著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
発達に障害のある子どものためのとけあい動作法
文教大学人間科学部臨床心理学科教授今野 義孝
2017/7/12 掲載

今野 義孝こんの よしたか

1948年,秋田県の鳥海山の麓で生まれる。東京教育大学大学院博士課程中退。教育学博士(筑波大学:『動作的アプローチによる発達障害児のセルフコントロールに関する研究』)。文教大学人間科学部臨床心理学科教授。今野心理臨床研究所―付属こころとからだの相談室―所長。

―今野先生、本書テーマの「とけあい動作法」とはどのようなものでしょうか?

 「とけあい動作法」は、脳性まひの動作訓練に起源があります。その後、動作訓練に基づいて私が開発した「腕あげ動作コントロール法」が、多動や自閉の子どもの情緒・認知・行動の発達を促進することが明らかになり、動作訓練は動作法と名称を変えて発展してきました。その中で新たに開発されたのが、掌で触れることで心身の緊張を心地よく解きほぐし、心と身体の調和的なつながりを育む「とけあい動作法」です。「とけあい動作法」は、赤ちゃんから高齢者にまで適用できるユニバーサル・デザインの動作法です。

―先生の「とけあい動作法」にはどんな効果があるのですか?

 「とけあい動作法」は、 過敏やこだわり行動などを軽減し、情緒の安定やコミュニケーションの形成を促進する効果があります。部位ごとにも特有の効果があり、「肩−頭−首」のとけあい動作法は、不安の軽減やマイナス思考の軽減をもたらします。「顔」のとけあい動作法は、快適な感情表出や発語動作の改善などに効果があります。「手指」のとけあい動作法は、手指動作の改善や書字や描画などの表現活動に有効です。また、「腰−背中−足」への「とけあい動作法」は、姿勢の安定や注意集中の力の改善に効果があります。

―「とけあい動作法」はどんな子に効果的なのでしょうか?行うのは難しいのでしょうか?

 「とけあい動作法」は、刺激に対して過敏な子どもやこだわりのある子ども、情緒や行動のコントロールの困難な子ども、コミュニケーションが困難な子どもなどに有効な支援方法です。実際の支援は、子どもの身体に支援者の掌を「ピター」と優しく押し当ててから、「フワー」と緩めるという簡単なものです。そのときに、子どもの身体がファーと緩み、その部位が温かくなったり、呼吸がゆったりとしてきます。その心地よい感じは、支援者の掌に伝わり、支援者も子どもと一緒に心地よい感じを共有することができます。

―本書では様々なタイプの困難をもつ子どもへの指導が具体的に紹介されていますが、中から1つ具体的な例を紹介いただけないでしょうか。

 子どもたちの様々な 問題行動は、ヘルプのサインです。そうしたサインが誤解され、罰や叱責による対応をされがちなのが、激しい暴力や破壊行動を示す子どもです。このような子どもにとって、周囲の人の警戒心や緊張した雰囲気は混乱を引き起こす何ものでもありません。このような子どもには、周囲の人がゆったりとした安心・安全の雰囲気をつくってあげることが大切です。その上で、「とけあい動作法」で安心・安全の体験を共有しながら信頼関係を作っていくことによって激しい暴力や破壊行動が治まってきました。

―実際にとけあい動作法に取り組んでみたいとお考えになる先生方にメッセージをお願いします。

 支援とは、支援をする先生も支援を受ける子どもも互いに幸せを共有する行為です。「とけあい動作法」では、先生が、「優しい眼差し」と「優しい笑顔」「優しい真心のこもった言葉」で子どもに支援を行うことが大切です。不安や悩みを抱えている子どもには、「気持ちが良いですね」「安心ですね」「大丈夫ですよ」と言葉をかけながら行います。そのことによって、子どもは、自分が先生に無条件に受容されている喜びと安心を感じることができます。先生も子どもに信頼されている喜びを感じることができます。そこから、両者の間に深い絆が生まれます。

(構成:佐藤)
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