生する。もちろん、石油や石炭、天然ガスの燃焼効率を高めること、そして、発生した熱エネルギーを効率よく使うことも大切だ。原子力発電や水力発電、太陽光発電、風力発電では、電気を作るプロセスで二酸化炭素は発生しない。

 しかし、ここで、忘れてはならないのは、「エネルギーを考える」ということは、二酸化炭素の削減ばかりを考えることではないことだ。どのように日本のエネルギーを確保するかという、エネルギーの安全保障についても同時に考えなければならない。多くのエネルギー資源は限られたものであるから、世界各国にどのように配分するのかも問題になってくるだろう。また、たとえば原子力発電に顕著に見られるように、発電方法が持つ固有的な危険性をどうやって制御するのかというような問題もある。資源からエネルギーを取り出した結果できてしまう廃棄物…火力発電から発生する二酸化炭素もその一種であるが、これをどのように処理、処分するかという問題も残っている。

 これらの観点を複合的に考えて、どのようにしてエネルギーを確保し私たちの生活を作ってゆくのか、未来を担う子どもたちに考えさせていくことが大切だろう。

木村 浩きむら ひろし

1973年群馬県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。社会技術研究システム研究員を経て、現在、東京大学大学院工学系研究科准教授。原子力・エネルギーと社会の関係性に関する研究領域、特にリスクコミュニケーション研究に取り組んでいる。

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