研究会情報
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「できた!」を支えるスタートライン −学びの継続に必要な自信を支える−
開催地域
オンライン
日程
2022/8/3(※要申込:8/1まで)
主催
神奈川LD協会(公益社団法人神奈川学習障害教育研究協会)
講師
井上 賞子 先生(島根県安来市立荒島小学校 特別支援学級教諭)
参加対象
幼児・保育/小学校/中学校
ジャンル
特別支援教育/授業全般/教師力・仕事術

「できた!」を支えるスタートライン −学びの継続に必要な自信を支える−

▼ 開催日時
2022年8月3日(水) 9:30〜16:00

▼ お申込・詳細はこちらから
https://form.dr-seminar.jp/lps/asgzdk/kanagawald_summer2022_information

<担当講師>
井上 賞子 先生(島根県安来市立荒島小学校 特別支援学級教諭)

<講師からのメッセージ>
「スモールステップで取り組めるように課題を調整しています」と聞くと、なにやら「丁寧でよさそう」「安心できる」という良い印象がありますよね。「その子にとって安心してできる課題からスタートして自信をつけることが大事」私もずっとそう思っていました。今でもその大切さはわかっているつもりです。

一方で、「これなら無理なくできるはず」のスモールステップを受け付けない、時には激しく拒否する子の相談を受けることが増えています。話を聞くと、用意された課題は「対象の子にとって無理なく取り組めるもの」です。でもやらない。すると、「勉強というだけで拒否する」「できることにも向かわない」という評価がついてきます。そして、「本人が拒否するので」という見た目の状況が続くことは、学びが積み重ねられないだけでなく、関わる人みんなを疲弊させていきます。

私もかつて「自分のやりたいことしかやらない。国語の学習は1年生レベルの簡単なものでも取り組もうとしない」と言われた6年生に出会ったことがあります。学習上だけでなく、日常の不適応も凄まじく、本人はもちろん、周囲も出口の見えない苦しさの中で何年ももがいていました。彼はとても賢い子でしたが、読むこと書くことの困難を抱えていました。「わかるのにできない」苛立ちの中にいたのです。

そんな彼との日々の中で学んだのは、「ゴールがどんどん遠くなっていく中でのスモールステップの辛さ」でした。確かに彼にとって1年生レベルの課題は無理なく取り組めるものでした。しかし、そのステップを踏んでも、彼の求める場所に到達できないことは明白だったのです。彼が「できることを重ねていく」間に、学年が進み、どんどん遠くなっていくゴール。「これを積み重ねていけばゴールに辿り着ける」という見通しのないスモールステップこそが、彼を追い詰めていたんだと知りました。

「AができたらBに進む」という選択肢しかなければ、Aに苦手さのある子はいつまで経ってもBに進めません。それを「丁寧にAができるようにするためのスモールステップを踏む」ことでAに長居をさせてしまう。それが「自信や意欲を削いでしまうケースになっていないでしょうか。「たとえAに苦手さがあっても、そこを補ってBに進む中で学習機会が増え、苦手だったAにも力をつけていった」というケースをたくさん見てきました。スモールステップはその子が達成したいゴールの「最後の一歩」からスタートすることで、本来の「できた!!を実感して自信につなげる」ものになると感じています。

「できた!!」が実感できることは、本人はもちろん、私たち支援者にとっても重要です。「力になりたいのに、どうしていいかわからない」という迷宮から脱し、「だったらここも」「こうすればこちらでも」と、やるべきことが見えてきて、わくわくが広がります。

午前中はそんな「スモールステップ」について考えていきたいと思います。「最後の一歩」を成立させるためにどんな支援が必要なのかを探ることは、具体場面を通じてのアセスメントとしてとても有効だと感じています。

午後はより具体的な事例を通じて「最後の一歩」が支える「できた!!」の大切さについて取り上げます。今回は算数の指導場面に視点を当て、できるだけたくさんの手立ても合わせてご紹介したいと思います。

最後のコマは、演習「妄想教具を語ろう!」です!!「こんなケース、どんな教具があれば、最後の一歩を支えられるかな?を一緒に考えてみませんか?実際にある教具でなくても、まずは妄想でいいのです。「こんなものがあれば」というイメージが、「こんなもの」を見つけ出したり作り出したりする力につながります。そして「こんなものがあれば」と課題を絞れるだけでも、実際の声がけや対応は必ず変わります。

本当は直接お会いして、たくさん実物の教材を触っていただいて、一緒に考えていく時間にしたいテーマなのですが、今年は社会情勢上、遠隔での開催です。残念な気持ちもある反面、「遠隔でも学びを共有することができる」という体験ができる機会でもあると感じています。井上、すごい勢いでしゃべるので、なかなかご質問を受けられずに終わることも多くて反省していますが、遠隔だからこそ、「ここをもう少し聞きたい」「ここはどうなんだろう」と思われたことをその都度chatに書き込んでいただくことができるという利点もあります。「遠隔は苦手」と言われる方もあるかと思いますが、ぜひ「遠隔で学ぶ良さ」を一緒に作っていただければ、嬉しいです。

▼講師プロフィール
通常学級、通級指導教室を経て、現在に至る。特別支援教育士。特性のある子どもたちの学びを支える方法を模索しながら教材開発を行っている。平成23年度より、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクグループが実施する情報端末の活用が障害を持つ子どもたちの生活や学習支援に役立つことを目指した実証研究「魔法のプロジェクト」に参加、ICTを活用しての支援にも取り組む。著書に、『特別支援教育 はじめのいっぽ!』『はじめのいっぽ! 算数のじかん』『はじめのいっぽ! 国語の時間』(学研)などがある。